悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 翌日、ヴォルフ達はロト湖へと出発するために城門にいた。
 見送りにはフィーリアンと、レイが来ている。ヴォルフは護衛の為にレオンの後ろで待機していた。
 ずっと俯いていたレイがドロシーの近くに控えていたレフィーナの前まで来ると、そっと顔を上げる。


「レフィーナ…」

「レイ殿下…」


 少し躊躇ためらった様子を見せたレイの視線が、一度ヴォルフに向けられる。
 それからレイはレフィーナを見て、にっこりと明るい笑みを浮かべた。


「レフィーナ。僕、レフィーナを好きになって良かった」

「え?」

「誰も僕の事を気にしてくれてないと思い込んでいたけど、レフィーナはそうじゃないって教えてくれた。…レフィーナが僕を好きになってくれなかった事は悔しいけど…でも、レフィーナが好きな人と一緒にいることが大事だよね…」

「レイ殿下…」

「だから、僕は…レフィーナの事、好きだけど、諦めるよ」


 レイの言葉にレフィーナが驚いた様子を見せる。そんなレフィーナにレイがぎゅっと抱きついた。


「ありがとう、レフィーナ!」

「レイ殿下…私の方こそ、好意を寄せてくださってありがとうございました」

「うんっ。…ヴォルフに意地悪されたら僕に言ってね!こらしめるから!」


 涙声でそう言ってレイは、ゆっくりとレフィーナから離れて笑みを浮かべる。
 それからレイはヴォルフの前にやって来て、びしっと指を突きつけ、にやりと笑った。


「約束忘れないでね!忘れたらレフィーナは僕が貰うから!」


舞踏会での交わしたレフィーナを幸せにするという約束だ。もちろん忘れてなどいないし、破るつもりもない。


「…はい、レイ殿下」


 ヴォルフはすっと胸に片手を当てて、頭を下げた。
 頭を上げれば、レイは満足そうな表情を浮かべている。そんなレイにフィーリアンが声をかけた。


「さぁ、レイ。もうそろそろ、出発のお時間だから…」

「はい」

「レオン殿下、どうか残りの滞在も我が国で楽しんで下さい」

「はい、ありがとうございます」


 レオンは笑顔でフィーリアンと握手を交わし、ドロシーと共に馬車に乗り込んだ。
 それを見送ったフィーリアンは、馬車からレフィーナへと視線を移す。


「レフィーナさん。ボースハイト伯爵や貴族の令嬢達が失礼な事を言ったと聞きました。…私が代表してお詫びします。申し訳ありません」

「フィ、フィーリアン殿下、頭を上げてください!」


 頭を下げて謝ったフィーリアンにレフィーナが慌てる。


「気にしていませんから。…それでは、私もそろそろ馬車に乗ります」

「ありがとうございます。お気を付けて」

「じゃあね、レフィーナ!」

「フィーリアン殿下、レイ殿下、ありがとうございました」


 フィーリアン達に頭を下げ、レフィーナも馬車に乗り込んだ。ヴォルフはレフィーナの乗った馬車の扉を閉めてから、二人に向き直る。


「それでは、失礼いたします」

「またね、ヴォルフ!」

「お気をつけて」


 ヴォルフは頭を下げると、自分の馬へと跨がり、出発の合図を出したのだった。



            ◇



 目的地のロト湖は美しかった。湖畔こはんはもちろんのこと、水底にまで花が咲き乱れている。
 ヴォルフは視線を湖から今回滞在する宿へと向けた。2階建ての真っ白な宿は、金色の柵に取り囲まれている。景観を意識した建物は、この湖に美しく馴染んでいた。


「もうすぐ宿に到着する。事前に取り決めたように、護衛する者と荷物を運び込む者に分かれろ」

「はい」


 ヴォルフが声をかければ、騎士達は一様に頷いた。

 それから少し経ち、無事に宿に到着した。
 騎士達はヴォルフの指示通りにテキパキと動き始める。ヴォルフが馬から降りると、宿から人が出てきた。


「お疲れ様でございます。遠い所、ようこそおいでくださいました。私は宿の支配人でございます」

「副騎士団長のヴォルフです。部下達に荷物を運ばせるので、部屋に案内していただけますか」

「はい、承知いたしました」


 支配人は深く頭を下げ、振り返る。そして、少し後からやって来た従業員達に指示を出した。そうすれば、従業員達が荷物を持つ騎士達に近づき、案内を始める。
 それを見届けた支配人が再びヴォルフの方に向き直った。


「レオン殿下にもご挨拶を……」

「あちらの馬車に乗っておられます」

「ありがとうございます。では、失礼いたします」


 去っていく支配人に頭を下げ、ヴォルフは荷物を運ぶ騎士に手を貸す。
 騎士に指示を出していると、ふと視線を感じた。
 視線を感じる方へぱっと顔を向けると、レフィーナが何やら慌てた様子で不自然に顔を背ける。一瞬の事だったが、レフィーナは確かに自身の頭に……亜麻色の髪をまとめているレースリボンに触れていた。
 その事に嬉しさが胸を満たす。
 ヴォルフはレフィーナから視線を逸らし、少しだけ口元を緩めながら荷物を持ち上げる。


「副騎士団長、荷物はそれで最後です」

「そうか。では、お前たちは見回りと警備につけ」

「はい」


 さっと立ち去った騎士を見送り、ヴォルフは荷物を持ってレオン達の部屋へ向かう。ノックをして中へ入ると、レフィーナがお茶の用意をしている所だった。
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