魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

文字の大きさ
20 / 143
第一章 灰色の現実

1-19 反発する魔法

しおりを挟む


 首元から血を噴き出した環は、天原くんに向かって、持っていたナイフを懸命に動かそうとするけれど、それはすぐに力をなくして、そうして彼は倒れてしまった。

 天原くんは環から距離をとる。遠くに離れようとしても、勢いよく噴き出した血液は一部分天原くんにかかって、服の一部が赤色に彩られてしまう。それを嫌そうな顔をしている姿が、私には心に痛い。

 「ここまで、だね」

 立花先生がそうして模擬戦闘の終了を決定する。ここで終了する、ということはどうしようもないほどに環が負けた、ということだ。これ以上、彼は動くことはない。

 魔法使いは滅多なことでは死ぬことはない。確かに過度に出血をすれば貧血を起こして一時的に行動することはできなくなるだけだ。だから私は、環が負けたとしても、身体無事であることに安堵をする。

 「うーん、これじゃあ流石に帰せないな。ちょっくら保健室で輸血キットを持ってくるから、葵ちゃん、後でよろしく頼むよ」

 「はい」

 魔法使いの血液を他人に輸血することは、倫理的には凄くいかがわしいことだ。だから、他の魔法使いはそれを他人に行うことをよしとしない。でも、私がそうして彼を魔法使いにしてしまったのだから、私が責任をとらなければいけないだろう。

 立花先生は、すぐさま転移をして、空間からいなくなる。私と明楽くん、そして天音さんも環に近づいて、そうして立花先生が来るのを待った。

 「……天原?」

 明楽くんが不安そうな声を出しているので天原くんの方に視線を向ける。彼は特にダメージもなく勝ったのだから、特に心配の必要はないと思うけれど、……そこで見た彼の様子は、普段では見られないような表情になっていた。

 ──恐怖が入り混じる顔。彼の心に何があったのかはわからないけれど、尋常じゃなく彼は震えている。この空間は別に寒いということもないのに、それでも震えて目を泳がせている。その原因がわからない。

 「大丈夫か……?……確かに、環のあの行動はびっくりしたけどよ」

 「……違う……。そうじゃない……」

 彼は、それっきり言葉を紡がない。

 確かに、環の行動は傍から見れば異常だった。魔法使いとしての戦いでもなく、そして普通の人間であったとしても行わない方法をとって、天原くんに対抗をしようとした。その理由はわからないし、その行動に意味があったのか、私は考えることができない。魔法使いだったらやらない、という考えばかりが頭を占有していて、それ以上に思考は働かない。

 とりあえず、今は環の看病をしなければいけない。輸血キットが来るまで、せめて彼の体を起こしてあげて、準備を整えなければ──。

 「──Enos Dies,」

 ──魔法の詠唱が聞こえて、私はその声に視線を向ける。そして、なにか噴き出すような音を認識する。

 ──天原くんが、明らかに手首の動脈を切って、出血をしている。凄い勢いで飛ばされる血液の量。もし、その規模で魔法を発動してしまったのなら、とんでもないことになるくらい想像できるほどに。

 なんで?もう試合は終わったのに?それでも彼は魔法を詠唱するのだろう?

 意味を理解できないまま、彼の指先は私たちの──、環の倒れた身体の方に向く。

 ──これはまずい。そう思考した時には、もう遅かった。

 「──Dhict Veiril!!」

 ──そうして発動した魔法は現実を確実に上書きをして、今までに見たことがないくらいの氷の刃を、──氷塊と言えるものをそこに顕現させる。勢いよく発動したその魔法は、その手の行く先にしたがって、真っすぐに速く、環の方へと移動する。

 言葉を発する間もない。対処の仕様もわからない。だが、アレを喰らってしまえば、環の身体は半分に割れて、そうして蘇生の余地もないほどに死んでしまう。

 ──どうすればいい、どうすればいい。ナイフを取り出す暇さえ存在せず、私が覆いかぶさったところであの氷塊を環からかばうことなどできやしない。

 そして、未練が生まれるほどに思考だけを働かせて──。

 ──氷塊は、環の頭部を叩き割ろうとした。




 僕が保健室から空間に転移した時には、そのすべてが終わっていた。

 「……これは、どういうことなんだい」

 僕は、そういうことしかできない。事態を認識しようとしても認識できないくらいに、状況がごちゃついている。整理をつかせようとしてくれない。

 そこにあったのは環くんの死んだような身体と、──天原くんが左腕を失った、そんな光景だったのだから。

  



 氷塊は、環の頭部を叩き割ろうと、その一直線で飛んでくる。

 対策はどうしようもない。炎の魔法を発動できる時間は一瞬もなく、それ以上に行動することもできやしない。だから、私は何もできないまま間近にそれを見届けることしかできない悔しさを噛みしめることしかできなかった。

 だが、私が想像していたはずの光景は、あまりにも不可思議な現象で上書きされる。

 ──確かに、環に氷塊が当たった音がした。でも、それが叩き割る原因にはなりえず、そして氷塊は、──”反発”した。

 元の持ち主に帰るように帰巣本能を働かせた氷塊は、射出された勢いよりも速くなって、そうして──天原くんの腕を、左腕を断ち切った。

 誰も状況が飲み込めない。どうしてそうなるのか、どうして魔法が天原くんへと向かい、そうして腕を断ち切ることになるのか。想像をしても、結局何も片付かず。

 空間には、天原くんの大きな悲鳴だけが果てなく残響した。

 そして、その悲鳴の裏で呟く、天音さんの声。

 あまりにも小声で、私には明確に届かなかったけれど。

 きっと、こう言ったのだ。

 「──やっぱり、そうなんだね」

 そう、彼女は言ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...