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第七部屋 何もない一日、からの……⑥
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◇
教室からの物騒な声を置き去りにして、俺と朱里は一緒に学校から出て行った。彼女は俺に対する周囲の視線に気づいていなかったから、るんるん、と鼻歌を歌いながらゆっくりと歩いていたけれど、流石に視線の圧に耐えられなかったので手を引くことで迅速に対応した。
なんだよ、のこぎりとかとんかちとかドリルって。日曜大工で何を作るつもりなんだよ。
そんな彼らの言葉を一部思い出しながら、そうしてようやく出ることのできた校門の先。俺はこれ以上は流石に手を引く必要もないな、と思って朱里の手を離してみる。まあ、それ以上に色々なことがあって手汗が滲んでいる。そんな手の感触で彼女に不快感を覚えさせたくなかったから。
「あ……」と残念そうな声を出す朱里。それを聞いて察することのできる自分もいる。もしかして手をつないでいたかったのかな? とか思いはするけれど、それはそれとしてこういう察しはうぬぼれに近いところで発生している可能性だってある。だから、俺から行動をすることはしな──。
「──手、つないでくれないの……?」
「──繋ぎます、繋がせてください」
……いや、きちんと言葉にされたら流石に行動しますとも。うん。だって、人の気持ちがわからないからこそのうぬぼれだと思っていたわけなので、それが違うっていうのなら二の一番に手を繋ぎますとも。
そんな惜しむような彼女の声に耐えられなくて、離した手を一瞬で取り戻す。夏という環境下、こんなに暑いのに手なんて繋いでいても意味なんてないよな、なんてことを思いながらも、それでも彼女の手のひらの温もりを自分の手に反芻する。
朱里の手、さっきは気づかなかったけれどぷにぷにしてて柔らかいな……?
もう夏だとかそういうことはどうでもいいや、と俺は自分自身を納得させながら、そうして二人で一緒に帰路へとついていく。
◇
朱里はどこまでも楽しそうにしていて、繋いでいる手をぶんぶんと前後に振り回すようにしている。なんとなく大繩大会で縄として回されているような気分。そんなくだらないことを考えながら、この先に待ち受けているであろう災いに対しての覚悟を新たにした。
一応、さっき彼女には謝ったけれど、それでも俺が謝罪した内容で朱里は怒っていないようだった。執拗に二の腕の感触を味わったことは相応にセクハラに該当するよな、とそれなりに自覚はしていたので、それ以外に思い当たる節なんてなかったのだけれど、それでも二の腕の件で怒っていないというのであればどのような案件で怒っているというのだろう。
日中に考えていたパジャマや歯磨きについての考察によれば、とりあえず俺はこの後生き埋めにされる、ということが大方決まっていると思うのだけれど、そんな予感を打ち消すくらいに隣にいる朱里は「ふふふーん♪」と適当な鼻歌を奏でながら楽しそうにしている。……いや、それほどまでに俺を生き埋めにするのが楽しい、ということなのだろうか。
「何がそんなに楽しいんだ……?」
俺が彼女にそう聞いてみると、繋いでいる手をぶんぶんと回しながら朱里は「んー?」と爽やかな笑顔を返してくる。
「だって、だって久しぶりのお泊まり会じゃんっ! そんなの楽しみに決まってるよ!」
「そうなんだ」
相手は誰だろう。朱里の友達の中原さんかな。それともギャル子さんたちかな。まあ、誰が相手であろうとも朱里を丁重にもてなしてくれることには変わりないから安心はできるな──。
──っていうかアレ? 普通に、パジャマと歯磨きと言えば、お泊まりセットっぽい感じじゃね。
「──あー!!」
「え?! なに!? どしたの!?」
「いや、いやいやなんでもない。なんでもないです。ただ合点承知の助が俺の身に宿っただけです」
「……? そうなんだ?」
「そうそう、そうなんですたい」
なるほどね。朝に聞いた文言とかは別に素直に受け止めればそれでいいだけの話だったのね。別に俺は生き埋めにされることとかはないのね。
やっぱお前邪魔だわ、とか、はーお前みたいなやつガキでしかないから、とかそういう暗喩が含まれている単語ではなかったのね。安心、心の底から安心ですよ。
いや、わかってた。わかってましたよ。朱里がそんなひどいことを暗喩であっても言わないことくらいはきちんと理解していましたとも、ええ。なんなら俺、朱里に真顔で「は?」とか威圧的な声出されただけでもハートブレイクする自信あるもんね。それくらい純粋で優しさがあることに信頼が厚い朱里が変なことを言うわけないじゃないですか。へへ、もともとわかっていましたよ。俺のジョーク、ジョークってやつです。……まあ、朱里についてはともかく、クラスの連中についてはジョークで収まらないような気がするけど。
「でも確かに久しぶりだよなぁ。小学生のとき以来なんじゃ?」
「そうだねー。小学校五年生のとき以来だねー」
「んじゃだいたい五年くらいかぁ」
「ほんとそれくらいだねー。だから楽しみなんだー!」
朱里は本当に楽しみなのだろう。別に宿泊するっていうこと以外は何も予定なんて決めていないのに、この後に差し迫る時間のすべてを想像して、いつまでも笑顔を浮かべてくれている。そんな笑顔に絆されるみたいに、俺の心のとげとげしている部分(えっちしないと出れない部屋が消失したことによる損傷)も癒されていくような、そんな気がした──。
「──今日はお母さんもお父さんも藍里ちゃんもいないからふたりっきりだしねー」
「────」
──へ? 今日ご両親いないん? しかも、藍里ちゃんも……?
彼女の言葉を聞いた途端、一気に脳内CPUが爆速で爆熱になっていく感覚がした。
──────────────────────────
ちなみに、あと十話~十五話くらいで完結予定です!
シリアスをぶっこもうかと思ったのですが、このノリでシリアスも何もないのでこの調子で進んでいきます!
完結までもうすこし! お付き合いいただけると幸いです、よろしくお願いいたします!
教室からの物騒な声を置き去りにして、俺と朱里は一緒に学校から出て行った。彼女は俺に対する周囲の視線に気づいていなかったから、るんるん、と鼻歌を歌いながらゆっくりと歩いていたけれど、流石に視線の圧に耐えられなかったので手を引くことで迅速に対応した。
なんだよ、のこぎりとかとんかちとかドリルって。日曜大工で何を作るつもりなんだよ。
そんな彼らの言葉を一部思い出しながら、そうしてようやく出ることのできた校門の先。俺はこれ以上は流石に手を引く必要もないな、と思って朱里の手を離してみる。まあ、それ以上に色々なことがあって手汗が滲んでいる。そんな手の感触で彼女に不快感を覚えさせたくなかったから。
「あ……」と残念そうな声を出す朱里。それを聞いて察することのできる自分もいる。もしかして手をつないでいたかったのかな? とか思いはするけれど、それはそれとしてこういう察しはうぬぼれに近いところで発生している可能性だってある。だから、俺から行動をすることはしな──。
「──手、つないでくれないの……?」
「──繋ぎます、繋がせてください」
……いや、きちんと言葉にされたら流石に行動しますとも。うん。だって、人の気持ちがわからないからこそのうぬぼれだと思っていたわけなので、それが違うっていうのなら二の一番に手を繋ぎますとも。
そんな惜しむような彼女の声に耐えられなくて、離した手を一瞬で取り戻す。夏という環境下、こんなに暑いのに手なんて繋いでいても意味なんてないよな、なんてことを思いながらも、それでも彼女の手のひらの温もりを自分の手に反芻する。
朱里の手、さっきは気づかなかったけれどぷにぷにしてて柔らかいな……?
もう夏だとかそういうことはどうでもいいや、と俺は自分自身を納得させながら、そうして二人で一緒に帰路へとついていく。
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朱里はどこまでも楽しそうにしていて、繋いでいる手をぶんぶんと前後に振り回すようにしている。なんとなく大繩大会で縄として回されているような気分。そんなくだらないことを考えながら、この先に待ち受けているであろう災いに対しての覚悟を新たにした。
一応、さっき彼女には謝ったけれど、それでも俺が謝罪した内容で朱里は怒っていないようだった。執拗に二の腕の感触を味わったことは相応にセクハラに該当するよな、とそれなりに自覚はしていたので、それ以外に思い当たる節なんてなかったのだけれど、それでも二の腕の件で怒っていないというのであればどのような案件で怒っているというのだろう。
日中に考えていたパジャマや歯磨きについての考察によれば、とりあえず俺はこの後生き埋めにされる、ということが大方決まっていると思うのだけれど、そんな予感を打ち消すくらいに隣にいる朱里は「ふふふーん♪」と適当な鼻歌を奏でながら楽しそうにしている。……いや、それほどまでに俺を生き埋めにするのが楽しい、ということなのだろうか。
「何がそんなに楽しいんだ……?」
俺が彼女にそう聞いてみると、繋いでいる手をぶんぶんと回しながら朱里は「んー?」と爽やかな笑顔を返してくる。
「だって、だって久しぶりのお泊まり会じゃんっ! そんなの楽しみに決まってるよ!」
「そうなんだ」
相手は誰だろう。朱里の友達の中原さんかな。それともギャル子さんたちかな。まあ、誰が相手であろうとも朱里を丁重にもてなしてくれることには変わりないから安心はできるな──。
──っていうかアレ? 普通に、パジャマと歯磨きと言えば、お泊まりセットっぽい感じじゃね。
「──あー!!」
「え?! なに!? どしたの!?」
「いや、いやいやなんでもない。なんでもないです。ただ合点承知の助が俺の身に宿っただけです」
「……? そうなんだ?」
「そうそう、そうなんですたい」
なるほどね。朝に聞いた文言とかは別に素直に受け止めればそれでいいだけの話だったのね。別に俺は生き埋めにされることとかはないのね。
やっぱお前邪魔だわ、とか、はーお前みたいなやつガキでしかないから、とかそういう暗喩が含まれている単語ではなかったのね。安心、心の底から安心ですよ。
いや、わかってた。わかってましたよ。朱里がそんなひどいことを暗喩であっても言わないことくらいはきちんと理解していましたとも、ええ。なんなら俺、朱里に真顔で「は?」とか威圧的な声出されただけでもハートブレイクする自信あるもんね。それくらい純粋で優しさがあることに信頼が厚い朱里が変なことを言うわけないじゃないですか。へへ、もともとわかっていましたよ。俺のジョーク、ジョークってやつです。……まあ、朱里についてはともかく、クラスの連中についてはジョークで収まらないような気がするけど。
「でも確かに久しぶりだよなぁ。小学生のとき以来なんじゃ?」
「そうだねー。小学校五年生のとき以来だねー」
「んじゃだいたい五年くらいかぁ」
「ほんとそれくらいだねー。だから楽しみなんだー!」
朱里は本当に楽しみなのだろう。別に宿泊するっていうこと以外は何も予定なんて決めていないのに、この後に差し迫る時間のすべてを想像して、いつまでも笑顔を浮かべてくれている。そんな笑顔に絆されるみたいに、俺の心のとげとげしている部分(えっちしないと出れない部屋が消失したことによる損傷)も癒されていくような、そんな気がした──。
「──今日はお母さんもお父さんも藍里ちゃんもいないからふたりっきりだしねー」
「────」
──へ? 今日ご両親いないん? しかも、藍里ちゃんも……?
彼女の言葉を聞いた途端、一気に脳内CPUが爆速で爆熱になっていく感覚がした。
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ちなみに、あと十話~十五話くらいで完結予定です!
シリアスをぶっこもうかと思ったのですが、このノリでシリアスも何もないのでこの調子で進んでいきます!
完結までもうすこし! お付き合いいただけると幸いです、よろしくお願いいたします!
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