魔女ネコのマタ旅

藤沢なお

文字の大きさ
16 / 16
虹の竜と子どもの心

第六話

しおりを挟む

虹の竜が虹の雲の中へ帰り、
その姿が見えなくなると
降り続いていたあめ玉が止んだ。
そして、虹の雲はゆっくり港町を離れ、
そのうち海の彼方へと
消えて見えなくなった。

町では、昨日ぶりに青空が戻り、
明るい陽射しが差し込んでくる。

メラミは、町全体を覆っていた
加護の魔法を解くと、
町長さんの家を訪れて
玄関のドア越しに状況を伝えた。

恐る恐る窓から外の
様子をうかがった町長は、
メラミの言葉が本当だとわかると、
ドアをバタンと開け放ち、
みなさんに知らせてきます、
と外へ駆け出して行った。

「あんたは、あの竜が、
  怖くなかったのかい?」

部屋の中から、長老が尋ねてきたので、

「メラミの話を、
  ちゃんと聴こうとしてくれたので、
  怖くなかったですにゃ」

と、メラミは、はっきりと、
大きな声で返答した。

メラミがお城に戻る途中、
心配で様子を見に来たリンゴが
迎えに来てくれたので、
さきほどの竜との会話の内容と、
これからしようと思っていることを、
聞いてもらった。

話を聞いたリンゴは、
メラミの身を案じたが、
きっと大丈夫なのにゃあと言う、
メラミの笑顔を信じて、
すべてを任せることにした。

メラミはお城に戻ると、黒と白、
二つの国の全部の猫を集合させた。

集合場所は城下の川の上。
国を二つに分け隔ててしまった、
広くて大きい川。

今は、メラミの魔法の力で凍りつき、
分厚い氷に覆われて、
まるで地面のようになっている。

全部の黒猫、白猫に集まってもらうと、
メラミはみんなに向かって話を始めた。

かつて自分たちは、
同じ灰色の毛並みを持つ、
一つの種族であったこと。

剣と魔法を学び、
勇敢にも虹の竜へ立ち向かったが力及ばず、
上流の湖から作り出されたこの川で、
国を二つに分けられてしまったこと。

剣を扱う猫を黒い毛並みに、
魔法を扱う猫を白い毛並みに変えて、
互いにいがみ合うようにと、
記憶まで操作されてしまったこと。

メラミの話は、
猫たちにとってかなりの衝撃だった。
ざわざわと、みんな思い思いの
言葉を発して騒ぎ始めたが、

「でも、
  それも今日で終わりにするのにゃ」

と力強いメラミの言葉で静まり返った。

「黒と白、毛並みの色は関係ないのにゃ。
  剣の技術を磨きたいもの、
  魔法の勉強をしてみたいもの、
  他のどんなことでも、みんな、
  自分の好きなことをすればいいのにゃ。

  国の法律だからとか、
  決まっていることだから、ということは、
  ぜんぜん無いのにゃ。

  なぜなら、今日からここは、
  国ではなくなるからなのにゃ」

メラミは、みんなを眺めると一呼吸置き、
すーっと大きく息を吸い込むと、宣言した。

「今日からここは、
  みんなで考えて一緒に作る、
  『猫が住む町』になるのにゃ!」

黒猫も白猫も、みんな一瞬ぽかんとしたが、
言葉の意味が心に届き、
理解が追いつきはじめると、
わーっと一斉に歓声が上がった。

いつまでも鳴りやまない拍手と歓喜に、

(本当に良かったにゃあ)

とメラミは、胸が一杯になる思いがした。

あの時、メラミは、
虹の竜とある約束を交わした。
竜がまだ味わったことがない、
大人になった『子どもの心』を
食べる代わりに、しばらくの間、
新たな『子どもの心』を、
子どもたちから
奪わないでほしいというものだった。

「メラミは、
  あと五年したら大人になるのにゃ。
  だからそのときは、
  大人になったメラミの『子どもの心』を
  あなたにあげるのにゃ」

メラミの言葉に、竜は、

「楽しみにしているぞ」

と言い残して虹の雲へ帰っていった。

「クロスケ君も、シロミちゃんも、
  いい子にして待っててにゃあ」

リンゴに抱っこされた
パパとママにそう言うと、
メラミはほうきにまたがった。

「猫が住む町」の集会所となった
かつてのお城の前では、
白猫三姉妹のリンゴとレモンとメロン、
黒猫の双子アオとミドリ、
そして小鳥の三姉妹、
パティーとピティーとプティーが
メラミの出発を見送るために
集まっていた。

「村長さんとコウタさんが、
  たまにはご飯を
  食べに来てくださいねって、
  言ってたわよ」

パティーがそう言うと、
メラミは、わかったにゃ、と返し、

「それじゃあ、行ってくるのにゃ」

笑顔でみんなに手を振って出発した。

再び旅に出掛けることにしたメラミは、
トラばあちゃんの
『旅日記』と剣を携え、
ほうきの先を南に向けて飛んでいた。

まずは、南の港町へ。
そこから、海を越えた先にあるどこかへ。

まあ、何も決めてはいないけれど、
きっとなんとかなるのにゃ。
そんなメラミの心を読みとり、

「行先も決めずに、大丈夫なのか?」

と、声をかけてきたのは、
メラミの左肩にちょこんと座っている、
小さな虹色の蛇。

「意外と、心配性なんだにゃあ」

小さな蛇の、
その小さな顔に視線を向けて、
メラミも言い返す。
虹色の蛇は、虹の竜が、
その姿を小さく変えたもの。
虹の竜は、

(お前が、約束を反古にしないか、
  気になるからな)

と言って、自分を小さな蛇の姿に変えると、
メラミの旅につきあうことにしたのだ。

この小さな体であれば、
使うエネルギーも少なくて済むし、
『子どもの心』を味わい深くするという、
「経験」というものを
間近で見ることができるから、
というのが理由だそうだ。

「しかし、お前たち猫という生きものは、
  『旅』というものが本当に好きなのだな」

「?」

虹色の蛇の言うことが
一瞬よくわからなかったが、
ああ、とメラミは思いあたった。

多分、それは「マタタビ」のことだ。

メラミも味わったことはないし、
旅とはぜんぜん違うもので、
それは勘違いなのにゃと思ったが、
まあ、それも面白いのにゃと、
心のなかでくすりと笑う。

「? 何か、
  おかしなことでもあったのか?」

どうやら表情に出ていたようだ。
虹色の蛇に指摘されたが、

「なんでもないにゃあ」

と、ほうきの高度を上げると、
メラミは気分よく、
空の上を飛び進んでいった。


メラミちゃんのお話は、
ここでいったんおしまいなのにゃ。

このあとメラミは、
『子どもの心』をもったまま、
驚いたり、楽しかったり、
ときには悲しかったりと、
いろいろわくわくな冒険を
することになるのだけれど。

その話はいずれまた。
どこかでにゃ。


~虹の竜と子どもの心~ 完
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

月森冬夜
2021.12.29 月森冬夜

嫌なキャラが出てこないので、読んでいてとてもやさしい気持ちになれました。
それでいて、ちゃんとクライマックスもあって盛り上がるので楽しかったです。
続きがありそうな終わりかただったので、その後が気になるところではあります。

2021.12.29 藤沢なお

月森冬夜さま

感想をありがとうございます。

やさしい気持ちになれたとのこと。
ほっこりと優しいお話を書いてみたいと
思っておりましたので、とっても嬉しいです。

続きのお話はまだ構想中です。
だいぶ先になってしまうとは思いますが、
まとまりましたら投稿したいと考えております。

お読み頂きありがとうございました♪

解除

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか
児童書・童話
私を作ってくれた 私らしくしてくれた あの優しい彼らを 忘れないためにこの作品を

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。