天界への生贄の持ち込みは禁止されています

椿

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 もう何度目かというほどに剣がぶつかり、聖の神力による派手な火花が視界に眩しく弾ける。
 打ち付けられる輝く剣は、その軽やかな動きとは見合わず、非常に重厚感ある衝撃で千晴の腕をジンと痺れさせた。
 晴君と訓練を重ねてきたことで、千晴はある程度の戦闘経験を積んだと思っている。だからこそ、その剣の一太刀で理解していた。

 自身の、聖との圧倒的な実力差を。

 剣の技術だけではない、身体の動かし方、経験により培われた咄嗟の判断力、緻密で派手な神力の操作とその表現。あらゆる面で、聖と自分の間には埋めがたい差があった。
 千晴の技は付け焼き刃に過ぎない、その事実を聖の一挙手一投足が突きつけてくる。
 気を抜けばすぐにやられる。それでも何とか応じられているのは、きっと評価のことも意識している聖が、弱い者いじめにならないよう手加減してくれているからだろう。
 それともう一つ、聖の剣は千晴にとって非常に反応しやすいものだった。
 動きが晴君と全く同じなのだ。実力差があると即座に判断したのも、それがあったからというのが大きい。
 剣の運び、間合いの詰め方、次にどう攻撃してくるかが手に取るように分かる。そしてそれは、おそらく相手も。
 ……どういうことだ?
 疑問には思うが、しかしそれに思考を割いている余裕は千晴にはなかった。

 バチィッ!!と再度大きな火花が爆ぜて、その閃光に目が眩んだ一瞬で大きく弾き飛ばされる。
 着地した先でも安心はできない。すぐに体勢を整え剣を構えると、聖の頭上には太陽のように輝く不思議な光球が浮かび、高い位置から千晴を見下ろしていた。

「これは忠告だけど」

 光の剣を掲げた聖が、試合中初めて口を開く。

「ぼんやりしてたら穴だらけだよ」

 頭上から神々しく照らされた冷ややかな表情。一瞬のそれを覆い隠すように、光球からは無数の光の粒が弾け、強い攻撃性をもって千晴へと降り注いだ。
 ダダダダダッ!
 千晴の後を追って地面を抉っていくそれから逃れるために、千晴は神力による身体強化を施した体で舞台上を跳ねるように駆け抜ける。
 宙を翻る大胆な身のこなしで全ての攻撃を躱しきる千晴にも、聖は全く動じていなさそうだった。
 まるで遊んでいるみたいだ。それなのに、千晴を確実に追い詰めてくる攻撃は死を意識させるほどに苛烈なもので、その不均衡にゾクリと背筋が冷たさを増していた。
 そんな千晴の心情とは裏腹に、観戦客は見どころのある立体的な動きと激しい光の演出に最高潮の盛り上がりを見せる。

「鍛えたのは剣技と逃げ足だけ?」

 沸き立つ歓声の中、再び剣がぶつかり、距離を詰めた状態で話しかけてくる聖。幾重にも閃光を反射する丸い瞳が、千晴の全てを照らし出すような強さで合わさった。

「確認していいかな。神力の操作はどうしたの?身体強化だけじゃボクに勝てないことぐらい分かってたことでしょ。──もしかしてそれが限界?」
「っ!!」

 ググ…、と押されて拮抗する力に、弾くこともできず静止を余儀なくされる。ギチギチ接触音を鳴らす金属に合わせて、聖の光剣からは燻るような火花が大きくなっていった。
 会話をする余裕などない。他に意識を割けば押し負ける。千晴が答えられないでいると、聖は少しの間の後、どこか苛立ちを含んだ様子ではあ、と息を吐いた。

「吐き出させて欲しい。ボクは今すごくガッカリしてる。この大会はボクが殿下になるための輝かしい通過点なのに、相手がこんなにも低レベルな不正者だなんて……」

 意味が分からない言葉が多かったが、ともかく千晴の実力不足で怒らせてしまっていることはわかった。
 初めて出会った時とは明らかに対応が違う。失望されてしまったのだろう。
 一方的に弾かれて、再度ぶつかり千晴を圧倒する剣。

「キミみたいなヤツに勝っても何も嬉しくないし箔もつかないんだよ。ボクの覇道に黒点はいらない」

 燦然と焼け付くように輝くその瞳は、明らかに千晴を見下していた。
 悔しい。試験のために沢山の人の手を、時間を借りたのに、聖に大それたことを言ったのに、それが全く伴っていない現状がどうしようもなく胸を締め付ける。
 何とかしなければ、という保身からくる焦りに全身が叫ぶように脈打っていた。
 観客の視線は彼に奪われすぎている。かといって、それを奪い返せるほどの神力操作による魅せ方を千晴は知らない。
 どうすれば聖より目立てる。どうすれば彼を見返せる。そんな考えばかりが頭を支配し、舞の動きが徐々に粗くなっていた。
 ダメだ、ちゃんと舞にも集中しないと…!

 感情と行動に割く意識が煩雑に入り混じり、思考がまとまらない。肥大した願望だけが先行して、肝心のそこに行きつくために必要な道筋が見えないままだった。
 ゆっくり考えられる余裕もなく、それが更に千晴の焦燥を生む。
 行き場のない断崖にじりじり追い詰められるような絶望感に、背中には気持ち悪い汗が滲んでいた。
 無様はさらせない。そうでないと、千晴の師事者である晴君を認めさせるどころか、むしろ貶める原因になってしまう。
 理想を軸にして自らに課されるその負荷が、更に千晴を追いこんでいた。

 そんな千晴の視線が、ほんの一瞬、無意識に客席を掠める。
 それは、誰かに助けを求めようとする己の弱さの現れだったのかもしれない。しかし、瞬きよりも短いその刹那、偶然にも視界の先にひときわ目立つ装飾をした晴君が目に入り、──そして、確かに目が合った。

 ──君だけを見てる

 試合前に言われた言葉が脳裏に甦った瞬間、思考を覆っていた靄がふっと晴れる。
 千晴の一番の願いは、もう既に大部分が達成されていた。
 どれだけ活躍して晴君の地位を上げようとか、聖より目立って彼に勝ちたいとか、見返したいとか、言い出したらきりがない欲望はこの際どうでもいい。
 晴君にいいところを見せたい。それが千晴という人間の根源にある願いで、この剣舞は最初から千晴にとっての神様──晴君に捧げるための舞だった。

 目的がはっきりと形を取り戻した瞬間、澄み渡った頭がこの状況を変えるひとつの打開策を閃く。
 ふー……、と集中を高めるような息を吐き、次に顔を上げた千晴の赤い瞳は、真っ直ぐに聖を射抜いていた。
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