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第一章 灰色の現実
1-24 ──やはり、人間は愚かですね
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「──僕を殺しに来たんでしょ、わかっていますから」
「……は?」
意味をとらえることのできない言葉を投げかけられて、僕は一瞬思考を放棄しそうになった。
なんで、僕が彼を殺さなければならないのだろうか。なんでそんなことを彼が言うのかを、僕は理解することができない。
「なんで、そうだと思ったんだ?」
僕がそう返すと、彼は嘲て笑う。何がおかしいのか、やはりその意図も僕はくみ取れそうにない。
「別に僕は天原のことをどうこうしようだなんて、そんな気は別に」
「……面白いことを言いますね。あの時に僕を殺し損ねたから今殺しに来ただけでしょ」
「あの時……?」
そうして思い出すのは、模擬戦闘でのあの戦い。でも、記憶がおぼつかないから、彼が何でそんなことを言っているのか、やはり理解することはできない。
「……別に、あれはただの模擬的な戦闘だろ?それ以上になにかやろうだなんて……」
「──それなら、なんで自分の首を掻ききってまで僕に迫ったんです?」
──自分の首を搔き切ってまで?
「……は?そんなこと、僕がするわけないじゃないか」
「……覚えてないんですか」
覚えてはいないけれど、流石にそこまでの行動をとることは自分自身でありえない、というのはよくわかっている。確かにあの時期は魔法を使えることに対して意識を向けていたから、腕を切ることに躊躇いはなかったけれど、それでも本来はそんなことをするのも僕は嫌なのだ。そもそも首を掻っ切る意味もないだろう。
「僕が、そんなことをするわけないんだよ」
「……本当に覚えてないんですね」
天原はうんざりするようにため息を吐いた。
「……というか、そろそろ後ろを振り返ってもいいか。お前が起きたことを先生たちに伝えなきゃ──」
「駄目です。そんなこと、僕は許しません」
意固地になっているのか、彼はずっとそんな調子で僕の行動を許してくれない。そろそろ背中から聞こえてくる声の感触が嫌な感じなので振り向きたい感情があるのだけれども、その意図を彼はくみ取ってはくれないようだった。
「どうすれば信じてくれるんだ?」
「……無理です。僕はあなたを信じることができません」
天原は言葉を続けた。
「あなたは覚えていないかもしれませんが、あの時のあなたは確実に僕のことを殺そうとしていました。これは憶測などではなく、確実にあなたは僕のことを殺すことだけを考えて、あの時ナイフを持っていたはずです。そんな人を、信じようだなんて、無理に決まっているじゃないですか」
「……」
本当にそんな思惑はないのに。
「……というか、そもそも殺す気があったのなら、僕はお前が寝ている間に殺すだろうさ。それをしなかったことは、お前が僕を信じてくれるものにはならないのか?」
「……」
その言葉を聞いて、天原は沈黙した。その後すぐに、「確かに、……そうですね」と呟いた。
「そもそも、敵意があったのはそっちじゃないか。どうして僕がお前に嫌われているのか知らないけど、僕からお前を嫌いになることは、今のところはないはずだぞ」
「……だからこそ、僕はわからないんですよ」
僕がその言葉に首をかしげると、天原は言葉を続けた。
「僕は人間が嫌いです。人間はすぐに壊れて脆いから嫌いなんです。僕の母も人間でした。人間だから、僕を産んで死に、そして父もそれを悔やんで自殺しました。
だから、あなたが人間だったという話を聞いた時から、生きているあなたのことが嫌いで仕方がなかった。あなた自身が嫌いなのではなく、元人間のあなたが嫌いでした。
でも、それ以上の思惑はありません。だからこそ僕は模擬戦闘についてはただ真面目に参加していただけでした。
だけど、あなたはその中でも僕に殺意を向けてきました。勘違いなどではなく、明確な殺意。それが私には──」
そうして天原は言葉を紡ぐのをやめる。
僕はその時の記憶がおぼつかないから、どういう言葉をかければいいのかわからない。なにより、自分自身がそんな行動を取ったのか信じられない気持ちでいっぱいになる。
「……本当に、僕がそんなことをしたのか」
「はい、皆にも聞いてみれば分かると思いますよ」
天原がそう言うということは本当なのだろう。だが、当事者に言われるまで誰からも教えられていなかったのだから、どことなく違和感が心の中に反芻する。
それならなぜ、誰も教えてくれなかったのだろう。
──もしかして、本当に僕が彼を殺そうとしていたからだろうか。
そうであるとするならば、僕はここで彼に対してどんな言葉を紡げばいいのだろう。その時の記憶がない状態で何の言葉を紡げば、この目の前にある気まずさは拭えるのだろうか。
謝罪が必要なのだろうか。……記憶がない状態でそんなことをして、本当にそれは誠意のある行動なのだろうか。
何も、言葉は思いつかない。でも、言葉を話すべきだ。
あの模擬戦闘の思惑は、そもそも彼との仲を取り持つためのものだったはずだ。それなのに、その戦闘をきっかけにして、彼と更に仲が悪くなるというのは、いただけない。別に僕の思惑でなくとも、きちんと誠意のある対応をしなければいけないと思うのだ。
──だからこその、彼に対する感情なのかもしれない。
後ろめたさ。過去を知ってもなお拭えないその感情を振り払うためにも、僕はここで行動しなければいけない。
「あのさ」
僕は、とりあえずと言わんばかりに言葉を紡ぎだす。その先にどんな言葉を吐けばいいのかは分からないが、それは無意識に任せてしまおう。
「──僕は、お前が嫌いじゃない」
「……」
「その時の記憶は残っていないから、そんな状態で謝罪しても、誠意なんて残らないと思うから僕は謝らない。でも、別に僕は本当にお前のことを嫌いだとは思っていないんだよ」
僕は言葉を紡ぎ続ける。
「お前から嫌われるのは、もうしょうがない。別にそれでいいから、これからもあの魔法教室で僕が過ごすことを許してはくれないかな」
「……別に、僕に許可をとる必要なんてないじゃないですか」
「それも、そうかもしれないけどさ。なんか、そうするべきなんじゃないかなって思ったから」
僕はそう言葉を紡いだ。無意識的だったからこそ、真なる思いがこもった言葉。それが彼に伝わるかどうかはわからないが、それでも、僕はきちんと伝えた。
「……ふっ」
僕が沈黙をしていると、天原からそんな声が聞こえてくる。
「──やはり、人間は愚かですね」
そんな言葉を吐く天原だったけれど、その声音は以前聞いた時よりも、柔らかいものだった。
「……は?」
意味をとらえることのできない言葉を投げかけられて、僕は一瞬思考を放棄しそうになった。
なんで、僕が彼を殺さなければならないのだろうか。なんでそんなことを彼が言うのかを、僕は理解することができない。
「なんで、そうだと思ったんだ?」
僕がそう返すと、彼は嘲て笑う。何がおかしいのか、やはりその意図も僕はくみ取れそうにない。
「別に僕は天原のことをどうこうしようだなんて、そんな気は別に」
「……面白いことを言いますね。あの時に僕を殺し損ねたから今殺しに来ただけでしょ」
「あの時……?」
そうして思い出すのは、模擬戦闘でのあの戦い。でも、記憶がおぼつかないから、彼が何でそんなことを言っているのか、やはり理解することはできない。
「……別に、あれはただの模擬的な戦闘だろ?それ以上になにかやろうだなんて……」
「──それなら、なんで自分の首を掻ききってまで僕に迫ったんです?」
──自分の首を搔き切ってまで?
「……は?そんなこと、僕がするわけないじゃないか」
「……覚えてないんですか」
覚えてはいないけれど、流石にそこまでの行動をとることは自分自身でありえない、というのはよくわかっている。確かにあの時期は魔法を使えることに対して意識を向けていたから、腕を切ることに躊躇いはなかったけれど、それでも本来はそんなことをするのも僕は嫌なのだ。そもそも首を掻っ切る意味もないだろう。
「僕が、そんなことをするわけないんだよ」
「……本当に覚えてないんですね」
天原はうんざりするようにため息を吐いた。
「……というか、そろそろ後ろを振り返ってもいいか。お前が起きたことを先生たちに伝えなきゃ──」
「駄目です。そんなこと、僕は許しません」
意固地になっているのか、彼はずっとそんな調子で僕の行動を許してくれない。そろそろ背中から聞こえてくる声の感触が嫌な感じなので振り向きたい感情があるのだけれども、その意図を彼はくみ取ってはくれないようだった。
「どうすれば信じてくれるんだ?」
「……無理です。僕はあなたを信じることができません」
天原は言葉を続けた。
「あなたは覚えていないかもしれませんが、あの時のあなたは確実に僕のことを殺そうとしていました。これは憶測などではなく、確実にあなたは僕のことを殺すことだけを考えて、あの時ナイフを持っていたはずです。そんな人を、信じようだなんて、無理に決まっているじゃないですか」
「……」
本当にそんな思惑はないのに。
「……というか、そもそも殺す気があったのなら、僕はお前が寝ている間に殺すだろうさ。それをしなかったことは、お前が僕を信じてくれるものにはならないのか?」
「……」
その言葉を聞いて、天原は沈黙した。その後すぐに、「確かに、……そうですね」と呟いた。
「そもそも、敵意があったのはそっちじゃないか。どうして僕がお前に嫌われているのか知らないけど、僕からお前を嫌いになることは、今のところはないはずだぞ」
「……だからこそ、僕はわからないんですよ」
僕がその言葉に首をかしげると、天原は言葉を続けた。
「僕は人間が嫌いです。人間はすぐに壊れて脆いから嫌いなんです。僕の母も人間でした。人間だから、僕を産んで死に、そして父もそれを悔やんで自殺しました。
だから、あなたが人間だったという話を聞いた時から、生きているあなたのことが嫌いで仕方がなかった。あなた自身が嫌いなのではなく、元人間のあなたが嫌いでした。
でも、それ以上の思惑はありません。だからこそ僕は模擬戦闘についてはただ真面目に参加していただけでした。
だけど、あなたはその中でも僕に殺意を向けてきました。勘違いなどではなく、明確な殺意。それが私には──」
そうして天原は言葉を紡ぐのをやめる。
僕はその時の記憶がおぼつかないから、どういう言葉をかければいいのかわからない。なにより、自分自身がそんな行動を取ったのか信じられない気持ちでいっぱいになる。
「……本当に、僕がそんなことをしたのか」
「はい、皆にも聞いてみれば分かると思いますよ」
天原がそう言うということは本当なのだろう。だが、当事者に言われるまで誰からも教えられていなかったのだから、どことなく違和感が心の中に反芻する。
それならなぜ、誰も教えてくれなかったのだろう。
──もしかして、本当に僕が彼を殺そうとしていたからだろうか。
そうであるとするならば、僕はここで彼に対してどんな言葉を紡げばいいのだろう。その時の記憶がない状態で何の言葉を紡げば、この目の前にある気まずさは拭えるのだろうか。
謝罪が必要なのだろうか。……記憶がない状態でそんなことをして、本当にそれは誠意のある行動なのだろうか。
何も、言葉は思いつかない。でも、言葉を話すべきだ。
あの模擬戦闘の思惑は、そもそも彼との仲を取り持つためのものだったはずだ。それなのに、その戦闘をきっかけにして、彼と更に仲が悪くなるというのは、いただけない。別に僕の思惑でなくとも、きちんと誠意のある対応をしなければいけないと思うのだ。
──だからこその、彼に対する感情なのかもしれない。
後ろめたさ。過去を知ってもなお拭えないその感情を振り払うためにも、僕はここで行動しなければいけない。
「あのさ」
僕は、とりあえずと言わんばかりに言葉を紡ぎだす。その先にどんな言葉を吐けばいいのかは分からないが、それは無意識に任せてしまおう。
「──僕は、お前が嫌いじゃない」
「……」
「その時の記憶は残っていないから、そんな状態で謝罪しても、誠意なんて残らないと思うから僕は謝らない。でも、別に僕は本当にお前のことを嫌いだとは思っていないんだよ」
僕は言葉を紡ぎ続ける。
「お前から嫌われるのは、もうしょうがない。別にそれでいいから、これからもあの魔法教室で僕が過ごすことを許してはくれないかな」
「……別に、僕に許可をとる必要なんてないじゃないですか」
「それも、そうかもしれないけどさ。なんか、そうするべきなんじゃないかなって思ったから」
僕はそう言葉を紡いだ。無意識的だったからこそ、真なる思いがこもった言葉。それが彼に伝わるかどうかはわからないが、それでも、僕はきちんと伝えた。
「……ふっ」
僕が沈黙をしていると、天原からそんな声が聞こえてくる。
「──やはり、人間は愚かですね」
そんな言葉を吐く天原だったけれど、その声音は以前聞いた時よりも、柔らかいものだった。
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