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あれ、今千晴こっち見てた?
一瞬の視線の交差に晴君も気がついていた。
既に逸らされてしまっているそれに、応援うちわ見えてたかな?もっと上げておけばよかったな、もう一回こっち見てくれないかなー、などとそわそわ腕を上下に動かす晴君。その隣で、評価表に何かを細かく書きつけていた雨君が独り言のように呟く。
「派手に神力を使っているのに全くその精度が落ちないのは、流石、神力保有量の多い光の天子というところか……」
感心を含むその声に反応し、むむっ、と不満げな表情を示したのは、雨君のさらに奥で千晴の応援をする桜鈴だった。
「あの!さっきから聞いてたら、光の天子のことばっかり褒めてませんか?千晴くんの応援をしてください!」
「俺は客観的な感想を述べているだけだ」
雨君は桜鈴からの指摘を淡々とあしらう。桜鈴は、そんな一見冷たく見える雨君の反応に更にむうっ、と頬を膨らますと、身を乗り出して追及した。
「何か千晴くんが目立てるような技はないんですか?千晴くんの神力操作は雨の君が指導したんですよね?」
「俺が教えたのは身体強化だけだ。それで十分だろう。天人たるもの、派手なだけの軽薄な技に頼らず、基礎を固めて堅実な剣舞に努めるべきだ。千晴はよくやっている」
「でもさっきそれで『見劣りする』とか言ってたじゃないですか」
「『決して悪くない』とも言った。そのような舞を好む天人もいるということだ。俺のようにな。心配しなくても千晴の合格は堅い」
「千晴くんが合格するのなんてぼくも分かってます!でも千晴くんが目指してるのは一位なんです!優勝なんです!観戦客全員の心を掴むことなんです!一部の好みが偏った方達にだけ刺さる舞を披露している場合じゃないんです!」
「い、一部の好みが偏った!?貴様、さっきから君主に対して口の利き方がなっていないぞ!」
「千晴くんの一大事にまどろっこしい忖度なんてしてられません!そっちこそなんなんですか!?千晴くん応援隊のくせに敵のことばっかり褒めるし!……それに、これ見よがしに雷君と晴君の間に座って邪魔するのもやめてくれませんか!?」
「はあ!?」
「二人の関係を引き裂こうとしたってそうはいかな、もがが…っ」
「桜鈴、先輩はダメ。歯向かうならアイツにして」
熱が入る桜鈴の口を後ろから塞ぎ、物理的に黙らせたのは師事者の雷君だ。彼は雨君に向かっていた桜鈴の顔を晴君の方へ向け、攻撃の対象をそちらへ逸らそうとする。
しかし、当の晴君の意識は彼らの方にはなく、かといって舞台でもない。その視線は、ポツリと自身の手元を冷やした水滴へ向けられていた。
「雨……?」
小さな雫がパタパタと軽い音で地面を叩いた数秒後、それは瞬く間にザーー!と激しく会場全体へ降り注ぐ。
『わあっ!まさかまさかの、気象変動のない天界で生憎の雨だ!きゃー!濡れちゃうー!』
「生憎だ?恵みの雨だろうがっ!訂正しろ!」
カリカリしている雨君が歌君の実況にも敏感に反応して憤っているのを横目に、晴君はせめて彼らに雨除けを……と神力を使おうとしたが、それを実行に移す前に観客席全体が大きな光の幕に覆われる。
半透明のそれは観客の視界を一切遮ることなく、天上から降り注ぐ雨を完璧に防いだ。
『光帝陛下が客席に雨避けを作ってくれたよ!ありがとうございます、陛下~!♡』
歌君の状況説明の直後、陛下への感謝を示す拍手がところどころで鳴り響く。
流石だ。晴君が手を出すまでもない。
先程の歌君との対話で見つけた陛下の席を見やると、彼は感謝を伝える観客らに対して手を振って応えていた。
次いですぐ隣、光の天幕の元で「俺は濡れてもよかった」などとむすっとしてる雨君に少し笑いながら、晴君は再び試合へと視線を戻す。
『この雨は晴れの天子ちゃんの神力操作だね!光の天子ちゃんに対抗して神力の規模をアピールしてるのかな?今後の戦況にどう影響してくるのか、ますます目が離せなくなっちゃった!』
そう、この現象は紛れもなく千晴の力によるものだった。歌君にはあっさりと流され、神力の規模の誇示としてまとめられてしまったそれだが、この雨の真髄は神力の規模だけにとどまらない。
「雨君、千晴に天候操作を見せた?」
「一度だけな。……物覚えが良いどころの話じゃないぞこれは。ああも簡単に雨を降らされては雨君の立つ瀬がない」
晴君の問いに、雨君は信じられないとでもいいたげに返す。
彼がそう思う気持ちも理解できた。天候操作は、たとえ今のように範囲を絞ったものだとしても誰しもが容易にできることじゃない。
元々、人から丁寧に何かを教えてもらえるような環境にいなかった千晴は、余計な叱責を避けるために必要だったのか、見たものを即座に習得する技術に優れていた。
それに加え、おそらくあらゆる神力操作の中で天候操作は千晴と最も相性がいい。
それは千晴が下界で暮らした経験のある人間で、常に天候が変動しない天界だけで生きてきたあらゆる天人よりも、それに触れる機会が多かったからだ。
そしてその現象への理解は、神力操作の出来に如実に反映される。
しっかりした訓練もなしにここまで精度の高い雨を再現できるのは、きっとこの天界中を探しても千晴しかいないだろう。会場でそれに気づいている人がどのくらいいるのかは晴君にも分からないが。
……もう千晴が優勝でいいんじゃないかな?
千晴を全力で褒めたい衝動を必死に押さえつけながら、何はともあれ最後まで彼の雄姿を見守ろう、と晴君は今一度目の前の試合に意識を集中させた。
一瞬の視線の交差に晴君も気がついていた。
既に逸らされてしまっているそれに、応援うちわ見えてたかな?もっと上げておけばよかったな、もう一回こっち見てくれないかなー、などとそわそわ腕を上下に動かす晴君。その隣で、評価表に何かを細かく書きつけていた雨君が独り言のように呟く。
「派手に神力を使っているのに全くその精度が落ちないのは、流石、神力保有量の多い光の天子というところか……」
感心を含むその声に反応し、むむっ、と不満げな表情を示したのは、雨君のさらに奥で千晴の応援をする桜鈴だった。
「あの!さっきから聞いてたら、光の天子のことばっかり褒めてませんか?千晴くんの応援をしてください!」
「俺は客観的な感想を述べているだけだ」
雨君は桜鈴からの指摘を淡々とあしらう。桜鈴は、そんな一見冷たく見える雨君の反応に更にむうっ、と頬を膨らますと、身を乗り出して追及した。
「何か千晴くんが目立てるような技はないんですか?千晴くんの神力操作は雨の君が指導したんですよね?」
「俺が教えたのは身体強化だけだ。それで十分だろう。天人たるもの、派手なだけの軽薄な技に頼らず、基礎を固めて堅実な剣舞に努めるべきだ。千晴はよくやっている」
「でもさっきそれで『見劣りする』とか言ってたじゃないですか」
「『決して悪くない』とも言った。そのような舞を好む天人もいるということだ。俺のようにな。心配しなくても千晴の合格は堅い」
「千晴くんが合格するのなんてぼくも分かってます!でも千晴くんが目指してるのは一位なんです!優勝なんです!観戦客全員の心を掴むことなんです!一部の好みが偏った方達にだけ刺さる舞を披露している場合じゃないんです!」
「い、一部の好みが偏った!?貴様、さっきから君主に対して口の利き方がなっていないぞ!」
「千晴くんの一大事にまどろっこしい忖度なんてしてられません!そっちこそなんなんですか!?千晴くん応援隊のくせに敵のことばっかり褒めるし!……それに、これ見よがしに雷君と晴君の間に座って邪魔するのもやめてくれませんか!?」
「はあ!?」
「二人の関係を引き裂こうとしたってそうはいかな、もがが…っ」
「桜鈴、先輩はダメ。歯向かうならアイツにして」
熱が入る桜鈴の口を後ろから塞ぎ、物理的に黙らせたのは師事者の雷君だ。彼は雨君に向かっていた桜鈴の顔を晴君の方へ向け、攻撃の対象をそちらへ逸らそうとする。
しかし、当の晴君の意識は彼らの方にはなく、かといって舞台でもない。その視線は、ポツリと自身の手元を冷やした水滴へ向けられていた。
「雨……?」
小さな雫がパタパタと軽い音で地面を叩いた数秒後、それは瞬く間にザーー!と激しく会場全体へ降り注ぐ。
『わあっ!まさかまさかの、気象変動のない天界で生憎の雨だ!きゃー!濡れちゃうー!』
「生憎だ?恵みの雨だろうがっ!訂正しろ!」
カリカリしている雨君が歌君の実況にも敏感に反応して憤っているのを横目に、晴君はせめて彼らに雨除けを……と神力を使おうとしたが、それを実行に移す前に観客席全体が大きな光の幕に覆われる。
半透明のそれは観客の視界を一切遮ることなく、天上から降り注ぐ雨を完璧に防いだ。
『光帝陛下が客席に雨避けを作ってくれたよ!ありがとうございます、陛下~!♡』
歌君の状況説明の直後、陛下への感謝を示す拍手がところどころで鳴り響く。
流石だ。晴君が手を出すまでもない。
先程の歌君との対話で見つけた陛下の席を見やると、彼は感謝を伝える観客らに対して手を振って応えていた。
次いですぐ隣、光の天幕の元で「俺は濡れてもよかった」などとむすっとしてる雨君に少し笑いながら、晴君は再び試合へと視線を戻す。
『この雨は晴れの天子ちゃんの神力操作だね!光の天子ちゃんに対抗して神力の規模をアピールしてるのかな?今後の戦況にどう影響してくるのか、ますます目が離せなくなっちゃった!』
そう、この現象は紛れもなく千晴の力によるものだった。歌君にはあっさりと流され、神力の規模の誇示としてまとめられてしまったそれだが、この雨の真髄は神力の規模だけにとどまらない。
「雨君、千晴に天候操作を見せた?」
「一度だけな。……物覚えが良いどころの話じゃないぞこれは。ああも簡単に雨を降らされては雨君の立つ瀬がない」
晴君の問いに、雨君は信じられないとでもいいたげに返す。
彼がそう思う気持ちも理解できた。天候操作は、たとえ今のように範囲を絞ったものだとしても誰しもが容易にできることじゃない。
元々、人から丁寧に何かを教えてもらえるような環境にいなかった千晴は、余計な叱責を避けるために必要だったのか、見たものを即座に習得する技術に優れていた。
それに加え、おそらくあらゆる神力操作の中で天候操作は千晴と最も相性がいい。
それは千晴が下界で暮らした経験のある人間で、常に天候が変動しない天界だけで生きてきたあらゆる天人よりも、それに触れる機会が多かったからだ。
そしてその現象への理解は、神力操作の出来に如実に反映される。
しっかりした訓練もなしにここまで精度の高い雨を再現できるのは、きっとこの天界中を探しても千晴しかいないだろう。会場でそれに気づいている人がどのくらいいるのかは晴君にも分からないが。
……もう千晴が優勝でいいんじゃないかな?
千晴を全力で褒めたい衝動を必死に押さえつけながら、何はともあれ最後まで彼の雄姿を見守ろう、と晴君は今一度目の前の試合に意識を集中させた。
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