天界への生贄の持ち込みは禁止されています

椿

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 試合は適度に休憩を挟みながら、滞りなく進行していった。
 天子たちの剣舞はいずれも趣向が凝らされており見応えがあるものばかりだったが、やはりこうして何人もの舞を立て続けに見ていると、よほど強い個性がなければ印象は薄れやすい。
 そのようなことを隣の雨君に漏らすと、「評価表をつけていないからだ」と鼻で笑われた。
 う、うん、でも評価表つけてる方が稀だと思う。

 しかし、それでいうと桜鈴の剣舞は凄く良かった。
 元々の舞の技術が優れていたのは勿論だが、最初の攻撃に耐えるところから観客の注目を集めきって完成度の高い舞を披露し、観客を魅了するまでの一連の構成は、どこか物語を堪能しているような満足感さえ感じさせられた。
 それに、精神に作用する神力操作の賜物だろうか。会場全体が一体となって盛り上がるあの感覚も中々に楽しく、そしてそれが味わえたのは桜鈴の試合だけだったため、晴君の記憶にも強く残っていた。
 これが『知り合いだから』などという単なる贔屓目の評価でないことは確かである。

 もう一つ、全体の試合を通して晴君が感じたのは、華やかな衣装の効果だ。
 桜鈴にそれを説かれた時点ではまだあまりピンと来ていなかったが、着替えた千晴や桜鈴、そして実際の試合を見て考えを改めた。
 ここは日常とはまた違う特別な場。大げさだが別世界とも言っていい。
 美しい衣装は、天子が舞い踊るその世界観を崩さず、そしてより華々しく彩る抜群の効果があった。
 そこに日常が差し込まれてしまうのはひどく場違いだし、もしそうなっていれば観戦客からの不況を買うのは必至だったろう。
 改めて、それらの情報を晴君らに共有し、素晴らしい衣装まで作ってくれた桜鈴には感謝である。

 試合はつい先ほど、最終のひとつ前が終わったばかり。いよいよ次が、待ちに待った千晴の出番だ。
 千晴はいったいどんな試合を見せてくれるんだろう。楽しみだ。
 そわそわ、晴君が期待と緊張が入り混じった落ち着かない心地で、応援のための小道具を身に着けつつ待っていると、会場に歌君の明るい声が響いた。

『みんなー!最終試合を楽しみにしてくれてるとこごめんね。さっきの試合でステージがちょっと欠けちゃったみたい。整備が終わるまで、各々休憩しながら待ってよう!何もすることがない人はぁ~……、私とお話ししよっか?』
「「「うおぉおーーっっ!!」」」

 この野太い声も、聞きなれた今となってはもはや無いと不安になるくらいだ。
 歌君もその歓声に愛嬌のある笑い声を返しながら続ける。

『全30試合中29試合がもう終わっちゃったんだって。あっという間だったね~。みんな、もうお気に入りの天子ちゃんは見つけた?まだの人は、この最終試合で運命の出会いを果たしちゃうかもね♡』

 その声色は実況の時よりも柔らかく、すっと耳に入ってくる聞きなじみの良さがあった。
 各々が思い思いに過ごす休憩時間ではありながらも、全員が意識のどこかでその声に耳を傾けていることが察せる。
 晴君もその内の一人だ。
 雑談の最中、「見てみようか」と大画面に表示されたのは、最終試合の対戦表。千晴と聖の顔が映ったそれだった。
 目立つ位置にあるその画面に、意識して見ようとせずとも観客の視線は吸い寄せられる。

『最終試合で競うのは、光の天子ちゃんこと『聖』と、晴れの天子ちゃんこと『千晴』!晴れ、はこの大会で初めて聞いたかなあ?光の天子ちゃんは言うまでもなく大会の首位常連、優勝候補ってやつだね!晴れの天子ちゃんには一生懸命食らいついて欲しいところ!……あ、ちょっとだけ思い出話してもいい?光の天子の剣舞って聞いたら、毎回思い出す特別な試合があるんだ。私がをしてるきっかけにもなった出来事』

 目を閉じ、少し間をとった歌君は、過去の大切な記憶を思い出すようにゆっくりと言葉を紡いだ。

『一番最初の試験大会。私がまだ生まれたての天子だった頃、初めて見た試合。観客全員を虜にして、満場一致で票を勝ち取った美しい剣舞。今まで塗り替えられたことのないその記録と一緒に、私の心にも、忘れられない記憶として残り続けてるんだ。……あ、せっかくだから御本人に色々聞いてみちゃおっか!──よろしいですか?光帝陛下』

 何とも軽やかな歌君の誘導でパッと画面に映し出されたのは、光の残滓を帯びながら肩まで伸びる黄金の髪に、現実味を欠く程に整った面差しと、その中心でわずかに見開かれた深い藍の双眼が圧倒的な存在感を放つ、
 そんな、観戦客の一人として会場に居た天界の統治者──光帝陛下の姿だった。
 瞬間、会場からは「きゃーーっ!」と悲鳴にも似た歓声があちこちで湧き上がる。それは歌君の時の野太いどよめきとはまた違う、華やかさが混じる黄色い声援だった。
 どこからか拡声器を手渡されたらしい陛下は、不意の事態にもあまり動じることはなく、目元に穏やかな笑みを浮かべて告げる。

「急だな。──こんにちは、皆楽しんでるかい?」

 澄み切った甘やかな声に、会場は揺れんばかりの歓声で轟いた。試合中にも勝る盛り上がりに、歌君も嬉々とした様子で声を出す。

「流石の人気ですね陛下!早速ですが、大会の覇者から見てどうですか?今回の天子ちゃんたちの舞は」
「覇者はどうかな。烏滸がましい気がしてならないけど。剣舞はいつもながら素晴らしいね。皆合格にしてあげたい気分だよ」
「おおっ、中々に高評価ですねっ!そんな中で、陛下の天子ちゃんである聖くんは優勝出来そうでしょうか?」
「そうだね。皆素晴らしいけど、彼もそこから抜きん出れるよう研鑽を重ねた筈だ。それに、自分の弟子の優勝を信じられない師事者はいないだろう?」

 上層の天人でもなければ言葉を交わすことすら叶わぬ光帝陛下。その珠声を直接聴けるとあって、観戦客の意識はすっかり二人の対話へと釘づけになっていた。
 陛下は終始、穏やかでよく通る声音のまま言葉を紡ぐ。

「彼は今まで僕が見てきた天子の中でも飛び抜けて優秀だ。良い演技をすると思う。どうか目を離さないでいてくれると嬉しいな」
「これは期待が持てますね~!」

 歌君の弾んだ声は、会場にいる大多数の思いの代弁だといっていい。
 数多の天人の頂点に立つ光帝陛下の言葉は絶大だ。彼がそこまで評する天子とはどれほどの存在なのか。まだ見ぬ光の天子に対して、明らかに観客全員の期待は体積を増していた。
 陛下もその空気を感じ取ったのか、あるいは最初からその展開を見越していたのか。より一層笑みを深めると、愉しげに言葉を添える。

「少し弟子自慢をし過ぎたね。これじゃあ不公平だから、対戦相手の師事者──晴れの君にも話してもらうのはどうだろう。彼はだそうだから、新鮮な意見が聞けると思うよ」

 瞬間、陛下の輝く微笑みを映していたその画面は、突如間の抜けた晴君の顔へと切り替わった。

「えっ」

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