魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第二章 天使時間の歯車

2-9 吸血鬼事件の詳細といえるもの

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 ニュースというものを見る習慣はない。もともと、家にいても、電気代を気にしてしまって家電を使わないからテレビも見ないし、何より、テレビを見るのは娯楽を求めるときなので、一切世界の社会事情なんてより見ることはない。だからこそ登校時に聞く葵の話は少し新鮮に感じた。

 「吸血鬼事件?」

 「そう、吸血鬼事件」

 葵は冗長に話し始めた。

 「吸血鬼事件とは、最近日本で騒がれている殺人事件なのです。どっかの都道府県だったかは忘れてしまったけれど、路地裏のような場所で血を抜かれて死んでしまっている死体が見つかったんだって。それが、転々といろんな場所で起こってるとかなんとか」

 「へぇ」

 なんというか、ファンタジー味を感じるような事件だと思う。

 「……というか、吸血鬼って魔法こっちの世界でもいたりするの?」

 「いるわけないじゃーん」

 葵は馬鹿にするように笑った。

 「実際、その事件も吸血鬼の牙?みたいな噛み痕はないらしくて、普通に注射器で全身の血を抜かれていたらしいよ」

 「……なんか現実的だなぁ」

 吸血鬼、というか、なんというか。

 「そもそも魔法こっちの世界にファンタジーなんてないっすよ。ライトノベルとかじゃあるまいし」

 「いないんだ……」

 軽くショックを受ける自分がいる。なんかドラゴンとか心半ばで存在して欲しい気持ちがあったけれど現実は儚い。

 というか魔法使いの存在自体がファンタジーというのも今さらなのだろうか。

 「それでその吸血鬼事件がなんなのさ。別に僕らには関連しないだろ?」

 「そりゃそうなんだけどね。各地を転々としているから、そのうちこっちにも来たら面白そうだなぁって」

 ……面白いのだろうか。よくわからない。

 「人を殺すとか、そういう行為はどこまでいっても不愉快に感じるものじゃないか?」

 「まあ、そうだね。でも友達と会話してたりすると、シリアルキラーの話題とかあって結構面白いんだよね」

 「どんな話題だよ」

 近頃の女子高生どうなっているんだよ。そんな物騒な話をしているのが通常なの?

 「でも、今回の吸血鬼事件は単純に闇医療関連?だと疑われているらしいよ。血を売買だとかなんだとか」

 「……なんというか、本当に現実的な事件に感じるなぁ」

 吸血鬼事件、なんて名目が負けそうだ。もうちょっとその名にふさわしいファンタジー的な要素を持っていてほしい。





 学校に行って、寝たふりをしながら過ごしていれば、葵から聞いた吸血鬼事件とやらが教室でも騒がれている。大して興味もないけれど、耳に入ってくるのだから仕方がないと、そのまま聴いてみるのが、僕のいつも通りの日常だ。

 ──今度はこっちに来るのかなぁ?

 ──だんだんと南に進んでいるらしいから、きっとそうだよ。

 ──めっちゃ美少女の血が抜かれるとかなんとか。

 ──やばいじゃん、私殺されちゃうかも。

 ──ふふ、寝言は寝て言いなよ。

 ……なんというか、普段通りの日常という感じだ。そんな事件があっても、ただの娯楽に近い話題にしかならないのだから、人間の倫理観もそこそこに狂っているかもしれない。

 そんなに、面白いものだろうか。それは殺人を許容することにはなりえないだろうか。人の命とはそんなに軽いものなのだろうか。

 こんなことを考えるのは、僕が父親の命の存在を知らないからなのだろうか。殺されたのかもわからないし、ただ出ていったのかもしれないけれど、妙に人の命について気にしすぎているのかもしれない。

 そうして巡るのは、僕が一度死んだときのこと。自分が死んだとき、僕を轢き殺したあのトラックはどこに行ったのだろうか。それも未だにわからないままで、のうのうと生きている人間がいることが信じられない。

 そもそも警察事にしていないのだから捕まらないのはしようがない。僕が生きていることがバレたら、魔法の世界のことが明るみに出るかもしれないから、警察にその捜索をお願いすることもできやしない。

 恨んでいるわけでもないから別にいいのだけれど、僕を殺したと思っている人間が罪悪感を覚えずに普通に生きているのが、僕には信じられないのだ。

 ──もし、自分が人を殺したのならどうするのだろう。そんな想像を繰り返す。

 自分は人を殺すことになりえるのだろうか。これからの人生で、僕は人を恨み、そうして殺すことをいつか行うのだろうか。

 自分の手は他人の血で汚れることになるのだろうか。悪意を持って、僕は人を殺すことになりえるのだろうか。

 ……そんなことに、なるはずはない。

 人に対して強烈な悪意など、きっとこれからも感じることはないだろう。人間でしかない僕に、そんなことは

起こりえるはずは──。

 『本当にそうだろうか』

 ──劣等感が、問いかけてくる。

 『また目を逸らそうとしている。お前はいつだって俺のことを考えないようにしている。そうして、前向きさを演出するだけなんだよ。お前は』

 そんな訳はない。いつだって劣等感を克服するために僕は行動をして──。

 『それなら、どうして魔法から目を逸らすのだろうか』

 ……僕は答えることができない。

 『お前は天原を傷つけたことを忘れているんだ。お前は人を傷つけていることを忘れようとしている。そんな人間が、人を殺さないなんてありえるのだろうか』

 忘れようとなんてしていない。僕は、葵のためにも前を向かなければいけないだけだ。

 『ほら、またお前は目を逸らすんだ』

 僕は、聞こえてくる声を無視した。


   それでも劣等感は心をむしばんでいく。


 目を逸らすことは確かに行っていたのかもしれないが、それのどこが悪いというのだろう。


  どうして僕はここまで魔法に対して気持ち悪いという視線を変えることができないのだろう。


       現実的にありえない、という思想はとうに超えている。


  実際にありえる非現実的事象を目の前に見ているのだからそれを否定する材料は自分の中には存在しない。


  だからこそ、僕は魔法を信じるだけなのだが、それを許せない自分がいるのは、劣等感があるのは何なのだろう。


  思考が止まらない。


    いつまでも這いよる乖離が心を覆って仕方がない。


        こうしてはいけないとわかっている。


  葵に対して前を向けるために僕はそんなことを考えないようにしていたはずなのに、僕はどこまで愚劣な存在なのだろうか。


                 気持ちが悪い。


             考えてはいけない考えてはいけない。


  それでも思考は止まらないのだけれど。
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