62 / 143
第三章 灰色の対極
3-4 中二病っていうやつ?
しおりを挟む
「あ」
唐突に流れ出る記憶の奔流のようなもの。魔法使いになったときにも流れ出した記憶のようなものの詳細が、今頭の中で流れだした。
……僕は、どうして今までその存在を忘れていたのだろうか。いや、母が明確に隠していたから、というのもあるだろうが、それでも記憶の根底を覆すような何かを忘れていたことをここまで思い出すことができなかったのは違和感がある。
「仕方ないわよ。だって、記憶消されてるし」
「……ファンタジー?」
訳も分からなくなって、そんな単語が出るけど、母は苦笑する。
「ファンタジーなんてあるわけないでしょう。催眠術らしいわよ、催眠術。幼い子に別れを経験させたくないから記憶を消すんだぁ、って催眠術をかけて記憶を消した、って言ってたわよ。それで確かにあんたのお父さんと朱音の記憶を消しているんだから、神父ってすごいわねぇ」
……神父にそんな力があるわけないだろ。
でも、把握すること。
──母は知っているようで、何も知らない。
いいや、知っていることはあるのだろうが、それは僕の求めているようで知りたくない事実なんかではなく、単純な家族関係についてだけ。ここにはファンタジーなど介在しないような言い方をさっきから続けているから、きっとそうなのだろう。
「というわけで、今から説明をします。知りたいのなら頭の中に入れておきなさい」
「……もう、頭がいっぱいいっぱいなのですが」
「五月蠅いわね、あんた男でしょうに」
現代ではセクハラのような文言を吐いて、母は言葉を続けた。
◇
そうして母の言葉を整理すると、こうだ。
僕には父がいる。父は死んでいない。まずこの事実がびっくりではあるけれど、とりあえず呑み込む。
そして僕には姉がいる。在原 朱音という、一人の姉が。
でも、開示される情報については、それだけだ。
予想通り、母は何も──知らないでいる。
◇
「それで、姉ちゃんは……、朱音姉ちゃんはどこにいるのさ」
昔は言い慣れた言葉、今は言いも聞きもしない言葉を呟いた。その呟きの違和感を自分で呑み込む。
「うーん、どうだろうね。私もわからないのよ」
「……こういう場合って、なんか連絡取りあってたりとか──」
「ないない! 父さんも適当な人だし、いきなり旅に出る!とかいってそれから私と環を置いていったんだから」
……旅に出るって、そんなどこかの冒険譚の主人公でもあるまいし。
「というか旅?なんで?というか、離婚とかそういうやつでもないの?」
「離婚なんてあの人できないわよ。神父だから」
「……そんなもんなの?」
「そんなもんよ」
母は言葉を続ける。
「今のあんたみたいに朱音の左手に黒いなんかが出てきて、それから息巻いて旅に出ていったわ。でも、あの人に限って浮気とかはないだろうし、朱音もいるから大丈夫でしょう」
「……」
……駄目だ、なんか情報を整理することができない。
自分の出自についての覚悟をしていただけに、どうして僕は姉のことを今さらに思い出して、そうして姉の存在にとらわれているのだろう。
僕が知りたいようで知りたくなかった事実とは、また違うような気がする。
「神父の家系って、なんかそんな風になるとか説明を受けたけれど不思議よねぇ。いきなり父さんが朱音にタトゥーを彫ったかと思ってものすごく怒ったんだから」
母は言葉を続ける。
「でも、いきなりあんたが天使とか言い始めたからビックリしたわぁ。お父さんみたいな妄言を吐きはじめたと思って……」
「ええと、あの、うん。まあ、そうだね」
「まあ、そんなに左手のことは気にしない方がいいわよ。大人になったら現れるとは言ってたから、そんなもんだと思いなさいな」
「……はい」
……思っていたことと違いすぎて、なんか拍子抜けだ。
知っている前提で話を広げようと思っていたから、いざ母が知らないとすると、どういう風に誤魔化せばいいのかわからない。
「そういえば、こういうのって中二病っていうやつ?なんでしょう?なんかこの前テレビで見たから、私、なんとなく理解があるわよ」
そう誇らしげに語っているけれど、僕の言いたいことは全く別だ。
でも、ここで納得させることができるのなら、それでいいだろう。
「……うん。そうなんだ。左手が、……疼くんだよね」
苦渋の決断、というか断腸の思いで言葉を紡ぐ。
──なんで、僕はこんなことをやっているのだろう。僕はため息をつく。
やっぱり、天音に聞かなければいけないようだ。
唐突に流れ出る記憶の奔流のようなもの。魔法使いになったときにも流れ出した記憶のようなものの詳細が、今頭の中で流れだした。
……僕は、どうして今までその存在を忘れていたのだろうか。いや、母が明確に隠していたから、というのもあるだろうが、それでも記憶の根底を覆すような何かを忘れていたことをここまで思い出すことができなかったのは違和感がある。
「仕方ないわよ。だって、記憶消されてるし」
「……ファンタジー?」
訳も分からなくなって、そんな単語が出るけど、母は苦笑する。
「ファンタジーなんてあるわけないでしょう。催眠術らしいわよ、催眠術。幼い子に別れを経験させたくないから記憶を消すんだぁ、って催眠術をかけて記憶を消した、って言ってたわよ。それで確かにあんたのお父さんと朱音の記憶を消しているんだから、神父ってすごいわねぇ」
……神父にそんな力があるわけないだろ。
でも、把握すること。
──母は知っているようで、何も知らない。
いいや、知っていることはあるのだろうが、それは僕の求めているようで知りたくない事実なんかではなく、単純な家族関係についてだけ。ここにはファンタジーなど介在しないような言い方をさっきから続けているから、きっとそうなのだろう。
「というわけで、今から説明をします。知りたいのなら頭の中に入れておきなさい」
「……もう、頭がいっぱいいっぱいなのですが」
「五月蠅いわね、あんた男でしょうに」
現代ではセクハラのような文言を吐いて、母は言葉を続けた。
◇
そうして母の言葉を整理すると、こうだ。
僕には父がいる。父は死んでいない。まずこの事実がびっくりではあるけれど、とりあえず呑み込む。
そして僕には姉がいる。在原 朱音という、一人の姉が。
でも、開示される情報については、それだけだ。
予想通り、母は何も──知らないでいる。
◇
「それで、姉ちゃんは……、朱音姉ちゃんはどこにいるのさ」
昔は言い慣れた言葉、今は言いも聞きもしない言葉を呟いた。その呟きの違和感を自分で呑み込む。
「うーん、どうだろうね。私もわからないのよ」
「……こういう場合って、なんか連絡取りあってたりとか──」
「ないない! 父さんも適当な人だし、いきなり旅に出る!とかいってそれから私と環を置いていったんだから」
……旅に出るって、そんなどこかの冒険譚の主人公でもあるまいし。
「というか旅?なんで?というか、離婚とかそういうやつでもないの?」
「離婚なんてあの人できないわよ。神父だから」
「……そんなもんなの?」
「そんなもんよ」
母は言葉を続ける。
「今のあんたみたいに朱音の左手に黒いなんかが出てきて、それから息巻いて旅に出ていったわ。でも、あの人に限って浮気とかはないだろうし、朱音もいるから大丈夫でしょう」
「……」
……駄目だ、なんか情報を整理することができない。
自分の出自についての覚悟をしていただけに、どうして僕は姉のことを今さらに思い出して、そうして姉の存在にとらわれているのだろう。
僕が知りたいようで知りたくなかった事実とは、また違うような気がする。
「神父の家系って、なんかそんな風になるとか説明を受けたけれど不思議よねぇ。いきなり父さんが朱音にタトゥーを彫ったかと思ってものすごく怒ったんだから」
母は言葉を続ける。
「でも、いきなりあんたが天使とか言い始めたからビックリしたわぁ。お父さんみたいな妄言を吐きはじめたと思って……」
「ええと、あの、うん。まあ、そうだね」
「まあ、そんなに左手のことは気にしない方がいいわよ。大人になったら現れるとは言ってたから、そんなもんだと思いなさいな」
「……はい」
……思っていたことと違いすぎて、なんか拍子抜けだ。
知っている前提で話を広げようと思っていたから、いざ母が知らないとすると、どういう風に誤魔化せばいいのかわからない。
「そういえば、こういうのって中二病っていうやつ?なんでしょう?なんかこの前テレビで見たから、私、なんとなく理解があるわよ」
そう誇らしげに語っているけれど、僕の言いたいことは全く別だ。
でも、ここで納得させることができるのなら、それでいいだろう。
「……うん。そうなんだ。左手が、……疼くんだよね」
苦渋の決断、というか断腸の思いで言葉を紡ぐ。
──なんで、僕はこんなことをやっているのだろう。僕はため息をつく。
やっぱり、天音に聞かなければいけないようだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる