悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「…俺達をずっと見てる奴らがいる」

「え?」

「…これは俺の予想だが…おそらく俺の父親と名乗った伯爵の差し金だろう」

「で、でも、どうして…」

「…俺達の仲を確かめているのか…あるいは、引き離そうとでも考えているのかもな」


 今も不快な視線が向けられている。ヴォルフがそれに気づきながらも放置しているのは、ここが他国だからだ。
 しかも、伯爵の手先である可能性が高いなら、なおさら下手に手は出せない。他国の貴族と揉めるのは、レオン達や自国にも迷惑がかかる。

 レフィーナとの仲が良好だと見せつければ、馬鹿な考えを取り消すかもしれない。まぁ、あまり期待はしていないが。


「だから、わざと…その、仲良く見せるためにあんな事とか…今みたいな事を?」

「半分はな。わざわざ引き離す隙を与える必要はないだろう。見せつけておけば諦めるかもしれないしな」

「…因みにもう半分の理由は?」


 少し体を離して見つめ合っていると、そんな風にレフィーナが問いかけてきて、ヴォルフはふっと笑う。そんなのは簡単な理由だ。
 緋色の瞳を覗き込んでとびきり甘い声で囁く。


「ただ俺がお前に触れたかっただけだ」

「…っ!」


 レフィーナの顔が耳までかぁと赤く染まり、ふぃと顔を逸らされる。そんな可愛らしいレフィーナにヴォルフは満足そうな笑みを浮かべた。
 そうすれば、レフィーナが口を開く。


「もう行こう」

「…そうだな」


 少し残念だが、ヴォルフは素直に頷いた。すると、レフィーナが手を絡めるように繋いでくる。ヴォルフはレフィーナに手を引かれ、歩き出した。


「…そういえば、今もいるのよね…?」

「あぁ、さっきよりは距離があるから会話は聞こえないだろうが…いるな」

「そう…」


 レフィーナが小さくため息をついた。それを聞いて、ヴォルフは口を開く。


「悪いな、面倒かけて」

「そんな…。これはヴォルフのせいじゃないし、言われるまで気づかなかったから、もう忘れるわ。別に見られて困ることないし…。恥ずかしいけど」


 レフィーナはそう言って、繋いだ手に力を入れる。それから、ぽつりと呟いた。


「…そんな事で手を引くくらいなら、最初から私に接触していないとは思うけど…」

「そうだな。まぁ、もう無視しておこう。俺達はレオン殿下達の護衛や侍女だからな、そう簡単には手は出してこないだろう」

「…そうね。つけられているのは気持ち悪いけど…気にしないようにするわ」


 レフィーナの言う通りつけ回されるのは不愉快だ。しかし、現状手を出せないのならば、無視するしか無いだろう。
 お互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、二人は気持ちを切り換えて、街中へと戻っていったのだった。



            ◇


 二人で気ままに観光していたヴォルフは宝飾店を見つけ、少し考えてからレフィーナに話しかけた。


「レフィーナ。今日は折角の誕生日なんだから、何かプレゼントを送りたい」

「プレゼント?」


 隣を歩くレフィーナが首を傾げながら問い返してきたので、ヴォルフは先ほど見つけた宝飾店を指差した。


「あそこに行ってみよう」

「え、えぇ…」


 まだ戸惑い気味のレフィーナを連れて宝飾店へと入る。
 店中は落ち着いた雰囲気だ。

 ヴォルフが宝飾店を選んだのは、レフィーナの誕生日プレゼントを探す事だけが目的ではない。レフィーナの指のサイズを知る目的もあった。
 ……いつかレフィーナに贈る大切な指輪を作る時の為に…。

 ヴォルフは誕生日プレゼントを選びながら、探ることにしたのだ。とはいえ、いきなり指輪ばかり勧めると怪しまれるので、まずは違う物を勧めてみることにした。


「レフィーナ、これはどうだ?」

「いや…あの…」

「あぁ、こっちも良さそうだな」


 それなりの値段がするネックレスをを提案すると、レフィーナが戸惑ったように話しかけてきた。


「ヴォルフ…その、可愛いし、嬉しいんだけど…」

「ん?」

「…そんな高価なもの、受け取れないわ」

「これでも一応、副騎士団長だからな。それなりに給料を貰っているし、今まで殆ど使って来なかったからたくわえもある。これくらい、別に大丈夫だ」


 そう言えば、レフィーナは首を横に振った。


「それでも、駄目よ。私はやっぱり受け取れない」

「…じゃあこれは?」


 レフィーナにきっぱりと断られ、ヴォルフは先程のネックレスよりも安い指輪を指差した。
 予定通りに上手く指輪に誘導出来たので、ヴォルフはこっそりと胸を撫で下ろした。
 これなら、いきなり指輪を勧めるよりも怪しまれないだろう。

 指輪の前にいれば、こちらの様子を見ていた店員がニコニコとした笑みを浮かべ、話しかけてきた。


「はめてみますか?」

「あぁ、お願いします」

「ヴォルフ、私は…」

「はめるだけなら、別に良いだろう」


 丁度いいタイミングだったな、と思いながらヴォルフは店員から指輪を受け取る。
それから、レフィーナの左手を掬い上げ、指輪を薬指にはめた。
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