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第一部 力の覚醒
第41話 衆愚
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「イクス様、今動いたら――!」
ミリエラの静止の声は届かない。
ゆらり、とゴドールへ向き直るイクス。
「封忌魔術起動」
そして、そう呟いた。
イクスが短い呻き声を漏らす。
服越しでも、体が痙攣しているのがわかる。
イクスの灼眼に灼い発光が宿り、瞳に青色の魔術式が、斜め十字状に縛るように巻き付く。
「……本物の封忌魔術を、教えてやる」
低く、重い声。
震えるその声は――悦びに震えているようだった。
「はハ、だが遅い。こちらの封忌魔術はもう馴染んできたぞぉ……!」
姿形は見るに堪えない異形と化した、ゴドールの言葉が明瞭になる。
一方でイクスはと言うと、体のどこにも変化は見られない。
それどころか落ち着いて立つその姿からは、痛みの残滓すら感じられない。
「貴様程度が扱える封忌魔術など、所詮贋物だ……」
「ほざけぇ! くくっ、むしろお前の方が哀れだよ! 身体も変化せんとはなぁ!」
「贋物が何を宣う。術者が雑魚だから、変化しちまうんだよ」
そういって嘲笑するイクス。
今まで聞いたことのない喋りだった。
見ないでくれ、と言った彼の言葉の意味がわかりかけてくる。
「ガキには何を言っても無駄、か。その体に直接教えてやる!」
「煩い虫が」
ゴドールが目にも止まらぬ速さで爪を繰り出すが、イクスはそれを体を捻るだけで悠然と避ける。
そして裏拳を顔面に当てると、ゴドールの体が波打ち、次の瞬間には壁まで吹き飛ばされ、壁を粉砕しながら向こう側へ転がる。
「な、に……」
「遅いなぁ。贋物」
煽る物言いに憤怒し、言葉にならない怒号を上げながら突進してくる。
舞うようにあっさりと避けたイクスは地に落としたままだった自らの剣を足で掬い、真っ直ぐに振り下ろす。
「ぐぁ――」
両腕の爪で辛うじて防いだゴドールだったが、その一撃はあまりに重かったようで、床を破壊して体ごと沈む。
必死の形相で防がれているにも関わらず、イクスは対照的に涼しい顔だ。口元には笑みが張り付いている。
そしてそのまま地に埋めようとでもするかのように、剣を押し込んでいく。
「死ね」
イクスの灼眼が纏う蒼い発光は、燃え盛る炎のようだ。
「クソがッ」
爪を何本か破壊されながらも横に退いたゴドールは、最後の一撃とばかりに鋭い突きを繰り出す。
だが飄々と斬り上げられ、切断された腕が部屋の反対側でぐしゃりと醜く潰れた。
「いい加減不愉快だ」
ゴドールに体勢を整える隙など与えず、脳天に鋭い蹴りを加える。
地に叩きつけられたゴドールは体の節々が粉砕し、目から赤い光が薄れていく。
同時に、泥を啜るような音を出しながら、ゴドールの肉体が縮小する。
「ま、さか……これ、ほど、とは……」
地に伏せるゴドールが吐血しながら嘆く。
「まだ喋る元気があるとは驚きだ」
「フン……私がここで死んでも、意味はない……」
「何?」
「その魔女を売ったアーギュスト家とヘンデル家の弱みは既に握ってある……! 奴ら、自分の弱みがどこかから漏れるのを恐れて、必死で私の成そうとしていた事の後を継ぐだろうよ! まぁ、奴ら無能に継げるとも思えんがね!」
「貴様も充分な無能だ」
「黙れェ! はは、ついでに教えてやる。そこのクソ魔女、お前の母親はなぁ、ヘンデル家の当主ハーウェスと、十年以上も不倫してやがったんだぞぉ?」
「な……っ」
お母様が、不倫?
私のことを忌むべき者だって罵倒し続けていたあの人が、自分は、不倫……?
「いい目だァ……冥土の土産にちょうどいい……くくく、しかも親父の不倫を知った息子のリチャードは、それを利用してアーギュスト家とその領地から好き放題搾取! あいつらの鬱憤はお前に向けられてたんだろうなァ」
「その醜い口を塞げ」
イクスが蹴り飛ばす。
部屋の端に激突したゴドールは、地でへばりながらも、最後まで嘲笑を辞めない。
「そして当のリチャードは実妹のイザベラと相思相愛と来た! イザベラは兄の子をこれまで三度も堕ろしている……くくっ、どいつもこいつも、実に愚かしい……!」
「そんな、そんな人達の、せいで……」
ただ幽閉されていただけじゃない。
日に日に増していく暴力の理由は、こんなことだったんだ。
事実か嘘かもわからないが、やるせなさだけは募っていく。
「被害者面か? 何もかも、お前が原因だろうが! ミリエラ・アーギュストォ! お前が起こした魔術災害のせいで、全てが壊れたんだよ!」
「これ以上喚けば首を切り落とす」
イクスが怒りを露わにしながら剣を首筋に突き立てる。
「ははは、出来るかな? お前は私を生きたまま捕らえる気だろう?」
「……」
「沈黙は是、だ。だがなァ、思い通りにはさせん……!」
カッ、とゴドールの目に再び赤い光が宿り、最後の力を振り絞って体を硬直させる。
「まさか、自爆する気か――」
「あの世で嘆け、クソガキ」
ゴドールの目の発光が最大まで強まった。
ミリエラの静止の声は届かない。
ゆらり、とゴドールへ向き直るイクス。
「封忌魔術起動」
そして、そう呟いた。
イクスが短い呻き声を漏らす。
服越しでも、体が痙攣しているのがわかる。
イクスの灼眼に灼い発光が宿り、瞳に青色の魔術式が、斜め十字状に縛るように巻き付く。
「……本物の封忌魔術を、教えてやる」
低く、重い声。
震えるその声は――悦びに震えているようだった。
「はハ、だが遅い。こちらの封忌魔術はもう馴染んできたぞぉ……!」
姿形は見るに堪えない異形と化した、ゴドールの言葉が明瞭になる。
一方でイクスはと言うと、体のどこにも変化は見られない。
それどころか落ち着いて立つその姿からは、痛みの残滓すら感じられない。
「貴様程度が扱える封忌魔術など、所詮贋物だ……」
「ほざけぇ! くくっ、むしろお前の方が哀れだよ! 身体も変化せんとはなぁ!」
「贋物が何を宣う。術者が雑魚だから、変化しちまうんだよ」
そういって嘲笑するイクス。
今まで聞いたことのない喋りだった。
見ないでくれ、と言った彼の言葉の意味がわかりかけてくる。
「ガキには何を言っても無駄、か。その体に直接教えてやる!」
「煩い虫が」
ゴドールが目にも止まらぬ速さで爪を繰り出すが、イクスはそれを体を捻るだけで悠然と避ける。
そして裏拳を顔面に当てると、ゴドールの体が波打ち、次の瞬間には壁まで吹き飛ばされ、壁を粉砕しながら向こう側へ転がる。
「な、に……」
「遅いなぁ。贋物」
煽る物言いに憤怒し、言葉にならない怒号を上げながら突進してくる。
舞うようにあっさりと避けたイクスは地に落としたままだった自らの剣を足で掬い、真っ直ぐに振り下ろす。
「ぐぁ――」
両腕の爪で辛うじて防いだゴドールだったが、その一撃はあまりに重かったようで、床を破壊して体ごと沈む。
必死の形相で防がれているにも関わらず、イクスは対照的に涼しい顔だ。口元には笑みが張り付いている。
そしてそのまま地に埋めようとでもするかのように、剣を押し込んでいく。
「死ね」
イクスの灼眼が纏う蒼い発光は、燃え盛る炎のようだ。
「クソがッ」
爪を何本か破壊されながらも横に退いたゴドールは、最後の一撃とばかりに鋭い突きを繰り出す。
だが飄々と斬り上げられ、切断された腕が部屋の反対側でぐしゃりと醜く潰れた。
「いい加減不愉快だ」
ゴドールに体勢を整える隙など与えず、脳天に鋭い蹴りを加える。
地に叩きつけられたゴドールは体の節々が粉砕し、目から赤い光が薄れていく。
同時に、泥を啜るような音を出しながら、ゴドールの肉体が縮小する。
「ま、さか……これ、ほど、とは……」
地に伏せるゴドールが吐血しながら嘆く。
「まだ喋る元気があるとは驚きだ」
「フン……私がここで死んでも、意味はない……」
「何?」
「その魔女を売ったアーギュスト家とヘンデル家の弱みは既に握ってある……! 奴ら、自分の弱みがどこかから漏れるのを恐れて、必死で私の成そうとしていた事の後を継ぐだろうよ! まぁ、奴ら無能に継げるとも思えんがね!」
「貴様も充分な無能だ」
「黙れェ! はは、ついでに教えてやる。そこのクソ魔女、お前の母親はなぁ、ヘンデル家の当主ハーウェスと、十年以上も不倫してやがったんだぞぉ?」
「な……っ」
お母様が、不倫?
私のことを忌むべき者だって罵倒し続けていたあの人が、自分は、不倫……?
「いい目だァ……冥土の土産にちょうどいい……くくく、しかも親父の不倫を知った息子のリチャードは、それを利用してアーギュスト家とその領地から好き放題搾取! あいつらの鬱憤はお前に向けられてたんだろうなァ」
「その醜い口を塞げ」
イクスが蹴り飛ばす。
部屋の端に激突したゴドールは、地でへばりながらも、最後まで嘲笑を辞めない。
「そして当のリチャードは実妹のイザベラと相思相愛と来た! イザベラは兄の子をこれまで三度も堕ろしている……くくっ、どいつもこいつも、実に愚かしい……!」
「そんな、そんな人達の、せいで……」
ただ幽閉されていただけじゃない。
日に日に増していく暴力の理由は、こんなことだったんだ。
事実か嘘かもわからないが、やるせなさだけは募っていく。
「被害者面か? 何もかも、お前が原因だろうが! ミリエラ・アーギュストォ! お前が起こした魔術災害のせいで、全てが壊れたんだよ!」
「これ以上喚けば首を切り落とす」
イクスが怒りを露わにしながら剣を首筋に突き立てる。
「ははは、出来るかな? お前は私を生きたまま捕らえる気だろう?」
「……」
「沈黙は是、だ。だがなァ、思い通りにはさせん……!」
カッ、とゴドールの目に再び赤い光が宿り、最後の力を振り絞って体を硬直させる。
「まさか、自爆する気か――」
「あの世で嘆け、クソガキ」
ゴドールの目の発光が最大まで強まった。
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