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第127話 サトナカハイ

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「は?なんだよそれ」

ファミレス内に佐藤の声が響き渡った。

バイクの写真を見てオレたちもバイクチームを作ろうなどと言っていた佐藤だったが、第二回長渕ナイト開催、順次矢沢ナイト開催決定を告げると声を上げた。

「声が大きいよ佐藤」
「オレ、行かねえぞ」
「なんでだよ佐藤。強制参加だよ。オレも出るんだから」
「ふざけんな。中田が参加するのは勝手だけどオレはイヤだよ」
「どの口がそんな事言うんだよ」

中田が佐藤の口を指で挟んだ。

「イタタタタ。やめろって。いや、だってさ」
「元はと言えばこんなクレイジーナイトが開かれるようになったのはオマエの責任だろ」
「それは……そうだけど」
「オレたちはあの時ちゃんと付き合ったよな」
「そ、それはそうだけど……」

一年ほど前、ひょんな事から佐藤が中田の兄貴の怒りを買った。
佐藤は謝りに謝ったが中田の兄はヘソを曲げてしまった。
そこで佐藤が提案したのが長渕ファンでカラオケ好きの中田の兄貴に、ただただ気持ちよくなってもらおうという長渕ナイトだったのだ。
中田の兄貴の機嫌は直ったのだが、ナイト開催から数日間、四人の頭の中で長渕の楽曲が中田兄の歌声で何度もクルクル再生されるという地獄の症状に見舞われた。

「で、佐藤、どうするって?」

中田が腕組みをしてメンチを切った。

「中田、オマエその顔すると兄貴にそっくり。行きます。参加させていただきます」
「よし」
「ワリぃな、佐藤」
「いいよ。マジハイの為だろ。…んじゃ、課題やろうぜ」




数時間後。
テーブルには空になったグラスがいくつも並んでいた。

「あ~疲れたオレもう限界」

テーブルに突っ伏して佐藤が言った。

「ダメだ。頑張れ佐藤。オマエはとりあえず、英語のプリント問題と問題集の答え、今日中に全部写しちゃえ」
「いやいや、そんな急がなくても。借りてって明日ぐらいまでいいじゃん」
「いや、オレも写さないとだし」
「まだ夏休み終わるまで三日もあるんだからさ。そんなに急がなくても間に合うって」

佐藤はあくびをすると「オレ帰るわ」とテーブルの上に広げた教科書やノートを集め始めた。

「それじゃダメなんだよ」
「なんでだよ。なんでそんなにピッチ上げて課題やんなきゃなんないの。大丈夫だって」
「それじゃダメなんだよ!真島と……」

灰谷の思いがけず強い語調に佐藤と中田は驚いた。

「真島と?」
「いや……」
「なんだよ灰谷、言えよ」

中田がうながした。

「そうだよ言えよ」
「……実はオレ、真島と色々あって…」
「え?何なに?色々って何?」

佐藤の目が好奇心に輝いた。

「佐藤、黙って聞け」
「おう」
「まあその、くわしくは言えないんだけど色々あって。真島とこの夏、全然遊んでないんだよ。で、せめて夏休みの最後に一日でもいいから真島と、オマエらと。サトナカマジハイでガツンと一緒に遊びてえなあって」

中田と佐藤は顔を見合わせた。

「それで急いでたのか。なんだよ早く言ってくれよ。オレだけがワガママ言ってるみたいじゃん」
「ワリぃ」
「そうだな灰谷。課題パパッと終わらせて、遊ぼう」
「おう。そうしよう。でもな真島が帰ってこないと、あいつの分だけ終わらないぜ」
「……」

中田が佐藤を肘で突き、それ以上言うなと目配せした。

「そうだ。オレに秘策がある。古文の予習さ、写すより本文コピーして、ノートに貼って、そこに書きこんで行った方が早いと思うんだ」

佐藤は具体的な提案をした。

「あ、それいい」
「佐藤頭いい」
「そんな事あるけどさ。じゃあオレ、コピーしてくるわ。で真島の分はノートも買って来て、貼っとけばいいよ」
「お~さすが佐藤、サエてるねえ」
「佐藤はやるヤツだよ」

中田と灰谷は褒めそやした。

「だろ~。あ、灰谷チャリ貸して」
「おう」
「あと金くれ。結構コピー代かかるだろ」

みんなでお金を出し合った。

「ほいじゃ行ってくるわ」
「頼むな」

教科書抱えて佐藤が出て行った。

「中田、ありがとな」
「何が。オレだってみんなでドカンと遊びてえよ」
「おお」
「さあ、飛ばそうぜ」

ホントにこいつら最高だな。

灰谷は思った。
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