【本編完結】自分が作った世界で自分が理想の勇者を育てたら、予想以上にかっこよくて好きになっちゃいました

黒滝ヒロ

文字の大きさ
28 / 91
第1章

27話 港の倉庫に忍び込む俺

しおりを挟む
一夜明けて翌日は早くから救出作戦の準備をすることになっている。
俺も現実世界で休憩を取ってから、早めの時間に設定してログインした。

「おはようございます。クリスさん。」
「おはよう、タケル。昨日はゆっくり休めたかい?疲れは残ってないか?」
「はい。今日は頑張りましょう!絶対に子供達を助け出しましょうね!」
「タケルがいれば絶対大丈夫な気がしてくるから、不思議だな。タケルは本当に俺の救世主だ。」

そう言って俺の頭をクリスが撫でる。クリスさん!朝からイケメンキラキラオーラが洪水を起こしてますう…。
俺は久しぶりに保存!保存!と心の中で絶叫した。俺のクリスライブラリーに保存された写真が溜まっていく。


2人で朝食を食べ、装備の確認をしてから宿の入り口に向かうと、すでにベレッタが待ち構えていた。

「おう。ベレッタ早いな。」
「あんたたちもね。まあ今日は昼前には現地到着だから、早めに動くに越したことはないさね。」

ベレッタがニヤリと笑う。そうなのだ。俺たちは作戦決行の夜になるまで、近くの倉庫に潜むことになっているのである。そのために早めに行動する必要がある。

子供達を救出するための大雑把な作戦はこうだ。
教会が懇意にしている信用できる商人の所有する倉庫に、荷物の中に隠れながら日中入って潜む。
夜になったら子供達のいる倉庫に侵入して、一気に救出する。

子供達がいるであろう倉庫の特定は一応目星が付いている。
100人以上もの子供達を閉じ込め、なおかつ騎士団に関連する商会が所有する倉庫といえば1箇所しかなかった。
潜む倉庫も比較的近いので、接近するのも容易いはずだ。

救出するにも騎士団が絡んでいる可能性もありうる。
その場合はこちらも少人数では難しいので、教会の神殿騎士や武神官のうち選抜された10名が俺たちと一緒に潜む音になる。

それでも人数的な差はあるはずなので、ギルドで募った協力してくれる冒険者たちに港の入り口で騒ぎを起こしてもらって囮になってもらう。それなりの人数が協力してくれそうだから、対応する騎士団も多く割かれることになるだろう。
正直それでも不測の事態は起きうるけど、その場合は俺の神権限で対処する。
その上でクリスたちに活躍してもらって、名声もあげてもらいたい。


というわけで日中のまだあまり騎士団が警戒をしていないうちに、倉庫に入り込む必要がある。
俺たちはそのまま宿を出て、協力してくれるという商会に向かうとそこにはすでに教会の関係者たちとキーレンが奥の方に集まっていた。

教会の関係者たちはぱっと見にはそうと見えないが、装備している剣や杖には統一教の配下である紋章が付いている。紋章は大きな雷が中心に大きく描かれ、その上に目が描かれているものだ。

この紋章は俺がかつて神の奇跡を演出するために雷を多く多用していたことからだと思う。
いちいち教会の動向をチェックしていなかったので詳細はわからないけど…自分のしてきたことが形に残っていてちょっと気恥ずかしい。

服装は冒険者風にしているので遠目にはそうとわからないようにしているのだろう。
騎士団と争っていることがあまり表立つと、王都の住民たちに動揺を与えてしまうことへの配慮からだと思われた。

俺たちが到着したとみると教会関係者のリーダーと思われる一人の男がこちらに近づいてきた。

「貴殿がクリス殿だな。私は神殿騎士団をまとめているエンリコ・ゼルビーニという。猊下に指示され今回の作戦に参加させてもらうことになった。よろしく頼む。」
「私はクリストフ・フランク。私のことはクリスと呼んで欲しい。」

2人が握手を交わしたあと、俺とベレッタとも自己紹介と握手を交わした。すでにキーレンとは挨拶を交わしていたらしい。
余計な話はせず、すぐに作戦の確認に話は移る。

「今回選抜するにあたり、回復魔法に優れたものを多めに配置している。今回は何より子供達の保護が最優先だと考えたのだが、騎士団が関与しているかもしれないとも聞いているので戦闘力も十分にある者たちだ。もし騎士団ともやり合うようであれば我々に任せて欲しい。」
「では我々は子供達の解放のためにまず動くことにさせてもらおう。攫われた子供達の安否確認、解放、障害物の排除の優先順位で行かせてもらう。」
「ギルバートが騎士団の暗部については監査部が対応すると話していた。そちらの方も大丈夫だ。」

エンリコとクリスとの打ち合わせにキーレンも加わる。
キーレンは最初は俺たちの援助として付き添ってくれていたが、もしかしたら彼も何かしらの使命を帯びているのかもしれない。考えすぎか。
誘拐事件は確かに全力で取り組む案件だが、この件に関してはただの仕事以上の熱意を感じる。

教会関係者たちは騎士団への対応で前面に出る中で、俺たちは子供救出を最優先に遊軍として行動することになった。ただの冒険者であればそんなことはないと思うが、クリスが神から使命を帯びて行動している者であることが教会の中ではすでに知れ渡っているのだろう。
明らかに俺たちに対して敬意を払われている気がする。

一通り打ち合わせを終えた俺たちは、すでに騎士団が周辺に配置されていることも考えて、商会の荷物に紛れて倉庫の中に忍び込む。

揺れる馬車に積まれたワイン用の樽に俺たちは詰め込まれて移動する。思わず俺も入ったが、あまりの揺れに気持ち悪くなってしまったので、移動の間だけ冒険者モードをやめて時間を進めさせてもらった。


倉庫内に入ると、樽から出てお互いが異常がないか確認する。
教会関係者の中にはやっぱり酔ってしまったものがいるようなので、回復魔法をかけておく。
彼らにしてみたらこんなスパイのようなことなどしたことがないから慣れないのも仕方ないだろう。俺も実際耐えられなかったしね。

「タケルは大丈夫そうだな。酔わなかったか?」
「今まで船旅もしてきましたから、揺れには慣れているんですよ。」

クリスは馬での移動に慣れているからか全く大丈夫なようだ。ベレッタやキーレンも何事もなさそう。
やっぱり冒険者はたくましいな。
俺はちょっぴりズルをしました。ごめんなさい。現代日本人の俺にはあの揺れは無理でした。

お互いの体調を確認したところで、夜まで静かにその時を待つことになった。


夜になり、次第にあたりが騒がしくなる。
想像以上に多くの騎士たちが港の警備に回されているようだ。作戦の開始は港入り口のギルド勢が大きい音を出した後だ。それまで俺たちは外の様子を壁に耳を当てながら確認する。

「それにしてもなぜ急に港をこんな厳重に警備することになったんだ?」
「ほんとにな。昨日急に警備の指示が上から来たらしいけど、要人が来るわけでもないのに。」
「俺たちが入ってはいけない区画もあるらしいから、今日あたり大捕物があるんじゃないか?」
「あ~なるほどな~。」

騎士たちの会話が聞こえてくる。彼らの話を聞くにどうやら事情を知らないものも騎士団にはいるのだろう。完全に騎士団全員が今回の事件に関わっているわけではないのがせめてもの救いであった。

「どうやら騎士団全体が腐っているわけではないようだな。ということは腐った部分さえ取り除けば、騎士団は元に戻るということだ。」
「そうみたいですね。全員だったらどうしようかと思っていました。」
「騎士団は本来正義感の強いものの集まりだ。子供を誘拐することに関わるものがいること自体が、本来異常なことなのだ。」

キーレンは落ち着いた声でそう話す。
騎士団の事情にも詳しいみたいだし、一体彼は何者なのだろうか。

そんな話をしているうちに、港の入り口の方からドーン!という衝撃音が数回聞こえた。若干の振動も来るくらいだから、かなり大袈裟に合図の魔法を使用したらしい。

「おい!なんの音だ!」
「入り口の方角からだ!」
「お前たちは入り口を封鎖せよ!何人もこちらに入れないよう注意せよ!」

騎士たちやそれを指揮する者の声が聞こえる。
どうやら作戦通り、ほとんどの騎士が入り口の方に移動してくれたらしい。
騎士たちの人数が減ったことを確認して、俺たちは子供達の救出に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

処理中です...