魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~

若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)

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第四章 異質殺し

4-28 対極みたいじゃないか

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「というわけで話を続けるぞ」

 気を取り直す、といったような雰囲気で、改めて朱音は言葉を吐く。俺は今度こそ話は脱線させない、ということを留意したうえで、彼女の話を咀嚼することにする。そんな視界の隅で、天音は変わらず真摯に朱音の話を聞き続けているようだ。

「とりあえず、他の悪魔祓いとは違って、お前は物理的に対極を受容していることは話をしたな。さて、先ほど話したことを踏まえたうえで出来る考察、もとい憶測はなんだろうか?」

 彼女は試験の問題文のように言葉を発する。もう口を挟まない、ということを留意していたつもりだけれど、だからこそいきなり俺に向けて質問が飛んでくるとは思わず、口ごもってしまう。

 あ、俺か、と他人事のように返答をしながらも、それでも朱音の話を咀嚼したうえで、どのような考察ができるか。それを改めて考えてみる。

「……ええと」

 まず、本来の悪魔祓い、俺以外の悪魔祓いが対極を受容するときには、人の精神的な存在が、プラスとマイナスを足してゼロになる。今までその枠から外れたものはいないし、俺以外に物理的な対極の受容を行ったものはいない。

 だが、それを俺は物理的に行った。精神的な対極の受容が、精神の存在性をプラスマイナスゼロにするというのならば、物理的な受容は……。

「物理的に、無になっている、……とか?」

 俺は震えながらそう答えた。あまり想像したくはない妄想がぼうっと浮かび上がって、それが現実であってほしくないことをなんとなく願ってしまう。

 存在というものについてはよくわかっていない。わかってはいないけれど、つまりもともと在った俺が対極を受容したというのならば、在った俺は無になっている、ということになる。

 つまり、俺は存在していない。

 そんな思考に、つながってしまう。

 だが、俺のそんな想像を馬鹿らしい、とでも言うように、朱音は「残念!」と悪戯をするみたいに笑う。

「正確には、、だな」

「……えぇ」

 結局、俺の想像した答えに近いものだったので、そこはかとなく溜め息が出てしまう。

 ……俺、無に近づいているの? 消えそうになっているの? ……なんか、めっちゃ嫌なんだけど。

「そこ、あからさまに嫌そうな声を出すんじゃない」

 朱音は𠮟りつけるように声を出しながら、そうして話をつづけた。





「そもそもの話をする。対極の受容っていうのは、先ほど挙げた精神的、肉体的な強化というのもあるけれど、それ以外にも存在をプラスマイナスゼロにして、存在を無に近づける、というのが挙げられる。本来のこの無に近づくっていうのは、世界的な非現実の上書きに対して抵抗をするために与えられた特権だといってもいい」

 特権、という言葉を声高々に彼女は言う。

「黒魔法、とか?」

 俺は天使時間のときのことを想像しながら、朱音に返す。彼女はそれに、ああ、と頷いた。

「天使の時間の際に、魔法使いである天音が動けたのは、天音が対極を受容して、存在が無に近づいているからだ」

「……なんで無に近づいてるだけで、天使時間に対応できたの?」

「そりゃあ、存在が『無い』のに世界の法則が通じるわけないからな」

 朱音は言葉を続ける。

「存在が無い、というのは、何も無いということだ。何も無い、というのは普遍的なことだし、いつだって無い。だから、天使時間によって世界の時間が止まっても、もともと無いのが普通なんだから、特に影響はないんだよ。まあ、それ以外にも理由はあるけど」

「……なるほど」

 なるほど、とは言いつつも、それを実際に理解できたのはあやしい。ただ、以前天音に聞いたときよりかは、なんとなくの理解度は高いような気がした。

「……話を戻すぞ。ともかく、対極を受容することによって、無に近づく。なぜ無に近づかなければいけないのかと言えば、『無い』ものには世界の法則も、非現実的な世界改変も作用できないからだ。

 そして、環は物理的にも対極を受容していることによって、あらゆる悪魔祓いよりも無に近づいている。それも、精神的にも物理的にも、存在的にも」

「……」

 だからなんだよ、と声を出しそうになる。口を挟まない、ということを留意しているから口には出さなかったけれど、結局のところ、それがどうした、としか思えない。

 よくわからないのだ。

 俺の存在が無に近づいている。だからといって、対極を見極めることができる天音と違って、未知数でしかない俺が貢献できるとは思わない。

「まあ、そんな不貞腐れるような態度をとるなよ。ここできちんと究極の答えをお前に教えてやるからよ」

 そんな俺の不満そうな態度なんて関係ない、とでもいうように朱音は言葉を続ける。

「環は限りなく無に近づいている。これはもう確定事項ということにしよう。そして、今回行ってもらいたいことは、犯人である魔法使いが使った『空間』を探し当ててもらいたいということだ。だが、これは先ほども言った通り展開するのも閉じるのも楽だから、本当に難しいと言っていい。

 対極を見極めることができる天音でも、もう閉じてしまっているアリクトエアルを探すのは無理だろう。ここで環の出番、というわけだ」

「……今、俺の出番あった?」

 ああ、と朱音は返しながら言葉を続ける。

「アリクトエアルというものは、無限の広がりを見せる無限立方体。そしてお前はそれとは違って無に限りなく近づいている存在」

「……だから?」

 不満な態度が止まらないけれど、それでも朱音は「まだわからないのか?」と嘲るように返してくる。

「無限みたいなTHE存在しているアリクトエアルと、限りなく存在していない無に近いお前。

 なんだか、対極みたいじゃないか」

 朱音は、本当に悪戯をする声でそう言った。
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