魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第一章 灰色の現実

1-23 明確なる殺意

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 「何をしに来たんですか」

 天原の冷たい声が背中から聞こえてくる。どこか敵意を孕んでいる声。以前から感じる、人間に対して強く抱いている殺意に似たようなもの。

 「……何って、お見舞いに──」

 「──嘘をつくな!!」

 「──?!」

 いきなりの大声で叫ばれるものだから、動揺して身体がびくんと震える。

 ……別にお見舞いに来ているだけで、それ以上に思惑はない。それなのにここまで僕を疑うようにするのは、何か理由があるのだろうか。

 「いや……、本当にお見舞いに来たんだけど」

 「──そんなのは嘘ですよ。わかってるんですよ僕は」

 喉を震わせて微弱な声が保健室に響き渡る。それ以上の思惑など僕にはないのに、それを彼は信じてくれない。

 「──僕を殺しに来たんでしょ、わかっていますから」

 「……は?」

 意味の分からない言葉を投げかけられて、僕は彼以上に動揺を覚えた。





 確かな殺意というものを、僕は今までに感じたことはない。それは平和な日常を送れる日本だからこそ、当たり前とも言えるようなことではあるが、それは人のみならず、人と乖離している非現実的な存在である魔法使いであろうと同様に、殺意なるものを抱かれることは存在しない。そもそも、そんなに殺意というものは溢れることはないはずなのだ。普遍的な生活を送っている限りには。

 僕は人と関わることはない。それは僕が孤独に生きていることを証明するのかもしれないけれど、別にそれでいいような気がする。孤独でいれば得ることがないから、失うこともない。ただただ独りで停滞を続けるだけの生活があるだけ。だからこそ、僕は孤独でいいような気がする。

 人という存在はあまりにも脆く、そして儚い存在だ。僕が思う以上に人間という存在はあまりにも早く死にすぎるし、そして消えていく。その喪失感を、ただ長く生きるだけの存在である魔法使いには耐えることができない。

 幼い頃に祖父母から聞いた話だった。

 僕の両親は、僕が生まれてすぐに亡くなったという話、だが、それがどうして亡くなったのか、詳細を教えてくれることはなく、ただ単にいないという現実だけを祖父母は知らせてきた。そして祖父母との生活は中学に至るまで続き、僕は両親については特に気にしないように生活してきた。

 気にしないように意識をしている時点で、家族がいないという寂しさを紛らわせることはできなかったのだが、それ故に孤独で生きることを僕は選択していたのかもしれない。

 中学からは、そんな生活をしていた僕を後ろめたく思ったのか、祖父母も特に干渉することはなく、そしていつの間にか亡くなってしまった。それが精神的な負荷をかけていたのかはどうかはわからないが、結局僕は孤独を選択してしまった故に、孤独な生活を生きることになったのだ。

 祖父母が亡くなり、独りで生きることを余儀なくされ、僕は家の片付けを行った。孤独に生きていたからこそ、特に思い出なるものも存在せず、そして残すものも存在しない。ただ捨てるものだけを選択するだけだったが、そんな時に一つの手紙を見つけてしまった。

 手紙は赤色だった。もともとは白色だったのだろうが、血液が垂れて染みてしまったのか、赤黒い色に染まっていた。そんな風に染まる理由を僕はよく知らなかったから、僕はその手紙を覗いてみた。

 内容は、こうだった。

 それは、僕の父親である人の懺悔だった。父の、──魔法使いとしての懺悔。なんでそんなものを記しているのかはよくわからなかったが、震えた筆跡に並々ならぬ感情をこめていたことは、なんとなく察することができる。

 『私は人間を愛してしまった』

 そう、書かれていた。

 『私は人間を愛してしまった。それが禁忌であると私は自覚していたのに、どうしてもその感情を抑えることができず、私は人間を愛してしまった。』

 ところどころ読みにくい文字があった。赤黒く染みている文字に認識できない部分があった。

 『彼女と愛を紡ぎ合い、そうして子が生まれることになった。だが、それこそが罪だったのかもしれない』

 そんなことが、書いてあった。

 ──僕という存在を否定するような言葉。

 その文面で、どこか嫌な予感と気持ちを覚えながらも、それでも読み進めていく。

 『私が彼女に関わらなければ、私が彼女と愛を育まなければ、彼女はそのまま生きることができたのに。すべては私のせいでしかない』

 『ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい』

 最後には、ただその言葉だけが繰り返されていた。

 その言葉で、だいたいを察してしまった。

 父親は、自殺だった。確実にそれは遺書と呼べるものであり、それは母に対する懺悔のようなものだった。

 魔法使いは人間を愛してはいけない。その禁忌を犯してしまった罪で、母は亡くなってしまった。そう伝えるような文章。

 ──僕が生まれてしまったから、母は死んで、そして父も死んでしまったのだろうか。

 脳裏に思惑がよぎり、その思惑はそれからずっと消えることはない。心にはびこり続け、違う考えで上書きをしようとしても意識に刷り込まれてしまった真実は、どうしようもなかった。

 おそらく、魔法使いという僕の存在を母は身ごもってしまったから死んでしまったのだろう。魔法使いの性質である巻き戻るという概念的要素が、母を殺してしまったのだ。そして、その原因となった父は、そうして自殺を図ったのだろう。

 そんな想像が頭から離れない。

 もし、母が人間でなければ、きっとこんな感情を抱くことはなかったはずだ。そして、母が人間であるからこそ、母は死んでしまったのだ。

 僕が、母を、そして父を殺してしまったのだ。

 人という存在は、非現実的な事象に対して、あまりにも脆く、そして儚い存在。それを改めて認識したところで、どんな魔法を施そうとしても、その現実を上書きすることはできない。

 だから僕は人という存在が嫌いだ。だから、嫌いである、ということにを自分で定義した。だから、天原雪冬は人が嫌いなのだ。そう思わなければ、この先に生きるという気力を見出せることはなかっただろうから。

 ──それなのに。

 どうして、非現実的なものと関わったうえで生き延びる人間がいるのだろうか。僕の母は生きることができなかったのに、それでも生きているこの男は何なのだろうか。

 八つ当たりに違いない感情。彼と出会ったときから、そんな感情を抱かずにはいられない。他の魔法使いとは違って、人間であったはずなのに、それでも魔法使いになった彼の存在は、どうしようもなく僕の敵意を増加させた。

 そんな感情を読み取ったのか、立花先生はそうして模擬戦闘を企画し、その場で僕の行き場のない感情を発散することとなった。

 別に、本気で殺そうと思ったことはない。ある程度の敵意は確かにあったものの、名目でも模擬的なものだ。それ以上に本気でやりあおうなどとは微塵も考えてはいなかった。

 魔法使いの身体になった彼ならば、死ぬことはないと踏んだ上で、模擬戦闘は臨んだつもりだ。多少の痛い目を合わせることができれば、別に僕はそれだけでよかったのだ。それ以上の思惑はない。

 ──でも。

 彼は本気で僕を殺そうとした。明確なる殺意が目に孕んでいた。確実に僕を殺すことを考えた上で彼は行動を取っていた。あのナイフの行き先は、確実に僕の命を摘み取ることを考えた行動だった。

 明確なる殺意。明確なる殺意。明確なる殺意。

 どうして、人間であった彼にここまでの殺意を抱かれなければいけないのか、僕にはわからない。自分自身の首を掻き切ってまで、そうして僕を殺そうする明確なる殺意は、脳裏に刻みついて離れない。

 ──きっと、ここで彼を殺さなければ、僕は彼に殺される。

 そんな恐怖から僕は大規模の魔法を発動しようと、氷塊を作り──、そして──。

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