魔女ネコのマタ旅

藤沢なお

文字の大きさ
15 / 16
虹の竜と子どもの心

第五話

しおりを挟む

「メラミ様、大丈夫ですか?」
港町を離れてから黙ったまま、
何もしゃべらないメラミを心配して
リンゴが声をかけた。

メラミは、無言のままうなずく。
そのメラミの両腕には、
子猫になってしまったパパとママが、
スヤスヤと寝息をたてて眠っている。

町の各エリアに散らばり
行動していた猫たちとは、
全員無事に合流することができた。

ほうきの上に残してきた
黒猫の双子も大丈夫。
自動でお城に戻るよう、
メラミがほうきに
自動操縦の魔法をかけてある。
今は二人とも、
ほうきの上で大人しくしているようだ。

港町のすぐ近くで
待機していた小鳥の三姉妹は、
メラミたちの戦う様子を伺い見ており、
遠くからでも見える大きな竜の姿に、
おののいていたらしい。

みんなが城の前に帰り着くと、
メラミが一言、

「今日はご苦労様だったにゃ、
  みんなゆっくり休むのにゃ」

と、ねぎらいの言葉を発して
一同解散となった。

小鳥の三姉妹が、
コウタさんが食事を用意しているから、
と村に来るように誘ってくれたが、
メラミは、

「今日は、
  パパとママと一緒にお城で過ごすにゃ」

と断った。
白猫の三姉妹も、黒猫の双子も、
みんながメラミを心配したが、

「大丈夫なのにゃあ」

と言って、メラミは城の中へ入って行った。

久しぶりに
自分の部屋に戻ったメラミは、
少し大きめの藤かごに
柔らかなタオルケットを敷くと、
パパとママを横にさせた。

その少しの刺激に反応して
ママが目を覚まし、
ふみゃあ~、ふみゃみゃあーと泣き出す。

すると隣のパパも起き出して、
一緒になって、
ふみゃあ~と泣き出してしまった。

メラミは二匹を抱き上げて、
よしよしとあやしてみたが、
ぜんぜん泣き止みそうにない。

(困ったのにゃ…)

あ、もしかしたら。

二匹を連れて、
城内のちゅう房に行ってみると、
夕食の時間にはまだ早いせいだろう、
シェフを含め誰もいなかった。
メラミは、
冷蔵庫を開けてミルクを取り出す。

(えーっと、
  確か温めないといけなかったのにゃ)

小鍋にミルクを入れて火にかけ、
肌のぬくもりぐらいまで
温めてから小皿に移し、
二匹の前に置いてみた。

パパが、くんくん匂いを嗅いで、
ぺろぺろミルクを飲みだす。
ママもそれを真似して、
二匹は一緒にミルクを飲みはじめた。

なんだか、仲良しさんだにゃあ。

ミルクを飲み干してしまうと
満足したのか、
二匹はテーブルの上で眠ってしまった。

メラミはその二匹の様子を、
両手でほおづえをつきながら見守った。

誰もいない、静かでだだっぴろい、
ちゅう房にひとりきり。
椅子に座り、両足を片足ずつ
前後にぶらぶらさせながら、
ぽつりとつぶやいてみる。

「メラミはこれから、
  どうしたらいいのにゃ…」

心に、ぽっかりと、
穴が開いたようだった。

港町に向かうまでは、
あんなに勇ましく思えたのに、
今の自分は、ちっぽけに感じる。

じわっ、と涙がにじんできたので
口元をきゅっとへの字にし、
泣かないように我慢した。

けれど我慢できずに、
両目から涙があふれて
止まらなくなったので、
メラミはテーブルに突っ伏すと、
うわーん、と声をあげて泣き出した。

気が済むまで泣き続けると、
今度は、ぐぐーっ、とお腹が鳴った。

そこで、お湯を沸かし、
ガラスの茶器に緑の茶葉を入れて、
お盆に乗せる。

かなり大きな音を
立てていたにもかかわらず、
眠り続ける二匹を連れてちゅう房を出た。

部屋に戻り、
藤かごのベッドに二匹を寝かせると、
お盆の茶器から湯のみにお茶を注ぎいれ、
今朝、コウタが作ってくれた
お弁当を食べ始めた。

(おいしいにゃ)

自分で握った、
特大のツナおにぎりにもかぶりつく。

(うん。やっぱり、おいしいのにゃ)

空になったお弁当箱に向かい、
両手をあわせ、ごちそうさまでした、
と小さくつぶやくと、
湯のみのお茶を一口飲んで、
メラミは考えてみた。

パパとママは…、
と子猫になった二人に視線を向ける。
きっと、この姿のまま、
もとには戻らないと思う。

むしろ、
ケンカばかりしていたことを考えれば、
これで良かったのかもしれない。

それに、もしかしたら
港町で解放した
『子どもの心』のどれかに、
パパとママのものもあって、
二人は『子どもの心』を
取り戻せたのかもしれない。

子猫の姿とはいえ、
こんなに無邪気な二人の様子を
見ていると、そんな気もする。

問題は、虹の竜だ。
何故、あの竜は、『子どもの心』に
こだわっているのだろう?

もしも今、メラミが
『子どもの心』を奪われてしまったら、
あの海を見ても何とも思わず、
コウタの作るおいしい料理を食べても、
何にも感じなくなってしまうのだろうか?

そして『こどもの心』を
失ったまま大人になってしまったら、
感動したりわくわくしたりすることもなく、
好奇心もなくなって、味気ないまま
生きていくことになってしまう。

そんなのは、嫌だにゃ。

『子どもの心』を持っているから、
大人になっても、
あの時は楽しかったにゃあ、
面白かったのにゃあ、
といった「想い出」と…、
つまり「子どものときの自分」と、
いつでもすぐに再会することができるのだ。

ああ…そうか、とメラミは思った。
こうやって『子どもの心』も
大人になるにつれて一緒に成長していく。

だとしたら『子どもの心』は、
経験して年を重ねたほうが、
子どものときのままでいるよりも、
味わい深くなるのかもしれない。

そうなのにゃ、もう一度、
あの竜に会って、話をしてみよう。
メラミは、

「よしっ。決めたのにゃ!」

と声を出して、自分を奮い立たせる。
なんとか、なるかもしれないのにゃ。

メラミは藤かごのベッドで眠る
二匹を連れて城を出ると、
ほうきに乗って白猫国に行き、
白猫三姉妹にパパとママを預けてから、
ふたたび港町へ向かった。

メラミは、港町の上空にたどり着くと、
町の様子をいったん眺めてみた。
この一帯だけに、
あめ玉が降り続けるという、不思議な光景。

地上では、すでに三十センチほど、
あめ玉が降り積もっているようだ。

メラミはこの港町全体が、
大きな球状の光に
包まれるイメージを強く念じると、
加護の魔法を発動させた。
やわらかな金色の、大きなドーム状の光が
港町全体を包みこむ。

これで、虹の雲から降る大量のあめ玉は、
加護の光に弾かれて、
港町に入り込むことができなくなった。

こんなに、強くて大きな魔法を
使うことができるとは、
メラミも思っていなかったが、
今の自分なら、
何でもできるような気がしていた。

間もなくして、
虹の雲から虹の竜が姿を現すと、

「また、お前か」

とメラミに向かって直接話しかけてきた。

メラミは、ほうきを操り、
竜の大きな顔の目の前まで、
飛び進んで止まると、

「あなたと、お話がしたいのにゃ」

と言った。

竜の体から、にじみでる威圧感で、
全身がびりびりするのを感じたが、
メラミはすでに心を決めていたので、
そのまま話を続けることにした。

「あなたは、どうして
  『子どもの心』を集めるのにゃ?」

竜は、そんなことか、
とつぶやくとこう返した。

「『子どもの心』は純粋で汚れていない、
  我の好物だからだ」

「じゃあ、大人になった『子どもの心』を、
  まだ食べてみたことはないのにゃ?」

「大人になった、『子どもの心』だと?」

今度は、竜がメラミに尋ねる。

「そうにゃ。『子どもの心』は、
  子どものまま成長が
  止まるわけではないのにゃ。
  大人になっても、
  時を重ねて一緒に育っていくのにゃ」

初めて聞くメラミの話に、
竜は興味を持った。

「ほう。それで、
  それは、どんな味がするのだ?」

メラミは、正直に首を横に振り、

「メラミは食べたことがないから、
  わからないのにゃ」

と言うと、竜の瞳を、
真正面から見つめて話を続けた。

「でも、大人になった『子どもの心』は、
  子どものままの時とは違って、
  経験を重ねることで、
  楽しいことや、
  うれしいことだけじゃなく、
  悲しいことや、寂しいことも含めて、
  色々な味わいになるのにゃ」

「……」

竜は、目の前にいる、
小さな生きものを見据えた。
恐ろしい姿の自分を前に、まるで、
恐怖心を抱いていないかのような、
この猫。
今までこうやって、
自分と話をしようとするものなど、
誰ひとりとしていなかった。
この猫は、何か違うのかもしれない。

「それで、お前は、どうしたいのだ?」

竜が尋ねると、メラミは言った。

「お願いが、あるのにゃ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

今、この瞬間を走りゆく

佐々森りろ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 奨励賞】  皆様読んでくださり、応援、投票ありがとうございました!  小学校五年生の涼暮ミナは、父の知り合いの詩人・松風洋さんの住む東北に夏休みを利用して東京からやってきた。同い年の洋さんの孫のキカと、その友達ハヅキとアオイと仲良くなる。洋さんが初めて書いた物語を読ませてもらったミナは、みんなでその小説の通りに街を巡り、その中でそれぞれが抱いている見えない未来への不安や、過去の悲しみ、現実の自分と向き合っていく。  「時あかり、青嵐が吹いたら、一気に走り出せ」  合言葉を言いながら、もう使われていない古い鉄橋の上を走り抜ける覚悟を決めるが──  ひと夏の冒険ファンタジー

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか
児童書・童話
私を作ってくれた 私らしくしてくれた あの優しい彼らを 忘れないためにこの作品を

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

処理中です...