魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第三章 灰色の対極

3-19 デートしよっか

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 「……つまり、どういうことなんですかね」

 やはり意味が分からないので、そう返すしかない。

 「説明を省きすぎたわけでもないけれど、これについてはそういう説明しかできないんだよな……」

 朱音は困ったように笑った。

 「……その、対極を迎えるってどういうことなんですか?」

 葵がとうとう耐えられなくなったように言葉を吐き出す。

 「受け容れる、とか言ってましたけれど、それってあの……ちょっと怖い環が環を支配するってことなんですか?」

 朱音の言葉をそのままに受け取ったら、確かにそうだ。

 ──僕が、殺意を受け容れる人格になる、ということになるのか?

 「あー、まあ、あながち間違いじゃないのがきついところではあるけれども、半分くらい違うんだよ」

 朱音は語る。

 「結局、対極とは自分の正反対の存在とは言っても内なる自分だ。なんなら欠けている内なる自分であるからこそ、受け容れなければいけないんだよ。私もそうやって受け容れれたし」

 「……朱音も、対極を受け容れたの?」

 率直な疑問を彼女にぶつけると、朱音はそうして頭髪に指を向ける。

 「これが証明」

 ……それのどこが証明なのかはわからないけれど、以前とは違う髪色ではあるから、きっとそのことを言っているのだろう。

 以前は茶髪だったはずの髪色。それがどういうわけか水色の髪。それが対極を受け容れるということなのだろうか?

 彼女の性格も、当時と比べれば全くと言っていいほどに異なっている。それは過去の自分が──、今の自分が死ぬということにはならないだろうか。

 「まあ、そんなに難しい話でもないよ。単純に『こんな自分であってもいいさ』と感じることができれば、それでなんとかなるもんだ」

 軽口で朱音は語っているけれども、それがどれだけ難しいことなのかを、僕は知っている。

 唐突に走る劣等感、それがすべてを占有して、そうして衝動として結果を残す。

 それを受け容れろなんて、馬鹿みたいな話だ。自分を殺す、ということと同義であるだろうに。

 「そんなに引きずるなよ。今天音が押し込んでくれたろ?一週間くらいは大丈夫だろうさ」

 「一週間たったら……」

 「まあ、普通に対極の時間が来るだろうな」

 つまり、一週間後には対極というものを迎えなければならず、そのすべてを受け入れなければいけない。

 「……ちなみに、受け容れなければどうなるの?」

 心配になって、僕はそう言葉を紡ぐ。

 「……えー、まー、あれだよな」

 気まずそうに朱音は語った。

 「──死ぬ、かな」

 



 『とりあえず、一週間後にここに来な。もしくは衝動が抑えられそうにないな、とか予感したらでもいい。私も対極を迎えるための準備をしてやるから、そこまで心配するな』

 朱音は最後にそう言って、僕と葵を教会の空間から出ていかせた。天音はまだあそこに留まるらしく、無表情に手を振っている姿が見えた。

 「……」

 「……」

 二人で帰る暗い道のり。自分の正体を明かすために行動した結果がここにある。そして訳の分からない情報だけを詰め込まれて、どうすればいいのかはわからない。

 気まずい空気だけがそこにある。

 葵は下を見ながら歩いている。街灯の明かりに照らされて、彼女の表情を見ていたけれど、いつまでたっても曇ったような顔をしている。おそらく、僕よりも。

 そんな彼女に心配をかけたくはないけれど、もしかしたら対極を迎えたら彼女を殺してしまう可能性が反芻する。

 対極についてはあまり理解できていない。存在の反対側、対なる定義、絶対値のようなもの。それがなんだというのだろう。

 そして、それを受け容れなければ、死ぬ?意味が分からなすぎる。僕はいつになったら訳の分からない状況を脱することができるのだろう。

 天音のことについてだってわからないことばかりだ。彼女はなぜあそこにいるのかわかっても、なんで魔法教室にいた記憶をみんなから消したのか。朱音がいう”こっち側”の事情とは何なのか。よくわからない。

 そんなことに葵を巻き込んでいる。いつまでもいつまでも、よくわからない状況に巻き込んでいる。

 この際、魔法についてはどうでもいい。もう使えない、とはっきりしたのだから憂う必要はない。なんならほかのみんなに対して劣等感を抱く必要はないのだ。

 でも、自分の正体への不安感がいつまでも心を苛んでいく。解決しようのない、まだなにか秘密が隠されているような。よくわからない漠然とした虚無。

 「──なあ、葵」

 いろいろなことを考えていたら、無意識に声を出していたことに気が付く。自分自身で吐き出したのに、その言葉の結末を自分で見つけることができない。どう続ければいいのかわからない。

 彼女に僕の正体を聞いたところで、正解なんて出てくるわけもない。僕が知らないことを、彼女が知っているわけでもない。

 彼女に話を聞いてもらいたいわけでもない。これ以上に彼女に手間を、時間を、そして被害をもたらすことになっては、すべてのことが水の泡になるような感覚がする。

 でも、僕は彼女といたいのだ。

 だから、言葉を吐き出さなければいけない。

 「……なに?」

 彼女は視線をこちらに向ける。

 どこまでも不安をぶらさげた表情、声音。その視線に僕に対する恐怖心は抱いていないからどこまでも僕という存在を案じるような視線だと感じる。

 僕はいつまでもこの視線に甘えてしまっている。

 ──だからこそ、そろそろケリをつけるべきなのだ。

 「──今度の土曜日、デートしよっか」

 理由はなんでもいい。気晴らしでも、暇つぶしでも。

 ──僕は対極を受け容れる自信なんてない。

 これが、最後になるのかもしれない可能性があるのなら、彼女にはっきりと答えを明示しなければいけないのだから。

 それが、最後の在原 環にできることなのだから。
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