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第3章 おてんば姫の冒険録
7 アリシア王国の双子姫
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「ティアラねえさまどこいくの?ミラも連れてって」
「メルも行くの!」
アデルと連れ立ってカミールの執務室を出ると、いつものようにカミールの娘たちが駆け寄ってきた。カミールが結婚したのはティアラが10歳のとき。翌年には可愛い双子の王女が誕生した。
双子の姫たちは叔母であるティアラを「ねえさま」と呼び、姉のように慕っている。ティアラも可愛い姪っ子たちにめっぽう甘く、勉強に飽きた二人の脱走にたびたび協力しては、今では双子の教育係であるアンナに怒られる始末だ。
「ミラ!メル!出発前にあえて良かった」
ティアラは飛びついてくる二人をぎゅっと抱きしめると、ピコピコ動く耳をこしょこしょくすぐる。
「ねえさまくすぐったい!」
「やーんミラばっかりずるい!メルもするの!」
長く優美な尻尾がゆらゆらと機嫌よく揺れるさまをうっとりと見つめる。
今年5歳になる双子の姫たちには、獣人の特徴である可愛いヒョウ柄の耳と尻尾が備わっていた。王太子妃であるヒョウ獣人のアデイラは長年カミールのパートナーとして活躍したS級冒険者だ。
獣人が王族に加わることは他国では類を見ないことだったが、かつてアリシアとともに海を渡って国づくりに貢献した由緒正しい公爵家の令嬢であり、ここアリシア王国では、身分も教養も、なんなら強さも兼ね備えた女傑である。
王家も国民も種族の壁を越えて結ばれた二人の結婚を大いに祝福しており、二人の間に生まれた愛らしい双子姫の人気もすさまじい。
実は獣人にとって耳や尻尾は弱点になることもあるため、力のある獣人の多くは純粋な人間と変わらない姿を持つ。そのため、獣人かどうかは、わずかに特徴を残す髪の色や瞳の色などで判断することが多い。
母であるアデイラも例に漏れず、月光のような瞳の色とオレンジと黒のグラデーションになった髪色の他は純粋な人間と変わらない姿をしている。双子の姫たちもある程度大きくなれば耳や尻尾のない姿が普通になるらしい。
今限定の姿と思うとよりいっそう、ピコピコ動く耳やゆらゆら揺れる尻尾が可愛くてついつい触りたくなってしまうのだ。
(はあ、ベルベットみたいな極上の肌触り……ずっと触っていたい。可愛い……)
「おい、顔がゆるんでるぞ。急ぐんじゃないのか?」
呆れたジャイルに指摘され、ティアラは思わずによによする顔を慌てて引き締める。
「ミラ、メル、ごめんね。お姉ちゃんたちこれからちょっと旅に出ないといけないの」
ティアラの言葉に双子は目を丸くする。
「ねえさま旅に出るの?どこに行くの?アデルおじちゃんも一緒?」
ちなみにティアラはお姉ちゃん扱いだが、まだ独身のアデルはしっかりおじちゃんと呼ばれている。
「おう。土産を買ってくるから楽しみにしてろよ!」
にっかり笑ったアデルが双子の頭をくしゃっと撫でると二人は揃って口を尖らせた。
「ちょっ!アデルおじちゃん止めて!髪の毛がぐしゃぐしゃになるでしょっ!」
「お耳がくすぐったいの~!」
ひとしきりアデルから逃げ回った後、妹のメルはジャイルの後ろ、姉のミラはミハエルの後ろにさっと隠れる。これもいつものことだ。同じ双子同志シンパシーを感じるのか、ジャイルとミハエルはミラとメルの大のお気に入りだった。意外と子ども好きの二人も、やんちゃな姫たちを実の妹のように可愛がっている。
「ねえねえ、みんないつ帰ってくるの?」
「ジャイル兄さまとミハエル兄さまも行くの?」
「ああ、しばらく会えないがいい子にしてろよ?」
「僕たちも素敵なお土産を買って帰るからね」
それぞれに抱き上げられた二人は機嫌よく尻尾を揺らす。
「ジャイル兄さまはメルにお土産買ってきてね。ミハエル兄さまはミラにお土産を買ってくるのよ」
「ん?二人別々のものがいいのか?」
「いつも二人一緒のものばっかりじゃつまらないでしょ?特別な宝物にしたいもの」
ジャイルとミハエルはおませな双子の言葉に苦笑すると手の甲に軽く口づける。双子だからといつも同じものを与えられるのは嬉しい反面残念なことでもあるのだ。同じ双子として、自分しか持っていない特別な宝物が欲しいという気持ちは嫌になるほど理解できる。
「「愛しい姫たちの仰せのままに」」
至近距離で二人に甘く微笑まれた双子の顔がボンと赤くなる。その瞬間背中からヒヤリと冷気が立ち上がった。
「ジャイル、ミハエル……うちの娘たちをたぶらかすのはやめてもらおうか……」
物理的に空気がぴしぴしと凍り付いていくのをみて慌てて姫たちを下すと、姫たちも恥ずかしかったのか照れ隠しに今度はカミールの胸に飛び込んでいく。
「「パパ!一緒に遊ぼう!」」
とたんにデレっと相好を崩すカミール。
「よしよし。二人ともパパっ子だもんな。パパのことが一番好きだもんな~」
「「パパだーいすき!」」
「そうかそうか。はははは!」
すっかり親ばかと化したカミールを生暖かい目で見つめるティアラたちだった。
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