悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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「…あなた。私達はレフィーナを家族としても見放したわ。それなのにレフィーナはまた私達を家族と思って、大切な方を紹介してくれてるのよ。私達はそれを祝福してあげるべきでしょう?」

「………そう、だな。ヴォルフ、といったか」

「はい」 


 名前を呼ばれ、ヴォルフは顔を上げる。こちらを見るアイフェルリア公爵の瞳は、僅かに潤んでいた。


「レフィーナの事を…頼む。誰よりも幸せにしてやってくれ」


 深く頭を下げるアイフェルリア公爵に、ヴォルフはしっかりと頷いた。
 レフィーナの父親に結婚を認めてもらえて胸の中がいっぱいになる。それと同時に胸を撫で下ろした。これでレフィーナと結婚が出来る。
 静かに息を吐き出し、レフィーナの方を見ると、ワーデルが祝福の言葉を贈っていた。


「レフィーナ、おめでとう」

「ありがとうございます、お兄様…」

「ふふっ…。娘の花嫁姿を見られるなんて、幸せね。貴方達の結婚に必要な物や式は私達が用意するわ」

「お、お母様…でも…」

「レフィーナ。せめて、それくらいはさせてちょうだい。それに、娘のドレスを用意するのは母親の楽しみなのよ?」


 ウキウキとした様子のフィリナがレフィーナからこちらに視線を移したので、ヴォルフは感謝を伝えるように頭を下げた。
 すると、目尻を乱暴に拭ったアイフェルリア公爵に声をかけられる。


「もう頭をあげなさい。…私達は家族になるのだからな…。君ももう、私の息子だ」

「…ありがとうございます…っ」


 公爵の言葉にヴォルフは、嬉しさを感じるのと同時にほっとした。認めるだけではなく、自分の事も家族として迎えてもらえて安心したのだ。
 いつか、と思い描いていた家族がゆっくりと形になっていく。感じ入るようにヴォルフがそっと目を閉じると、ふいにフィリナに話しかけられた。


「レフィーナ達はどんな感じの式がいいのかしら?」


 浮かれた声で問いかけられた内容に、ヴォルフはレフィーナと顔を見合わせる。
 貴族の結婚といえば、だいたいが盛大なものだ。だが、今のレフィーナは侍女だし、ヴォルフも騎士で貴族ではない。いくら公爵家の娘とはいえ、二人は盛大な結婚式を上げたいとは思わない。
 お互いの事はよく分かっている。レフィーナはヴォルフの意思を汲み取ったように小さく頷くと、フィリナに向き直り、口を開いた。


「家族や少しの招待客だけの…小さな式がいいです」

「そう…。なら、招待する方を二人で話して決めておいてね」

「はい」

「…お父様、お母様。もうそろそろお時間です。舞踏会に遅れる訳にはいきません」


 話に区切りがついた所でワーデルがそう切り出した。
 ヴォルフは持っていた懐中時計で時間を確認する。確かにワーデルの言う通り、そろそろ舞踏会に向かった方が良さそうだ。ヴォルフもまた仕事に戻らなければならない。

 簡単に身だしなみを整えたフィリナが、にっこりとした笑みを浮かべた。 


「じゃあ、レフィーナ。また話しましょうね」

「またね、レフィーナ」

「…今度、二人で屋敷に遊びに来なさい」

「はい!」

「ありがとうございます」


 応接室を後にするアイフェルリア公爵達をしっかりと頭を下げて見送り、姿が見えなくなった所でふっと肩の力を抜いた。レフィーナも緊張していたのか、同じように肩の力を抜いていた。
 ヴォルフは深く息を吐き出して、レフィーナに話しかける。


「ちゃんと認めて貰えて良かったな」

「はい」


 これでなんの憂いもなく結婚へと進める。
 まだどんな式になるかは分からないが、その時のレフィーナはきっと誰よりも綺麗な花嫁姿なのだろう。


「レフィーナのドレス姿、楽しみにしているからな」


 そう伝えるとレフィーナが、幸せそうに笑みを浮かべて頷いた。ヴォルフもまた同じように幸せな気持ちで笑みを浮かべる。
 ふとレフィーナが左手に視線を落とす。贈った指輪を確かめるようになぞりながら見つめる彼女の横顔は、今まで一番美しく、ドキリとする。


「ヴォルフ?」


 見惚れているとレフィーナが首を傾げた。ぼんやりとしすぎていたようだ。
 ヴォルフは恥ずかしくなって誤魔化すように、レフィーナの亜麻色の髪を優しく撫でる。


「なんでもない」

「そう?」


 不思議そうな表情のレフィーナにこくりと頷く。そして、髪を撫でていた手で今度は頬を撫でる。ゆっくりと顔を近づけると、柔らかな頬が赤く色づいた。
 間近で緋色の瞳と見つめ合う。そして、どちらからともなく目を閉じて、そっと唇を重ね合わせた。


「レフィーナ、俺は今……とても幸せだ」

「ヴォルフ……」


 唐突な言葉に、レフィーナが驚いたように目を見開き、やがて優しげな微笑みを浮かべる。


「私もよ。とっても幸せ」


 微笑みと同じように優しい声色で告げられた言葉が、ゆっくりと胸に染み渡る。

 この先たとえ何十年の時が経っても、今と変わらない気持ちでレフィーナと幸せを分かち合っていきたい。そんな風に思いながら、ヴォルフはもう一度、誓うように唇を重ね合わせたのだった。
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