魔女ネコのマタ旅

藤沢なお

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黒猫と白猫の国

第三話

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メラミが向かったのは、
湖のほとりにあるトラばあちゃんのところ。
無言のまま戸口をノックすると、
ドアを開けたトラばあちゃんは驚いて、
目をまあるく見開いたが、
訪問者がメラミであることをすぐに悟ると、
家の中に招き入れた。

猛吹雪の中、
空を飛んできたメラミの体はびしょぬれで、
寒さでブルブルと震え、
耳も手足もしっぽも
すっかり冷え切っていた。
それに心の中も悲しみのせいで凍りつき、
冷たい風が吹き荒れているようだった。

トラばあちゃんは、ふかふかのタオルで
メラミの体を丁寧に拭き、
暖かい木綿のパジャマに着替えさせると、
メラミをソファーに座らせた。
そしていつものように、はちみつ入りの
ホットミルクをテーブルに置くと、
メラミが自分から話すのを待つことにした。

メラミは、暗い顔でうつむいたまま。
静かに時間だけが過ぎていく。
そのうちメラミがゆっくり顔を上げ、
トラばあちゃんの顔を
見つめることが出来た時には、
すっかりミルクが冷めてしまっていた。

「ミルクを温めなおしてくるよ」

トラばあちゃんは席を立ち、
温めなおしたミルクと一緒に、
お手製のシナモンロールも
バスケットに入れて持って来てくれた。
そこでようやくメラミは、
パーティーで起きた、
悪夢のような出来事をぽつりぽつり、
ゆっくりとトラばあちゃんに話し始める。

「すると、この雪を降らせているのは、
  お前の魔法の力のせいってことかい?」

トラばあちゃんの言葉に、
コクンとメラミはうなずく。

窓の外を眺めると、
吹雪はまだまだ止みそうにない。

「確かに…このままだと
  みんな氷漬けになっちまうかもなあ」

トラばあちゃんはシナモンロールを一つ、
つかんで半分に割ると、
テーブルの上のものにまだ何も
手を付けていなかったメラミに手渡した。

「…いただくにゃ」

シナモンロールを一口かじり、
ミルクも少しだけ飲み込んだところで、

「ねぇ、トラばあちゃん」

メラミは、
とても気になっていたことを聞いてみた。

「メラミがこんな姿になっちゃったけど、
  気にならないの?」

なめらかで美しかった、
灰色の毛並みは消え失せ、
『黒猫の毛皮を着た白猫』のように
奇妙な姿になってしまった自分。

トラばあちゃんは、
立ち上がるとメラミのそばに行き、

「メラミはメラミ。
  なんにも変わりはないさ」

と頭を優しくなでた。

そこでメラミは堪え切れず、
トラばあちゃんにぎゅっと抱きつくと、
静かに涙をこぼす。

「やれやれ」

トラばあちゃんは、
小さな背中をゆっくりとなで、
メラミが泣き止むのを待つと話し出した。

「メラミは、どうしたいんだい?」

「?」

「天気を操る魔法は、
  お前がもともと持っている力だよ。
  チョコレートに入っていた、
  おかしな薬のせいではなくてね。
  今回のことで、
  たまたま力が芽生えたにすぎない。

  外の吹雪もそうだが、
  全てのことは、
  お前が今後どうしていきたいかで、
  決めることができるんだよ」

メラミは、
トラばあちゃんをじーっと、見つめ返した。

「そうなの?」

「そういうものさ」

トラばあちゃんはメラミの顔を
両手で優しく包み込むと、
はっきりとした口調でこう続けた。

「いいかげん、親からモノ扱いされて、
  互いの悪口を聞かされるだけの、
  ゴミ箱の役割はやめてもいいんだ。

  お前がしなきゃいけないのは、
  したいコトをして、
  言いたいコトを口に出す、
  それだけのことさ。
  お前がいちばん
  大切にしなきゃいけないのは、
  メラミ、お前自身なんだよ」

静かに語るトラばあちゃんの言葉は、
いつも、パパとママに
仲良くしてもらいたいと考えてばかりいた
メラミの心に深く入り込み、
じんわり温かく染み込んでいった。

「さて、じゃあ私は
  旅の支度でもしようかね」

しばらくすると、
トラばあちゃんはそう言って、
テーブルの上を片付け始める。

「また、旅に出掛けるの?」

「そうだね、
  そろそろ違う景色を見てみたいしね」

「こんな吹雪の中、出発するの?」

心配になったメラミが尋ねると、

「そうさねぇ」

トラばあちゃんは、にっこり笑った。

「もうすぐ雪は止むんじゃないかね」

今夜はもう遅いので、
トラばあちゃんの家に
泊めてもらうことにした。

次の日の、
まだ小鳥たちも眠りについている夜明け前、
トラばあちゃんが言った通りに雪が止んだ。

隣で眠っているメラミを起こさないよう、
物音をたてずに身支度を整えると、

「お前も好きなことをおやり」

とささやき、
トラばあちゃんは旅へ出掛けて行った。
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