魔女ネコのマタ旅

藤沢なお

文字の大きさ
12 / 16
虹の竜と子どもの心

第二話

しおりを挟む

満月が夜空を明るく照らす中、
二人はほうきのスピードを
一気に加速させると、
半刻もしないうちに
港町近くまでたどり着いたが、
そこには見たことのない
光景が広がっていた。

赤や青、黄色や緑と
キラキラ光るあめ玉のような結晶が、
空から大量に降り注ぎ、
それは溶けることなく、
町中にどんどん積もっていく。

空を仰ぎ見ると、
暗がりでも明るく輝く
虹色の雲が棚引いており、
町の上空をすっぽり覆っていた。

「ここからは、
  加護の魔法も発動させるにゃ」

メラミはリンゴに合図をすると、
加護の魔法を
心に想い浮かべて発動させ、
はちみつに似た、
淡い金色の球状の光で、
自分の体を包み込んだ。

二人は、
あめ玉が降る港町の中へと進んでいく。

容赦なく、あめ玉は降り注ぐが、
二人の体には当たらない。
メラミとリンゴの体の中心から、
周囲一メートル四方では、
あめ玉は当たることなく、弾かれる。

加護の魔法と呼ばれている
球状の光には、魔法の発動者を
守る力があるからだ。

村長さんに教えてもらった
町長の家の前に降り立つと、
玄関先は既に十センチ程の高さになる
あめ玉が積もっていた。
この分だと明日には三十センチ、
一週間となれば
二メートルぐらいになるかもしれない。

呼び鈴を鳴らし、
村長さんからの紹介状を見せると
信用してもらえたようで、家の中で
話を聞かせてもらえることになった。

「こんな悪天候の中を来て頂き、
  有難うございます」

町長と町長の父親である長老はサバトラ。
キジトラとは違い、
銀色に黒のシマシマ模様。

メラミとリンゴは、客間に案内されると、
温かい紅茶を勧められた。

「年に数回ほど訪れる、
  この厄災が始まると、治まるまでに
  二週間はかかります。
  そのため、港町では、どの家庭にも、
  非常用の食料などを備蓄しております」

町長は、ため息まじりにつぶやいた。

「いつ始まるかわからないのが、
  本当に厄介でして…。
  このあめ玉に当たっても、削れたり
  壊れたりすることがないように、
  建物の屋根や壁を、頑丈なものへ
  造り直すことまでは、
  対策が出来たのですが、結局は二週間、
  自宅に閉じこもって、
  何も出来ない状況が続きますからね」

「もう何年も、こんな状態が
  続いているのですかにゃ?」

メラミが尋ねると、町長は、
隣に座る自分の父親へと視線を向けた。

「そうさのう…」

町長の父である長老は、

「だいぶ昔、
  自分がまだ子どもだった頃だが…」

と、ゆっくりした口調で語り出した。

ある日突然、
子どもがしゃべらなくなった、
笑顔が消えたなど、子どもたちが
おかしなことになっているという
うわさが各地で流れた。

それには、虹の竜という
怪しげな生きものが関わっており、
子どもたちを惑わし
その心を奪い取るらしい、
というものだった。

長老は自分の母親から、

『もし竜に出会っても
  絶対に言葉を交わしてはいけないよ』

と、注意を受けていたおかげで
夕暮れ時の海辺で、
実際に竜に遭遇したときも固く唇を閉じ、
何もしゃべらずにいたら、
そのまま竜は消えてしまったのだという。

「虹の竜に、
  会ったことがあるのですかにゃ?」

長老は、その時のことを思い出したのか、

「いやあ、あの時は…本当に恐ろしかった」

と、自分の白く長いアゴひげに手を添え、
心を落ち着かせると、再び話を続けた。

虹色の雲が、
港町に現れるようになったのも
ちょうどその頃。

虹の竜は、
エネルギーとなる『子どもの心』を
新たに取り入れることが出来なくなると、
汚れを浄化させて再び利用する、
ということを思いついたようだった。

そして、虹の雲から降ってくる
『子どもの心』が結晶化したあめ玉は、
地上にたどりつく前、
まだ、空中にあるときに、
物理的な力を加えると、
結晶化が解けるのだそうだ。

これは、たまたま、当時港町の酒場で
酔っ払って歩いていた
キジトラが気付いたらしい。

降り注ぐあめ玉は、
体に当たると石のように固くて痛い。
傘を差しても、穴が開いて役に立たない。
このあめ玉の中を、
痛い思いをしながら帰宅することに
腹立たしく思ったキジトラが、
傘をぶんぶん振り回していたところ、
傘の鋭利な先端があめ玉に当たって、
ヒビが入り割れたのだそうだ。

割れたあめ玉は、
煙のように消えてしまったという。

解放された『子どもの心』は、
元の持ち主のもとに帰る。
同じ日に、笑顔が消えてしまっていた
港町に住むある子どもが、
突然以前の状態に戻った
という報告とも重なり、
恐らくそういうことなのだろう
と言われ始めた。

つまり、奪われた『子どもの心』は、
結晶化が解ければ元に戻るということだ。

あめ玉がまだ地上にたどり着く前、
空中にあるときであればそれが可能で、
あるとき、そのことを知った
勇敢な猫の一族が港町にやって来て、
虹の竜に立ち向かったという。

そこで長老はふーっと長いため息をつくと、
メラミとリンゴを正面から見据えて言った。

「あんたたち、黒と白の猫たちだよ」

メラミとリンゴは、
目を見張って固唾を飲んだ。

町長の家は、
あめ玉に当たっても壊れないよう、
頑丈な造りをしているそうだが、
それでも、あめ玉が建物に当たる音が
バラバラと耳障りに聞こえている。

これが一週間も続くと思うと、
かなり憂鬱だろう。
長老は、

「あんたたちが生まれる、
  だいぶ前の話だがね」

と続きを語りだした。

少し前の黒猫国と白猫国は、
灰色の毛並みをした猫たちによる
一つの国だったという。

魔法と剣の両方を学ぶ、
真面目な一族だったということもあり、
国中の猫が力を合わせて、
虹の竜に立ち向かったそうだ。

おかげであめ玉の結晶化を解き放ち、
『子どもの心』を元の持ち主へと
帰すことができたのだが、
竜を追い払うところまでには力が及ばず、
虹の竜のげきりんに触れてしまう。

怒り狂った竜は、
猫の国近くにある湖を大きく削り、
国の真ん中に川を流し、
もともと一つだった領土を
二つに分断すると、猫たちに呪いをかけた。

剣を扱う猫を黒い毛並みに、
魔法を扱う猫を白い毛並みに。

まるで前から存在していたかのように、
それぞれを黒猫国と、
白猫国の住民に変えた。

そして、川を挟んで、
黒猫国と白猫国が
昔からいがみ合っていたかのように、
猫たちの記憶まで
書き換えてしまったという。

「そんなことがあったなんて…。
  そんな話、初めて知ったのにゃ」

「私も、初めて知りました」

メラミとリンゴは、
自分たちの素性の秘密を聴かされて、
激しく動揺した。

自分たちのすぐ前の世代の猫たちに、
そんなことが起きていたなんて!

もともとは灰色の毛並みだった?

メラミは、生まれたときは、
もともと灰色の毛並みだったのだ。

世代を重ねることで、
虹の竜の呪いが
解けてきているのだろうか?

それにしても、とメラミは考える。

降り注ぐあめ玉の結晶は、
空中にある間に物理的な力を加えれば、
『子どもの心』を解き放つことができる。

もしかしたら、
パパとママの心も
元に戻るかもしれない、と考えた。

長老は押し黙ってしまった二人を気遣い、
息子の町長へ紅茶を入れ直すように告げた。

「まあ、あんたたち黒と白の猫たちには、
  迷惑をかけてしまったと思っているよ」

勧められた二杯目の紅茶は、
喉を通りそうになかったが、
メラミは、隣に座るリンゴが、
自分よりも青ざめた表情を
していることに気づくと、

「いただきますにゃ」

とティーカップを手に取った。

リンゴもそのメラミの声につられて、
無言のままカップを手にした。

お茶を飲み、気持ちを落ち着かせると、
メラミたちは村に戻ることにした。

「話をお聞かせ頂き、
  ありがとうございました」

メラミがお礼を言うと、

「ここでは二週間我慢をすれば、
  虹の雲もあめ玉も消え去る」

長老は、椅子から立ち上がると、
メラミに向かって言った。

「わしら町の子どもたちの心が
  奪われていなければ、
  ひとまず問題はない。
  確かに…今降ってきているあめ玉には、
  どこか誰かの『子どもの心』が
  宿っている、と考えれば、
  気の毒には思うが、とにかく。

  あんな、恐ろしい竜を
  追い払おうなんてことは、
  考えないことだ」

メラミとリンゴは頭を下げると、
加護の魔法を発動させて、
町長の家を後にした。

村に戻り着いたとき、
すでに深夜になってしまっていたが、
みんな、メラミとリンゴのことが心配で
寝ずに待っていてくれた。

そこでメラミは、
さきほど港町の長老から
教えてもらった話を、
聴いてもらうことにした。
初めて聞く話に、みんなはびっくり。

鳥の村は、黒猫国と白猫国の
すぐ近くにあるとはいえ、
村長もコウタもまだ生まれる前に
起きた出来事。鳥たちの中にも
知っているものは恐らくいないだろう、
とのことだった。

白猫の次女レモンも、三女メロンも、
知らない話に静かに首をふる。

トラばあちゃんが書いた『旅日記』にも、
こんなことは記されていなかった。

そして。
メラミのパパとママは、
竜のことで何かを知ってはいそうだったが、
あれ以上は何も話してもらえそうにない。

「メラミさんは、これから、
  どうするおつもりなのですか?」

村長さんが聞いてきた。
みんなはメラミに注目する。

メラミは、村までの帰り道で
考えたことを話した。

「メラミは、このまま、
  虹の竜を放っておきたくはないと
  思っているにゃ。
  『子どもの心』を解放して、
  持ち主のところへ返してあげたいのにゃ」

そうにゃ。
だってパパとママが仲良しだった記憶が
ないままでいるなんて寂しいのにゃ。
ただ昔のように、どうやったら黒と白、
二つの国の猫たちへ、竜に挑むよう
お願いすればいいのかわからない。

それに、どうすれば、虹の竜を
追い払うことができるのだろう?

「メラミ様」

リンゴは、かしこまってそう呼びかけると、

「私たち三姉妹は、
  メラミ様の仰せに従いますよ」

とレモンとメロンに目配せする。

リンゴの意をくみ取ったようで、
二人もうなずいた。

「ありがとうなのにゃ」

メラミたちのやりとりを見た村長は、

「何か、考えが浮かんだようですね」

と言い、

「それでは今日はこの辺で。
  明日、朝食を食べてから、
  また話をお聞かせください」

メラミたちは、
今夜も鳥の村で休ませてもらうことにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか
児童書・童話
私を作ってくれた 私らしくしてくれた あの優しい彼らを 忘れないためにこの作品を

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

処理中です...