【完結】【R18】幼妻は寡黙な最強軍人夫に初夜されたい

魯恒凛

文字の大きさ
5 / 26

5.帰還パーティー

しおりを挟む
 アランたちが帰ってきてから数時間後。

 ラーゲルレーヴ邸の大ホールでは帰還パーティーの名の元に大宴会が始まっていた。上座にはアランのほか側近のパウロや上官たちが座り、部下たちがジョッキを片手に代わる代わる乾杯に訪れる。
 甲冑を脱いだアランは彫刻のように整った顔立ちで、その姿はまるで神話に出てくる戦の神が具現化したかのよう。力強さと美しさを兼ねそろえるアランの容姿と威厳を、部下たちは我がことのように誇りに思い、慕っていた。
 普段なら話しかけるのも恐れ多いアランだが、酒の勢いもあり部下たちが突撃する。

「アラン様! どうやったらアラン様のように強くなれますか」
「……」
「鍛錬に次ぐ鍛錬だ。精進しろよ」

「アラン様、今度手合わせをお願いします……!」
「……」
「百万年早い。もっと剣術を磨いてから来い」

 アランの代わりにパウロが発破をかける。多くの部下が撃沈しつつも上機嫌で戻る中、パウロがため息をついた。

「……アランやアラン。おまえも少しは相手をしてやれ。無口にもほどがある」
「アラン様。落ち着かないようですが、どうされましたか?」

 眉間にしわを寄せたアランが周囲を見渡しながら答える。

「……俺の妻は?」
「あ~! そういえば、おまえって結婚していたんだったな!?」
「そうでした! アラン様の奥様はどこにいらっしゃるんだ?」

 パウロたちもあたりを見渡してみるが、華やかなドレスを着て会場を取り仕切っているのはブリタのみ。
 本来はシャルロッテがいておかしくない立ち位置なのだが、事情を知らない者がこの光景を見たら、ブリタがアランの妻のように見えるだろう。

「う~ん。会場にいるのはブリタ以外、みんな使用人のようだな。奥様も顔くらい出した方がいいんだが……」
「あっ、ライトマン! ちょっと来てくれ。アランが聞きたいことがあるそうだ」

 通りかかった家令がテーブルに近づく。

「アラン様、お食事やお飲み物は足りていらっしゃいますか」
「ああ。……で、俺の妻はどこだ?」
「ええっ!? まだこちらにいらしていませんか? 挨拶をするんだと朝から張り切っていらっしゃいましたのに……少々お待ちくださいませ。会場にはいらしていますから探してまいります」

 ライトマンの背中を見送ると、酔った面々がアランをからかい始めた。

「幼妻に会うのは7年ぶりか。小さくてぽっちゃりしていて転がりそうな……げほげほ、んんっ! 愛らしい子だったなぁ。18歳になったのか?」
「どれどれ……、ふくふくしいご令嬢はどこにいるかな?」
「……」

 そのとき、会場を見渡すアランの目に、屈強な男たちの間をくるくると抜けながら給仕を行う、ひとりの使用人が映った。
 じっと見つめるアランに気づき、パウロたちも視線を追う。

「おっ! あの子かわいいな。なんだ、アランはボンキュッボンのセクシー系が好みかと思いきや、案外あんな清純派がタイプか」
「少し小柄だが、女性騎士並みに運動神経が良さそうだ。あの溌剌とした美少女は将来絶対男を泣かせるぞ、賭けてもいい。いや、それにしても働き者だな」

 ひとつに束ねた髪が忙しそうに揺れ、あちこちに笑顔をふりまく美少女。長いまつげに縁どられた瞳と楽しそうな表情が印象に残る。

「はい、どうぞ~! あ、その空いたジョッキ、いただきますね。食べ物は足りていますか? あら、すぐお持ちしますね!」
「よっ」っという掛け声とともに、華奢な両手に3つずつジョッキを持っては次々と男たちに渡し、空いた皿を手際よく片付けたと思ったら、厨房から届く料理を実に効率よく運んでいく。
 酔った軍人たちに絡まれ怯えている給仕、一緒に座って話し込む侍女も多い中、にこにこしながら働く少女は好感度が高い。人の2倍も3倍も動いているように見える。
 そのうち、ライトマンに話しかけられた美少女がアランたちの元へやってきた。

「お飲み物のおかわりをお持ちしましょうか? 何か必要なものはありますか?」
「君、かわいいねえ。いくつ? 今晩どう? お小遣い、弾むよ?」
「?」

 首をかしげる美少女に、男たちのテンションが上がる。

「く~! 田舎から出てきたばかりってやつか? 何のことかわからない? そうかそうか、お兄さんたちがいろいろ教えてあげるよ」
「街の酒場から寄こされた手伝いかな? どこの店の子?」
「あの、勉強不足でいろいろ教わりたいのは山々ですが、今晩は大切な用事があるのですみません」

 困ったように笑う少女を男たちが冷やかす。

「デート? 帰還兵の中に彼氏か婚約者がいるの? そっかあ、今晩は貪られちゃうんだろうなあ」
「むさぼる?」
「娼婦がいた街もあったが、軍はずっと禁欲生活だったからな……君は小柄だから壊れないかお兄さんは心配だよ」
「しょーふ、ですか?」
「血の気が収まらない時は性欲も高まるから、男は欲を吐き出すために……って、何を言わせるんだっ」
「青臭いガキなんてやめて、俺はどう? 大人の魅力をその体にじっくり教えてあげるよ」

 笑い声の中、何をむさぼる?と考えていた美少女はにっこりほほ笑んだ。

「私は結構です。今晩はアラン様と寝るので、大人の魅力はアラン様に教えてもらいますね」
「「「……え?」」」

「おかえりなさいませ、アラン様。7年ぶりですね」
「「「……」」」

 恐る恐るアランへ振り向いた面々の目に、瑠璃色の瞳が揺れる様子が映った。敵に奇襲された時すら、誰一人として動揺しているアランを見たことはない。

「もしかして、シャルロッテ……か? あ、ああ、今帰った。いや、今じゃないが……と言うより、ずいぶんほっそりしたんだな。いやいや、そんなことより、おまえはここで何をしているんだ? なぜ給仕をしている?」
「口数多っ! 今日一番話してるんじゃないか?」

 アランの横に座っていたパウロが驚く。帰還パーティーの始まりの挨拶より長い言葉だ。シャルロッテは、アランが不機嫌になった気がして慌てた。

「え? 帰還パーティーの給仕をお手伝いするのは妻の勤めではないのですか?」
「……今すぐ部屋へ戻れ」

 弁明に被せられた怒気を孕んだ声に、シャルロッテは眉を下げた。

「はい……それでは失礼します」

 ぺこりとおじぎをして去っていく背中を、皆が呆然と見つめた。心なしか、後ろ姿がしょんぼりしている。

「ア、アラン……幼妻が、すっかり大人の女性になっているじゃないか!」
「シャルロッテちゃんって、あのまん丸だったシャルロッテちゃんだよな……? めっちゃスタイル良くなってんじゃん! しかも正当派美人! 透明感が過ぎる! 汚れた俺が喋っていいのか!?」

 マスコット的存在だったのに、思いがけず美しく成長したシャルロッテに、男たちはむず痒くなった。
 ここ7年で接していた女性といえば、男の扱いに慣れた娼婦ばかり。お日様の香りがしそうなシャルロッテがまぶしすぎた。

「に、してもだ。アラン、あの言い方はない。奥様はきっと傷ついたぞ?」
「そうだぞ? おまえ、あとでしっかりフォローしとけよ? ……初夜だもんな」
「……」

 アランの眉間がぴくりと動いたが、無言でジョッキを傾ける。そこへ、ブリタがやってきた。

「飲んでる? は~疲れたわ。ちょっと詰めて」

 ブリタはアランの横へ強引に割り込むと、ここが自分の位置だとでも言うように陣取った。パウロや上官たちとも顔なじみのブリタ。酒も入ったこともあり、場が盛り上がる中、アランは先ほど目にしたシャルロッテを思い出し、密かに動揺していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...