悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「レフィーナ、荷物はここに置くぞ」

「はい、ありがとうございます」


 手際よくお茶の準備をしているレフィーナに声をかけると、こちらにちらりと視線を向けて頷いた。
 荷物を置いたヴォルフはレフィーナに近づく。


「…綺麗な場所だな」

「ふふっ、そうですね。仕事とはいえ、ここに来れたのは良かったです」

「そうだな」


 他愛もない会話をしていると、レフィーナがお茶の準備を終えようだ。トレイにお茶を乗せてバルコニーへと向かうレフィーナに、ヴォルフもついていく。
 バルコニーには白いテーブルがあり、その近くにレオンとドロシーがいた。こちらに背を向ける二人にレフィーナが声をかける。


「レオン殿下、ドロシー様、お茶の準備が出来ました」

「まぁ!ありがとうございます!」

「…ごめん、ドロシー。私は少しヴォルフと一緒に宿を見回ってくるから…レフィーナと一緒にいてくれる?」


 申し訳無さそうなレオンに、ドロシーが了承を伝える。ヴォルフはこちらに視線を投げてきたレオンに頷くと、一緒に部屋の外へと出た。

 少し前を歩くレオンに視線を投げる。
 レオンはミリーの一件から警備の最終チェックを自身で行うようになった。しかし、いつもならば、騎士が警備の配置についたというヴォルフの報告を受けてから、チェックを始めるはずだが……。
 ヴォルフが考え込んでいると、レオンが声をかけてきた。


「ヴォルフ、少し話しておきたいことがあるんだ。隣に来てくれないか」

「はい」


 ヴォルフが隣に並べば、レオンがちらりとこちらを見た。それは一瞬の事で、すぐにレオンは視線を前へと戻す。


「ヴォルフ、君が渡してくれた母上の手紙の事は覚えているかい?」

「はい」


 レオンの言葉にヴォルフは頷く。手紙とはミリーの一件で行った計画の説明が書かれた物の事だ。


「実はあれには母上の計画の詳細の他に……書かれている事があってね」

「それが私に関係が?」

「……ヴォルフには直接関係は無いのだけど……」


 少しためらうような仕草を見せたレオンは、やがて静かに口を開く。


「レフィーナの事だよ」

「レフィーナ、ですか」

「あの手紙には……レフィーナの身分を戻すという事が書かれていた。そして、その為には私の合意が必要だとも」

「え?」

「私が合意すれば、レフィーナの身分は回復する」


 レオンが告げた内容に、ヴォルフは驚いて金色の瞳を瞬かせた。
 普通は一度剥奪された身分が回復することなんて、よほどの事が無い限りあり得ない。なぜ今になってレナシリアがレフィーナの身分を回復させようと思ったのか、その意図は分からないが、そうなればレフィーナは公爵家に帰る事が出来る。

 令嬢に戻ってしまうと、ヴォルフとは身分違いの恋になってしまう。だが、ヴォルフはそんな事よりも、素直にレフィーナが公爵家に帰れるという事が嬉しかった。
 レフィーナは公爵家の家族の事を気にかけていたのだから。


「……私はまだ決めかねている。……ねえ、ヴォルフ。もしレフィーナの身分が戻ったら、君はどうする?騎士と令嬢では今の関係は許されないだろう」

「そうですね……」

「でも、君にはもう一つ手段がある」


 その言葉にヴォルフは無意識に顔をしかめた。レオンの言いたいことが分かったのだ。
 父と名乗るアングイスの元へ行けば、ヴォルフも貴族になれる。隣国とはいえ、貴族同士なら結婚は無理ではない。
 レオンにはアングイスの事を報告していたので、そんな事を言い出したのだろう。


「私は騎士です。そして、私が父と思うのは……ザックだけです」

「それでいいのかい?」

「構いません。レフィーナが公爵令嬢に戻ったのなら、私はご両親に認めてもらえるように誠意を尽くすだけです。どれほど困難な事でも、どれほど身分が高い壁であっても、私はレフィーナ以外を愛す気はありませんから」


 そう言い切ったヴォルフにレオンは目を丸くして、それからふっと口元を緩めて笑った。


「君はすごいね。ヴォルフならどんな壁でも打ち砕いてしまいそうだ。あぁ、でも、私が身分を回復する事に合意しても、レフィーナが令嬢に戻るとは限らないようだよ」

「どういうことですか?」


 ヴォルフは首を傾げる。
 王族が身分を戻すと決めたのなら、レフィーナは侍女を辞め、令嬢として公爵家に帰るはずだ。


「ほら、レフィーナは私の婚約破棄の他に、貴族でいたくなかったと言っていただろう?母上はレフィーナに公爵家に戻るか、侍女のままでいるか、判断をゆだねるそうだ」

「そうなんですか……」

「母上としても優秀な侍女を逃がしたくないようだしね。今回の話の本当の狙いはレフィーナを令嬢に戻す事ではなく、家族に会えるようにする為だろう。アイフェルリアの姓を名乗ることを許されれば、侍女を選んだとしても彼女は公爵家の一員と認められるからね」

「……なるほど」

「とはいえ、レフィーナが令嬢を選ぶ可能性もあるから、ヴォルフには確認しておきたかったんだ。まぁ、必要なかったようだけどね」


 そう言ってレオンは微笑んだ。
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