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2章 冒険者としての生活

ブレスは(自分が)危険

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 鱗は魔力の供給を止めてしばらくしたら、ポロポロと剥がれ落ちていった。
 生えてくる時の痛みは凄かったが、剥がれる時はそこまで辛さは無かった。
 殆ど治った傷からカサブタを取る感覚に近いだろうか?

 しかしこの調子だと、空を飛ぼうとしたら翼が生えて、攻撃力上げようとしたら巨大化したりするんじゃ無かろうか?
 普通の魔法と竜言語魔法との大きな差は、自由度かもしれない。
 普通の魔法は魔力を変化させるという特性上わりと自由度が高いが、竜言語魔法は効果や必要魔力が桁違いではあるが効果が固定されているようだ。

「3日意識がなくなるくらいHPが無ければ即死状態だったのに、その割りには使えねーぞ竜言語魔法!」

 まさにドラゴンの為の魔法のようだ。
 と言うか、この魔法を使うとドラゴンになっていくと言った方が正しい気がする。

 ブレスとかどうなるのだろうか? 顔だけドラゴンになる?
 スキル取得時に頭に流れ込んできた知識だと、魔法の効果は分かっても、俺自身がどうなるのか? というところまでは不明だ。
 なのでどうなるかは想像の域を出ないのだが、どの道ろくな事にはならない気がする。

「ドラゴンになってしまう気は全くないから、正直このスキル要らないけど外したらまた辛い目にあうのか、それとも何事も無く消えるのか……。 よし、あるだけなら害は無いし、このまま放置で!」

 魔法の時みたいに、上手いこと使う方法があるかもしれないしな。
 三日間気絶して全裸でゴブリンとやりあってまで手に入れたスキルでもある、そう簡単に削除するのも気持ち的に憚られるのだ。

「……もうちょっとだけ試すか?」

 竜言語魔法という中二なスキルの誘惑に負け、もうちょっとだけ試すことにした。
 普通の魔法ならエーリカに聞けるが、竜言語魔法など聞く相手が居ないしな。

 魔力バカ食いするなら、込める魔力を絞っておけば、被害も自分へのダメージが減るのでは無いだろうか?
 などと思ってしまったせいでもある。
 一応ダメージ軽減のポーションを保険で飲んで、先程の防御力アップを魔力量を最小限まで絞ってゆっくりゆっくり発動してみる。
 すると、皮膚に違和感は感じ始めたので、痛くなる前に止めてみた。

 この状態で自分の腕とかを触ってみたら、見た感じでは普通の肌のように見えたが、皮膚の表面がヤスリのようにザラッとした感じになっていて硬くなっていた。
 しかし硬いといっても、タコになった皮膚という程度で、気休めの域は出ていないように思える。

「あ、でも筋力アップした時の皮膚の痛みは大分緩和されるな」

 筋力アップ時の皮膚の痛みというのは、2リットルペットボトルを普通に持つには問題がないのに、スーパーのビニール袋に入っていると手提げ部分が指に食い込んで痛いというアレである。
 これがあって、今のステータスでも力いっぱい物を握ると結構手が痛いのである。

「あれ? 加減したら使えないってほどじゃないのか?」

 まあ、人が使うなら普通の魔法での身体強化とかの方が良さそうではあるが……。
 それじゃあと、魔力を絞るだけ絞ってブレスも試してみる。
 ブレスはその名の通りに口の中から吐くのかと思っていたが、体内の器官で何か出しているのではなく、魔法的に顔の前から攻撃を飛ばすという仕組みのようだ。
 確かに、岩をも溶かすような炎を口から吹いたら吹いた方もタダじゃ済まなそうではある。
 魔力を絞りに絞ったブレスを発動すると、目の前の40センチくらい先に黒っぽい火の粉のような粒子が集まりだし、小さな火の玉が出現した。
 また熱いのかもしれないと心配したが、それほど熱さは感じない。
 その代わりというわけではないが、40センチくらい離れているのにもかかわらず、そこが自分の鼻の下すぐであるかのような不思議なな感覚の錯覚を受ける。

「あ、これヤバイかも……」

 魔力は絞っているはずだが、黒っぽい炎は、バスケットボールくらいまで大きくなっている。
 何かにぶつけるのは危険な気がしたのでそのまま30度くらいの角度で空に向かってブレスを放つ。

 次の瞬間、轟音とともに空に向かって黒い炎がすごい勢いで一直線に飛んでいった。
 まるでアニメのビーム兵器のようだったが、じっくり観察する余裕は無かった。
 なぜなら、発射と同時にオレ自身が反対側に吹き飛んだからである。
 反対方向にマイナス30度の角度で勢い凄まじくふっとばされ、地面を数回バウンドして木に激突して止まった。
なまじダメージ軽減ポーションと防御力アップがあったせいで気絶ができずに体感的には今までで一番痛かったと思う。

「ひ、HPを上げていなかった即死だった……」

 40センチとはいえ、直接触れていなかったのに反動を食らうとか、理不尽この上ない。
 ドラゴンほどの大きさと重量があれば大したことはないのかも知れないが、人の重さでやると危なくてしょうがない。
 
 ブレスを放った先を見ると、なんと雲に穴が空いていた。
 魔力を絞ってこの威力とは、全力で放ったらどうなってしまうのか想像もできない、主に俺が!
 それに、吹き飛ばされなかったとしても高威力すぎて使いどころがわからないというのもある。

 とりあえず誰かが調べにくるとマズイので、今日の検証はこれでおしまいにして引き上げた方が良さそうだ。
 俺は逃げるようにその場を後にして、街に帰ることにした。
 街に帰ってきたところで挨拶がてら冒険者ギルドに顔を出すと、なにやら騒いでいる人がいる。

「本当だって、空に黒っぽい何かが飛んで雲に穴が空いたんだ! あんなの見たことがねえ、調査した方が良いって!」

 回れ右して、ギルドを後にし買い食いなどをしながら街を散策することにした。

 まだ日も高いので、まだ知らない場所も多い街をあてもなく散策しているとぽつんと佇むアンティークショップのような店を見つけた。
 アンティークといっても、俺の感覚でアンティークに見えるというだけで、この世界の人にしてみたら最新のものであろうが。
 家具屋か何かと思ってみて見ると、使用用途の分からない装飾のある箱であるとかアクセサリーだとか、薬品っぽい瓶なども並んでいてなんの店かよくわからなかった。
 こういうなんだかわからない店は入ってみてなんの聞いてみた方が早そうだ。
 今、暇だし!
 冷やかし半分に店に入ってみると、外から見えたもの以外にもデカイ金属のタンクとか武器や防具なんかも置いてあり、それぞれに結構なお値段の値札がついていた。
 その中で聞き覚えのある商品名の値札を見つけた。

[携行水 1瓶 12ナール  10瓶 100ナール]

 ああ、ここ錬金術の店だったのか。
 アリーセが高い高いと騒いでいたが、5ナールで定食が食べられるのに1リットルも入っていないようなサイズの瓶で12ナール、1200円くらいならば確かに高いかもしれない。
 安酒ではない普通の酒の値段が一瓶15~20ナール程度らしいので、それと比べれば安いといった絶妙な値段設定とも言えるかもしれない。

「いらっしゃいませー、えーっと携行水かな? すこしお得な大瓶もあるよー」

 携行水の値札をしげしげと見ていたら、青い髪の店員に声をかけられた。
 おお! よく見たら猫耳少女ではないか!
 話しかけてきた猫耳少女は青いストレートの髪を後ろで簡単に縛っていて、シャツとベストにスラックスといった服装だった。 なんとなく薬っぽい匂いがするな。

「ああ、いや見てただけなんだ」

「あー、そうなの? 冒険者みたいだからてっきり依頼の準備で買いに来たのかと思っちゃったよ、それじゃあ、お目当ての物は魔道具の方かな?」

 魔道具も扱っているのか、ってことはもしかすると錬金術師って魔道具も作るってことなのか。
 どんな物があるのか気になるな、面白そうだし。
 あと、一応アレを確認しておこう。

「そんなところだ、ところでこの携行水って蒸留水だよな?」

「な、なんでそれを!?」
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