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第六部屋 幼馴染妹、暴走(中編)
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◇
沈黙が長く続く空間。もう五分以上もにらめっこを繰り返しているような気がする。それでも、俺から言葉を発しても何か返事がくることはないし、ただ開いたドア付近で彼女はずっと俺の顔を睨み続けている。
えぇ……。さっさと帰ってほしいんですけど。
俺はね、君の姉にされたことが影響して、悶々としているんですよ。そしてその悶々を晴らすために賢者へと近づくことを余儀なくされているわけで。さっさと処理できるなら処理してしまいたいのですが……。
……ってそんな言葉を吐いても、彼女はこの部屋からはいなくなってはくれないんだろうな。いや、色々な意味でいなくなってはくれるかもしれないけれど、その時は俺の死が確定してしまったか、もしくは永遠に藍里ちゃんと会話をする機会を失ってしまうかだ。
流石に中学生の子に対して刺激が強めの発言をするわけにもいかない。ほら、年齢が年齢だしね? 多感だろうからさ、そこは紳士としてきちんと振る舞いますとも。
「え、ええと、あの、俺、勉強をしたくてですね……」
心の底から嘘をついてみた。彼女を思うがための嘘を呟いてみた。いや、これはしょうがない。人生全部勉強と復習っていう言葉もあるくらいだし、なんなら嘘はついていないような気がする。まあ? それが保健体育とかそこらへんに関する事柄ではあるけれど、それはともかくとして、俺はある意味で勉強をしたいのですよ。はい。
俺が藍里ちゃんにそう言うと、ぴく、と眉が動いた。動いたけれど、それでもそれ以上の反応は何も返ってこない。
え、ええと? これはそのまま保健体育の勉強をしろっていう合図……? まあ、そんなわけはないよね。わかっていますとも。というか本当に早く帰ってよ。もう俺限界なんですよ。
「俺、あれ、あれなんだよ。勉強、一人でやらないと集中できないタイプだからさ。そ、その、ね? これを言うのは忍びないけど、か、かえってくれない、かな……?」
埒が明かないから、もう直接的に言葉を選んでみた。実際、保健体育の勉強云々とかは関係なく、今の俺は一人になりたい気分なのです。藍里ちゃんには申し訳ないけれど、ともかくここは彼女には帰ってもらって──。
「──な、なんでドア、閉じないんですか」
「へ……? 開けたの藍里ちゃんじゃん……?」
彼女が何を言っているのかわからなくてそう返した。
彼女はずっとドア近くで仁王立ちでいて、そのまま俺を睨み続けている。そんな状況。もともとドアは閉じられていたけれど、片づけをし終わった段階で彼女がいきなりドアを開けてやってきたわけでして、その開閉の自由は藍里ちゃんの手に委ねられているような気がする。
……ああ、そうか。暑いもんね。未だに冷房つけられてないし。
「わ、わかった。今から冷房つけるからさ、ドア閉めてくれないかな?」
とりあえず俺は妥協案というか、彼女をなだめる目的でそう言葉を返してみる。ドア開けたまんまだと廊下から温い空気が入ってくるもんね。それを見越してそんなことを言ってきているんだよね。はいはい、多感な時期の子って言うのは難しいね──。
「──わ、私から閉めろって言うんですかっ!! そ、そんな……、変態ッ!!」
「なんで!?」
もうヤダこの子。今日何を言っているのか本気でわからないよ……。いつもなら賢いのに……。……朱里よりかは。
わかんない、全部わかんない。ええと、どうすればいいんだろう。俺からドアを閉めればいいの? あれか、あれなのか? 客人としてもてなせ、ってことなんか? そういうことなんか? だから客人にいちいち扉を閉めさせるんじゃないよって、そういうので怒っている感じ? そんないきなりのマナー教室が始まってたりします?
「……わかったよ。じゃあ、ちょっと待ってね。エアコンのリモコンを探してからドア閉めるから、それでいい──」
「──い、いいわけないでしょ! きょ、許可をこちらに求めないでくださいよ!! そうやって私から合意を得ようとしても無駄なんですからねっ!」
「だから何が?! さっきから藍里ちゃんの言っている意味がわからないんだけど!?」
さっきから閉めろって言ってきたり、それで閉めてってお願いしたら変態ってキレられるし、じゃあ俺が閉めるって言ったらなんか大声で言ってくるし。
なにこれ、本格的マナー教室、本当に始まってる? 相手をもてなすことを俺がしなきゃいけないの? え、面倒くさい。なんで唐突にこんなことを始めなければいけないんですか。
でもまあ、ここは年上として彼女に紳士である部分を見せなければいけないような気もしてきた。まだ俺も子どもと数えていい身分だけれど、藍里ちゃんと比べれば一回りは年上なわけだしね。大人の余裕、常識のある行動、マナーに従った振舞いっていう物を見せつけてやりますよ。……心の底から面倒くさいけどね。
「はいはい、わかりましたよ。とりあえずお茶汲んでくるから、ベッドで座ってお待ちいただければ──」
「──へ、変態が淹れるお茶なんて飲むわけないでしょぉ!!」
「俺どうすればいいのかなぁ?! 本当に訳が分からないんだけど!!」
せめてなんか命令とかさ、してほしいこととか、してほしくないこととかを言葉で明確にしてほしい。なんか、彼女の気持ちを察してこちらが行動をしようとしているのに、その全部が地雷みたいな扱いをされてるしさ。
「きょ、今日の藍里ちゃん、なんかすごくおかしいよ? どうしたの本当に! 俺がなんかやらかしたのなら謝るから教えてほしいんだけど!」
もう耐えきれなくなって、いつもであれば怖がってしまう言葉もそのまま素直に吐いてみる。
いつもだったらそんな俺の言葉につっかかってくるはずだが、やはり今日は様子がおかしい。藍里ちゃんはそんな俺の言葉に、一瞬だけ、こく、と頷いた後に、俺の目を見据えて、これまた憎々しげに言葉を吐く。
「──わ、わたしの処女、返してくださいよぉ……!」
「────」
──この子は何を言ってるんだってばよ。
俺はその言葉に、なおさら沈黙を貫いて思考を続けることしかできなかった。
──────────────────────────
彼女は何を思ってその部屋にいるのでしょうか。そして彰人に何を求めているのでしょうか。
次回、真相編(?)! ……いや、真相は次々回の方がわかるかも?
沈黙が長く続く空間。もう五分以上もにらめっこを繰り返しているような気がする。それでも、俺から言葉を発しても何か返事がくることはないし、ただ開いたドア付近で彼女はずっと俺の顔を睨み続けている。
えぇ……。さっさと帰ってほしいんですけど。
俺はね、君の姉にされたことが影響して、悶々としているんですよ。そしてその悶々を晴らすために賢者へと近づくことを余儀なくされているわけで。さっさと処理できるなら処理してしまいたいのですが……。
……ってそんな言葉を吐いても、彼女はこの部屋からはいなくなってはくれないんだろうな。いや、色々な意味でいなくなってはくれるかもしれないけれど、その時は俺の死が確定してしまったか、もしくは永遠に藍里ちゃんと会話をする機会を失ってしまうかだ。
流石に中学生の子に対して刺激が強めの発言をするわけにもいかない。ほら、年齢が年齢だしね? 多感だろうからさ、そこは紳士としてきちんと振る舞いますとも。
「え、ええと、あの、俺、勉強をしたくてですね……」
心の底から嘘をついてみた。彼女を思うがための嘘を呟いてみた。いや、これはしょうがない。人生全部勉強と復習っていう言葉もあるくらいだし、なんなら嘘はついていないような気がする。まあ? それが保健体育とかそこらへんに関する事柄ではあるけれど、それはともかくとして、俺はある意味で勉強をしたいのですよ。はい。
俺が藍里ちゃんにそう言うと、ぴく、と眉が動いた。動いたけれど、それでもそれ以上の反応は何も返ってこない。
え、ええと? これはそのまま保健体育の勉強をしろっていう合図……? まあ、そんなわけはないよね。わかっていますとも。というか本当に早く帰ってよ。もう俺限界なんですよ。
「俺、あれ、あれなんだよ。勉強、一人でやらないと集中できないタイプだからさ。そ、その、ね? これを言うのは忍びないけど、か、かえってくれない、かな……?」
埒が明かないから、もう直接的に言葉を選んでみた。実際、保健体育の勉強云々とかは関係なく、今の俺は一人になりたい気分なのです。藍里ちゃんには申し訳ないけれど、ともかくここは彼女には帰ってもらって──。
「──な、なんでドア、閉じないんですか」
「へ……? 開けたの藍里ちゃんじゃん……?」
彼女が何を言っているのかわからなくてそう返した。
彼女はずっとドア近くで仁王立ちでいて、そのまま俺を睨み続けている。そんな状況。もともとドアは閉じられていたけれど、片づけをし終わった段階で彼女がいきなりドアを開けてやってきたわけでして、その開閉の自由は藍里ちゃんの手に委ねられているような気がする。
……ああ、そうか。暑いもんね。未だに冷房つけられてないし。
「わ、わかった。今から冷房つけるからさ、ドア閉めてくれないかな?」
とりあえず俺は妥協案というか、彼女をなだめる目的でそう言葉を返してみる。ドア開けたまんまだと廊下から温い空気が入ってくるもんね。それを見越してそんなことを言ってきているんだよね。はいはい、多感な時期の子って言うのは難しいね──。
「──わ、私から閉めろって言うんですかっ!! そ、そんな……、変態ッ!!」
「なんで!?」
もうヤダこの子。今日何を言っているのか本気でわからないよ……。いつもなら賢いのに……。……朱里よりかは。
わかんない、全部わかんない。ええと、どうすればいいんだろう。俺からドアを閉めればいいの? あれか、あれなのか? 客人としてもてなせ、ってことなんか? そういうことなんか? だから客人にいちいち扉を閉めさせるんじゃないよって、そういうので怒っている感じ? そんないきなりのマナー教室が始まってたりします?
「……わかったよ。じゃあ、ちょっと待ってね。エアコンのリモコンを探してからドア閉めるから、それでいい──」
「──い、いいわけないでしょ! きょ、許可をこちらに求めないでくださいよ!! そうやって私から合意を得ようとしても無駄なんですからねっ!」
「だから何が?! さっきから藍里ちゃんの言っている意味がわからないんだけど!?」
さっきから閉めろって言ってきたり、それで閉めてってお願いしたら変態ってキレられるし、じゃあ俺が閉めるって言ったらなんか大声で言ってくるし。
なにこれ、本格的マナー教室、本当に始まってる? 相手をもてなすことを俺がしなきゃいけないの? え、面倒くさい。なんで唐突にこんなことを始めなければいけないんですか。
でもまあ、ここは年上として彼女に紳士である部分を見せなければいけないような気もしてきた。まだ俺も子どもと数えていい身分だけれど、藍里ちゃんと比べれば一回りは年上なわけだしね。大人の余裕、常識のある行動、マナーに従った振舞いっていう物を見せつけてやりますよ。……心の底から面倒くさいけどね。
「はいはい、わかりましたよ。とりあえずお茶汲んでくるから、ベッドで座ってお待ちいただければ──」
「──へ、変態が淹れるお茶なんて飲むわけないでしょぉ!!」
「俺どうすればいいのかなぁ?! 本当に訳が分からないんだけど!!」
せめてなんか命令とかさ、してほしいこととか、してほしくないこととかを言葉で明確にしてほしい。なんか、彼女の気持ちを察してこちらが行動をしようとしているのに、その全部が地雷みたいな扱いをされてるしさ。
「きょ、今日の藍里ちゃん、なんかすごくおかしいよ? どうしたの本当に! 俺がなんかやらかしたのなら謝るから教えてほしいんだけど!」
もう耐えきれなくなって、いつもであれば怖がってしまう言葉もそのまま素直に吐いてみる。
いつもだったらそんな俺の言葉につっかかってくるはずだが、やはり今日は様子がおかしい。藍里ちゃんはそんな俺の言葉に、一瞬だけ、こく、と頷いた後に、俺の目を見据えて、これまた憎々しげに言葉を吐く。
「──わ、わたしの処女、返してくださいよぉ……!」
「────」
──この子は何を言ってるんだってばよ。
俺はその言葉に、なおさら沈黙を貫いて思考を続けることしかできなかった。
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彼女は何を思ってその部屋にいるのでしょうか。そして彰人に何を求めているのでしょうか。
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