魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第二章 天使時間の歯車

2-6 うおお、火だ!

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 「私の魔法を見せてほしい?」

 「うん」

 いつも通り、魔法教室に赴いて、僕は葵にそう頼んでみる。

 実際、魔法教室といっても、先生から魔法を教える場面は今のところ見たことはない。僕は基礎的なものも出来ていないから、そりゃ教えてもらう場面はたくさんにあるけれど、ほかのみんなに関してはそんな学習する様子は今のところ見ることはない。そもそも、この魔法教室は教室という名目ではあるものの、ただ空間という場所を利用して各々で魔法を発動しているだけであって、それ以上はない。その場を先生は見つめているだけで、何か指導する様子もない。だからこそ、そのまま魔法を見る、というのにはうってつけなのである。

 葵は僕のそのお願いに快く承諾してくれて、早速魔法を発動しようとナイフを右手に持った。

 「あ、ちょっと待って。そもそも、葵はいつもなんて言って詠唱しているんだ?」

 「ん?私は火の魔法だから、火を表す『Magna』、後はその形をそれぞれで詠唱しているだけかな」

 「そうなんだ」

 確かに、マグナという発音をよく彼女から聞いている気がする。その意味を理解しようとしていなかった時点で、僕の学習する意欲は本当はそこまでないことが示されてしまうような気もするが、この前までは水の詠唱で精一杯だから仕方がない。という言い訳を心の中で重ねた。

 「形って、例えば?」

 「そうだなぁ。単純にMagnaとだけ詠唱すれば、そこに火が出てくるんだけれど、それだけなんだよね。投げることもできないし、暑いだけ。

 だから、私はいつも火の玉をイメージして詠唱しているかな。『Dhiorr』が球体って意味らしいから、そのまま火の玉だよ」

 「ほぇー」

 呆けた返事をしてしまうが、なるほど。

 確かにいつも彼女が炎の魔法を使うときには、球体状のものになって投げている印象がある。初めて見たときもそうだし、魔法教室で彼女が魔法の練習をするときだっていつもそうだ。

 「そういえば、球以外の形にはしないの?」

 「うーん。できるっちゃできるんだけどね」

 葵は少し困ったように笑う。

 「私、投げる以外のイメージで炎の魔法を想像しにくいって言うのもあって、少し苦手かな。

 前、炎の剣とかやってみたけど」

 「炎の剣!」

 少しテンションが上がってしまう。

 炎の剣とか、めちゃくちゃにかっこいいじゃないか。

 「ただね、そもそも火の剣は振っても消えるだけだし、持ち手も火だから、熱いだけで何の意味もないんですよこれが」

 「あっ、そうなんですか」

 「そうなんですよ」

 なんか、一瞬で夢を壊された気がする。僕もそんな魔法を使ってみたいと思ったのだけれども。

 「あ、でも似たようなものなら出来るよ。ちょっと手順は違うけれど」

 「本当?!」

 「……なんか、今日テンション高いね」

 「そうかな?」

 葵はそれに対して頷く。まあ、吹っ切れた、という部分もあるからかもしれない。

 「それじゃあ仕方ない。環のために私も一肌脱いであげるよ」

 葵はそういうと、いつも通りにナイフを片手に持って、左腕を切りつける。そうして唱える呪文は……

 「Enos Dies, Magna Endhisimo Veiiril」

 まあ、聞いてもよくわからないんだけれど。

 その詠唱の後、垂れた血液はすべてゼロに還元され、葵の傷口は何事もなかったかのように普遍的な状態へと巻き戻る。そうして起こる非現実的事象は……。

 「うおお、火だ!火の剣じゃん!」

 「……まあ、火の剣というか、火のナイフというか」

 目の前にあるのは、火とナイフ。ナイフの刃に火がまとわりついて、そのまま炎の剣と称しても何ら問題がないと思えるほどに、それは炎の剣だった。

 「……持ってみる?」

 「え、マジ?いいの?」

 「だって凄い見てるし」

 だって、格好いいんだもの、火の剣。ナイフは身近な印象があるから、剣っていうものになると、すごくファンタジーという感じがして楽しい。

 葵からナイフの持ち手を渡される。

 「おおお、これはすごい!」

 試しに振ってみても、炎が消えるということはなく、永久に灯り続けるんじゃないかと思えるほどに持続している。

 「さっきの魔法はエンチャントって言われるやつだね。

 『Endhisimo』で纏う、『Veiril』は刃、っていう感じかな」

 「すげー!」

 僕がぶんぶん振っていると、葵は笑顔で見つめてくれる。

 なんとなく熱いのかな、そんな疑問を感じて刃に触れて見るけれど。

 ……。

 「消えた……」

 「……消えちゃったね」

 僕の手が炎の刃、というか炎に触れた瞬間、何事もなかったかのようにその炎は消える。

 「……ど、どんまい!」

 「……うん」

 もの悲しさが心の中にはびこる。きっと魔法がまた反発したのだ。

 ……今度は、触れないようにしながら遊ぼう。





 明楽の魔法を見に行こうかと思ったけれど、彼に関してはそもそも出血するのが苦手なので、僕は天音さんのところに行ってみる。……といっても、彼女は特に魔法教室で魔法を発動することはなく、空間の果てをぼうっと見つめているだけなのだけれど。

 雪冬は……、今なんか集中している雰囲気だから後回しだ。

 「……ええと、天音さんはなんの魔法を使うの?」

 とりあえず、コミュニケーションから始めていかないと、彼女との関係は進展しない。進展といっても、魔法教室の仲間として。

 僕がそういうと、彼女は一瞬びくっと震えた後、僕の顔をゆっくりと見る。どこか吟味をするような、そんな視線を感じるのは気のせいだろうか。よくわからない。

 「……わたし、何使えばいいかわからないです」

 「……そうなんだ」

 彼女はいつもこんな感じだ。特に魔法を発動する、という様子を今まで見せることはなく、僕や他の人の活動する様子を遠くで眺めている。

 「……得意とか、苦手な魔法とかは?」

 「……ない、ですね」

 「……そうなんだ」

 それは自信というべきなのか、それとも単純に本当にそれだけなのか。

 それ以上に会話は生まれない。

 立花先生は彼女の魔法の素養を化け物って言っていたけれど、それはどういうように化け物なのか、この二か月以上でそれを理解することはできていない。

 先生が言うからには、おそらく本当のことなんだろうが……。

 「えっと、たまきくん」

 「あっ、はい」

 震えた声で彼女は僕の名前を呼ぶ。そんなことが起こると思っていなかったので、僕はびくついたまま返事をしてしまう。

 「……」

 「……どうしたの?」

 特にそれから彼女から言葉を紡ぐことがない……、そんな事を考えていた時。

 「……まほうの練習、してみる?」

 ──彼女はそんなことを言ったのだ。
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