魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第三章 灰色の対極

3-4 中二病っていうやつ?

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 「あ」

 唐突に流れ出る記憶の奔流のようなもの。魔法使いになったときにも流れ出した記憶のようなものの詳細が、今頭の中で流れだした。

 ……僕は、どうして今までその存在を忘れていたのだろうか。いや、母が明確に隠していたから、というのもあるだろうが、それでも記憶の根底を覆すような何かを忘れていたことをここまで思い出すことができなかったのは違和感がある。

 「仕方ないわよ。だって、記憶消されてるし」

 「……ファンタジー?」

 訳も分からなくなって、そんな単語が出るけど、母は苦笑する。

 「ファンタジーなんてあるわけないでしょう。催眠術らしいわよ、催眠術。幼い子に別れを経験させたくないから記憶を消すんだぁ、って催眠術をかけて記憶を消した、って言ってたわよ。それで確かにあんたのお父さんと朱音の記憶を消しているんだから、神父ってすごいわねぇ」

 ……神父にそんな力があるわけないだろ。

 でも、把握すること。

 ──母は知っているようで、何も知らない。

 いいや、知っていることはあるのだろうが、それは僕の求めているようで知りたくない事実なんかではなく、単純な家族関係についてだけ。ここにはファンタジーなど介在しないような言い方をさっきから続けているから、きっとそうなのだろう。

 「というわけで、今から説明をします。知りたいのなら頭の中に入れておきなさい」

 「……もう、頭がいっぱいいっぱいなのですが」

 「五月蠅いわね、あんた男でしょうに」

 現代ではセクハラのような文言を吐いて、母は言葉を続けた。







 そうして母の言葉を整理すると、こうだ。

 僕には父がいる。父は死んでいない。まずこの事実がびっくりではあるけれど、とりあえず呑み込む。

 そして僕には姉がいる。在原 朱音という、一人の姉が。

 でも、開示される情報については、それだけだ。

 予想通り、母は何も──知らないでいる。







 「それで、姉ちゃんは……、朱音姉ちゃんはどこにいるのさ」

 昔は言い慣れた言葉、今は言いも聞きもしない言葉を呟いた。その呟きの違和感を自分で呑み込む。

 「うーん、どうだろうね。私もわからないのよ」

 「……こういう場合って、なんか連絡取りあってたりとか──」

 「ないない! 父さんも適当な人だし、いきなり旅に出る!とかいってそれから私と環を置いていったんだから」

 ……旅に出るって、そんなどこかの冒険譚の主人公でもあるまいし。

 「というか旅?なんで?というか、離婚とかそういうやつでもないの?」

 「離婚なんてあの人できないわよ。神父だから」

 「……そんなもんなの?」

 「そんなもんよ」

 母は言葉を続ける。

 「今のあんたみたいに朱音の左手に黒いなんかが出てきて、それから息巻いて旅に出ていったわ。でも、あの人に限って浮気とかはないだろうし、朱音もいるから大丈夫でしょう」

 「……」

 ……駄目だ、なんか情報を整理することができない。

 自分の出自についての覚悟をしていただけに、どうして僕は姉のことを今さらに思い出して、そうして姉の存在にとらわれているのだろう。

 僕が知りたいようで知りたくなかった事実とは、また違うような気がする。

 「神父の家系って、なんかそんな風になるとか説明を受けたけれど不思議よねぇ。いきなり父さんが朱音にタトゥーを彫ったかと思ってものすごく怒ったんだから」

 母は言葉を続ける。

 「でも、いきなりあんたが天使とか言い始めたからビックリしたわぁ。お父さんみたいな妄言を吐きはじめたと思って……」

 「ええと、あの、うん。まあ、そうだね」

 「まあ、そんなに左手のことは気にしない方がいいわよ。大人になったら現れるとは言ってたから、そんなもんだと思いなさいな」

 「……はい」

 ……思っていたことと違いすぎて、なんか拍子抜けだ。

 知っている前提で話を広げようと思っていたから、いざ母が知らないとすると、どういう風に誤魔化せばいいのかわからない。

 「そういえば、こういうのって中二病っていうやつ?なんでしょう?なんかこの前テレビで見たから、私、なんとなく理解があるわよ」

 そう誇らしげに語っているけれど、僕の言いたいことは全く別だ。

 でも、ここで納得させることができるのなら、それでいいだろう。

 「……うん。そうなんだ。左手が、……疼くんだよね」

 苦渋の決断、というか断腸の思いで言葉を紡ぐ。

 ──なんで、僕はこんなことをやっているのだろう。僕はため息をつく。

 やっぱり、天音に聞かなければいけないようだ。
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