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第三章 灰色の対極
3-5 決意と『殺意』
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母との会話を終えて、僕はとりあえず感情をまとめようと夜中の街に繰り出している。
時間帯については七時ごろ、魔法教室に行くとしても、あまりにも早すぎる時間帯。そもそも行く気もないけれど。
でも、こういう独りになりたい感情が強いときに空間という場所は持って来いではある。でも、流石にまだ一般人が学校にいる時間帯であることを考えれば、魔法教室に侵入することは叶わないだろう。
そうして結局辿り着くのは、いつも葵と帰りがけに寄っていた公園。秋という季節も終わりかけで、涼しいというには冷たすぎる風が頬を撫でる空間。壁も何も存在しない。唯一街路樹があるくらいで、風を妨げることはない。
──ふと、人肌が恋しくなる感覚。
最近の生活は、人との距離感を図ることも面倒になって、そうして孤独な生活を選んできているというのに、それでも人肌が欲しくてたまらない。
誰かに気持ちを聞いてほしい。身近な人間でも、他人でもいい。自分の感情を整理するのに必要なのは、聞いてもらう人間の存在なのだ。
なんとなく、葵に会いたい。
自分から距離を取っていたのがばかばかしい。自分の正体がわからないから、葵と関わらないようにしようと心がけていたのに、今はそんな心がけは無駄としか言いようがない。
そもそも葵は僕に話しかけようとしてくれていたのだ。高校に行く道の中でも、魔法教室からの帰り路も。いつだって彼女は僕に対して寄り添うように関わってくれていたのに、どうしてそれを無視していたのだろう。
気の迷いのようなもの、と言い訳してしまえばそれだけだが、それだけで済ますにはやっていることが愚劣すぎる。まだ、夏先の前を向こうとしていた時期くらいの方が、葵と適切に関わることができていただろうに。
……こうしていても仕方がない。感情の整理も情報の整理もできないのなら、いっそ思い切って葵に会って話をすればいいだろう。いつまでもうだうだと考えても、そこから結論が生まれることはない。
葵と会話をして、決めよう。
自分の正体を知るかどうか、そこで決断をしてしまおう。
そう思って、早速ついたばかりの公園を脱け出す。今日は綺麗に満月がのぞける日だった。
◆
『
俺は、どうしてここにいる?
最近になってようやく表出することができたというのに、どうしてまた存在を失くすように俺はこいつの心の中で閉じこもっているのだ?
劣等感がない。劣等感がない。こいつが抱くべき劣等感が未だに存在していない。
人は生きていれば劣等感を覚える機会はあるものだ。それは豊富なものとは言えないだろうが、コイツに関して言えば、日常のすべてが劣等感の塊でしかなかったはずなのに、どうしてコイツは劣等感を抱いていないのだ。
灰色の劣等こそが、在原 環の本質だ。それだというのに、本質が存在しない者など、生物でさえありはしないだろう。どこか死んだ心地がするのはなぜなのだ。
いつからこうなった。いつからこうなった。
幼い頃と同じだ。幼い頃にアイツらが消えてから、俺はこうなった。それと同様に、またこんな風に心のうちに劣等感を抑えられるようになったのは何がきっかけだというのだ。
──ああ、アイツか。
天王寺 天音。アイツがコイツに関わり始めてから、何かがおかしいのだ。
アイツは恐らくすべてを知っている。すべてを知っているからこそ、俺の存在にも気づいていたのだ。
はは、面白いじゃないか。それこそやりがいがあるというものだ。
──この価値観に例外などあってはならない。それが例え在原環が望みもしないことであろうとも、例外は存在してはいけないのだ。
──魔法使いは殺す。確実に殺す。絶対に殺す。
肉を裂きたい。魔法使いの身体はすぐに修復するから何度も切ることができるのはご褒美のようなものだ。だからこそ、しぶとい身体であることには感謝が尽くせない。でも、そのしぶとさ故にゴキブリと同様の嫌悪感を抱くのは別に俺は悪くないだろう。だからこそ、魔法使いという存在は殺さなければいけない。殺すならどういう方法を取ろうか。回復をすることができないほどに肉を切り刻んでもいい。修復はするだろうが、別にあいつらの肉体はかたいわけではない。何度も何度も切り刻んでしまえば、いつかは巻き戻ることもなくなるだろう。その前に血液がすべて消失するかもしれないが、それならそれで面白い。関節ごとにわけてやりたい。骨のパーツが人間であるのかどうかの比較をしたい。大きさの模造がされているのか、精巧な作りをしているのか、俺は知りたくてしようがない。
ああ、早く切り刻みたい。切り刻みたくて仕方がない。最初はどいつからにしよう。葵か?明楽か?雪冬か?立花か?いいや、そんな簡単なやつらはどうでもいい。俺が最初に殺すべき存在はそうだ、あの女だ。俺をこんな窮屈な場所に閉じ込めやがったあの女。
天王寺天音。俺はお前を解体したくてしようがない。柔肌が切れるのを何度だって楽しみたい。妖艶じゃないか、肉がはじけてぶつりと音を立てながら血をはしゃがせるのは。気持ちがいいとしか言いようがないだろう。
ああ、楽しみだ。コイツが思い立って天王寺に会った時が楽しみでしようがない。
──絶対に、殺してやる。はは、ははははは。
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。
』
時間帯については七時ごろ、魔法教室に行くとしても、あまりにも早すぎる時間帯。そもそも行く気もないけれど。
でも、こういう独りになりたい感情が強いときに空間という場所は持って来いではある。でも、流石にまだ一般人が学校にいる時間帯であることを考えれば、魔法教室に侵入することは叶わないだろう。
そうして結局辿り着くのは、いつも葵と帰りがけに寄っていた公園。秋という季節も終わりかけで、涼しいというには冷たすぎる風が頬を撫でる空間。壁も何も存在しない。唯一街路樹があるくらいで、風を妨げることはない。
──ふと、人肌が恋しくなる感覚。
最近の生活は、人との距離感を図ることも面倒になって、そうして孤独な生活を選んできているというのに、それでも人肌が欲しくてたまらない。
誰かに気持ちを聞いてほしい。身近な人間でも、他人でもいい。自分の感情を整理するのに必要なのは、聞いてもらう人間の存在なのだ。
なんとなく、葵に会いたい。
自分から距離を取っていたのがばかばかしい。自分の正体がわからないから、葵と関わらないようにしようと心がけていたのに、今はそんな心がけは無駄としか言いようがない。
そもそも葵は僕に話しかけようとしてくれていたのだ。高校に行く道の中でも、魔法教室からの帰り路も。いつだって彼女は僕に対して寄り添うように関わってくれていたのに、どうしてそれを無視していたのだろう。
気の迷いのようなもの、と言い訳してしまえばそれだけだが、それだけで済ますにはやっていることが愚劣すぎる。まだ、夏先の前を向こうとしていた時期くらいの方が、葵と適切に関わることができていただろうに。
……こうしていても仕方がない。感情の整理も情報の整理もできないのなら、いっそ思い切って葵に会って話をすればいいだろう。いつまでもうだうだと考えても、そこから結論が生まれることはない。
葵と会話をして、決めよう。
自分の正体を知るかどうか、そこで決断をしてしまおう。
そう思って、早速ついたばかりの公園を脱け出す。今日は綺麗に満月がのぞける日だった。
◆
『
俺は、どうしてここにいる?
最近になってようやく表出することができたというのに、どうしてまた存在を失くすように俺はこいつの心の中で閉じこもっているのだ?
劣等感がない。劣等感がない。こいつが抱くべき劣等感が未だに存在していない。
人は生きていれば劣等感を覚える機会はあるものだ。それは豊富なものとは言えないだろうが、コイツに関して言えば、日常のすべてが劣等感の塊でしかなかったはずなのに、どうしてコイツは劣等感を抱いていないのだ。
灰色の劣等こそが、在原 環の本質だ。それだというのに、本質が存在しない者など、生物でさえありはしないだろう。どこか死んだ心地がするのはなぜなのだ。
いつからこうなった。いつからこうなった。
幼い頃と同じだ。幼い頃にアイツらが消えてから、俺はこうなった。それと同様に、またこんな風に心のうちに劣等感を抑えられるようになったのは何がきっかけだというのだ。
──ああ、アイツか。
天王寺 天音。アイツがコイツに関わり始めてから、何かがおかしいのだ。
アイツは恐らくすべてを知っている。すべてを知っているからこそ、俺の存在にも気づいていたのだ。
はは、面白いじゃないか。それこそやりがいがあるというものだ。
──この価値観に例外などあってはならない。それが例え在原環が望みもしないことであろうとも、例外は存在してはいけないのだ。
──魔法使いは殺す。確実に殺す。絶対に殺す。
肉を裂きたい。魔法使いの身体はすぐに修復するから何度も切ることができるのはご褒美のようなものだ。だからこそ、しぶとい身体であることには感謝が尽くせない。でも、そのしぶとさ故にゴキブリと同様の嫌悪感を抱くのは別に俺は悪くないだろう。だからこそ、魔法使いという存在は殺さなければいけない。殺すならどういう方法を取ろうか。回復をすることができないほどに肉を切り刻んでもいい。修復はするだろうが、別にあいつらの肉体はかたいわけではない。何度も何度も切り刻んでしまえば、いつかは巻き戻ることもなくなるだろう。その前に血液がすべて消失するかもしれないが、それならそれで面白い。関節ごとにわけてやりたい。骨のパーツが人間であるのかどうかの比較をしたい。大きさの模造がされているのか、精巧な作りをしているのか、俺は知りたくてしようがない。
ああ、早く切り刻みたい。切り刻みたくて仕方がない。最初はどいつからにしよう。葵か?明楽か?雪冬か?立花か?いいや、そんな簡単なやつらはどうでもいい。俺が最初に殺すべき存在はそうだ、あの女だ。俺をこんな窮屈な場所に閉じ込めやがったあの女。
天王寺天音。俺はお前を解体したくてしようがない。柔肌が切れるのを何度だって楽しみたい。妖艶じゃないか、肉がはじけてぶつりと音を立てながら血をはしゃがせるのは。気持ちがいいとしか言いようがないだろう。
ああ、楽しみだ。コイツが思い立って天王寺に会った時が楽しみでしようがない。
──絶対に、殺してやる。はは、ははははは。
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。
』
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