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第3章 おてんば姫の冒険録

30 ティアラの役割

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 ♢♢♢

「行っちまったな」

「うん。獣人の皆がアリシア王国の暮らしに早く馴染めるといいなぁ……」

 ティアラは船が見えなくなった後も、船の消えた方向をじっと見つめていた。

「大丈夫だろ。さっき作った薪や炭、村で使ってた生活道具まで全部、姐さんがマジックバッグに入れて根こそぎ持ってったし」

「僕も生活に便利な魔道具をいくつか持たせておいたよ。これからなにかと必要になるだろうからね」

「俺が持ってた使えそうな道具やセバスが作った料理なんかも渡しといた。大丈夫だ。頼もしい姉さんもついてるしな。まぁでも、帰ったらすぐに顔を見に行くとするか」

 不安を打ち消すような頼もしい仲間たちの言葉に、ティアラも胸が暖かくなる。

「うん!皆、ありがとう」

(それに、新しい『神獣の森』は、アリシア王国にあるしね)

 アリシア王国の冒険者たちが主に活動する、王都に程近い「冒険者殺しの森」。この森が、聖なる加護を持つ神獣の住まう、新たなる神獣の森だ。

 かつてアリシアとともに戦ったフェンリルのリルは、今は立派な母親となって森を守護し、次代の神獣たちを育てている。

 アデイラの弟であり、今は公爵家を継いだ森の守護者ロルフ。その妻で神獣の巫女であるリリアも、きっと獣人達の力になってくれるだろう。

(大丈夫。アリシア王国には頼もしい仲間がいるから。みんな……今度こそ幸せになってね)

 祈るように海を見つめるティアラ。

「さて、そろそろ後片付けを始めますかのう。村人達は行ってしまいましたが、まだまだやることは山積みですぞ」

「そうだな。森に結界を張ったり、守護を施したりするんだろ?」

「森全体の瘴気を払うのは私たちの出番ですね」

「うん。みんな、頑張ろう!」

 こうして、ティアラたちは、森の再生のために力を注いだ。倒木を取り除き、瘴気を払い、草花の種子を撒いた。

 そして、森の中心の地中奥深くに、アデルの力を使ってティアラの持つ魔石を埋め込み、魔石の力で森全体に結界と浄化の加護を施した。

 魔石を使うことでティアラたちがこの森を去った後も、森の加護が消えることはない。おそらくまた数百年の間、穏やかに森を守り続ける。森全体を破壊し尽くすような、魔物の異常発生などは無くなるはずだ。

(世界中で起きている魔物の異常発生の原因は、アリシアだったときに施した、加護の力が弱まったこと……だとしたら、私が500年後に生を受けた理由は、これだったのかも知れない)

 もう一度、この世界に祝福を。

 神が見捨てたこの世界に、神であることを捨て、人であることを選んだアリシア、いや、転生を遂げたティアラが……

 そのために、私はまた、命を落とすのだろう。

(フィリップを探さなきゃ。神なき世界の守護者として)

――――創造を司る私の魂の片割れ。破壊を司る神竜を。
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