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5章 エルフの森

謁見

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「ここって人手不足か何かなのか?」

 と思わずメイドさんに訪ねてしまった。
 その手にはピンクのハンドスピナーがクルクルと回されている。
 仕事しろ。

「いえ、決してそういうわけでは無いのですが、なんと言いますか、そのー、グレードがありまして……」

 俺が誠意(形の違うハンドスピナー)を見せると、言い難そうに、メイドさんが語ってくれた。
 その話によれば、何やら等級のようなものが決められていて、例えば他国の使者であれば、10人程度の使用人が付き、スパイ行為等の見張り等に20人ほどの人員を使って裏で見張ったりするそうだ。
 コリンナ様の時は一応王族ということでこれの数倍くらいの人員が割かれたようだったが、俺には表も裏も含めて1人だけ、つまり右手にピンクのハンドスピナー、左手に6枚羽の光るハンドスピナーをクルクル回しているメイドさんだけだったわけだ。
 しかも新人という、徹底したグレードの落としっぷりだ。
 仕事しろ。

「つまり、つける人員の数とか質で、身の程を知れって、暗に付して言っているわけだ」

「えーと、はい、そうなりますね。 申し訳ありません……」

 なんか、物凄く申し訳なさそうにしているが、まだハンドスピナーは回しているので、微妙に説得力は無い。
 文化の違いなのか、自信があるからのかは知らないが、流石に新人一人しか付けないってのは、不用心も甚だしい。
 自爆テロ的な事を狙っていたらどうするつもりだったんだろうか?
 まあ、向こうが呼び出してるわけだし、ある程度身辺調査くらいはしたのかもしれないが、見張りの兵士も居ないってのは舐めすぎだろう。
 待ち時間が長すぎて、今はぐっすりと寝てしまっているが、マルを諜報に送り出す事だって容易に出来そうである。

「もしかして、あえて何かやらかすように誘っているとか?」

「どうなんでしょう? でも、諜報の類も含めて、ここの警備って、一度も破られた事が無いので、あっと言う間に捕まりますよ? わ、私だって、こう見えましても中央勤務のメイドですから、なにかされるようでしたら制圧させて頂きますよ!?」

 ほほう、つまり「舐めプ」ってやつだな。
 目の前のハンドスピナーメイドを鑑定解析したステータスを見て確信する。
 確かに一般人よりは強いと思うが、俺が制圧される事もないって程度のステータスだ。
 別口で気になることはあったが称号等にも邪神絡みっぽい物はなかった。

「ところで、名前を聞いても? 知ってると思うけど、俺はイオリ・コスイだ」

 もう解析をしたので知っているが、気になったので確認を取ることにした。

「あ、これは失礼しました、私は紺碧の森のヘンナパンツと申します」

 そう、気になったのは、この名前である。
 一瞬冗談かと思ったが、本当にヘンナパンツと言うらしい。
 翻訳されても固有名詞はそのままだから、日本語的におかしくても、エルフ語かなんかでは別の意味があるのだろうとは思う。
 微妙な顔になってしまいそうである。

「えーと、我々の国では名前を略すのは親愛の意味があるんだけど、ヘンナさんと呼んでも?」

「あ、はい、問題ありません」

 翻訳のミスでこっちの言葉で「パンツ」に訳されてしまったら、色々と問題がありそうだし……。
 名前のインパクトに気を取られてしまったが、どうせ見張ってるなら、ココで暇つぶしに付き合ってくれと言って、その後も暫し雑談をした。
 話していてわかったことは、最初は上からの指示で、見張りを多目にするように指示があったそうなのだが、通例から外れて特別視する事は、沽券に関わるとかなんとかで、通例通りの他種族の平民を呼び付けた場合対応となったのだとか。
 邪神絡みの連中が紛れ込んでいるのは確かっぽいけど、掌握まではしていないってことか。
 しかし、追加でトランプとかもあげたとはいえ、裏情報っぽいことをポンポンと俺に喋ってしまってこのメイドさんは大丈夫なのだろうか?
 やっぱり、わざと偽情報を俺につかませる罠という可能性も……。

「ないな、白か」

 どう見ても、このメイドさんはポンコツっぽい。
 俺をハメようとしているなら、もっと別の手段を取るだろう。

「え!?」

 おれの呟きが聞こえたのか、慌ててスカートを抑えて一歩下がる、ハンドスピナーメイドさんのヘンナパンツ。

「そーじゃねーよ! 別に下着を覗いた訳じゃないからな!? こっちに悪意を持ってたのかそーじゃないかの白黒だよ!! ギルティ オア ノットギルティ おーけー?」

「お、おーけー?」

 なんとなく、疑いの目を向けてくるヘンナパンツだったが、微妙な空気に場が支配されるよりも早くノックの音が聞こえ、謁見のお呼びがかかった。

「やっとお呼びか」

「では、私の後についてきてください」

 案内までヘンナパンツが担当するようだ。
 徹底してるな。

「俺、エルフの礼儀とか知らないけど大丈夫かな?」

「その種族または国で、知っている最大の敬意を示す方法で大丈夫ですよ、おそらく、謁見の間に入ったらそういった旨の声がかけられると思いますので、指示に従ってください」

 なるほど、人種どころか種族も異なるとなると、そういう対応をするんだな。
 ある意味合理的だが、エルフにとって侮辱的な行為が、アメリカ人に中指立てるみたいに、その種族の最大の敬意払う行為だって場合はどうなるのだろうか?
 試してみたい気がするな。
 エルフに対する侮辱行為を知らないけど。

 さほど歩くことなく、なんか装飾過多でデカくて立派な扉の前たどり着いた。
 両サイドに衛兵が立っている。 こう言うのはどこもあまり変わらないのかもしれない。
 扉の前に立つように促され、素直にそこに立つと、寸分違わぬ動きで衛兵が扉の取っ手に手をかけ、寸分違わぬ動きで扉を開け放った。
 謁見の間は、思ったほど広くはないが、左右に一段高い座席が並んでおり、まばらに偉そうな雰囲気のエルフが座っている。
 正面にはさらに高くなった所にアンティークな風合いの背もたれの大きな玉座が備え付けられている。
 エルフの王はまだ見当たらないので、たぶん最後に来るパターンなのだろう。
 謁見の間と言うより裁判所みたいな配置だな。

「中央にて汝の住まう地での最大級の礼をもって王をむかえよ」

 玉座の脇に居た、偉そうな総白髪のじーさんがよく通る声でそう言った。
 最大級とか言われたらアレしかないよな。
 俺は謁見の間の中央にある、ここに立てと言わんばかりの円形の模様の辺りに膝をつくと、おもむろに、腕を前に投げ出し、うつ伏せに寝そべった。
 そう、土下寝……じゃなかった。 五体投地である。
 周囲がざわりとする。

「……い、一応の確認だが、それは礼なのだな?」

 五体投地を知らないのか、さっきのじーさんから、ちょっと戸惑った声がかけられた。
 ぶっちゃけ、俺的には悪ふざけの一環であるが、五体投地を知らないとは、エルフも大したことは無いな。

「両膝、両腕、頭を地につけ、最大限自らを低い位置に置くという、五体投地礼と言います。 最高礼なのですが、ご存知ありませんでしたか?」

 頭だけヒョコッと上げて、偉そうなじーさんに向かって怪訝な顔を向けてみる。
 頭をあげたついでに、こっそり解析ツールを向けてみたが、このじーさんに、おかしな称号などは無かったので髪と同じく白だろう。
 シルクハット内の解析ツールのウインドウが眩しかったのか、寝ていたマルがもぞもぞと動いていたが、すぐにまた微かな寝息が聞こえてきた。

「そ、それであるならば、構わぬ、王が入室なされる。 控えて迎えられよ」

 微妙に引きつった顔だったが、納得して貰えたようなので、頭を伏せて待つ。
 扉が開けられる音とその後に続く足音が聞こえてくる。
 えーと、ご機嫌麗しゅうとかはどのタイミングで言えば良いのだろうか?
 座った様な音が聞こえたので、このタイミングで言うのが最高礼ですよーって事でいいか。

「陛下に於かれましては……」

 寝そべったまま、ゴロゴロと左右に転がりながら、挨拶を述べると、場内がまたざわざわとしだした。
 本当に最高礼なのか疑われているような声が聞こえてくる。
 ナイジェリアでは常識らしいのに失敬な奴らだ。
 テレビで得た知識なので本当かネタなのかは不明だがな。
 転がるついでに、玉座の方に目を向けると、刺繍がやたらと入った若草色のローブに、複雑に蔦が絡み合ったようなデザインの木製の冠を頭に乗せた、30半ばくらいのスマートな体型の神経質そうなエルフが口元をひくつかせて、こちらを見ていた。
 すかさず解析ツールで見てみる。

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名前:千面のバルバス
種族:シェイプシフター
年齢:48歳
レベル:89

HP:3468/3468
MP:4043/6752
スタミナ:2674/2987

筋力:1065
敏捷:1522
知力:2360
器用:1024
体力:1425
魔力:2978
頑健:1326
精神:2988

物理攻撃力:867
魔法攻撃力:2980
物理防御力:767
魔法防御力:2571

称号:邪神の使徒 千の姿を持つもの 傲慢 

スキル
 パッシブ:共通語
     :魔法障壁  LV2
     :物理障壁  LV1
     :HP自動回復 LV1
     :MP自動回復 LV1

 アクティブ:シェイプチェンジ LV 8
       上級魔法 LV2
       中級魔法 LV4
       初級魔法 LV9
各種コード     
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黒だ真っ黒! エルフの国乗っ取られとるやん!?
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