短編小説集

ダモクレスの剣

太陽は西に傾き、柔らかな光が高層ビルの窓ガラスに反射していた。90歳の会長、山岡秀一郎は、その巨大なオフィスの一室で最期の時を迎えていた。彼は1代で築き上げた会社の成功を体現し、社員たちから尊敬を集めていた。

幹部社員の藤田信一は、厳粛な表情で会長の病室へと足を進めた。彼は数十年にわたり、山岡会長の下で働き、彼の信頼を勝ち得た最古参の社員である。壁にかかる会長の肖像画が、藤田の心に迫る存在感を与えた。

「山岡会長、藤田です。お許しくださいが、伺ってもよろしいでしょうか？」厳粛な気持ちで病室の扉を軽くノックした。

「入れ。」会長の声は年齢による微かなかすれ声であったが、いまだにその迫力は失われていなかった。

藤田はゆっくりと病室に入り、会長のベッドのそばに立った。秀一郎は脆弱な体をベッドに横たえ、病気による衰弱が感じられた。それでも、彼の目は力強さを保ち続けていた。

「藤田君、来てくれたのか。ありがとう。座ってくれ。」会長の声には微笑みが感じられた。

藤田は静かに椅子に腰を下ろし、会長の目を見つめた。藤田は会社での今までの会長との半生を走馬灯の様に思い出した、言葉が出て来なかった　

「もう、苦しい日々は続かないんだな。」会長の言葉には静寂と穏やかさが込められていた。