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第四章 異質殺し
4-17 突拍子のない話をします
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◇
「突拍子のない話をします」
もう聞きなれてしまった台詞、まさか自分で発言するときが来るとは思わなかった言葉。どこか久しぶりにも感じるその文言の懐かしさに浸りながら、俺は確かにそうつぶやいた。
彼女は少しばかり困り眉を浮かべたけれど、俺から視線を逸らすことはなく、きちんと目を合わせながら、俺の言葉の続きを待っている。
……やはり、彼女に対して嘘をつくことは難しい。嘘をつきたくないという衝動とともに宿る、確実な場面としての言葉の難しさ。
悪魔祓い云々については離さない。それを話してしまえば元も子もない。けれど、それでも彼女に伝えられる範囲内できちんと伝えたい。
「──俺たち、幼馴染だったんだよ」
俺はそう言葉を吐いた。率直に、シンプルに、俺がいつまでも抱えている言葉を吐きだした。
葵は肯定も否定もしない。疑問符を浮かべることもなく、ただ俺の目をしっかりと捉えている。
彼女にとって、俺の言葉は信じられないもののはずだ。突拍子のなさすぎる話だ。けれど、俺にとっては確かな真実なのだ。
小学生のころから一緒に過ごしてきた、大事な大事な幼馴染、……いや、幼馴染という関係性だけで表したくはない関係性。
「……もし、そうだと仮定したとして、幼馴染である、もしくは幼馴染だったという証拠はありますか」
「……そうだなぁ」
葵がそう聞いてくるので、ぼんやりとしながらも気を引き締めて、いろいろと考えてみる。
彼女について知っていることを上げれば、きっと途方もなくそれは浮き上がってくる。けれど、それは側面的な話でしかない。
去年の夏ごろ、俺が一度死ぬという経験をしなければ、俺は葵が魔法使いであるということも知らなかった。それなのに、幼いころから知っている情報を語っても、彼女は納得するだろうか。不信感を抱かないだろうか。
彼女が魔法使いであること、彼女が俺と同じように片親であること、彼女が甘いものを好んでいること。そんなことは、きっと誰かが知っている。
ここで求められているのは、そんな事実ではないのかもしれない。
「君は、──君自身のことを何色だと思ってる?」
いつかしたような質問を、俺は彼女に繰り返した。
突拍子のない言葉の応酬。唐突でしかない声掛けに、彼女は困惑するように眉をひそめていく。
「……灰色、だと思います」
「……そっか」
そして、いつか聞いたときのように、思っている通りに彼女はそのまま声に出す。その言葉に悲しさを覚えると同時に、ここが彼女に踏み出すチャンスだと捉えた。
「──僕は、君を赤色だと思っていたんだ」
俺は、そう感情を吐き出した。
昔の自分の一人称が言葉に出てくる。いや、言葉に出していく。過去の自分であることを示すように、俺は確かに、僕、と自分を表現した。
「人に温かみを覚える色だった。そんな色だった。僕は君をずっと赤色だと思っていたんだ」
──そうして意識の中に過るのは、彼女が半年前に吐き出した言葉の残骸。
『灰色ですよ。世界も、……私も』
彼女のその言葉は、以前の俺を見ているようで心が痛くなった。
俺が他人という存在になっただけで、彼女はそこまで変わってしまうのか、と恐怖を抱いた。
他人になってしまったから、他人に対してはそういう振る舞いをしたのだと、俺は勝手に納得をしようとした。記憶の封印なんて関係ないと、自分を守るために言葉を作りたてた。
それでも、今の彼女自身のことを、彼女は灰色だと語ったのだ。
灰色とは、白も黒もつかない中途半端な色。
正と負もないまぜにした、結局は空っぽなだけの色。
そんな色を彼女が彼女自身だと言ったことを思い出すと、だからこそ俺は葵が赤色だったと主張をしたくなる。
俺が知っていた彼女を、彼女の中に灯したくなる。
「人に温かみを覚えさせてくれるような色だった。そんな色だった。僕は葵を、ずっとそう捉えていたんだ」
言葉は、止まらない。
「そんな君が、……遊園地で泣いていたんだ」
理由は分からない。彼女が涙を流していた理由など知る由もない。けれど、あの時の彼女は、確かに俺を見て涙を流していた。
俺は、その涙を許せなかった。
涙を流している原因が許せなかった。彼女が生きていける世界ならば、記憶くらいどうでもいいと高を括っていた。だが、彼女の涙を覗いてしまえばどうだ。彼女にそんな顔を刺せている現実に、そんな世界に、俺は殺意を向けてしまった。
目を逸らしたけれど、それでも目に焼き付いた光景が消えることはなかった。
「今の君は確かに灰色なんだろう。けれど、俺は君が、……葵が赤色だったときのことを知っている」
俺は、言葉を続ける。
「信じてもらえないかもしれない。何を言っているんだろうって思ってるかもしれない。けれど、これ以上は俺から伝えることなどできやしない。それで納得してもらえないというのならば、もうそれでもいいよ。
これ以上に言葉は尽くせないけれど、赤色だったときの君を知っているからこそ、俺は今の君と話さなきゃって思ったんだ」
言葉を吐きだして、疲れからか息を大きく吐き出す。
伝える言葉の精査は終わっていない。本当にこれで彼女に伝えられているかも定かではない。そもそも場面として吐き出す言葉は間違っているのかもしれない。だが、これ以上に伝える言葉も俺には思いつきもしない。
俺がため息をついた後、視線を改めて葵のほうへと移すと、彼女は静かに視線を逸らした。
「……本当に、突拍子がないし、意味が分からないですね」
呆れるように、諦めているように。
そんな風にもとらえることができる言葉の節々。
彼女の言葉の通りなのだろう。俺自身もそう前置きをしたし、理解してもらえるだなんて思っていない。
けれど、それでも通じ合える何かがあれば。
そんな希望だけで俺は言葉を語っただけだ。
これで駄目なら、もう諦めるだけでしかな──。
「──まあ、……いいでしょう!」
──まるで、過去の葵を見るような、笑顔の勢いの中に言葉はあった。
「……え? いいの?」
「……だ、だから、いいって言ってます!」
「いいの?! 自分でも支離滅裂でしかないことを話した自覚しかないけど?!」
俺が訝し気に、有頂天というか、パニックになりながら彼女につぶやくと、彼女は作り笑いではない笑顔をきちんと浮かべながら「いいんです!」と返してくる。
「もちろん、よくわからないし、支離滅裂だし、突拍子がないし、赤色とか灰色とか、唐突になんだって話だし、意味なんてわかりません。……けれど」
葵は、言葉を吐きだす。
「私が、あなたならなんとなく信じられるから、とりあえずいいことにします。人には話せない事情だってあるでしょうし、私にだってあります。きっと、そういう関連だったということでここは納得をしてあげます。……以上!」
勢いよく断ち切るように、彼女はそう言葉を吐いたのだった。
「突拍子のない話をします」
もう聞きなれてしまった台詞、まさか自分で発言するときが来るとは思わなかった言葉。どこか久しぶりにも感じるその文言の懐かしさに浸りながら、俺は確かにそうつぶやいた。
彼女は少しばかり困り眉を浮かべたけれど、俺から視線を逸らすことはなく、きちんと目を合わせながら、俺の言葉の続きを待っている。
……やはり、彼女に対して嘘をつくことは難しい。嘘をつきたくないという衝動とともに宿る、確実な場面としての言葉の難しさ。
悪魔祓い云々については離さない。それを話してしまえば元も子もない。けれど、それでも彼女に伝えられる範囲内できちんと伝えたい。
「──俺たち、幼馴染だったんだよ」
俺はそう言葉を吐いた。率直に、シンプルに、俺がいつまでも抱えている言葉を吐きだした。
葵は肯定も否定もしない。疑問符を浮かべることもなく、ただ俺の目をしっかりと捉えている。
彼女にとって、俺の言葉は信じられないもののはずだ。突拍子のなさすぎる話だ。けれど、俺にとっては確かな真実なのだ。
小学生のころから一緒に過ごしてきた、大事な大事な幼馴染、……いや、幼馴染という関係性だけで表したくはない関係性。
「……もし、そうだと仮定したとして、幼馴染である、もしくは幼馴染だったという証拠はありますか」
「……そうだなぁ」
葵がそう聞いてくるので、ぼんやりとしながらも気を引き締めて、いろいろと考えてみる。
彼女について知っていることを上げれば、きっと途方もなくそれは浮き上がってくる。けれど、それは側面的な話でしかない。
去年の夏ごろ、俺が一度死ぬという経験をしなければ、俺は葵が魔法使いであるということも知らなかった。それなのに、幼いころから知っている情報を語っても、彼女は納得するだろうか。不信感を抱かないだろうか。
彼女が魔法使いであること、彼女が俺と同じように片親であること、彼女が甘いものを好んでいること。そんなことは、きっと誰かが知っている。
ここで求められているのは、そんな事実ではないのかもしれない。
「君は、──君自身のことを何色だと思ってる?」
いつかしたような質問を、俺は彼女に繰り返した。
突拍子のない言葉の応酬。唐突でしかない声掛けに、彼女は困惑するように眉をひそめていく。
「……灰色、だと思います」
「……そっか」
そして、いつか聞いたときのように、思っている通りに彼女はそのまま声に出す。その言葉に悲しさを覚えると同時に、ここが彼女に踏み出すチャンスだと捉えた。
「──僕は、君を赤色だと思っていたんだ」
俺は、そう感情を吐き出した。
昔の自分の一人称が言葉に出てくる。いや、言葉に出していく。過去の自分であることを示すように、俺は確かに、僕、と自分を表現した。
「人に温かみを覚える色だった。そんな色だった。僕は君をずっと赤色だと思っていたんだ」
──そうして意識の中に過るのは、彼女が半年前に吐き出した言葉の残骸。
『灰色ですよ。世界も、……私も』
彼女のその言葉は、以前の俺を見ているようで心が痛くなった。
俺が他人という存在になっただけで、彼女はそこまで変わってしまうのか、と恐怖を抱いた。
他人になってしまったから、他人に対してはそういう振る舞いをしたのだと、俺は勝手に納得をしようとした。記憶の封印なんて関係ないと、自分を守るために言葉を作りたてた。
それでも、今の彼女自身のことを、彼女は灰色だと語ったのだ。
灰色とは、白も黒もつかない中途半端な色。
正と負もないまぜにした、結局は空っぽなだけの色。
そんな色を彼女が彼女自身だと言ったことを思い出すと、だからこそ俺は葵が赤色だったと主張をしたくなる。
俺が知っていた彼女を、彼女の中に灯したくなる。
「人に温かみを覚えさせてくれるような色だった。そんな色だった。僕は葵を、ずっとそう捉えていたんだ」
言葉は、止まらない。
「そんな君が、……遊園地で泣いていたんだ」
理由は分からない。彼女が涙を流していた理由など知る由もない。けれど、あの時の彼女は、確かに俺を見て涙を流していた。
俺は、その涙を許せなかった。
涙を流している原因が許せなかった。彼女が生きていける世界ならば、記憶くらいどうでもいいと高を括っていた。だが、彼女の涙を覗いてしまえばどうだ。彼女にそんな顔を刺せている現実に、そんな世界に、俺は殺意を向けてしまった。
目を逸らしたけれど、それでも目に焼き付いた光景が消えることはなかった。
「今の君は確かに灰色なんだろう。けれど、俺は君が、……葵が赤色だったときのことを知っている」
俺は、言葉を続ける。
「信じてもらえないかもしれない。何を言っているんだろうって思ってるかもしれない。けれど、これ以上は俺から伝えることなどできやしない。それで納得してもらえないというのならば、もうそれでもいいよ。
これ以上に言葉は尽くせないけれど、赤色だったときの君を知っているからこそ、俺は今の君と話さなきゃって思ったんだ」
言葉を吐きだして、疲れからか息を大きく吐き出す。
伝える言葉の精査は終わっていない。本当にこれで彼女に伝えられているかも定かではない。そもそも場面として吐き出す言葉は間違っているのかもしれない。だが、これ以上に伝える言葉も俺には思いつきもしない。
俺がため息をついた後、視線を改めて葵のほうへと移すと、彼女は静かに視線を逸らした。
「……本当に、突拍子がないし、意味が分からないですね」
呆れるように、諦めているように。
そんな風にもとらえることができる言葉の節々。
彼女の言葉の通りなのだろう。俺自身もそう前置きをしたし、理解してもらえるだなんて思っていない。
けれど、それでも通じ合える何かがあれば。
そんな希望だけで俺は言葉を語っただけだ。
これで駄目なら、もう諦めるだけでしかな──。
「──まあ、……いいでしょう!」
──まるで、過去の葵を見るような、笑顔の勢いの中に言葉はあった。
「……え? いいの?」
「……だ、だから、いいって言ってます!」
「いいの?! 自分でも支離滅裂でしかないことを話した自覚しかないけど?!」
俺が訝し気に、有頂天というか、パニックになりながら彼女につぶやくと、彼女は作り笑いではない笑顔をきちんと浮かべながら「いいんです!」と返してくる。
「もちろん、よくわからないし、支離滅裂だし、突拍子がないし、赤色とか灰色とか、唐突になんだって話だし、意味なんてわかりません。……けれど」
葵は、言葉を吐きだす。
「私が、あなたならなんとなく信じられるから、とりあえずいいことにします。人には話せない事情だってあるでしょうし、私にだってあります。きっと、そういう関連だったということでここは納得をしてあげます。……以上!」
勢いよく断ち切るように、彼女はそう言葉を吐いたのだった。
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