魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第四章 異質殺し

4-13 ──へ、へい彼女

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 観覧車を乗り終えた後、俺たちは別々になって、それぞれの帰路に就くことにした。別に同じ場所に帰るのだから別れる必要なんてなかったけれど、それでも天音とは一旦距離を置きたい気持ちがあったので、何処か別の場所に寄ってから帰る、と言葉を残して、通ったことのない道を適当に歩いていった。

 街並みはもう夜の闇に染まろうとしている。電灯の淡い光が太陽のように目立つくらい、世界は暗闇一色だった。そんな道をぼんやりと考えごとをしながら歩いていく。思考はうまく働かなかったけれど。



 これから、俺はどうするべきだろうか。



 天音には言葉を吐いた。言葉を吐いたからには、もう後戻りをすることなんてできやしない。後戻りをするつもりもない。

 イギリスに行く、と言い切った。そして、葵との関係も新たに始める、と言葉にした。つまりは、悪魔祓いとしての生活を選びながら、そのうえで魔法使いとしてかかわる、ということを僕は選択しているのだ。

 それは荒唐無稽でしかないし、非現実的なことでしかない。あまりにも突拍子がなさすぎることであって、誰かが俯瞰で俺の話を覗いたのならば、鼻で笑いそうなほどに幻想的な話なのだろう。

 けれど、俺はこの選択を大事にしたい。

 対極を受容した時から、おおよそ半年。俺は何も行動することができずにいた。それを見過ごして、ただ偽りの安寧を心に宿し続けていた。

 そんな日々は、もう終わりだ。

 燻り続けていた感情は殺す。決断には行動を反映させて、きちんと色々なことへと向き合う。それこそが俺のするべきことであり、それ以上にすることなんてない。

 それなら、何から始めるべきだろうか。

 暗闇に染まる世界の中で、俺は呆然としながら歩き通すことだけを続けていた。





 春先の季節は嫌いだ。

 昔、誰かから春先の空気の温さについて、話をされた気がする。もしくは私からその話をしたのかもしれない。その詳細については覚えていないし、自分からそんな話をする姿を想像することもできないから、きっと誰かの話を盗み聞きしたのかもしれない。そんなことがあった、と認識させてくる脳裏、だが覚えていないからこそ、きっとそれは些末なことでしかなかった。

 春は暖かい。暖かい気候の中で、人の心を彩るような季節だから、私は好きになれない。

 家に帰って、静かすぎる部屋の中に明かりをともすようにテレビを浸ければ、相応に春という季節に身を焦がす人の話を見かける気がする。

 それは友愛であったり、だいたいは恋愛であったり。天気予報の後に解説される花粉症予報のほうが、私にとっては身近でしかなくて、そのほかの事柄については、特に何かを感じるということはない。けれど、俯瞰に立ってそんな自分を見つめると、そんな友愛や恋愛を理解することができないままでいる自分が、どことなく人間ではない、という認識が及んで、自分を嘲ってしまいたくなる。

 ──遊園地に行った日は散々だった。

 どうしても涙が止まらなかった。その涙の由来や所以を知らないまま、私は雫を地面に零し続けていた。

 私は知らないことに対して涙を流していた。その理由を知ることができていれば、感情の整理はできていたのかもしれない。けれども、正体不明としか言いようのない裏腹の言葉の羅列は止まることなく、止め処なく涙は溢れ続けたのだけれど。

 あれ以来、魔法教室に行くこともできていなかった。

 魔法教室に行って、誰かからあの事を聞かれてしまえば、どう返事をするべきかがわからない。

 立花先生は好奇心のままに聞いてくるだろうし、明楽くんも揶揄うように聞いてくるかもしれない。もしかしたら全員が私のことに触れないまま、魔法の練習をするのかもしれないけれど、それはそれで心が苦しくなる感覚があるから、どんな行動をとることもできないままでいた。

 魔法教室に行けば、何か思い出すことができるのかもしれない。気のままに魔法を扱っていれば、この燻り続けている感情を解き放つことはできるのかもしれない。

 でも、涙の理由が知りたいのか、と聞かれてしまえば、私はそれに頷くことはできなかった。

 知らない感情が、知らない自分が自分の中にある。遊園地に行ったあの日、私は感覚でそれを理解した。

 感覚でしかないことを言葉に表すことなんて難しいし、誰かに説明する義理もないけれど、それでも具体的な表現として探そうとすれば、いつまでも行き詰ってしまう感覚がある。

 そうとなれば、涙の理由を知りたくはない。正体不明ならば、正体を明かさないままでいてくれれば、私はいつも通りを生きることができる。

 どうせ、父は研究に明け暮れていて、私の状況を知る由もない。魔法教室を数日サボったところで、父が文句をつけてくることもないから、別にどうでもいい。



 本当に、すべてがどうでもいい。



 日常のすべてを停止してしまいたくなる気分がわだかまる。

 誰が悪いというわけではないのだろう。

 だが、脳裏に片隅に、裏腹から届く言葉がある。声がある。

 その詳細を呑み込むことはできない。咀嚼できるほど、それははっきりとした形を成していない。

 声が聞こえる。声が聞こえるけれど、それは音だけだ。音だけしか拾えず、言葉は聞こえない。聞き取ることなどできやしない。

 そんな雑音に心を犯されながら、ぎりぎりとしか言えない毎日を営んでいる。

 そんな生活を止めてしまいたくなるのもしょうがないのではないか、そんな気持ちが私の中にある。

 それでも何とか人間としての生活である学校を一日過ごして、そうして私は帰路に就く。

 学生生活には何も感じない。退屈も感じないし、面白みも感じない。何も感じ取ることはできない。

 何かを感じ取れる要素が私にあればよかった。

 だが、視界はどこまでもモノクロで、灰色だ。そんな視界に彩をとらえることなどできそうもない。

 帰り道、少し暖かくなった夕陽の熱線が長袖の制服に突き刺さる。いよいよ夏へと転換させてくる時期の匂いを雰囲気で感じ取りながら、斜めになっていくすべての影を見届ける。

 そんな景色をぼうっと見つめながら、歩いていくと、無意識的に立ち止まる。

 ……なんで、立ち止まったのだろう。

 そんなことを考えながら、地面ばかりに注いでいた視線を上げれば──。



「──へ、へい彼女」



 ……そこには、灰色の髪をしたナンパ男が、目の前に立っていた。

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