【本編完結】自分が作った世界で自分が理想の勇者を育てたら、予想以上にかっこよくて好きになっちゃいました

黒滝ヒロ

文字の大きさ
26 / 91
第1章

25話 大聖堂で「お告げ」をする俺

しおりを挟む
王都デレトニアにはファーレン王国の国教である統一教の総本部であるサクリア大聖堂がある。この大聖堂には統一教の頂点に立つ教皇マルヴィンが住んでおり、ファーレンを初め同じように統一教を信仰する大陸の全ての人にとって聖地でもある。

あのあと急いでギルドを出た俺たちは大聖堂に向かった。
大聖堂は俺の記憶では建立して100年は経つ荘厳な建物だ。この国の人たちの信仰心が現れるように、いつでも綺麗に管理されているため、王都を訪れる人々ーー信仰に関わらずーー必ず訪れる観光地でもある…はずなのだが。

「ずいぶん荒れてますね…」
「そうだな。王都のサクリア大聖堂といえば王都を誇る荘厳な建物として有名なはずだが。」

俺とクリスは大聖堂の荒れた様子に呆気に足られていると、キーレンが事情を説明してくれた。

「恥ずかしいことだが、ここ数年議会で大聖堂の整備予算が下りなかったり、お布施が減少しているようなんだ。この国の国教である統一教の総本部でもあるので、しっかりと保護する必要があるのだが…世論が政教分離に流れていてね。おかげで他国の統一教信者や古くからの信仰の篤いものから多くの陳情が寄せられているらしい。このままでは王族の支持も下がるばかりであろうな。」

キーレンは事情にやたらと詳しいようだが、それだけ公然の事実ということなのだろう。
確かに必ずしも神として全ての人を助けてきたわけではないが、この世界を創造主として人類を導いてきたことを思うと、このような扱いをされることには寂しさを感じる。
人は身近に神の存在を感じないと進行が薄れることはわかっているつもりなのだけど。

「タケル?顔色が悪いようだが大丈夫か?」

大聖堂の寂れ具合にやや気持ちが落ち込んでしまった俺にクリスが心配げに声をかけてくれた。
こんなところで落ち込んでいるわけにはいかない。何より今は子供達を一刻も早く助けることが先決だ。

「いえ、大丈夫です。ちょっと大聖堂が寂れてるのが悲しいなって。」
「俺たちに取っては身近な存在なのだが、王都ではそうでもないのだろうな…。大丈夫。きっと今回も神様が力をお貸しくださるよ。」

そう言ってクリスは優しく背中を撫でてくれた。

「今はとりあえず「お告げ」が必要なんだろ?急がなくていいのかい?」

大聖堂で立ちすくんでいた俺たちにベレッタが声をかける。

「ベレッタさんのいう通りですね。急ぎましょう!クリスさん!」


大聖堂に入り受付で事情を話すと、受付にいた職員が慌てて「少々お待ちください!」と言って奥に引っ込んでしまった。
10分ほどその場で待っていると、慌てて職員が戻ってきた。

「お、お待たせしました!まさか急にウーヌス村の生きる奇跡、クリス殿がお越しになるとは!こちらに小規模ですが神像を奉る礼拝所がありますのでそちらをご利用ください!」
「いや、急なお願いで申し訳ない。感謝する。」
「いいええ!とんでもございません!ではこちらへ!」

壮年の女性の職員が大きな声で恐縮しながら、道案内をしてくれる。やや興奮気味で周りの人に聞こえてしまってるんじゃないかと心配したが、大聖堂を訪れる人もまばらでそのような心配は必要なかった。

関係者専用の入り口より入り通路を進む。大聖堂の入り口にはある程度の人数が大聖堂を訪れていたが、職員専用の通路であるようで、他に人はほとんどいない。
内部は簡素だが、綺麗に掃除が行き届いている。現状を維持できているのは職員たちの努力もあるのだろう。
職員の案内でしばらく通路を進むと、豪華な扉が目の前に現れた。

「こちらになります。どうぞお進みください。」

職員が扉を開いてくれて部屋の中に入る。すると一人の聖職者が神像の傍にたっていた。
その聖職者は質素な神官服に身を包みながらも、その身から溢れる気配が高位の人物であることを示していた。
彼はもしや…。

「クリス殿。あなたの噂はかねがね聞き及んでおります。なんでも神のお告げに従い世界を救うため旅に出ておられるとか。よくぞサクリア大聖堂にお越しくださいました。」
「わざわざありがとうございます。あなたは…?」
「申し遅れました。私はこの大聖堂を預かるマルヴィンと申します。」
「マルヴィン様…もしや教皇猊下でいらっしゃいますか?」
「いかにも、神より教皇の職を戴いております。」

教皇の指定は俺が神の立場で毎回指定するようにしている。特にこの世代はクリスが生まれるので、俺の影響を与えやすい教会を指揮する人間が不埒な人間でいるわけにはいかない。候補の中から最も信仰に篤く、公平な判断が下せる人物を指定した。
そのためにやや若いながらも教会で信仰心も篤く、自己顕示欲が少ないながらも多くの人に慕われている彼は強硬であるにもかかわらず、人一倍現場に出て活動している。

自己紹介もそこそこに事情をマルヴィン教皇に説明し、神に「お告げ」を乞うことをクリスが伝えた。
すると教皇も「そういうことでしたら、私も協力しましょう。子供の救出は神も望むところ。必ずお応えくださるはずです。」と答え、一緒に願ってくれるようであった。
まあ今ここにいる俺が「お告げ」をするんだけどね。

クリスと教皇が神像の前に跪き、神に祈りを捧げ始める。残ったキーレン、ベレッタ、俺の3人はその少し後ろにある長椅子に腰をかけて祈るポーズを取った。
よし。
側から見ても祈りを捧げているようにしか見えないよな?この状態ならログオフしても疑われないはずだ。
俺はこの状態のまま一旦ログオフして、久しぶりに創造者モードに切り替えた。


一度咳払いをして、気持ちを切り替える。
視点を大聖堂の礼拝所に移し、祈りを捧げているクリスと教皇を指定して、「お告げ」モードを開始した。

『2人とも、祈りは届いている。』
「神よ、願いを聞き届けていただきありがとうございます。」
教皇が感謝の弁を述べる。
『何を聞きたいかはわかっている。連れ去られた子供たちは港から帝国へ明日には連れ去られるであろう。対応を急ぐのだ。』
「神よ。ありがとうございます。子供たちは無事でしょうか。」

おっとそこまでは調べていなかった。一度時間を止めてナビーを呼び出す。

「ナビー。若干曖昧な条件で人物指定して、ステータスを確認する方法はある?」
「キーワードによっては絞り込めない可能性はありますが、可能です。この創造者モードでのみ可能です。」
「それはいいんだ。今すぐ王都で港に捉えられている子供達が無事かどうかはわかる?」
「やってみましょう…「現時刻 ファーレン港 誘拐 子供」で検索してみます。130名ヒット…。衰弱した子供はいるようですが、この130名は今のところ生存しています。」
「ありがとう。また何かあったらお願いするよ。」
「これが私の仕事ですので。またいつでもお呼びください。」

そういうとナビーは再び虚空に消えていった。なんとナビーは検索とかも手伝ってくるのか。初めて知った。
説明書を読むのが苦手な俺はちょいちょいこういうことがあるんだよなあ…一度説明書を一通り読んでみた方がいいかもしれない。

さて知りたい情報も得たことだし、「お告げ」モードに戻る。

『今のところは無事だ。』
「神よ、奇跡をお与えいただきありがとうございます。」
『毎回答えるかどうかは約束できぬが、これからも身守ることとしよう。さらばだ。』
「「ありがとうございます。」」

クリスと教皇が再び祈りのポーズに戻ったことを確認して、「お告げ」モードを終了する。
慌てて再び冒険者モードにもどり、ログインした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

処理中です...