魔女ネコのマタ旅

藤沢なお

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鳥の村と港町

第五話

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夕食後のテーブルは、
空になったグラスやお皿が山のよう。
メラミは、コウタと一緒に
食器の片付けを手伝うことにした。

「今夜の食事も、とてもおいしかったにゃ」

「そうかい? それは良かった」

「コウタさんは、
  将来シェフになれるのにゃ」

「どうだろ?
  僕の未来は決まっているからね」

「?」

コウタは、メラミより二つ年上の十五才。
毎日、好きな料理を作ってはいるが、
昼間は村長である父の仕事を手伝い、
秘書のようなことをしている。
いずれは父の跡を継ぎ、
村のリーダーにならなくては、
と考えているのだった。

未来が決まっているという言葉の意味を、
メラミはよく理解できないのにゃ、
と尋ねると、

「僕の将来は村長になることだからね」

と説明したが、
それでもメラミは小首をかしげる。

「コウタさんは、
  料理のお仕事に
  つきたいんだと思ってたのにゃ」

確かにメラミの言う通り、コウタは
シェフになってみたいと思ってはいる。
けれど、この村の村長は、
代々ハシビロコウの家が継いできた。
だから父の跡を継ぐのは自分なのだ、
と幼い頃より自覚はしている。

ただ、心残りがあるとすれば、
それは「料理」のこと。
亡くなった料理好きの母親は、
いつの日か自分のお店を開きたい
という夢を持っていた。だから、
できれば自分がそれをかなえたい、
という想いもある。けれど。

「それでも僕は、
  みんなが望む『正しい選択』を
  しないといけないんだ」

コウタは自分に
言い聞かせるように言い放った。

しばらく二人は、
食器洗いに専念していたが、

「メラミにはよくわからないのにゃ」

メラミがぽつりとつぶやいた。

「正しいことよりも、
  やってみたいことを選んだほうが
  いいと思うのにゃ。
  自分のやりたいことがわかっているのに、
  まわりが望むことのほうを
  選ぶというのは、自分の想いを
  軽く扱うってことになるのにゃ」

その言葉に
コウタは驚いてメラミを見つめる。

「僕は、母の夢を軽くなんて扱ってない!」

語気を強めて反論したコウタに、
メラミは続けて言った。

「そうやってコウタさんは、
  お母さんの夢を大切に思っているのにゃ。
  それならその夢をかなえることに、
  コウタさんがきちんと
  向き合えばいいと思うのにゃ。
  それに多分だけれど…」

とメラミは後ろを振り返り、
台所の向かいにあるリビングで、
後片付けをしている村長の後ろ姿を
見ながら続けて言った。

「多分、村長さんは、
  コウタさんの夢の話をちゃんと
  聴いてくれると思うのにゃ」

コウタも父親の背中を見つめる。

これまでこの家の食事作りは、
全部自分が任されてきた。
だから料理を作ることを好きなことは、
父も知っているはずだ。

でもそれはそれ。
村長ではなく料理の道を選ぶことは、
父に対する裏切りではないか?
父を、悲しませることには
ならないだろうか?

「メラミさんは…」

コウタは昨日、メラミから
猫の国を出てきたことを聴かされたとき、
気の毒に思うとともに、
疑問に感じていたことがあった。

「メラミさんは、お城を出てきたことを
  後悔していませんか?
  その…ご両親の、
  国を継いで欲しいという想いを、
  見捨ててしまうような気分には、
  なりませんでしたか?」

真剣なコウタの眼差しを、
メラミはまっすぐ見つめ返して答えた。

「メラミには、
  自分を置いてきぼりにすることは、
  できなかったのにゃ」

メラミはあの日、トラばあちゃんが
自分に語ってくれた言葉を思い出した。

それに言葉にはしなくても、
お茶やお菓子を出してくれたり、
頭をなでてくれたりしたなかで、
自分に伝えていてくれたことが、
きっとあるんだろうなあとも思った。

それが今、目の前のコウタさんにも
届けばいいにゃと思いながら話した。

「自分さえ我慢すればいいって、
  我慢を強いることに慣れてしまうと、
  そのうち苦しくなるのにゃ。
  自分をないがしろにするのは、
  暴力と同じことなのにゃ。

  ないがしろにされた自分は
  痛くて傷ついて怒って、
  そのうち自分を信用できなくなって、
  そんな扱いをしてきた自分のことが、
  大嫌いになってしまうのにゃ」

メラミはゆっくり、
たどたどしいながらも自分の言葉で語った。

「メラミは、
  自分とお話ができなくなることが、
  一番怖いのにゃ」

その、メラミの素直な言葉が、
コウタにもやわらかく届いたようだ。

そしてコウタは、自分がどうして父に、
自分の気持ちを言い出せないのか、
その理由にも気がついた。
料理の道に進みたいと父に伝えたとき、
父に悲しい想いをさせるとともに、
もしも反対されてしまったら。
母と自分の夢そのものを
否定されてしまうような気がして、
怖くて、言い出せないでいるのだ。

それだけ大切にしている料理人という夢。
父に言わずにおけば、
否定されることもなく、
夢を夢として持ち続けていくことができる、
と勘違いしていた。
でもそれはメラミが指摘したとおり、
ないがしろにする、ということ。

そろそろ自分の夢と、
きちんと向き合ってもいいのかもしれない。

「気づかせてくれて、
  ありがとうございました」

コウタに笑顔でお礼を言われると、
メラミも、どういたしましてにゃ、と言い、

「でもメラミも、
  トラばあちゃんに教えてもらったのにゃ」

とにっこり笑った。
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