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第二章 天使時間の歯車
2-10 しばらく魔法教室は閉校とします
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「しばらく魔法教室は閉校とします」
いつも通りに深夜、魔法教室に行くと、生徒たちの前で立花先生は凄く訝しい雰囲気でそう発言した。
「え」
僕がそう声をあげると、不思議そうな顔で先生が見てくる。いや、不思議に思っているのは僕の方なんだけれども。それ以外の人だってそうに決まっているだろうに──。
そう思って、周囲の人間を見渡してみるけれど、他のみんなに関してはその事実を受け入れるような、苦いような表情をしている。天音さんに至っては単純にいつも通り無表情だからわからないけれど、明楽に関してはうんうんと頷きながらそう答えているのだから不思議なものだ。
「なんでですか?」
誰もが納得しているような雰囲気の中、自分自身で理解ができていないので、僕はそのまま疑問に呈する。
「あれ?もしかして冗談とかじゃなくて本気で分からなかったりするのかな?」
「……まあ、はい」
それならしようがない、と立花先生はひとつため息を吐いて、そうして言葉を続ける。
「最近、巷で騒がれているニュースがあるじゃない?吸血鬼事件とか言われているアレ。あれが怖いからしばらくお休み」
「……怖いからって」
吸血鬼事件のことは葵から聞いていたから知ってはいたけれど、そこまで気にすることなのだろうか。
確かに殺人事件、と言われれば怖いものだけれども、僕たちは魔法使いだからそんな死ぬ可能性なんて存在しないだろうに。
「……今、魔法使いなら死なないだろう、とか思ってない?」
「……正直、思いました」
はあ、と立花先生はため息をつく。
「吸血鬼事件といわれているものとは別の、単純な殺人事件なら僕も別に気にする必要はないとは思うんだけれども、吸血鬼事件に関して言えば、めちゃくちゃ危険としか言いようがないんだよ、環くん」
普通の事件なら大丈夫……?
なら、この吸血鬼事件と他の事件の違いとは?
……ああ、そうか。
「……魔法使いの血、ですか」
「そう。まあ、それ以外にもれっきとした理由はあるけれども、とりあえず話すかな。
吸血鬼事件の詳細としては、なんか人間の血液を吸いだして、それを闇的な関係の場所に売買するらしいじゃないか。そうなると、もし君たちがその吸血鬼とやらに襲われて、そうして対処ができなかったとき、魔法使いの血はよからぬところに流される。それはあまりにも非道徳的な行為でしかない。
売られるということは、それを利用する人間がいるということだし、利用すると言ったら、単純に輸血とかくらいしか僕は心当たりがない。まあ、魔法使いが使うならいろいろ思いつくけれども、恐らくこの事件は人間が犯人で間違いない。そんな人間が魔法使いの血を輸血させる、ということを考えたうえで、深夜に君たちを集めてまで魔法教室を開催する、という風にはいかないのさ」
「……なるほど」
未だに魔法使いの倫理観を理解していないせいか、僕には想像もできなかった話だ。だからこそ、他の皆は先生が閉校を宣言した時に納得をするような表情をしていたのだろう。
「あと他にも致命的な理由がある」
「……なんですか?」
「魔法使いにとって、一番ありふれている死因は”失血死”だからだ」
「……ああ」
確か前にもそんなことを言っていたような気がする。魔法使いは基本的に不死身ではあるけれど、大量の出血をしたら死ぬ可能性があることを言及された記憶がある。よっぽどの出血を本人で行わなければ死ぬことはない、つまりは自死くらいしかない、と立花先生は言っていたけれど。
「ニュースによれば、大概の人間の死因は”失血死”らしいじゃないか。外傷もなく、単純に全身から血液を抜き取られて、そうして失血して死ぬ。それは魔法使いである君たちの唯一の死因にもなりえるものだ。そんな状況で僕は魔法教室を続ける勇気はないかな」
「……でも」
僕は、思っていることを続けた。
「僕たちには魔法があるじゃないですか。……まあ、僕は使えないけれど、皆なら逃げおおせることだってできるはずだし、魔法で相手を倒すことだって──」
「──環くん、それ本気で言っているのかい?」
立花先生が、いつにも増して低い声で呟いた。
「……ほ、本気というか、まあ……」
「はあ……」
立花先生は肺の奥深くからため息を吐き出した。
「そもそも魔法を一般の人間に見せることが駄目だって言っているじゃないか。魔法使いが秘匿される存在だっていう話をさっきもしたような気がするけれど、そんな存在が魔法を使って対処をして誰かに目撃されたりしたらどうするつもりなんだい」
あとさ、と立花先生は言葉を続ける。
「──君が言っていることは、人間を殺せばいいじゃないか、と言っていることと同義だよ?」
「──は?」
僕は、理解ができずに言葉を漏らした。
「だって、そうじゃないか。魔法で対処って、僕たちの魔法が普通の人間に当たったらどうなると思う?葵ちゃんの炎の玉が当たったら、相手は火だるまになって死ぬだろう。明楽くんについてはともかくとして、雪冬くんが氷の刃を使ったらどうなる?確実に死ぬに決まっている。一か月ほど前に君はそれを元人間として感じて知っていたはずなのに、どうしてそんなことを言えるんだ?」
いつもより、本当に真面目な語り口調で。
「確かに僕は人間という存在が好きではない。でも別に人間を殺したいという考えまでは及んだことがない。
でも、君が言ったことはそういうことだ。『自分なら人間を殺せる』、君はそれと同じことを言っているんだよ」
──言葉が詰まる。
「僕がこういうことを言うと気持ちが悪いかもしれないけれど、僕は君たちが大好きだ。だからこそ平穏に生きてほしいという気持ちがある。
魔法教室で怪我をすることがあるかもしれない。でも、魔法使いだからこそ、別にそれはいい経験になりえると信じている。環くんと雪冬くんだって、そこから関係が改善したと僕は思っている。魔法教室で被害者も加害者もいてもいいとは思うさ。
でも、それは魔法教室内での話だ。魔法教室の外、現実で君たちを被害者に、あまつさえ加害者にする気は僕にはないよ。
だからこそ、僕は魔法教室をしばらく閉校にするんだよ。ここまで言えば、流石に環くんでも分かるよねぇ」
僕は、何も返すことはできずに、そうして頷いた。頷くことしかできなかった。
いつも通りに深夜、魔法教室に行くと、生徒たちの前で立花先生は凄く訝しい雰囲気でそう発言した。
「え」
僕がそう声をあげると、不思議そうな顔で先生が見てくる。いや、不思議に思っているのは僕の方なんだけれども。それ以外の人だってそうに決まっているだろうに──。
そう思って、周囲の人間を見渡してみるけれど、他のみんなに関してはその事実を受け入れるような、苦いような表情をしている。天音さんに至っては単純にいつも通り無表情だからわからないけれど、明楽に関してはうんうんと頷きながらそう答えているのだから不思議なものだ。
「なんでですか?」
誰もが納得しているような雰囲気の中、自分自身で理解ができていないので、僕はそのまま疑問に呈する。
「あれ?もしかして冗談とかじゃなくて本気で分からなかったりするのかな?」
「……まあ、はい」
それならしようがない、と立花先生はひとつため息を吐いて、そうして言葉を続ける。
「最近、巷で騒がれているニュースがあるじゃない?吸血鬼事件とか言われているアレ。あれが怖いからしばらくお休み」
「……怖いからって」
吸血鬼事件のことは葵から聞いていたから知ってはいたけれど、そこまで気にすることなのだろうか。
確かに殺人事件、と言われれば怖いものだけれども、僕たちは魔法使いだからそんな死ぬ可能性なんて存在しないだろうに。
「……今、魔法使いなら死なないだろう、とか思ってない?」
「……正直、思いました」
はあ、と立花先生はため息をつく。
「吸血鬼事件といわれているものとは別の、単純な殺人事件なら僕も別に気にする必要はないとは思うんだけれども、吸血鬼事件に関して言えば、めちゃくちゃ危険としか言いようがないんだよ、環くん」
普通の事件なら大丈夫……?
なら、この吸血鬼事件と他の事件の違いとは?
……ああ、そうか。
「……魔法使いの血、ですか」
「そう。まあ、それ以外にもれっきとした理由はあるけれども、とりあえず話すかな。
吸血鬼事件の詳細としては、なんか人間の血液を吸いだして、それを闇的な関係の場所に売買するらしいじゃないか。そうなると、もし君たちがその吸血鬼とやらに襲われて、そうして対処ができなかったとき、魔法使いの血はよからぬところに流される。それはあまりにも非道徳的な行為でしかない。
売られるということは、それを利用する人間がいるということだし、利用すると言ったら、単純に輸血とかくらいしか僕は心当たりがない。まあ、魔法使いが使うならいろいろ思いつくけれども、恐らくこの事件は人間が犯人で間違いない。そんな人間が魔法使いの血を輸血させる、ということを考えたうえで、深夜に君たちを集めてまで魔法教室を開催する、という風にはいかないのさ」
「……なるほど」
未だに魔法使いの倫理観を理解していないせいか、僕には想像もできなかった話だ。だからこそ、他の皆は先生が閉校を宣言した時に納得をするような表情をしていたのだろう。
「あと他にも致命的な理由がある」
「……なんですか?」
「魔法使いにとって、一番ありふれている死因は”失血死”だからだ」
「……ああ」
確か前にもそんなことを言っていたような気がする。魔法使いは基本的に不死身ではあるけれど、大量の出血をしたら死ぬ可能性があることを言及された記憶がある。よっぽどの出血を本人で行わなければ死ぬことはない、つまりは自死くらいしかない、と立花先生は言っていたけれど。
「ニュースによれば、大概の人間の死因は”失血死”らしいじゃないか。外傷もなく、単純に全身から血液を抜き取られて、そうして失血して死ぬ。それは魔法使いである君たちの唯一の死因にもなりえるものだ。そんな状況で僕は魔法教室を続ける勇気はないかな」
「……でも」
僕は、思っていることを続けた。
「僕たちには魔法があるじゃないですか。……まあ、僕は使えないけれど、皆なら逃げおおせることだってできるはずだし、魔法で相手を倒すことだって──」
「──環くん、それ本気で言っているのかい?」
立花先生が、いつにも増して低い声で呟いた。
「……ほ、本気というか、まあ……」
「はあ……」
立花先生は肺の奥深くからため息を吐き出した。
「そもそも魔法を一般の人間に見せることが駄目だって言っているじゃないか。魔法使いが秘匿される存在だっていう話をさっきもしたような気がするけれど、そんな存在が魔法を使って対処をして誰かに目撃されたりしたらどうするつもりなんだい」
あとさ、と立花先生は言葉を続ける。
「──君が言っていることは、人間を殺せばいいじゃないか、と言っていることと同義だよ?」
「──は?」
僕は、理解ができずに言葉を漏らした。
「だって、そうじゃないか。魔法で対処って、僕たちの魔法が普通の人間に当たったらどうなると思う?葵ちゃんの炎の玉が当たったら、相手は火だるまになって死ぬだろう。明楽くんについてはともかくとして、雪冬くんが氷の刃を使ったらどうなる?確実に死ぬに決まっている。一か月ほど前に君はそれを元人間として感じて知っていたはずなのに、どうしてそんなことを言えるんだ?」
いつもより、本当に真面目な語り口調で。
「確かに僕は人間という存在が好きではない。でも別に人間を殺したいという考えまでは及んだことがない。
でも、君が言ったことはそういうことだ。『自分なら人間を殺せる』、君はそれと同じことを言っているんだよ」
──言葉が詰まる。
「僕がこういうことを言うと気持ちが悪いかもしれないけれど、僕は君たちが大好きだ。だからこそ平穏に生きてほしいという気持ちがある。
魔法教室で怪我をすることがあるかもしれない。でも、魔法使いだからこそ、別にそれはいい経験になりえると信じている。環くんと雪冬くんだって、そこから関係が改善したと僕は思っている。魔法教室で被害者も加害者もいてもいいとは思うさ。
でも、それは魔法教室内での話だ。魔法教室の外、現実で君たちを被害者に、あまつさえ加害者にする気は僕にはないよ。
だからこそ、僕は魔法教室をしばらく閉校にするんだよ。ここまで言えば、流石に環くんでも分かるよねぇ」
僕は、何も返すことはできずに、そうして頷いた。頷くことしかできなかった。
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