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2章 冒険者としての生活

領主からの依頼 実質命令

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「家庭教師ですか?」

「そうだ、私には娘が一人居るのだが、魔法の素質はあるのにもかかわらず魔法が上手く使えないようなのだ」

「しかし、私自身がロクに魔法を使えませんので、お教えするなど出来ませんし、本職の方に教わった方が宜しいのでは?」

 むしろこちらが教わりたいぐらいだ。

「既に一通りの流派の者に付いて貰いはしている。 なに、別に魔法そのものを教える必要は無い。 先程説明を受けた風がどういう物かと言った、この世の理の解釈を教えてやってほしい」

「この世の理の解釈ですか?」

 さっき言っていた流派がどうのと言うやつ絡みだろうか?

「私からご説明致しましょう」

 良くわからないと顔に出ていたのだろう、ヴァルターさんが補足説明をしてくれた。
 それによると、魔法を行使する際には結果が同じであっても現象を起こす過程は様々なのだそうだ。
 流派の違いというのは主にこの過程の違いと言うことだった。
 まあ、東京から大阪に行くのに、飛行機を使うか電車を使うかの様な感じだと理解しておこう。
 この魔法を行使するまでの過程に、人によって多少の向き不向きが出て来るそうだ。

「今娘に付いて貰っている魔法の家庭教師も冒険者だ。 イオリの魔法がしっかり発動しない理由もついでに聞いてみると良いのではないかな」

 それは願ってもない事だ。依頼と言ってはいるが領主からの依頼となれば実質的には命令と変わらない。どうせ断れないのなら心象を良くしておいたほうが得だな。

「承知しました、微力ながら出来る限りお嬢様のお手伝いさせて頂きます」

「うむ、宜しく頼む。 報酬や日程などの詳しい内容については後でヴァルターに聞いてくれ」

 ジークフリード様が立ち上がったので、これで解散の流れかと思いつられて立ち上がった。

「では、ドラゴンを翻弄したという技を見せてもらおうか。ヴァルター、準備を」

 終わってなかった……。
 結構長く話をしてたと思うけど、ここの領主って暇なんだろうか。
 すっごいわくわくしている感じが伝わってくるのだが……。

「ジークフリード様、少々お話が白熱しました故この後の時間は修練場でコリンナ様が魔法の実習中でございます」

 ヴァルターさんが懐中時計を取り出してそう告げた。
 コリンナと言うのが子供の名前だろう。
 しかし、時計があるんだな今のところ特に不自由していないが、あるならちょっと欲しいな。

「おお、もうその様な時間か、イオリの話がなかなかに愉快だったのでつい時を忘れてしまったな」

 少し大袈裟な身振りでこれはうっかりしていたと言う。
 これは、やはり解散の流れだろうか?

「ちょうど良い、技を見せて貰うついでにコリンナにイオリを紹介しよう」

 解散にはならなかったか……。
 しかし実演と言われても何をしたものか悩む。
 模擬戦とかやらされて実力を見るとかそう言うのかと思っていたが、機転と工夫で戦ったっていうでっち上げ話を再現しろと言われても無理だ。
 そもそもこの服でやれって言われても困る。

「ではご案内を致しますので、お召変えをお願い致します」

 うへ、やっぱりそうなるとは思ったけど、解ってても貴族面倒くさいな。
 始終空気だったアリーセも目が死んでいる。
 まあ、女性の着替えは俺より大分大変だから一応貼り付けたような笑顔を保っているだけでも褒めてあげたいところだ。

 再びドナドナされていくアリーセを尻目に俺自身もオバ様達に拐われていく。
 無心に徹して、さっき扉の前にいた衛兵の様な服に着替えを完了する。
 パンツはなんとか死守した。

 案内は若いメイドさんがしてくれる様なのでそこで僅かな心の平穏を保つ。
 またアリーセ待ちかと思いきや、案内されている途中で鎧の無い女騎士と言った佇まいになっているアリーセと合流した。

「思ったより早かったな、もっと時間がかかるものかと」

「着るのは時間かかったけど脱ぐのはあっという間だったわ。 今着ている方はそこまで大変でもなかったしね」

「いちいち着替えるってのも面倒くさいよな」

「それは申し訳ありませんでした」

「うわ、ビックリした! って、驚かさないでくださいよヴァルターさん!」

 アリーセに愚痴を言っていたらいつの間にかヴァルターさんが背後に立っていた。心臓に悪い。

「かくも貴族と言うものは形式や風評を大変気にするものでございます。 なかなかご理解いただけないかもしれませんが、そういうものだと思ってご容赦ください」

「あ、いや、その……申し訳ありません」

「いえいえ、大変面倒であるのは事実でございますので、お咎めする気はございません。 私の心の中にだけしまって置きますので」

 うわ、これって恩を売られたとか、弱み握られたってやつじゃないだろうか?
 この人侮れないな。

「そうですか、ありがとうございます。 私の様な庶民からしますと華々しい面ばかりが思い浮かびますが、及びもつかないご苦労があるのでしょうね」

 お決まりの権謀術数ってやつな、具体的に何があるのかまでは分からないけど!

「ジークフリード様のその苦労を慮って頂けるだけで、救われる想いです」

 深々と頭を下げられてしまった。
 相当苦労があるのだろうか? まあ、あるんだろうなと思いながら、いつの間にか居なくなっていた若いメイドさんの代わりに案内をしてくれるヴァルターさんのあとに続く。

 ついていった先は、ちょっとした体育館ほどの広さの部屋だった。
 さて、どう技を見せたものか考えねば。
 ちょっとアリーセとも相談しないとな



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