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黒猫と白猫の国
第二話
しおりを挟むその日は朝からきれいな青空が広がり、
空気が澄み渡る気持ちのいい秋晴れ。
今日は、メラミの十三才の誕生日。
お城ではパーティーの準備に追われて、
みんな忙しそう。
いつもは仲が悪いパパとママも、
機嫌がいいのか今日はまだ
ケンカをしていないみたい。
二人が仲良くしているように見えて、
メラミはうれしかった。
パーティーの準備が整った頃、
トラばあちゃんがお城にやってきた。
メラミの部屋を訪れると、
「おめでとう、プレゼントだよ」
と、茶色のシンプルな装丁が施された、
一冊の本をメラミに手渡す。
それは、トラばあちゃんが
旅先で書きつづった『旅日記』だった。
前にメラミが読んでみたい、
と言っていたのを覚えていてくれたのだ。
「こんな大切なものを、
もらってもいいのかにゃ?」
「お前が読んでくれるなら、
そのほうがうれしいよ」
トラばあちゃんがにっこり笑って答えると、
「ありがと、うれしいにゃー、
大切にするにゃ」
メラミもにっこり笑ってお礼を言う。
メラミの笑顔を見て、
満足したトラばあちゃんは、
「さてと、じゃあ、私は帰るとするかね」
部屋を出て行こうとした。
来たばかりなのにもう帰るなんて、
と、あわてたメラミが、
「パーティーには、来てくれないの?」
とたずねると、
「パーティーなんてものは、
わたしの『しょう』に合わないからね。
お前は、自分の誕生日を楽しむといいよ」
と言って、湖のほとりにある、
自分の家へと帰って行った。
お城の広間で始まった、
メラミの誕生日パーティーには、
黒猫国と白猫国、それぞれの王族や大臣、
剣士や魔法使いなど、大勢の猫が集まった。
たくさんのごちそうがお皿に盛られ、
みんな楽しそうにしている。
それでも、猫たちの間には、
自分たちのほうが偉いのだという、
どこか傲慢な雰囲気がにじみ出ており、
「われわれ黒猫は…」
「私たち白猫は…」
と自慢げに語り合う始末。
メラミは、
ケンカが始まらなければいいにゃあ、と
心配しつつもパーティを楽しんでいた。
いよいよパーティーがお開きになるころ、
パパとママが、プレゼント用の小さな箱を
それぞれ手に持ち、メラミの前に置いた。
黒いリボンに包まれたパパの箱を開けると、
黒猫をかたどったチョコレートがでてきた。
「これを食べると、
強い剣士になれるんだぞ」
パパは、ニコニコうれしそう。
白いリボンに包まれたママの箱を開けると、
白猫をかたどったチョコレートがでてきた。
「これを食べれば、
天気を操る魔法が使えるようになるのよ」
ママも、ニコニコうれしそう。
パパとママがなんだかうれしそうなので、
メラミもうれしくなり、
「ありがとうにゃあ」
と黒と白、ふたつのチョコレートを
パクッと口に入れ、もぐもぐ食べはじめた。
「甘くておいしいにゃあ」
とメラミが喜んだのもつかのま。
周りにいた全員がメラミの姿を見て、
ぎょっとした顔つきになる。
すると……。
「うにゃ~!」
「きゃあ~!」
突然、パパとママが、
すっとんきょうな声を上げた。
「?」
メラミは訳がわからず、小首をかしげたが、
「このチョコレートには、
黒い毛並みになる薬が
入っていたはずなのに!」
パパは、メラミに向かって
指を差すと怒り出した。
「何ですって?」
ママも、メラミに向かって
指を指しながらうろたえる。
「このチョコレートには、
白い毛並みになる薬を
混ぜておいたのよ!」
ただならぬ二人の表情に、
メラミはとても嫌な予感がした。
そして、自分の手元を見てみると…。
美しい灰色だったメラミの両腕が、
黒い毛並みに変わっていた。
にゃんで?
さらに手元だけではなく、足元も真っ黒!
え、まさか私、
黒猫になっちゃったのかにゃ?
驚いて、すぐさま、
広間の真ん中にある
鏡を見に行ってみると……。
そこに映った自分の姿にびっくり仰天。
頭も耳もしっぽも全身真っ黒なのに、
顔だけ、真っ白。
その姿はまるで、
『黒猫の毛皮を着た白猫』のようだった。
すっかり変わり果てた自分の姿に、
メラミは大ショック!
両手を強く握りしめ、
体をブルブル震わせ始める。
みんな、奇妙なその姿におののき、
誰一人として
メラミに声をかけられずにいた。
やがてメラミの瞳からは、
大粒の涙がひとつ、ふたつ…。
そのうちいくつもいくつもこぼれ出し、
しまいには大きな声で泣きだしてしまった。
「うわぁーーぁぁあん!」
メラミの深い悲しみから
あふれ出たその鳴き声は天にまで届き、
もくもくと暗雲が垂れ込み始めると、
二つの国の上空では、
ゴロゴロと雷鳴がとどろきだした。
ついさっきまで、晴天で雲ひとつない、
いいお天気だったのに!
そして、激しい雨が降りだしたかと思うと、
すぐに氷のような冷たい雪へと変わり、
冬でもないのに、横殴りの猛吹雪が、
荒れ狂ったように吹き荒ぶ。
あろうことか、冬でも氷が張ることなく、
水がゴォーゴォー流れ続けていた、
国の間の大きな川が、
初めてパキパキに凍り始めたのだった。
突如として、マイナス十度にもなる
極寒に襲われた二つの国。
黒猫国も白猫国も、
猫は全員家の中へと避難をし、
空前の寒さにガタガタ震える。
お城にいる猫たちも、
あまりの寒さに耐えられず、
ひとかたまりに集まると、
体を寄せ合うことで
寒さをやり過ごそうとした。
そのあいだ、
ずっと泣き続けていたメラミだったが、
事態の深刻さに気付くと、
ひっくひっくとしゃくりあげ、
パパとママに一番聞きたいことを尋ねた。
「にゃんで、
こんなひどいことをしたのにゃ?」
なのにパパとママは、
メラミに向かってこう叫んだのだった。
「ひどいことをしたのは
メラミじゃないか!」
「そうよ、ひどいわ、メラミ!」
メラミは、何を言われているのかわからず、
きょとんとした。
そしてそのうち、
周りの猫たちが一斉に騒ぎ出した。
「寒い、こんな寒さは初めてだ。
早く何とかしてくれ!」
「うーっ、寒いわ。まだ冬には早すぎる。
早く元に戻してよ!」
周りの猫たちはみんな、
メラミをにらみつけ、
にゃーにゃー文句を言う。
メラミは、どうして自分がこんな姿に
なってしまったのかと尋ねたのに、
他の猫からしてみれば、
早くこの寒さから逃れたい一心で、
メラミに何とかしてくれと訴えているのだ。
大広間の窓からのぞく景色は一面まっ白。
雪がどんどん降り積もっているようだった。
どうしたらいいのかわからず、
戸惑うメラミに向かって、
「メラミ。あんたの魔法の力が、
こんな天気にしたのよ」
ママが暗く低い声でつぶやいた。
「早く、元に戻しなさい」
そんなこと言われても、
突然強い魔法の力が芽生えただけで、
この天気をどうやって
元に戻せばいいのかなんて、
メラミにはわからない。
そんなことよりも…。
メラミは目の前にいるパパとママ、
そして他の猫たちの顔を見渡した。
みんながみんな、怖い顔つきで、
メラミをにらんでいるのがわかる。
そんなことよりも、
自分がこんな悲しい姿に
なってしまったことを、
誰一人として何とも思っていないことが、
メラミにはとても悲しかった。
うなだれると足元に、
魔法使いの誰かが置き忘れたのであろう、
ほうきが一本転がっているのに気が付いた。
メラミはほうきを手に取り、
それにまたがると、
窓を開けて猛吹雪の空を飛んで行った。
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