悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 話に耳を傾けるレフィーナが胸元で両手をきつく握りしめた。ヴォルフはそんなレフィーナの手に片手で触れる。
 まるで自分が傷つけられたかのように辛い表情のレフィーナに、ヴォルフは困った表情を浮かべ、優しく声をかける。


「そんな顔をするな」

「ごめん…」

「…確かに辛くなかったといえば嘘になる。だが、そんな過去があって今がある。楽しいこともあったし、温かい人達にも出会えた。そして、レフィーナ…お前とこうして一緒にいられる。だから、今はそんな過去も辛くないし、レフィーナには全て話しておきたい。…レフィーナも話してくれたからな」

「ヴォルフ…。私も…ちゃんと聞きたい。話を続けて…」

「ありがとう、レフィーナ。…母親は妻がいる男にも見境なく手を出していてな…ある日、その男の妻が母親の所に来たんだ。その時俺は…物陰からその様子を見てた…。どんどん口論が過激になって…とうとう男の妻が刃物を取り出して……」


 その場面を思い出せば、少しだけ手が震えた。それに気づいたらしいレフィーナが、ヴォルフの手を両手で包み込む。そして、その先は言わなくていいとでも言うように、首をゆっくりと横に振った。

 あれだけ酷い母親であったはずなのに、殺されたという言葉はすんなりと出てこなかった。気遣ってくれたレフィーナのおかげで、少し気が楽になる。


「…その後は当時、副騎士団長だったザックが駆けつけて、母親を亡くした俺はザックが引き取ってくれた」

「ザック様が?」

「あぁ。結婚もせず剣に打ち込んでいたザックが俺を引き取る、って言い出したものだから、ちょっとした騒ぎになっていたな」


 話せない自分に父親のように暖かく接してくれた。そして憧れを抱くようなかっこいい騎士としての背中を見せてくれた。今の自分が幸せを見つけられたのはザックのお陰で、感謝してもしきれない。

 そこまで思い出して、ヴォルフはふと公園を見回した。あれは確か、声が出るようになって数日後のことだった。


「引き取られて一年くらいで声が出るようになったんだが…その時にザックに父親の事を尋ねられた」


 ザックの行動は突然な事が多い。いきなり尋ねられ、いきなりここまで連れて来られた。


「その時、俺が知っていたのは、元々母親がここ…プリローダの出身で俺もここで生まれた、って事だけだった。それで、おそらく父親はプリローダの人間だろう、とザックと二人で一ヶ月程、この辺りに滞在してたんだ」

「あ…それで、詳しかったのね」

「あぁ。父親探しだって色々と連れ回されたからな。…でも、結局父親は見つからなかった。それに、俺自身も別に父親を知りたいとも会いたいとも思ってなかったからな。それ以来、探してもいなかった。…それなのに、まさか今頃になって急に父親が現れるなんてな…」


 そう言うとヴォルフは不愉快そうに、ぐっと眉を寄せる。


「…ろくでもない父親なら尚更、出てこなくて良かったのにな」


 いきなり現れて、自分の思い通りにしようと考える父親など必要ない。
 まだ直接会った事はないが、アングイスの様子から考えると、近々顔を会わせることになるような気がした。
 不愉快すぎて、会いたいなどと思わないが。

 深い皺を眉間に刻んだヴォルフは、レフィーナを見て表情を緩める。


「悪いな、せっかくの誕生日にこんなつまらない話をして」


 せっかくのレフィーナの誕生日だ。お互いの事を知るのは大切だとは思っているが、これ以上、不快な話を続ける必要はない。


「ううん、聞けてよかった。話してくれてありがとう」

「…さぁ、今から目一杯楽しむか」


 ヴォルフは立ち上がって、レフィーナに向かって手を差し出した。レフィーナの手が重なると、ヴォルフは力強くぐいっと引く。それなりに強く手を引いたので、レフィーナが腕の中に倒れ込む。

 もちろんわざとだ。


「わっ…!」

「…レフィーナ、さっきのはお前に触れたかっただけで…別に和ませる為じゃないぞ」

「えっ?」

「赤くなるお前が可愛いからな、あの時はそれが見たかっただけだ」


 そう言ってヴォルフはきょとんとしているレフィーナの口端に軽くキスを落とす。
 ケチャップが付いていた場所と同じ所だ。それでレフィーナはやっと意味を理解したのか、一瞬にして顔を赤く染め上げた。


「なっ…!」

「可愛いな。また、赤くなっている」

「そ、そんなの当たり前でしょ…!」

「ふっ…。レフィーナ、好きだ」


 怒ろうとしたレフィーナが、口を閉ざした。そんなレフィーナをヴォルフはぎゅぅと抱きしめる。
 人気がないとはいえ、いつもならこんな場所でこんな風にしたりしない。レフィーナもいつもと様子の違うヴォルフに疑問を感じたのか、そっと問いかけてくる。


「ヴォルフ…どうしたの?」

「………」


 問いかけにはまだ答えず、ヴォルフはさらに強くレフィーナを抱き締めた。そうすれば、レフィーナの手が控えめに背に回る。
 ヴォルフはレフィーナの耳に唇を寄せ、囁くように話しだした。
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