アメイジングノービス ~異世界でチートツールが使えたけど物理法則さんが邪魔をする~

逢須 かた丸

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2章 冒険者としての生活

理科の実験

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 燃焼について、空気の対流も含めて説明をしたあとは、楽しい理科の実験だ。

 メイドさんを呼び出して、小さいろうそくとコップを用意してもらう。
 水を張った皿に置いたろうそくに火を着けて、準備完了だ。

「さて、ろうそくそのものに魔法や息を吹きかけるといった干渉をせずにこの火を消してご覧に入れます」

 コリンナ様もエーリカも興味津々といった様子でのぞき込んでくる。
 俺自身は理科の実験って楽しかった記憶があるが、子供の頃の俺と同じように興味を持ってくれて良かったと思う。

 勿体ぶっても仕方がないので、早速コップをろうそく被せて見せる。

「これで、息を吹きかけても消えたりしないはずですね? 私が何もしていないか、ろうそくをよく見ていてください」

「あ! 火が消えました!」

「では、これが偶然起きたのでは無い事を確かめるために、何回かやってみましょう」

 コップを外し、改めて火を着けてコリンナ様にコップを渡す。

「え? 私がやるんですか?」

「そうですよ、誰がやっても同じ結果にならないと証明にならないでしょう?」

 コリンナ様が緊張した面持ちでろうそくにコップを被せる。
 火が消えるのを確認した後、ぷはぁっと可愛く息を吐き出した。
 どうやら息を止めていたらしい。

「何回やっても構いませんよ」

 そう言うと、目を輝かせて実験を繰り返していた。 毎回息を止めているようで、その度にぷはぁっとやっている。
 なんだこの可愛い生き物は?

「あ、あの、私もやってみても?」

 何かに目覚めそうになったところでエーリカが期待に満ちた目でみてくる。
 うむ、なにやら助かったのでエーリカにもやってもらおう。

「誰がやっても同じ結果になると分かれば良いので是非やってみてくれ」

「あ、エーリカ先生どうぞ」

「ありがとうございますわ、コリンナ様」

 コリンナ様がコップを渡すと、他のろうそくから火を移すのではなく、魔法でろうそくに火をつけた。
 そして、そっとコップを被せしばらくして火が消えたことを確認した。
 普通に火をつけても魔法で火をつけても同じ結果になったようだ。
 まあ、火を付けただけでその後はろうそくが自力で燃えてるだけだしな。

「さて、何度やっても誰がやっても同じ結果という事が、わかっていただけたかと思います。 何故火が消えたのかわかりますか?」

 コリンナ様に質問をすると、こてりと首をかしげて考える素振りを見せる。

「えと、コップの中の酸素が無くなったから?」

「正解です!」

 散々板書したおかげか、コリンナ様が聡いのか、簡単に正解してくれた。
 それじゃあ、次の実験に移ろう。
 ここからは俺も結果が分からない。

「エーリカ先生~」

「え、あ、はい、なんですの?」

「コップの中のろうそくに火をつけられるか?」

 そう、酸素の無い状態でも魔法で火がつくのか? という疑問だ。
 コップという遮蔽物があってもエーリカが火をつけられるかどうかが問題だな。

「造作も無いことですわ」

 良かった。造作も無いそうなのでまずはコップ中の空気を入れ替えて酸素がある状態でやってもらう。
 エーリカが指を小さく回してからコップの中のろうそくに指を向けると、ポッと火がついた。
 そして、程なくしてコップ内の酸素を消費して火が消える。
 同じ事を数回繰り返してもらい、確実にろうそくに火がつく事を確認する。

「では、火が消えたままの状態でもう一度火をつけてみてくれ」

「わかりましたわ」

 先程と同じように指を回してろうそくに火をつけようとするが、今度は火がつかない。
 エーリカが何度も同じ動作を繰り返すが、火がつく気配はない。

「なんてことですの! 確かに魔法は発動していますのに火が全くつかないなんて、こんな事初めてですわ!?」

 エーリカは立て掛けてあった自分の発動体であろう木の杖を持ち出して来て、詠唱を始めた。

「ティンダー!」

 力強く魔法名を叫ぶが、ろうそくに火がつくことは無かった。

「あ、いや、もういいぞ、ありがとうエーリカ先生」

 放っておくと、なにか強力な魔法でも使いそうだったので、ムキになっているエーリカを止める。
 だからファイヤーボールを使おうとするな。浮いている火の玉を消せ。

「さ、さてコリンナ様。今の実験で分かったことがあると思います」

 俺は気を取り直してコリンナ様に話を振った。
 聡いコリンナ様ならわかるはずだ。

「え、えと、発火の魔法には酸素は含まれなくて、魔力はたぶん熱と燃える物……いえ、燃えるものはあるのだから、熱だけあれば……」

「わかったようですね。 さあコリンナ様、あなたはもう発火の魔法が使える筈です」

 我ながら胡散臭いが、できるだけ優しく話しかけると、ハッとした顔で俺の顔を見つめてくる。
 実験をしていたろうそくからコップを外し、コリンナ様の目の前に持ってくる。
 途端に緊張した顔になって俺をまた見るので、微笑んで安心をさせる。
 うまく笑えているだろうか? キモい笑顔になってないと良いが……。

 コリンナ様はしばらく不安そうな顔で俺の方を見続けていた。
 笑顔を維持して、そろそろ俺の顔の筋肉が引きつって辛くなってきたあたりで、意を決したようにろうそくに向かって手を伸ばした。

「ティンダー……」

 囁くように魔法名を発すると、ポッとろうそくに火が灯った。
 魔法は結構大雑把なイメージでも発動するようなので、たぶん大丈夫だとは思っていたが、熱を発するのに分子の振動がーとか、エネルギーは最終的に熱になるーとかの説明は要らないようだな。
 説明出来なくて少し残念な気もするが、一発で成功出来たのだからヨシとしよう。

「……出来た……」

 ごく小さな声が聞こえてきた。
 
「おめでとうございます。 とても上手く出来ていましたよ」

「出来た! 出来た! 出来た! やった私魔法が使えたよ!」

 よほど嬉しかったのか抱きついてきた。
 そういえばさっきから敬語も消えているな。
 もしかしたらこっちが素なのかもしれない。

「やった……魔法が……使え……うわああああん! 出来たよぉっ!」

 感極まって俺に抱きついたまま泣き出してしまった。
 って、泣くほどなのか? これどうすれば良いんだ!?
 オロオロしてエーリカに助けを求めようと思ったら、良かったですわねぇ、ともらい泣きしているばかりで助けになりそうにない。


 えー!? マジでこの状況どうすれば良いんだーーー!?



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