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虹の竜と子どもの心
第一話
しおりを挟む黒猫のクロスケと白猫のシロミは、
子どもの頃、仲のいい友達同士だった。
国境の川の上流にある湖で、
初めて出会ったときから、
なんとなく気が合い、
湖のほとりで待ち合わせをしては、
日が暮れるまでよく一緒に遊んでいた。
ある日、湖の中から、
虹色に輝く大きな竜が現れて、
「お前たちは、
ずっと子どものままでいたいか?」
と、問われたときに、二人はうっかり、
「子どものままでいたい」
と答えてしまった。
でもそれは、
素直に思ったままの、正直な答え。
何故なら、大人になったら黒と白、
別々の国でそれぞれ互いの役割を、
果たさなければならないことを、
二人は知っていたからだ。
「ならば願いをかなえてやろう」
竜はそう言うと、クロスケとシロミを、
大きな口でパクリと飲み込んだ。
それは、瞬きする間もない
一瞬の出来事で、
すぐに二人を吐き出すと、
そのまま空高く天へと登って行った。
それから二人は起き上がり、
それぞれ無表情で無言のまま、
何事もなかったかのように家路に着くと、
以来、一緒に遊ぶことなく
大人になってしまった。
黒猫のクロスケは、メラミのパパで、
白猫のシロミは、メラミのママ。
メラミは、このことを、
トラばあちゃんの『旅日記』を読んで
すぐに思いあたった。
トラばあちゃんは、
子どもの頃のパパとママが、
湖のほとりで待ち合わせをし、
仲良く遊んでいる姿を
よく見かけていたらしい。
日記には「黒猫と白猫の国」
と題した項目の中で、
「黒猫の王子と白猫の王女は、
とても仲が良く、
子どもの頃はよく遊んでいた」
と記されていた。さらに続けて、
「ある日を境に、二人が遊んでいる姿を
見かけなくなったが、もしかしたら
虹の竜に、『子どもの心』を
くわれてしまったのかもしれない」
とも書いてあった。
そして、虹の竜。
これも日記の「港町」と題した
項目の中で、その名前が出てくる。
「虹色に輝く雲が現れると、
一週間は降り続くあめ玉のせいで、
外出できない。
見た目は、あめ玉そっくりだが
食べられるものではなく、これは、
虹の竜が飲み込んだ『子どもの心』が
結晶化したものではないか、
とうわさされている」
とあり、さらに、
「竜に『子どもの心』をくわれた
子どもは、自分の夢や楽しい事、
うれしい事への興味が消え失せ、
無味乾燥とした態度をとるようになる」
とも書かれていた。
メラミはお城に戻ると、
パパとママに会いに行った。
メラミが旅に出てから、
まだ数日しかたっていないというのに、
よほどショックだったようだ。
二人は食欲がなくなったようで、
少し痩せてしまったようにもみえる。
(ちょっとはメラミのことを、
心配してくれたのかにゃあ)
と、思ったのもつかの間、
メラミの姿に気づくとすかさず、
「黒の剣士になる決心がついたのか?」
とパパが言い、
「白の魔女になる気になったのね」
とママが言う。
(まあ、いつもどおりなのにゃあ)
メラミは、あまり気にすることなく、
「ところで、パパとママは子どもの頃、
お友達だったのを覚えているかにゃ?」
と尋ねてみた。
これは思いもよらない
問いかけだったようで、
二人は顔を見合わせた後、
ぼんやりした表情になり
「よく覚えていないな」
「わからないわ」
と、それぞれつぶやいた。
「じゃあ、
虹の竜に会ったことはあるかにゃ?」
「!」
これには二人とも、同時に顔をこわばらせ、
「メラミは、虹の竜を見たのか?」
緊張した面持ちでパパが聞き返してきた。
「メラミは見たことはないにゃ。
だけど今、南の港町では、虹の雲から、
あめ玉が降り出しているらしいのにゃ」
そう答えると、
パパは両腕を組んで考え込み始め、
ママも顔をうつむけてしまった。
虹の竜と虹の雲のことで、
何かを知っていそうなパパとママ。
二人はしばらく黙っていたが、
やがてママが語りだした。
「虹の竜は、子どもの心を惑わせて、
それを食べてしまうとされているの」
あちこちで、竜のうわさは流れているが、
実際に見たものはおらず、
いや、実際、竜を目にした子どもは
『子どもの心』をくわれてしまい、
その時の記憶も奪われるので、
竜のことを忘れてしまうようだ。
『子どもの心』は、竜のエネルギー源。
竜は、いろいろな場所に現れては
子どもに話しかけて、その心を奪い取る。
そして、竜を生かすために
使われた『子どもの心』は、
あめ玉のような結晶となり、
年に数回、虹の雲から地上へと、
正しくは、港町の地上へと降り注ぐ。
何故、港町なのか?
それには理由がある。
海に近く、
潮風にさらされる港町の地表には、
竜の汚れを浄化する力が
あるとされているからだ。
港町に降り積もった『子どもの心』は
一週間ほどかけて浄化されると、
虹の雲へと戻っていき、
再び竜を生かすエネルギーとして使われる。
これを長い年月、
ずっと繰り返しているのだそうだ。
つまりは、再生可能なエネルギー源。
それなら、新たに『子どもの心』を
取り入れる必要がない気もするのだが、
そこは竜の気まぐれとか、
常に新しい心を欲しているからなど、
よくわかっていないらしい。
「なんとかできないのかにゃ?」
話を聞いているうちに、
メラミはだんだん悲しくなってきた。
「子どもの心を奪われたまま
大人になるのは、
辛いことだと思うのにゃ。
わくわくすることも、
楽しく感じることもなかったら、
寂しいのにゃ。
この世界には、
沢山の面白いことであふれているのに、
それに気がつけないのは、
もったいないことなのにゃ」
メラミが、自分の想いの丈を
投げかけているのに比べ、
パパとママは意味が解らない、
という風に首をかしげている。
それもそうだ、この二人には
『子どもの心』が欠けているのだから。
それにしても、メラミにとって、
虹の竜と虹の雲の話は初耳だった。
トラばあちゃんの『旅日記』にも、
こんなに詳しい内容は書かれていない。
パパとママは、
どうして知っていたのだろう?
「どうしてパパとママは、
竜のことを知っているのにゃ?」
メラミがそう尋ねると同時に、
ママが少し困った表情で言った。
「メラミ、この話は
聞かなかったことにしておきなさい」
「どうしてにゃ?」
「……」
ママは黙ってしまう。
代わりにパパが答えた。
「とにかく忘れなさい」
メラミには、
到底納得できないものだった。
こうしている間も港町では、
虹の雲から、『子どもの心』の結晶が
降り続いているのだ。
パパとママは、これ以上何も
教えてくれなさそうなので、
メラミはお城を出ると鳥の村へ戻り、
白猫三姉妹に竜の話を伝えた。
やはり、白猫三姉妹も
初めて聞く話だったようで、
「だからといって
どうすることもできないのでは…」
と長女のリンゴはつぶやき、
ベッドで横になっている次女のレモンも
姉の意見にうなずく。
そこに三女のメロンが、
「わからなければ、
聞いてみればいいのでは?」
と言ってきたので、
「パパとママは、
教えてくれないと思うにゃ」
と返すと、
「いいえ、
港町の誰かに、聞いてみるのです」
と答えた。
「何度も、
あめ玉が降ってきているんですよね。
港町の誰かに聞けば、何か、
わかることがあるかもしれませんよ」
「確かに、そうかもしれないのにゃ」
そこで、リンゴが、
「でも…、誰に聞けばいいのでしょう?」
と、疑問を投げると、
レモンが、こう提案してきた。
「港町にも、村の村長さんのような、
代表の方がいるのではないですか?
港町のことを良く知っている方に、
お尋ねするのはどうでしょう?」
「そうかもしれないにゃ。
そういえば、パティーたちはもう、
お家に帰ったのかにゃ?」
小鳥の三姉妹たちは
毎日港町へ行っているので、
何か知っているか尋ねようと思ったが、
夕方、メラミに言われたとおり、
港町のことを村長とコウタに伝えた後は
そのまま自宅に戻ったそうだ。
そこでメラミは、港町にも、
鳥の村の村長さんのような人が誰かいるか、
村長とコウタに聞きに行った。
すると、港町には町長がいて、
自分の父親である長老と
一緒に住んでいるという。
村長さんは、
町長の住所をメラミに伝えると、
村長さんの紹介状まで書いてくれた。
村長とコウタに、行くのは明日にした方が…
と引き止められたが、事態は急を要する。
「お供します」
と申し出たリンゴと一緒に、
メラミは急いで港町へ向かうことにした。
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表紙イラストは今市阿寒様です。
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