天界への生贄の持ち込みは禁止されています

椿

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「え、えっとぉ…」
「……」

 一応形だけでもよく見せようと、死なせた食材たちを食器に盛ってみた。折角なので器を使ってみたかったという下心もある。
 少年は既に果物を食べ終えているようだった。
 果物は前菜ぐらいの気持ちだったのに、明らかにそれより劣るものを出している現状。もし欠片でも期待されていたのなら誠に申し訳ない。
 少年と机を挟んだ向かいで居心地悪く正座をしながら、晴君は告げる。

「ご、ごめん、こんな感じになってしまって…。あの、次はちゃんとやるから……、えっと、取り敢えずこれはもう──」

 処分するから、と器を引きかけたその時、少年が箸を手に取った。そして反対側の手で米の入った器を持つと、盛られたそれを食べ始める。
 大人用の箸は子供の手には余るらしい。少し動作はぎこちなかったものの、彼はガリボリと食用には不適な音を響かせながら、事務作業のごとく淡々と、そして着実にそれを平らげていった。
 最後に丸焦げの魚を頭からバリボリ、硬そうな音と共に噛み砕いて、静かに箸を置く。
 あっという間に完食されたやや生米と炭の魚に呆然とする晴君だったが、はっ、とある一つの可能性を見出した。
 もしかして人間的にはこれで正解…?これが普段の食事?僕の調理は許容範囲!?
 もし本当にそうだとしたら人間の味覚と暮らしに多大な不安が残るけれども、この瞬間においては安堵と歓喜が勝る。
 え、えー!僕の作った料理、全部食べてくれたー!うそ感動なんだけど…!人間が、僕の料理を、目の前で…!
 口元に両手の指を当て、声にならない声で幸福を噛み締めていると、対面で湯呑みから水を飲み干した少年が、初めて口を開いた。

「他に罰はありますか」
「罰与えたつもりないけど!?」

 喋ってくれたことへの感動より、その内容の方が気になって反射で突っ込んでしまった。
 というかやっぱりあの食事、何らかの罰だと思われる程酷かったんだ。我慢して食べてくれたんだ。
 改めてショックが襲う。むしろ一度受け入れられたかも!?と喜んだ分、落ち具合もそれなりに大きかった。
 どよーーんと沈む晴君に躊躇することなく、少年は続ける。

「食べられるのはいつですか」
「え?」
「いつ、俺を食べるんですか」

 至極真剣な表情で告げられて、一瞬理解が及ばず混乱した。
 ん?いつ、って、俺を…って?

「いや食べないよ!?」

 反論するのに思わず机に身を乗り出してしまう。
 勢いが良すぎたかと直後に我に帰ったものの、しかしこれははっきりさせておかなければ、という危機感の元、敢えてそのままの姿勢で質問を重ねた。

「そもそも、き、君を食べるって何!?」
「俺が今魚を食べたみたいに、ばりぼりと頭から…」
「そんな恐ろしいことしないよ!そもそも天人僕らは食事を必要としないから!」

 晴君の必死の訂正を聞いても、少年はちっとも納得した様子を見せない。それどころか、どこか怪訝そうな顔で問う。

「食べるから身を清めてくれたんじゃないんですか?罰を与える事で体内の穢れも払ったんですよね?」
「違うよ!?それは、ただ君に喜んで欲しくてやったことで……食事については、結果的に罰になっちゃったみたいで申し訳ないけど…」

 話している途中で乗り出していた体勢を元に戻し、しゅん、と反省したように身を縮こまらせる晴君。
 すると今度は、そんな彼を見つめていた少年の方が微かに身を乗り出して告げる。

「どうやったら食べてくれるんですか。
 早く俺を食べて、雨を止ませてください。神様」

 パサつき、手入れがされず伸び切った黒髪。痩せて落ち窪んだ目元。そしてその中でひときわ輝く、強い意志を灯す鮮烈な赤い瞳。
 願いを伝えるその目はいやに眩しくて、先程見ていた炎を目の前に突きつけられているような感覚に陥った。
 胸が、じりじりと焼かれるみたいに苦しくなる。
 直視し続けられず、咄嗟に目線を逸らして、一呼吸置いた後に再度そっと彼を見た。
 今の彼に、彼だからこそ、言わなければいけない事があった。
 自然と背筋は伸びている。
 晴君は少年の目をまっすぐ見て、毅然と告げた。

「ごめんね。僕達が人間の願いを受け入れることは出来ない。天候も、決められた予定表通りに運営するだけで、そこに情はない。君が死んだって雨は降り続けるし、天災は来る。空が晴れることもある。でも次は日照りに苦しむことになるかもしれない。何も、変わらないんだよ。
 なんてものに、意味はないんだ」

 そう。この少年は、神への供物となることを目的に命を落とす、生贄だった。
 そして本来であれば地上で死ぬはずだった彼を治療し、この天界に連れて来たのが晴君──僕だ。
 助けた理由はただ一つ。何とも単純明快で、むしろ考えなしにも思えるそれ。
 彼に、死んで欲しくなかった。

「いみは、ない」

 少年は小さな声でそう呟くと、身を乗り出していた体勢をやめた。
 力をなくしたように目線を下に落とす彼を見て、この真実は酷だっただろうか、と晴君は自身の発言に少しだけ後悔の念を強める。しかし当然、一度出た声は元には戻らない。
 少年の反応を見逃さないようにしつつ、晴君はじっと彼の答えを待った。
 少年が、顔を上げる。

「じゃあ、やっぱり食べてください」
「──、」
「俺はあの村で、生贄になるためだけに育てられました。生贄に意味がなくても、生贄を、やめてしまったら……」

 その、諦めたような暗い目を見た瞬間、晴君の身体は勝手に立ち上がっていた。

「散歩、行こっか!」
「……は?」

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