魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第四章 異質殺し

4-17 突拍子のない話をします

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「突拍子のない話をします」

 もう聞きなれてしまった台詞、まさか自分で発言するときが来るとは思わなかった言葉。どこか久しぶりにも感じるその文言の懐かしさに浸りながら、俺は確かにそうつぶやいた。

 彼女は少しばかり困り眉を浮かべたけれど、俺から視線を逸らすことはなく、きちんと目を合わせながら、俺の言葉の続きを待っている。

 ……やはり、彼女に対して嘘をつくことは難しい。嘘をつきたくないという衝動とともに宿る、確実な場面としての言葉の難しさ。

 悪魔祓い云々については離さない。それを話してしまえば元も子もない。けれど、それでも彼女に伝えられる範囲内できちんと伝えたい。

「──俺たち、幼馴染だったんだよ」

 俺はそう言葉を吐いた。率直に、シンプルに、俺がいつまでも抱えている言葉を吐きだした。

 葵は肯定も否定もしない。疑問符を浮かべることもなく、ただ俺の目をしっかりと捉えている。

 彼女にとって、俺の言葉は信じられないもののはずだ。突拍子のなさすぎる話だ。けれど、俺にとっては確かな真実なのだ。

 小学生のころから一緒に過ごしてきた、大事な大事な幼馴染、……いや、幼馴染という関係性だけで表したくはない関係性。

「……もし、そうだと仮定したとして、幼馴染である、もしくは幼馴染だったという証拠はありますか」

「……そうだなぁ」

 葵がそう聞いてくるので、ぼんやりとしながらも気を引き締めて、いろいろと考えてみる。

 彼女について知っていることを上げれば、きっと途方もなくそれは浮き上がってくる。けれど、それは側面的な話でしかない。

 去年の夏ごろ、俺が一度死ぬという経験をしなければ、俺は葵が魔法使いであるということも知らなかった。それなのに、幼いころから知っている情報を語っても、彼女は納得するだろうか。不信感を抱かないだろうか。

 彼女が魔法使いであること、彼女が俺と同じように片親であること、彼女が甘いものを好んでいること。そんなことは、きっと誰かが知っている。

 ここで求められているのは、そんな事実ではないのかもしれない。

「君は、──君自身のことを何色だと思ってる?」

 いつかしたような質問を、俺は彼女に繰り返した。

 突拍子のない言葉の応酬。唐突でしかない声掛けに、彼女は困惑するように眉をひそめていく。

「……灰色、だと思います」

「……そっか」

 そして、いつか聞いたときのように、思っている通りに彼女はそのまま声に出す。その言葉に悲しさを覚えると同時に、ここが彼女に踏み出すチャンスだと捉えた。

「──僕は、君を赤色だと思っていたんだ」

 俺は、そう感情を吐き出した。

 昔の自分の一人称が言葉に出てくる。いや、言葉に出していく。過去の自分であることを示すように、俺は確かに、僕、と自分を表現した。

「人に温かみを覚える色だった。そんな色だった。僕は君をずっと赤色だと思っていたんだ」

 ──そうして意識の中に過るのは、彼女が半年前に吐き出した言葉の残骸。

『灰色ですよ。世界も、……私も』

 彼女のその言葉は、以前の俺を見ているようで心が痛くなった。

 俺が他人という存在になっただけで、彼女はそこまで変わってしまうのか、と恐怖を抱いた。

 他人になってしまったから、他人に対してはそういう振る舞いをしたのだと、俺は勝手に納得をしようとした。記憶の封印なんて関係ないと、自分を守るために言葉を作りたてた。

 それでも、今の彼女自身のことを、彼女は灰色だと語ったのだ。

 灰色とは、白も黒もつかない中途半端な色。

 正と負もないまぜにした、結局は空っぽなだけの色。

 そんな色を彼女が彼女自身だと言ったことを思い出すと、だからこそ俺は葵が赤色だったと主張をしたくなる。

 俺が知っていた彼女を、彼女の中に灯したくなる。

「人に温かみを覚えさせてくれるような色だった。そんな色だった。僕は葵を、ずっとそう捉えていたんだ」

 言葉は、止まらない。

「そんな君が、……遊園地で泣いていたんだ」

 理由は分からない。彼女が涙を流していた理由など知る由もない。けれど、あの時の彼女は、確かに俺を見て涙を流していた。

 俺は、その涙を許せなかった。

 涙を流している原因が許せなかった。彼女が生きていける世界ならば、記憶くらいどうでもいいと高を括っていた。だが、彼女の涙を覗いてしまえばどうだ。彼女にそんな顔を刺せている現実に、そんな世界に、俺は殺意を向けてしまった。

 目を逸らしたけれど、それでも目に焼き付いた光景が消えることはなかった。

「今の君は確かに灰色なんだろう。けれど、俺は君が、……葵が赤色だったときのことを知っている」

 俺は、言葉を続ける。

「信じてもらえないかもしれない。何を言っているんだろうって思ってるかもしれない。けれど、これ以上は俺から伝えることなどできやしない。それで納得してもらえないというのならば、もうそれでもいいよ。

 これ以上に言葉は尽くせないけれど、赤色だったときの君を知っているからこそ、俺は今の君と話さなきゃって思ったんだ」

 言葉を吐きだして、疲れからか息を大きく吐き出す。

 伝える言葉の精査は終わっていない。本当にこれで彼女に伝えられているかも定かではない。そもそも場面として吐き出す言葉は間違っているのかもしれない。だが、これ以上に伝える言葉も俺には思いつきもしない。

 俺がため息をついた後、視線を改めて葵のほうへと移すと、彼女は静かに視線を逸らした。

「……本当に、突拍子がないし、意味が分からないですね」

 呆れるように、諦めているように。

 そんな風にもとらえることができる言葉の節々。

 彼女の言葉の通りなのだろう。俺自身もそう前置きをしたし、理解してもらえるだなんて思っていない。

 けれど、それでも通じ合える何かがあれば。

 そんな希望だけで俺は言葉を語っただけだ。

 これで駄目なら、もう諦めるだけでしかな──。



「──まあ、……いいでしょう!」



 ──まるで、過去の葵を見るような、笑顔の勢いの中に言葉はあった。

「……え? いいの?」

「……だ、だから、いいって言ってます!」

「いいの?! 自分でも支離滅裂でしかないことを話した自覚しかないけど?!」

 俺が訝し気に、有頂天というか、パニックになりながら彼女につぶやくと、彼女は作り笑いではない笑顔をきちんと浮かべながら「いいんです!」と返してくる。

「もちろん、よくわからないし、支離滅裂だし、突拍子がないし、赤色とか灰色とか、唐突になんだって話だし、意味なんてわかりません。……けれど」

 葵は、言葉を吐きだす。

「私が、あなたならなんとなく信じられるから、とりあえずいいことにします。人には話せない事情だってあるでしょうし、私にだってあります。きっと、そういう関連だったということでここは納得をしてあげます。……以上!」

 勢いよく断ち切るように、彼女はそう言葉を吐いたのだった。


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