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「正直、君が騎士を辞めると言い出さなくて、安心しているよ」
「……当たり前です」
「ふふっ、どうやら優秀な騎士を手放して母上に怒られる、なんて事にはならなくて済みそうだ。……私としても、国としても、君には副騎士団長でいてもらいたいしね」
それだけ言うと、レオンは前を向いた。話はこれで終わりだということだろう。
ヴォルフは何も言わず、またレオンの後ろへと下がる。
レオンの後をついて歩きながら、ヴォルフはふっと口元を緩めた。騎士として認められ、さらに国へ留まっていてほしいと思われて、嬉しくないわけがない。いつの間にか自分の居場所が出来ていたのだと、そう気付いた。
ただザックの背に憧れてなった騎士。
騎士になると決めた時の理想に……ザックの背に少しでも近づけただろうか。
そんな風に思考を巡らしていると、いつの間にか騎士達のいる所までたどり着いていた。騎士達はレオンとヴォルフを見て一斉に背筋を伸ばす。
「全員、配置にはついたか?」
「はい。見回りも開始しています」
「そうか。……レオン殿下」
「うん。それじゃあ、宿の周辺の警備から確認していこうか」
「はい」
レオンの言葉に頷いて、ヴォルフは宿の外へと出る。それから、レオンを伴って宿の周りにいる騎士達を見て回り始めた。
そして、ぐるりと宿を一周回った所でレオンが満足そうに頷く。
「……うん、問題なさそうだね」
「次は宿の中を確認いたしましょう」
「そうだね」
宿の中へと戻ると、支配人がにこにこと笑みを浮かべながら近づいてくる。
「レオン殿下、屋敷の周りはいかがでしたか?美しい場所でございましょう?」
どうやら支配人はレオンが散歩でもしてきたと思っているらしい。レオンはそんな支配人の勘違いを訂正する事なく、頷いて同意を示した。
「ええ。とてもいい場所ですね。明日にでも妻と出かけようと思います。あぁ、宿の中も色々と見て回ってもいいかな?」
「もちろん構いません!どうぞ、好きなだけ見て回ってください」
「ありがとう。ヴォルフ、行こうか」
「はい」
支配人に見送られ、ヴォルフとレオンは宿の中を見て回り、異常が無い事を確認すると、二人はドロシー達のいる部屋へと戻ったのだった。
◇
翌日、ヴォルフは宿の外にいた。少し離れた場所をドロシーとレオンが手をつないで仲睦まじく歩いている。
護衛であるヴォルフや侍女のレフィーナ達は付かず離れずの距離で二人の後についていく。さすがに二人きりで散歩させるわけにはいかないが、せっかくの新婚旅行なのだから少しは気を使わなければ。
ふと、レフィーナを挟んで歩いていたアンがうっとりしたように呟くのが聞こえてきた。
「素敵……。ドロシー様とレオン殿下、絵になるわぁ……。ねえ、レフィーナもそう思うでしょ?」
「はい、そうですね。お二人共幸せそうでなによりです」
「あーあ、私も素敵な殿方と出会いたい……」
アンの言葉にレフィーナが苦笑いを浮かべている。ヴォルフはそんなレフィーナからレオン達に視線を移した。
湖畔を楽しげに歩く姿は確かに羨ましくなる。レフィーナは隣に居るが、今は仕事中。残念だが、恋人として接する訳にはいかない。
「レフィーナはこんな素敵な彼と一緒にいられるから良いわよね」
「一緒とは言っても、仕事中ですから……」
困ったように言うレフィーナに、アンがそそくさとヴォルフの隣までやって来た。何の用だろうかとアンを見ると、にこーといい笑顔を浮かべていた。
そしてアンはヴォルフにだけ聞こえる声量で話し始める。
「宿の従業員に聞いたんですけど、このちょっと先に白いアイリスの群生地があるらしいんですよ」
「白いアイリス?」
「はい。……あなたを大切にします」
突然言われた言葉に、ヴォルフは瞬きを繰り返す。アンは意味が通じていないと気付いたのか、ちょっとすねたように頬を膨らませる。
「花言葉ですよ!少し前から花言葉に想いを込めて、恋人に花を渡すのが流行っているんですよ!ヴォルフ様知らないんですか!?」
アンの言葉にヴォルフはそう言えば前にアードがそんな事を話していたな、と思い出した。花言葉のことなどすっかり忘れていた。
「ストレートに薔薇とかもいいですけど、そっと渡される純白のアイリスなんてのも素敵ですよ!」
「……今は仕事…」
「もう!二人揃って真面目なんですから!」
遠回しに提案を断ろうとすると、それに気付いたのかアンがプリプリと怒り出した。ヴォルフとアンの会話が聞こえていなかったレフィーナが首を傾げる。
仕事中でなかったら…と言い訳するように考えたが、仕事中でなくても花は贈らない気がした。そもそも花言葉に詳しくないし、出先で花を渡さても困るだろう。
とはいえ、まぁ…たまには、そんな事をしてもいいかもしれない。……機会があれば。
アンが聞いたら今すぐ実行しろと言われそうな事を考えながら、ヴォルフは見えてきた白いアイリスに視線を投げたのだった。
「……当たり前です」
「ふふっ、どうやら優秀な騎士を手放して母上に怒られる、なんて事にはならなくて済みそうだ。……私としても、国としても、君には副騎士団長でいてもらいたいしね」
それだけ言うと、レオンは前を向いた。話はこれで終わりだということだろう。
ヴォルフは何も言わず、またレオンの後ろへと下がる。
レオンの後をついて歩きながら、ヴォルフはふっと口元を緩めた。騎士として認められ、さらに国へ留まっていてほしいと思われて、嬉しくないわけがない。いつの間にか自分の居場所が出来ていたのだと、そう気付いた。
ただザックの背に憧れてなった騎士。
騎士になると決めた時の理想に……ザックの背に少しでも近づけただろうか。
そんな風に思考を巡らしていると、いつの間にか騎士達のいる所までたどり着いていた。騎士達はレオンとヴォルフを見て一斉に背筋を伸ばす。
「全員、配置にはついたか?」
「はい。見回りも開始しています」
「そうか。……レオン殿下」
「うん。それじゃあ、宿の周辺の警備から確認していこうか」
「はい」
レオンの言葉に頷いて、ヴォルフは宿の外へと出る。それから、レオンを伴って宿の周りにいる騎士達を見て回り始めた。
そして、ぐるりと宿を一周回った所でレオンが満足そうに頷く。
「……うん、問題なさそうだね」
「次は宿の中を確認いたしましょう」
「そうだね」
宿の中へと戻ると、支配人がにこにこと笑みを浮かべながら近づいてくる。
「レオン殿下、屋敷の周りはいかがでしたか?美しい場所でございましょう?」
どうやら支配人はレオンが散歩でもしてきたと思っているらしい。レオンはそんな支配人の勘違いを訂正する事なく、頷いて同意を示した。
「ええ。とてもいい場所ですね。明日にでも妻と出かけようと思います。あぁ、宿の中も色々と見て回ってもいいかな?」
「もちろん構いません!どうぞ、好きなだけ見て回ってください」
「ありがとう。ヴォルフ、行こうか」
「はい」
支配人に見送られ、ヴォルフとレオンは宿の中を見て回り、異常が無い事を確認すると、二人はドロシー達のいる部屋へと戻ったのだった。
◇
翌日、ヴォルフは宿の外にいた。少し離れた場所をドロシーとレオンが手をつないで仲睦まじく歩いている。
護衛であるヴォルフや侍女のレフィーナ達は付かず離れずの距離で二人の後についていく。さすがに二人きりで散歩させるわけにはいかないが、せっかくの新婚旅行なのだから少しは気を使わなければ。
ふと、レフィーナを挟んで歩いていたアンがうっとりしたように呟くのが聞こえてきた。
「素敵……。ドロシー様とレオン殿下、絵になるわぁ……。ねえ、レフィーナもそう思うでしょ?」
「はい、そうですね。お二人共幸せそうでなによりです」
「あーあ、私も素敵な殿方と出会いたい……」
アンの言葉にレフィーナが苦笑いを浮かべている。ヴォルフはそんなレフィーナからレオン達に視線を移した。
湖畔を楽しげに歩く姿は確かに羨ましくなる。レフィーナは隣に居るが、今は仕事中。残念だが、恋人として接する訳にはいかない。
「レフィーナはこんな素敵な彼と一緒にいられるから良いわよね」
「一緒とは言っても、仕事中ですから……」
困ったように言うレフィーナに、アンがそそくさとヴォルフの隣までやって来た。何の用だろうかとアンを見ると、にこーといい笑顔を浮かべていた。
そしてアンはヴォルフにだけ聞こえる声量で話し始める。
「宿の従業員に聞いたんですけど、このちょっと先に白いアイリスの群生地があるらしいんですよ」
「白いアイリス?」
「はい。……あなたを大切にします」
突然言われた言葉に、ヴォルフは瞬きを繰り返す。アンは意味が通じていないと気付いたのか、ちょっとすねたように頬を膨らませる。
「花言葉ですよ!少し前から花言葉に想いを込めて、恋人に花を渡すのが流行っているんですよ!ヴォルフ様知らないんですか!?」
アンの言葉にヴォルフはそう言えば前にアードがそんな事を話していたな、と思い出した。花言葉のことなどすっかり忘れていた。
「ストレートに薔薇とかもいいですけど、そっと渡される純白のアイリスなんてのも素敵ですよ!」
「……今は仕事…」
「もう!二人揃って真面目なんですから!」
遠回しに提案を断ろうとすると、それに気付いたのかアンがプリプリと怒り出した。ヴォルフとアンの会話が聞こえていなかったレフィーナが首を傾げる。
仕事中でなかったら…と言い訳するように考えたが、仕事中でなくても花は贈らない気がした。そもそも花言葉に詳しくないし、出先で花を渡さても困るだろう。
とはいえ、まぁ…たまには、そんな事をしてもいいかもしれない。……機会があれば。
アンが聞いたら今すぐ実行しろと言われそうな事を考えながら、ヴォルフは見えてきた白いアイリスに視線を投げたのだった。
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