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第二章 天使時間の歯車
2-17 僕はそうして彼女の──
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人にはそれぞれ欲望というものがある。それはお金に対する欲望かもしれないし、名誉を得るための欲かもしれない。でも、更に一般的な欲として挙げるならば、性的な欲求がそれだと思われる。
『……今なら誰にも見られず、当人にも知られず胸を触ることができるんだ』
……確かに、それはそうなのではあるけれども。
自分以外の時が止まっている世界、目の前にはいつも一緒に過ごしている幼馴染の女子、そしてそこにいる健全な男子高校二年生。
……いや、待て。そんなことをするのは普通にあり得ないじゃないか。倫理として、というか一般的な人間の感覚として、人の胸を触るという行為はどこまでも許されない行為なのではないか。
そもそもそんな胸を触るという行為はとても性的な行為であるとされており、性的であるからこそ人と親密度が高い……、というか恋愛感情を持っていて、更にそれを発展させた恋人同士だけが許される行為であり、それを行うのは人として間違っている。
いくら僕が葵と友人以上の関係を結んでいるからといって、そこからいきなり恋人以上しか許されない行為をすることが許されるのだろうか。
……好意は持っているけれど、彼女が僕に対してそんな好意を抱いているかはわからない。自分の無理な性的な欲求にしたがって目の前にある胸を触るという行為は許されるものなのだろうか。許されていいものなのだろうか。
『でもさぁ、お前と葵は実質結婚しているようなもんだから許されるだろう』
実質結婚?そんなことをしていただろうか。
──そこで思い出したのは、葵の輸血という行為。魔法使いにとって輸血というものは禁忌であり、ほぼ子どもを作る行為と同じだと立花先生は言っていた。背徳的な行為だと。
一度目は僕の命を救うために輸血してくれた彼女ではあるけれど、そんな行為を天原と模擬戦闘をした後に、更に輸血したことがある彼女のそれは、もう実質好意を僕に持ってくれていると思っていいものなのではないだろうか。
必然的に今から行おうとする罪は、許されてしまうのではないだろうか?
……いや、いやいや、ちょっと待て。そもそも葵が輸血してくれるのは、そんな背徳的な行為を共有するためではなくて、僕の命をいつだって救おうとやってくれたものに違いないだろう。それを裏切るような形で、胸を触るという男子高校生にとっては大罪を侵してもいいのだろうか。
『──ええと、よろしく?』
いや、でもあの時の葵は、立花先生に婚姻のことを言われたとき、そんな発言をしていたよな。
それって、僕と付き合ってもいいと受け止めたっていうことになるよな。そうなるに決まっている。
僕が認識していなかっただけで、もともと僕と葵は付き合っていた、ということでいいんじゃないか?なんならこの前海に行くといって一緒にサイクリングというデートもしたわけだし。
……うん。これは間違いない。これは僕は悪くない。確実に悪くない。あらゆる罪を世界が肯定してくれている。だからこそ、世界は今固着してくれているのかもしれない。葵との関係を認識するために、世界は静止を続けているのだろう。
そうであるのならば、僕は彼女の胸に触れなければいけないだろう。世界の期待というものがあるなら、それに答えなければ紳士というものじゃない。
……というか、そもそも胸を触らなければ世界はいつまでも動かないという気もしてきた。そうだよ。だって目の前のこんな状況、触るしかないじゃないか。うん。
──これはあくまで世界を動かすための必要な儀式。ある意味で精神を代償にして行う世界を救うための黒い魔法。……桃色っぽいような気もするけれど、それはさておき、これからの行為は肯定されるべきものなのだ。
僕は悪くない。僕は悪くない。僕は絶対に悪くない。悪いやつがいるとするならば、世界が悪い。うん、世界が悪いとしか言いようがない。
──よし、決意を固めよう。
僕は、そうして彼女の──、胸へと──、手を伸ばした。
◇
現実とは残酷なものである。そんなこと、いつだって認識しているはずなのに、それを忘れるように過ごそうとする僕が愚劣な人間としか言いようがない。いや、そもそも人間じゃないから魔法使いか。そもそも魔法使いにも慣れないから魔法使いもどきか。いや、そんなことはどうでもいい。
(……かたい)
時が止まる世界。あらゆるものが固着している世界で、きっとやわらかいものでさえも動くまいと定められている静止した世界で、残されているものはかたい感触。
……え?ここまで葛藤を繰り返したのに、オチがそれなんてある?もうそろそろご褒美くらいあってもいいじゃないの。なんで、世界はそうして現実が残酷ということを知らしめてくるのだろう。
葵の胸はそこそこに大きいと思う。着やせするタイプというか、でもそこそこに浮彫になる胸のやわらかさは想像に難くない。でも、固着した世界でそれはかたいままだ。ルールから逸脱しないようにと示すかのように。
(……なんで……、なんでだよ……)
僕はどうしようもない気持ちをどこかにぶつけることもできず、ひたすらかたい感触しかない葵の胸を触り続けている。
──せめて、一瞬でも世界が動いてくれたのなら、そこに新世界は広がっているというのに。真なる世界はあるというのに。
──そんなときに感じるふんわりとした弾力のある触覚。
僕の夢が叶ったのではないか、もしくは僕の願望に強烈な妄想を感触ごと再現してしまったのだろうか。
そんなときに、聞こえる、──葵の声。
「──なにをしているのでしょうか、環さん」
にこやかに佇む葵の姿。
Oh,世界、そりゃないぜ。
『……今なら誰にも見られず、当人にも知られず胸を触ることができるんだ』
……確かに、それはそうなのではあるけれども。
自分以外の時が止まっている世界、目の前にはいつも一緒に過ごしている幼馴染の女子、そしてそこにいる健全な男子高校二年生。
……いや、待て。そんなことをするのは普通にあり得ないじゃないか。倫理として、というか一般的な人間の感覚として、人の胸を触るという行為はどこまでも許されない行為なのではないか。
そもそもそんな胸を触るという行為はとても性的な行為であるとされており、性的であるからこそ人と親密度が高い……、というか恋愛感情を持っていて、更にそれを発展させた恋人同士だけが許される行為であり、それを行うのは人として間違っている。
いくら僕が葵と友人以上の関係を結んでいるからといって、そこからいきなり恋人以上しか許されない行為をすることが許されるのだろうか。
……好意は持っているけれど、彼女が僕に対してそんな好意を抱いているかはわからない。自分の無理な性的な欲求にしたがって目の前にある胸を触るという行為は許されるものなのだろうか。許されていいものなのだろうか。
『でもさぁ、お前と葵は実質結婚しているようなもんだから許されるだろう』
実質結婚?そんなことをしていただろうか。
──そこで思い出したのは、葵の輸血という行為。魔法使いにとって輸血というものは禁忌であり、ほぼ子どもを作る行為と同じだと立花先生は言っていた。背徳的な行為だと。
一度目は僕の命を救うために輸血してくれた彼女ではあるけれど、そんな行為を天原と模擬戦闘をした後に、更に輸血したことがある彼女のそれは、もう実質好意を僕に持ってくれていると思っていいものなのではないだろうか。
必然的に今から行おうとする罪は、許されてしまうのではないだろうか?
……いや、いやいや、ちょっと待て。そもそも葵が輸血してくれるのは、そんな背徳的な行為を共有するためではなくて、僕の命をいつだって救おうとやってくれたものに違いないだろう。それを裏切るような形で、胸を触るという男子高校生にとっては大罪を侵してもいいのだろうか。
『──ええと、よろしく?』
いや、でもあの時の葵は、立花先生に婚姻のことを言われたとき、そんな発言をしていたよな。
それって、僕と付き合ってもいいと受け止めたっていうことになるよな。そうなるに決まっている。
僕が認識していなかっただけで、もともと僕と葵は付き合っていた、ということでいいんじゃないか?なんならこの前海に行くといって一緒にサイクリングというデートもしたわけだし。
……うん。これは間違いない。これは僕は悪くない。確実に悪くない。あらゆる罪を世界が肯定してくれている。だからこそ、世界は今固着してくれているのかもしれない。葵との関係を認識するために、世界は静止を続けているのだろう。
そうであるのならば、僕は彼女の胸に触れなければいけないだろう。世界の期待というものがあるなら、それに答えなければ紳士というものじゃない。
……というか、そもそも胸を触らなければ世界はいつまでも動かないという気もしてきた。そうだよ。だって目の前のこんな状況、触るしかないじゃないか。うん。
──これはあくまで世界を動かすための必要な儀式。ある意味で精神を代償にして行う世界を救うための黒い魔法。……桃色っぽいような気もするけれど、それはさておき、これからの行為は肯定されるべきものなのだ。
僕は悪くない。僕は悪くない。僕は絶対に悪くない。悪いやつがいるとするならば、世界が悪い。うん、世界が悪いとしか言いようがない。
──よし、決意を固めよう。
僕は、そうして彼女の──、胸へと──、手を伸ばした。
◇
現実とは残酷なものである。そんなこと、いつだって認識しているはずなのに、それを忘れるように過ごそうとする僕が愚劣な人間としか言いようがない。いや、そもそも人間じゃないから魔法使いか。そもそも魔法使いにも慣れないから魔法使いもどきか。いや、そんなことはどうでもいい。
(……かたい)
時が止まる世界。あらゆるものが固着している世界で、きっとやわらかいものでさえも動くまいと定められている静止した世界で、残されているものはかたい感触。
……え?ここまで葛藤を繰り返したのに、オチがそれなんてある?もうそろそろご褒美くらいあってもいいじゃないの。なんで、世界はそうして現実が残酷ということを知らしめてくるのだろう。
葵の胸はそこそこに大きいと思う。着やせするタイプというか、でもそこそこに浮彫になる胸のやわらかさは想像に難くない。でも、固着した世界でそれはかたいままだ。ルールから逸脱しないようにと示すかのように。
(……なんで……、なんでだよ……)
僕はどうしようもない気持ちをどこかにぶつけることもできず、ひたすらかたい感触しかない葵の胸を触り続けている。
──せめて、一瞬でも世界が動いてくれたのなら、そこに新世界は広がっているというのに。真なる世界はあるというのに。
──そんなときに感じるふんわりとした弾力のある触覚。
僕の夢が叶ったのではないか、もしくは僕の願望に強烈な妄想を感触ごと再現してしまったのだろうか。
そんなときに、聞こえる、──葵の声。
「──なにをしているのでしょうか、環さん」
にこやかに佇む葵の姿。
Oh,世界、そりゃないぜ。
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