60 / 250
2章 冒険者としての生活
理科の実験
しおりを挟む燃焼について、空気の対流も含めて説明をしたあとは、楽しい理科の実験だ。
メイドさんを呼び出して、小さいろうそくとコップを用意してもらう。
水を張った皿に置いたろうそくに火を着けて、準備完了だ。
「さて、ろうそくそのものに魔法や息を吹きかけるといった干渉をせずにこの火を消してご覧に入れます」
コリンナ様もエーリカも興味津々といった様子でのぞき込んでくる。
俺自身は理科の実験って楽しかった記憶があるが、子供の頃の俺と同じように興味を持ってくれて良かったと思う。
勿体ぶっても仕方がないので、早速コップをろうそく被せて見せる。
「これで、息を吹きかけても消えたりしないはずですね? 私が何もしていないか、ろうそくをよく見ていてください」
「あ! 火が消えました!」
「では、これが偶然起きたのでは無い事を確かめるために、何回かやってみましょう」
コップを外し、改めて火を着けてコリンナ様にコップを渡す。
「え? 私がやるんですか?」
「そうですよ、誰がやっても同じ結果にならないと証明にならないでしょう?」
コリンナ様が緊張した面持ちでろうそくにコップを被せる。
火が消えるのを確認した後、ぷはぁっと可愛く息を吐き出した。
どうやら息を止めていたらしい。
「何回やっても構いませんよ」
そう言うと、目を輝かせて実験を繰り返していた。 毎回息を止めているようで、その度にぷはぁっとやっている。
なんだこの可愛い生き物は?
「あ、あの、私もやってみても?」
何かに目覚めそうになったところでエーリカが期待に満ちた目でみてくる。
うむ、なにやら助かったのでエーリカにもやってもらおう。
「誰がやっても同じ結果になると分かれば良いので是非やってみてくれ」
「あ、エーリカ先生どうぞ」
「ありがとうございますわ、コリンナ様」
コリンナ様がコップを渡すと、他のろうそくから火を移すのではなく、魔法でろうそくに火をつけた。
そして、そっとコップを被せしばらくして火が消えたことを確認した。
普通に火をつけても魔法で火をつけても同じ結果になったようだ。
まあ、火を付けただけでその後はろうそくが自力で燃えてるだけだしな。
「さて、何度やっても誰がやっても同じ結果という事が、わかっていただけたかと思います。 何故火が消えたのかわかりますか?」
コリンナ様に質問をすると、こてりと首をかしげて考える素振りを見せる。
「えと、コップの中の酸素が無くなったから?」
「正解です!」
散々板書したおかげか、コリンナ様が聡いのか、簡単に正解してくれた。
それじゃあ、次の実験に移ろう。
ここからは俺も結果が分からない。
「エーリカ先生~」
「え、あ、はい、なんですの?」
「コップの中のろうそくに火をつけられるか?」
そう、酸素の無い状態でも魔法で火がつくのか? という疑問だ。
コップという遮蔽物があってもエーリカが火をつけられるかどうかが問題だな。
「造作も無いことですわ」
良かった。造作も無いそうなのでまずはコップ中の空気を入れ替えて酸素がある状態でやってもらう。
エーリカが指を小さく回してからコップの中のろうそくに指を向けると、ポッと火がついた。
そして、程なくしてコップ内の酸素を消費して火が消える。
同じ事を数回繰り返してもらい、確実にろうそくに火がつく事を確認する。
「では、火が消えたままの状態でもう一度火をつけてみてくれ」
「わかりましたわ」
先程と同じように指を回してろうそくに火をつけようとするが、今度は火がつかない。
エーリカが何度も同じ動作を繰り返すが、火がつく気配はない。
「なんてことですの! 確かに魔法は発動していますのに火が全くつかないなんて、こんな事初めてですわ!?」
エーリカは立て掛けてあった自分の発動体であろう木の杖を持ち出して来て、詠唱を始めた。
「ティンダー!」
力強く魔法名を叫ぶが、ろうそくに火がつくことは無かった。
「あ、いや、もういいぞ、ありがとうエーリカ先生」
放っておくと、なにか強力な魔法でも使いそうだったので、ムキになっているエーリカを止める。
だからファイヤーボールを使おうとするな。浮いている火の玉を消せ。
「さ、さてコリンナ様。今の実験で分かったことがあると思います」
俺は気を取り直してコリンナ様に話を振った。
聡いコリンナ様ならわかるはずだ。
「え、えと、発火の魔法には酸素は含まれなくて、魔力はたぶん熱と燃える物……いえ、燃えるものはあるのだから、熱だけあれば……」
「わかったようですね。 さあコリンナ様、あなたはもう発火の魔法が使える筈です」
我ながら胡散臭いが、できるだけ優しく話しかけると、ハッとした顔で俺の顔を見つめてくる。
実験をしていたろうそくからコップを外し、コリンナ様の目の前に持ってくる。
途端に緊張した顔になって俺をまた見るので、微笑んで安心をさせる。
うまく笑えているだろうか? キモい笑顔になってないと良いが……。
コリンナ様はしばらく不安そうな顔で俺の方を見続けていた。
笑顔を維持して、そろそろ俺の顔の筋肉が引きつって辛くなってきたあたりで、意を決したようにろうそくに向かって手を伸ばした。
「ティンダー……」
囁くように魔法名を発すると、ポッとろうそくに火が灯った。
魔法は結構大雑把なイメージでも発動するようなので、たぶん大丈夫だとは思っていたが、熱を発するのに分子の振動がーとか、エネルギーは最終的に熱になるーとかの説明は要らないようだな。
説明出来なくて少し残念な気もするが、一発で成功出来たのだからヨシとしよう。
「……出来た……」
ごく小さな声が聞こえてきた。
「おめでとうございます。 とても上手く出来ていましたよ」
「出来た! 出来た! 出来た! やった私魔法が使えたよ!」
よほど嬉しかったのか抱きついてきた。
そういえばさっきから敬語も消えているな。
もしかしたらこっちが素なのかもしれない。
「やった……魔法が……使え……うわああああん! 出来たよぉっ!」
感極まって俺に抱きついたまま泣き出してしまった。
って、泣くほどなのか? これどうすれば良いんだ!?
オロオロしてエーリカに助けを求めようと思ったら、良かったですわねぇ、ともらい泣きしているばかりで助けになりそうにない。
えー!? マジでこの状況どうすれば良いんだーーー!?
-----------------------------------------------------------------------------
ファンタジー大賞参加中です。よろしければ投票よろしくお願いします。
お気に入り登録、ご感想、挿絵のリクエストもしていただければ凄く嬉しいです。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる