悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 レフィーナの家族に結婚を認めてもらってから数週間後。
 ヴォルフはレフィーナと共に、アイフェルリア公爵家の屋敷の前にいた。少し前に屋敷に招待する旨の手紙が届いたのだ。


「ようこそお越しくださいました」


 大きな屋敷に気を取られていると、いつの間にか近くに来ていた白髪の男に声をかけられた。黒の燕尾服えんびふくを身にまとった姿から考えて、公爵家に仕える執事なのだろう。
 その執事は深く頭を下げてからレフィーナに視線を向け、皺の刻まれた目尻を柔らかに緩めた。


「お久しぶりでございます、レフィーナお嬢様」

「……ええ。久しぶりね」

「またこのお屋敷でお会いできて嬉しゅうございます」


 少しだけ涙ぐんだ執事に、レフィーナは優しく微笑みながら頷いた。
 レフィーナが侍女になってから今日初めて帰ったのだ。おそらく彼女が幼いときから見守ってきた執事からすると、レフィーナがこうして堂々とこの屋敷に帰って来れるのが嬉しいのだろう。
 ヴォルフは口を挟まず、二人の再会を見守る。すると、執事が少し恥ずかしそうな様子でこちらを向いた。


「お待たせして申し訳ありません。……歳を取ると、どうもすぐ感傷的になっていけませんね」

「いえ、お気になさらず」

「……ほっほっほ。お嬢様は優しい方をお見つけになられたようですね」

「ええ。とてもいい人に巡り会えたわ」


 レフィーナがヴォルフにふわりと笑みを向ける。その笑みと言葉にヴォルフもまた優しい笑みを返した。
 そんな二人を見ていた執事は涙の浮かんだ目尻を軽く拭い、ヴォルフ達に声をかける。


「それでは、旦那様のところへご案内いたします」


 その言葉に頷くと、執事はくるりと背を向けて歩き出す。その後をヴォルフはレフィーナと共について行った。



           ◇



「ここで少々お待ちください」


 ひとつの部屋の前で執事にそう声をかけられ、ヴォルフは頷いた。執事は一度微笑んでから、その部屋の扉をノックする。


「旦那様、お客様をお連れいたしました」

「……入ってくれ」


 中から聞こえてきた返事に執事が扉を開け、頭を下げる。ヴォルフは一度レフィーナと目を合わせてから、部屋の中へと足を踏み入れた。
 入ってすぐにアイフェルリア公爵と目が合い、ヴォルフは頭を下げる。


「本日はお招きいただきありがとうございます」

「あら、そんなにかしこまらなくてもいいのよ」

「そうだ。別に堅苦しい挨拶など必要ない」


 フィリナとアイフェルリア公爵の言葉に、ヴォルフはゆっくりと頷いた。ふと、隣にいたレフィーナがくすりと笑い声を上げる。不思議に思って視線を移すと、彼女がヴォルフにだけ聞こえるように教えてくれた。


「お父様の目尻が下がるのって、嬉しいときなのよ」


 その言葉に公爵の目尻に目を向ける。確かに目尻が下がっていた。
 ヴォルフ達が訪れた事を喜んでくれているようだ。その事にほっと胸を撫で下ろし、教えてくれたレフィーナに小さく礼を言う。すると、彼女は静かに笑いながら、口を開いた。


「私も最近までは知らなかったんだけど……お兄様が教えてくれたの」


 今ここにはいないワーデルの姿を思い浮かべる。今まで兄とはあまり関わりが無かったと言っていたが、関係が良好そうでヴォルフは微笑んだ。
 二人が何やらこそこそと話す様子をにこにこと笑みを浮かべて見守っていたフィリナが、話に区切りがついた時を狙って近づいてくる。そして、嬉しそうにレフィーナの手を取った。


「お母様?」

「ふふ。ヴォルフさん、ちょっとレフィーナをお借りするわね」

「?」

「今日、屋敷に呼んだのはドレスの採寸をするためなの。ほら、こないだ結婚式のドレスは私に用意させてくれるって言ったでしょう?」


 フィリナの言葉にレフィーナと顔を見合わせる。そういえば、結婚式の準備を手伝ってくれると言っていた。


「ほら、別室に用意してあるから行きましょう!あなた、ヴォルフさんのお相手をお願いね。さあ、レフィーナ行きましょう」

「は、はい」


 フィリナの勢いに押されるように、レフィーナが部屋を出ていった。女性がいなくなった途端にその場が静寂に包まれる。
 ヴォルフは案内してくれた執事に勧められて、とりあえず公爵に向き合うようにソファーに腰を下ろした。

 義理の父となる公爵を前にして、ヴォルフは表情には出さずに困り果てる。何か話を振った方がいいのだろうが、何を話せばいいのか分からない。
 とりあえず気まずい雰囲気を誤魔化すように、執事が用意してくれた紅茶に口をつける。その直後、ノックの音と共に扉が開き、ワーデルが入ってきた。


「……来て正解でしたね」


 揃ってほっとした表情を浮かべたヴォルフと公爵に、ワーデルがいささか呆れたようにそう呟いた。
 どうやらこの二人では気まずいだろうというのを察して、ここに来てくれたようだ。


「私の分の紅茶も頼むよ」


 ワーデルは控えていた執事にそう言って、空いていた椅子に腰を下ろしたのだった。
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