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4章 王都

事件はまだ終わらない

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 ナマハゲイオリくんが、ナム・ハーゲィ・ウォリクンとしてモンスターの仲間入りを果たしてから数ヶ月が経過した。
 今俺達は、王子に呪いのアイテムを渡した黒幕を探すべく、行動を開始している。

 お蔵入りしてしまったかのように見えた、事件であったが放置出来ない状況になったのである。

 話は少し遡るが、王子が呪いのアイテムを身に着けさせられ、都市伝説に遭遇するという痛ましい事件のすぐあとに、コリンナ様と急速接近し、何かと一緒に行動するようになった。
 と言っても、王子がコリンナ様に恋心を抱いているとかではなく、コリンナ様の護衛に付いているエーリカに会いに来ているのである。
 どうも、ナマハゲイオリくんこと登録名称ウォリクンとの遭遇でエーリカにヨシヨシされて惚れてしまったようだ。

「エーリカ! 私と結婚してくれ」

「申し訳ありませんわ。 大変光栄ではありますが、王子と私では身分が違いすぎて結婚は無理ですわ……」

 王子のストレートば告白にエーリカは戸惑うばかりだ。

「あれからちゃんとご飯を食べたら歯を磨いているし、夜は早く寝ている。 護衛の言うことだってちゃんと聞いて良い子にしているぞ! 私の何がいけないのだ?」

「ぷふっ……」

 話を聞いていたアリーセが王子の可愛らしい主張に堪えきれずに吹き出した。

「こら、不敬だぞ?」

「そんな事言ったってしょうがないじゃない。 王子と言っても普通の子とあまり変わらないのね」

 アリーセと小声でヒソヒソとやり取りをする。
 身分差で緊張しすぎるアリーセがコンディションポーションも飲まずにそんな事が言えるようになったとは随分と成長したものだ。

 というわけで毎日のようにエーリカの元へ王子がやってくるのだが、周りからするとコリンナ様の所へ通っているように見えるわけである。
 顔を合わせる機会も増えたし、俺の講義にも良く来るようになったので、仲が良くなった事は事実なので、余計にそう見えるのだろう。
 俺の講義を受講して、何か新しい事を憶えたら、こっそり王子の最大MPを1ずつ増やしている。

 そんなある日のこと。

「こんな物がコリンナ様の元に届きました」

 コリンナ様のお付きのヘンリエッテさんが、護衛を全員集め、魔道具で厳重に封印された見覚えのあるミサンガを持ってきた。

「これは、王子が身に着けていたものと良く似ていますわね、イオリさん鑑定をしてみて下さいます?」

「もうやった、多少性能に差はあるが概ね同じ呪いのアイテムだな」

「うえっ!? 呪い!?」

 触ろうとしていたアリーセが慌てて手を引っ込めた。

「呪いが効果を発揮しないようにする魔道具で封印してあるから触ったぐらいじゃなんともないから安心してー」

 ヘンリエッタさんの話によると、朝方コリンナ様の寝室に手紙と一緒に置かれていたそうだ。
 何者かが侵入したような形跡もなく、昨晩の時点では何もなかったそうである。
 コリンナ様の寝室には、俺とワトスンが設置した防犯用の魔道具が多数仕込まれているが、どのトラップ……じゃなかった防犯用の魔道具が作動した形跡が無かった。
 窓枠を踏むと発動するついたらとれない上催涙効果のあるペイント剤の噴霧装置。
 正規の鍵以外でドアを開けると天井から降ってくる重量増加済みの金だらい。
 天井裏と床下に人が侵入すると梁の部分がベルトコンベアーのように動いて股間のあたりまでの鉄柱に高速で突っ込ませ、発射装置に送り込んで外に射出する装置。
 それらをかいくぐって室内に侵入を果たした者には、使いみちが無くなっていた弾丸を非致死性にした12機のセントリーガンがお出迎えをする仕様になっていた。
 ちなみに侵入者だけでなく、火災や大型の地震などの災害時にコリンナ様のベッドを一瞬でアダマンタイト製のシールドで囲みシェルター化する魔道具も設置済みで、これらのトラップのセンサーや主要装置は機械式になっており、魔力感知等を使用しても全く反応は無いように作られている。

 これらの防犯設備をかいくぐり、あたかも関係者がそこに置いていったかのように置いてあったというのは、俺達を驚愕させたのだ。
 プライバシーの問題で監視カメラを設置していなかった事が悔やまれてならない。

 大事がなかったのは、手紙の内容が「恋愛成就のタリスマンです。 身分違いの恋もかなってしまうかも?」等と書かれいたからで、コリンナ様が興味がまったく沸かなかったという点に尽きるだろう。
 恐らく、王子との急接近がきっかけとなったのだろうと想像ができる。
 ここの世間の常識的に考えれば、コリンナ様から身分の高い王子に言い寄って玉の輿を狙っているというように取られても不思議はないのである。
王子のときも同じような感じで「ナマハゲイオリくん避けのお守り」と添え書きがあったそうで、お付の誰かが用意してくれたのだと思って身につけてしまったらしい。
 一回身につけてしまえば、じわじわと体を蝕み、外そうとすれば一気に命を奪いに来るという非常に悪質なアイテムだ。

 この件の黒幕は我々を本気にさせた。
 コリンナ様が狙われた為、ジークフリード様からもギルド経由で「全力をもって完膚なきまでに叩きのめせ」との指示を受けている。

「コレだけ過剰な警備をかいくぐったということは、ある意味それで特定が出来るかもしれませんわ。 今回は呪いのアイテム自体も完全な形で確保出来ましたから、元を辿ることが出くるかもしれませんわ」

「わかった、エーリカはその線から捜査を進めてくれ。 アリーセはコレを置いた犯人の痕跡を探してくれ。ワトスンは防犯魔道具の見直しとセキュリティホールの洗い出しを頼む。 グレイさんとヘンリエッテさんは可能な限りコリンナ様と一緒にいてください」

 なんとなく流れで仕切ってしまったが、とくに不満や異議申し立ては無かった。

「イオリはどうするの?」

「決まってるさ、黒幕を追い詰める準備をする」

「いやそれ黒幕が判明してからでも遅くないから!? 遊ぶ気なら、まず捜査に協力しなさい!」

 アリーセにツッコミを食らってしまった。
 この面子が本気で捜査したらあっという間に黒幕を特定してきそうだから叩きのめす方の準備をしててもいいと思うのだが、解せぬ。

「王子本人や王子に近付いたと思われたコリンナ様に仕掛けて来たってことは、他国とかじゃなくて国内の王位継承権がらみか逆恨みの類いだろ、どうせ」

 そう見せかけて実は……というミスリードを誘う手もあるだろうが、それはまず無いんじゃないかと、俺のドドメ色の脳細胞が囁いている。
 正直なところ、政治的な意味合いではコリンナ様の立ち位置は相当低い位置に居るのだ。
 多少魔法が使えるからと言っても、コリンナ様を排除して得をする者が居ないので、ミスリードを誘うなら、もっとマシな方法がいくらでもある。
 そもそも、殺す気があったなら誰にも気が付かれずに物を置いていける時点で、そのまま暗殺してしまうのが手っ取り早い。

 その辺から、侵入方法になんらかの制約があって直接殺せないのではないかという推測もたつ、実行犯がアリバイ工作を行う為というのも考えたが、身につけるかわからないアイテムを置いておくより、時限爆弾的なものを置いていった方が確実性が高いので、アリバイ工作の線は成り立たなそうだ。

「おーい、コリンナ様の寝室に呪いのアイテムを置いた方法がわかったよー、はい、集まってくださいなー」

「判明早いな!?」

創作開始からまだ数分しかたっていない。

「まあ、単純な話だよー映像の記録を見ただけだからねー」

「いやおまえコリンナ様の部屋には監視カメラは設置してないだろ?」

「そうだよー、だから見たのは寮の外から窓の方を写している監視カメラの記録だねー」

 ああ、なるほど、つまり侵入者は窓から何らかの方法で防犯の魔道具に引っかかること無く侵入してきたってことか。

「見てもらった方が早いねー」

 どっこいしょと、四角い箱に丸い直径25cmくらいのレンズ型モニターがついた
映像再生の魔道具を取り出した。
 再生された映像はフルカラーで解像度も魔法のアシストで非常に高い。
 とても便利な魔道具であるが、単体で使えないことや高価であること、遠見の魔法や偵察の魔法、その他にも代替えとして使える魔法が幾つかあるため、全然普及していない不遇の魔道具だ。

「えーと、この辺からだね。 右の窓の所に現れるよー」

 皆で固唾を呑んで、その瞬間を待っていると、ついに侵入者の姿が映し出された。

「なにこれ?」

「人じゃあないな」

 そこに映し出されて居たのは、背中に何か袋を背負っている真っ白な毛玉から先がふさふさした長い尻尾が生えている生き物だった。
 その生き物は、壁をよじ登って来て細い棒のようなものを器用に使い窓の鍵を開けると室内に侵入し、しばらくすると同じ窓から出てきた。
 背中の袋がしぼんでいるので、あれに呪いのアイテムが入っていたのだろう。
 この生き物が小さかったため、人が踏む前提で作られた防犯用の魔道具が反応しなかったようだ。

「使い魔を使ったようですわね」

「使い魔?」

「魔法で契約して使役をするモンスターですわ。 見たところあれはクレバーファーラットですわね。 戦闘能力は殆ど無く少々どんくさいのですが、知能が高く器用なので使い魔として使い勝手の良いモンスターですわ」

 なるほど、確かに外から窓の鍵を開けたり、こっそり荷物を部屋に置いてきたりとしているな。

「窓の鍵を外から開けるほど器用で頭の良い使い魔は非常に稀ですから気が付きませんでしたわね。 しかし、使い魔が居たということでしたら、まだ魔力の残滓から追跡ができそうですわ」

 ほらな、俺が何もしなくても捜査開始数分で尻尾を掴んじゃったよ。
 アリーセにほら見ろって顔を向けたら無言でハリセンのスマッシュを食らわされた。
 
 非常にいい音がしたことも含めて不条理である。
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