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第1部 婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて今はとっても幸せです
五家の誓い(3)
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***
ユニコーン邸の一番奥の客室。五つの椅子。
『誓い』を授けるのは、いつものように庭や東屋でというわけにはいかないわ。
「いいかい、ミラ。もしも四人の真心が光り輝やかなくても、間違いなく彼らは素晴らしい美徳を備えている。
決して、がっかりしないように」
「はい、お父様」
「ミラ、私は心配していませんよ。私にはあなたが生まれ変わってきたのはこのためだという気さえするの」
「お母様、実は、私もそう思っていたんです」
「我が家の真心はミラ、お前自身だよ。お前が心から四人を大切に思うなら、きっとうまくいくよ」
「ありがとうございます、お兄様」
「私から成功を祈って、ウィンクを送らせてね。あれからずいぶん上達したのよ。ほら、どう?」
……か、片方が白目ですわ、お姉様……!
でも、お気持ちがうれしいわ。ありがとうございます、お姉様。
お父様が窓の外を見て、おや、と声を上げた。
「見慣れない馬車だな。今日は他に来客の予定はなかったはずだが」
しばらくすると、執事のミケーレがやってきた。
「旦那様、ルベルティという名の商人がいらしておりますが、いかがいたしましょうか?
見るからに怪しげなのでございますが、王家の紹介状を持参しております」
「王家の? 一体なんの用で?」
「それが、近々銀の装飾品の大きな取引を控えているらしく、当家の幸運のユニコーンのうわさを聞き付けたそうです。
いかほどのものか、ぜひ拝見させてもらえないかと」
「そのためだけにわざわざ王家の紹介状だと……?」
「これがその書状でございます」
「……確かにこれは本物だ。仕方あるまい、案内してやれ」
「もうひとつ商人が申すには、ユニコーン邸の黒バラに、当時の話をぜひとも直接お聞きしたいとのことで……。
旦那様、さすがに怪しいと思うのですが……」
「むう……。しかし、この紹介状が本物である以上、無下にはできんな……」
「お父様、私でしたらかまいませんわ。お兄様についていただければ安心できますし」
「そうだね。本当におかしな奴だったら、私がしっぽを捕まえて窓から放り投げてあげよう」
「くすっ! それは見ものですわ」
念のため複数の従者を率いて私とお兄様は商人を迎えた。
コーディリアの前で待っていると、その商人がひとりの老従者を連れてやってくる。
……あら、商人にしてはずいぶん身なりがいい。
目深にかぶった帽子を外しても、ふたりとも前髪で顔を隠している。
確かに見るからに怪しげだわ……。
お兄様が腕を組んだ。
「……さて、ルベルティなんて聞いたことがないが、どこで商売を?」
そのとき、ルベルティさんがつかつかっとやってきて、お兄様の耳もとで囁いた。
「どこというのがなかなか難儀でして。ちょっとお耳を拝借……」
間もなく、お兄様がぎょっとしたように肩を揺らした。
「……そ、そういうことなら……わ、わかった……」
「それはありがたい」
「……ミラ……」
「はい、お兄様」
「……ええと、つまり、この方は王家に関りのある非常に信頼のおける人物だ。
お前と直接話したいらしいから、お相手して差し上げなさい」
「……えっ?」
「大丈夫だ。何も心配いらない。父上と母上には私が今から直接話をしてくる」
「あ、あの、お兄様……!」
「お前たちも下がっていい」
えっ、お、お兄様、どういうこと?
お兄様の命令で従者が全員引き揚げてしまった。
しっぽを捕まえて窓から放り投げるお話はどうなったのかしら……。
こ、困ったわ……。
でも、お兄様がああおっしゃるのだから、なにか理由があるはずだわ。
「ルベルティさん、初めまして。ミラ・ラ―ラ・プレモロジータですわ」
「お初にお目にかかります。噂にたがわぬ美しき黒バラ。お会いできて光栄でございます」
「コーディリアをご覧にいらしたのですよね? こちらですわ」
「コーディリア?」
「私がつけたこの子の名前ですわ。みなさんは幸運のユニコーンと呼ぶのですけれど」
「へぇ、コーディリア……」
ルベルティさんがコーディリアを見て、瞳をきらっと輝かせた。
あら、商人というだけあって、やはり芸術を見る目を持っているのだわ……。
求められるがままに、私はコーディリアを手に入れた顛末を話した。
ルベルティさんが前髪の隙間から目を輝かせてうなづいている。
商人の方にはきっと銀山のお話はきっと魅力的でしょう。
ご商売に熱心な方なんですわね。
「時に、今巷では皇子妃選びの話題で持ちきりですね」
「そうですわね」
「ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様も候補のおひとりで?」
「いえ、私は辞退させていただきました」
「なんともったいない! あなたのような可憐で美しい方なら、きっと皇子もお気に召すでしょうに!」
「王侯貴族とお付き合いがあるのでしたら、私の出自はすでにお聞きでしょう? 分不相応なお話ですわ」
「そうかな……。いや、そんなことはないと思いますが……」
「他にまだなにかございますか?」
「あっ、そうだった……。ええと、皇子妃の候補にコルテジア家のご令嬢とシンチェリタ家のご令嬢が名を連ねていらっしゃると存じますが、ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様はご存じで?」
「ええ、ふたりともわたくしの大切な親友ですわ」
「おふたりは、どのようなお方でしょう?」
あら……、ひょっとすると、この方の目的は、この話?
アルベルティーナとジュスティーナどちらが皇子妃に選ばれるかを先読みにいらしたのかしら?
それが先にわかれば、コルテジア家とシンチェリタ家、どちらと商売をする方が得か……。
商人ならきっと、それくらいの目端はきくはずですわね……。
「残念ですけれど、ルベルティさん。あなたの求める答えを持ち合わせておりませんわ。
アルベルティーナとジュスティーナ、どちらも本当の真心を持った素晴らしい方です。
私から言わせていただけるのなら、ふたりとも間違いなく、妃に相応しい女性に間違いありません。
殿下が誰をお選びになるかは、私には皆目見当がつきませんわ」
「……い、いや、でも、少しくらいはなにかあるでしょう? その人となりや、ちょっとした欠点なんかが……」
「……そういわれましても。お力になれず申し訳ありませんわ。
私よりも、殿下のお好みをよく知る方にお聞きになったほうがいいのではないでしょうか?」
「そ、それはそうでしょうが……。あなたから見てのおふたりの普段の様子なんかを、ちょっとだけでも」
「私はアルベルティーナとジュスティーナのことを親友としてすっかり愛してしまっているのですわ。
その欠点も、普段の姿も、なにもかもすべて。ですから、私の意見は本当に参考にならないと思います。
御商売をなさるのならどちらの伯爵家とも分け隔てなくお付き合いされるのがよろしいと思いますわ」
「そ……、そうですか……」
聞きたかったのはそれじゃない、と顔に書いてありますわね。
でも、殿下にお会いしたとしても、私は同じことをお話いたしますわ。
ルベルティさんが従者とにわかに視線を交わした。
「大変興味深いお話でした……。ありがとうございます、ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様。
幸運のユニコーン、コーディリアも、噂にたがわぬ銘品でございました。
私も同じものを自分用に作らせたいくらいに……」
「あら……!」
コーディリアのことをそこまで気にいってくださったなんて……!
うれしいわ……!
やっぱり目の肥えた商人は、いい物をすぐ見抜くのね。
「それでは、私はこれで……」
「お待ちになって」
「えっ?」
「コーディリアを作った職人の工房を紹介して差し上げるわ。
とても気難しい方なの。でも、私の紹介状を持って行けば、快く仕事を引き受けてくれると思うわ」
「え……、あ、それはどうも、御親切に……」
「……そうだわ!」
この方にニコロさんのバラを見せて差し上げたい……!
きっと、素晴らしさにまた目を輝かせるはず!
……でも、普通に見せても面白くないわね……!
「今書いてくるから、少しここで待っていてくださる?」
「はい……、ご厚意に感謝いたします……」
部屋に戻って、髪留めを手に取った。
もちろん、ニコロさんに作ってもらったバラの銀細工。
紹介状を書いて、乾かし、リボンでまとめる。
ルベルティさんと顔を合わせないように庭へ出て、そっとバラの垣根の中に銀細工を隠す。
よし、準備万端ですわ!
息を整えて、ルベルティさんのもとへ向かった。
「お待たせしましたわ」
「これは、恐れ入ります」
「ルベルティさん、我が家の庭に珍しいバラが咲きましたの。良かったら見ていかれません?」
「え……。あ、ああ、では、お言葉に甘えまして……」
「どうぞ、こちらよ」
庭に案内すると、私はわざともったいぶったように言った。
「とっても美しいバラなのよ。ルベルティさんに見つけられるかしら……」
「え……」
ルベルティさんが驚いたように私を見、しばらくして、なにかを察したようにバラの垣根を見た。
「この中を探してよろしいんですね?」
「ええ、きっと素敵なものが見つかるわ」
やってやろうとばかりに、ルベルティさんの口元が持ち上がった。
垣根のあちこちを見渡し、株のひとつひとつをめぐっていくうちに、ルベルティさんがだんだん銀細工を隠したあの場所へ……。
「あっ……!」
ふふっ、見つけたのね!
私はそっとルベルティさんの後ろから手元を覗く。
くるっと振り向いたルベルティさんの顔。
きらっと光る瞳。
「驚いた……! 本当に銀のバラが咲いているのかと思った!」
「ふふふっ!」
成功ですわね!
私は銀細工を取ると、掌に載せてルベルティさんに見せた。
「コーディリアと同じニコロさんの作品ですわ。
はい、こちらは紹介状。間違いなく素晴らしい作品を作ってくださる方よ」
「……」
……あら……?
どうしたのかしら、ルベルティさん、受け取りもしないで固まってしまったわ……。
あら、ひょっとして、私の顔になにかついている?
そのとき、白髪の従者が主に声掛けする。
「旦那様……! 旦那様っ!」
「はっ……! こ、これが、その、そう、ですか……! い、いや、これは本当に、ご親切ご丁寧に……!
な、なにか、お礼をいたしませんと……」
「お礼なんて結構ですわ。コーディリアを気に入ってその名を呼んでいただけただけでうれしかったですから」
「そ、そうですか……」
「これからお客様がいらっしゃるので。私そろそろ戻らなければなりませんの」
「は、はい」
「お帰りはあちらですわ」
「……」
「あら、まだなにか?」
「い、いえ……。お会いできて光栄でございました。ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様……」
まもなく、バルトロメーオ、アルベルティーナ、ジュスティーナ、カロージェロがやってきた。
その後すぐ、執事見習マッテオが、お父様からの伝言を持ってきた。
急な来客のためにそちらにいけそうにない。万事予定通りに。
あら……、お父様たちも『誓い』の伝授に立ち会うとおっしゃっていたのに……。
けれど、はい、もちろん、そう致しますわ。
「ミラ、来たぞ!」
「来たわよ、未来の皇子妃が!」
「あなたってば気が早すぎ! 私にだってまだ可能性が残ってるわ!」
「緊張して昨日は眠れなかったよ……」
「ようこそ、お待ちしてましたわ……!」
それぞれに思い思いの気持ちと表情を携えた四人。
カロージェロったら、目の下にくま。
バルトロメーオもいつもより緊張しているみたい。
ジュスティーナが疑問を口にする。
「そういえば、表に留まっていた見慣れない馬車、どなたなの?」
「あら……、まだ帰っていなかったのかしら。ルベルティという商人ですわ」
「そんなことより、ミラ!」
「そうそう!」
唐突に私の両脇を固めたアルベルティーナとジュスティーナ。
頬はバラ色、瞳はうっとり……。
あらあら、これは……!
「ヴァレンティーノ殿下は、それはそれは麗しいお方だったの!」
「本当にあなたは見てくれだけね! とても聡明な方だったわ!」
「私のことを、大輪の赤いバラみたいだって褒めてくださったの!」
「私のことは、歩く図書館だと褒めてくださったわ!」
「それ誉め言葉?」
「あなたのほうこそ、図々しくて主張が強いって暗に言われただけじゃないの?」
「まあまあ、ふたりとも。ふたりにとって殿下がとっても魅力的な方だということはわかったわ」
「お話もとってもよく弾んだのよ。エルドルとカリエサルの伝記がお好きなんですって!」
「それって、私の貸してあげた本じゃないの!」
「いいでしょ! 本の出どころまで話さなくたって! 私だってあなたに新しい頬紅を譲ってあげたじゃないの!」
「ま、まあ、そうよね……。おかげで噂に聞くよりはるかに愛らしいって褒められたわ……!」
「あら……! じゃあ、ふたりとも出会いは大成功なのね!」
ふたりの様子を見ていると、なんだか幸せな未来が今にも描けそう!
きっとこのままうまくいきますように……!
「ミラが参加してないんじゃあ、しょうがないよな。ヴァレンティーノ皇子殿下もアルベルティーナのジュスティーナのどっちかしか選べないんだから」
「うん、まあ……。ふたりとも表裏がちょっと激しすぎるから、結婚したら殿下は驚くだろうね……」
「そんなことないわよ、王宮に入ったら、いつでもちゃんと淑やかにするんだから」
「私はしゃべりすぎないようにしているだけ。殿下には頭がいいだけでなく、ちゃんと聞く耳を持った女性だということを知って欲しいからよ」
「私はありのままのアルベルティーナとジュスティーナが素敵だと思うわ。
ヴァレンティーノ皇子殿下もきっと好きになってくださると思うの」
「そう!? そうよね!」
「んふっ、ありがとう、ミラ!」
「は~あ……、ミラはなんでもいい方に捉えるからな……。そこがミラのいいところなんだけど」
「鵜呑みにしたまま、ふたりともずっとこの性格だからね……。僕ら以外の男性はふたりの外面の良さに騙されてるって知らないから……」
「「なにかいった!?」」
「いやぁ、別に。裏表もある意味では魅力だなって話」
「そ、そうそう!」
「「ふぅ~ん……」」
皇子妃の話が落ち着いたところで本題へ。
私たちは輪に並べた五つの椅子へぞれぞれ腰かけた。
みなさん少し固くなっていますわ……。
「みなさん、それじゃあ、初めに私がやってみせますわね。
言葉自体は難しくないし、長くもないからすぐに覚えられますわ。
この前もいったけれど、もし光らなかったとしても、真心がないというわけじゃないから、安心してね」
「お、おう」
「わかったわ」
「うん……」
「ええ」
手を組み、そっと目を閉じる。
心が静かな海のように凪いで行くのを待って、息を吸った。
「我ミラ・ラーラ・プレモロジータは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。
我が真心は、人を愛し思いやる心。
この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。
絶対王は永久に人を愛し思いやる心を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」
その瞬間から、私の胸にはぬくもりが広がり、光がふわふわと立ち上る。
「わあっ、す、すごい……!」
「き、きれー……」
「ひ、光が……!」
「こ、これが『誓い』……」
光はゆっくりとおさまっていき、静かに私の胸の中に戻っていった。
「ミ、ミラ……、信じていたけど、五大伯爵家の『誓い』って本当だったんだな……!」
「ええ、そうよ。じゃあ、バルトロメーオから」
「おっ、……おおっ!」
バルトロメーオがこわばりながら手を組んだ。
「……わ、我バルトロメーオ・ジュスティッツィアは……、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う……。
我が真心は、せ、正義のころ……、ころ、こ……っ!
うっ、だめだ、言い間違えてしまった……!」
「大丈夫、心を落ち着けて、バルトロメーオ。
あなたの中にはすでに正義の心が備わっているの。
それをただ、言葉で表すだけなのよ。深呼吸したら、もう一回やってみて」
「わ、わかった……! ――スーッ……。フーッ……。
我バルトロメーオ・ジュスティッツィアは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。
我が真心は、正義の心。
この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。
絶対王は永久に正義の心を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」
バルトロメーオの胸からふわっと光が立ち上る。
「うっ、うわっ……!?」
「ひ、光ったわ!」
「これが、正義の真心の光……!」
「ほ、本物だわ……!」
四人の顔が緊張から一気に歓喜に変わった。
そこから三人はあっという間だった。
やっぱり、私が思っていた通り……! みなさんには本物の真心が備わっていた。
四人と出会うのは、私の運命だったんだわ……!
願いが今、確信に変わった。
この真心は『誓い』によって、もっと大きなものを支える力になる。
そう思うと、胸が震えて……。
「ミラ、あっ、おい、なんで泣いてるんだ……」
「えっ、ミラ……!?」
「ど、どうしたの、ミラ……?」
「ミラ……!」
「……う、うれしくて……! 私、みなさんに会えたことが、本当に、うれしいの……!
前世の私は親友のリサと一緒に国を支えようと心に誓った……。でも、それは叶わなかった……。
あのとき私は本当になにもかもを失ってしまったの。
でも、二度目の命を得て、四人の親友を得ることができて、五つの美徳を備えた仲間として奇跡のように集うことができた……。
もう一度、この『誓い』を大義のために捧げることができる……。
今度こそ、きっと自分の役目を果たせる気がするの。みなさんと一緒なら……!」
みなさん、本当にありがとう……!
涙で前も見えないくらいだけど、四人が優しい顔で見つめ返してくれているのがわかった。
突然ぎゅっと抱きしめられた。
「ミラ……! 私たち、ずっと一緒よ!」
「私も、あなたと出会えて本当に良かったと思ってる……!」
三人と折り重なるように、バルトロメーオとカロージェロが包んでくれた。
「ミラ、奇跡を見せてくれてありがとう……!」
「僕らは、本当の五つの美徳の仲間なんだね……!」
「みなさん、ありがとう……! ありがとう……!」
気が付いたら、みなさんも泣き顔。
「バルトロメーオったら、酷い顔よ! 顔を拭きなさいよ!」
「アルベルティーナこそ、化粧が剥がれてるぞ……!」
「そっ、そういうことに気づいたら、さっとハンカチを差し出すのが男で……、……あらっ、ありがとう……」
「カロージェロったら、鼻水まで出ているわ!」
「あっ、ご、ごめん……!」
「もう、あなたってば、ほらこれで拭きなさいな」
「ありがとう、ジュスティーナ……」
私もハンカチで涙を押さえて、顔を上げた。
「ねぇ、みなさん! お父様たちに早速このことを報告して差し上げたいわ! きっと大喜びなさるわ!」
「ああ、行こう!」
「ああん、せめてお化粧直しの時間をちょうだいよ!」
「プレモロジータ伯爵の前で恥をかくわけにいきませんわ!」
「化粧なんかしなくても、アルベルティーナもジュスティーナも、それ以上に美しかったよ」
「ああ、ふたりとも『誓い』のときはすごく輝いていた」
「ま、まあ……! あなたたちに褒められるなんて、なんだかくすぐったいわね!」
「うれしいけれど、それとこれとは別なのよ……! ミラ、お化粧台借りていい?」
「どうぞこちらを使って」
みなさんの身支度が整ったところで部屋を出た。
手近なところでメイドに話を聞くと、お父様たちは丁度今客人を見送っているところらしい。
私たちも玄関ホールへと向かった。
扉の前にはお父様とお母様、お兄様とお姉様が並び、その向こうには……。
あら、ルベルティさん……。
お客様ってルベルティさんのことだったの?
いつの間にか髪を上げて、顔を出している。
まあ、あんな顔立ちをしていたのね。
こちらに気づいたルベルティさんから、今までになく張りのある立派な声。
「五つの美徳を持つ者たちが勢ぞろいか」
そのとたん、バルトロメーオ、アルベルティーナ、ジュスティーナ、カロージェロが慌てたように頭を垂れた。
……え……?
なに、どういうこと?
きょときょとと見渡す間に、お父様とお母様が私の元へやってきた。
「ミラ、お前も改めてご挨拶なさい。ヴァレンティーノ皇子殿下だ」
えっ、殿下……!?
この、ルベルティさんが――……!?
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ユニコーン邸の一番奥の客室。五つの椅子。
『誓い』を授けるのは、いつものように庭や東屋でというわけにはいかないわ。
「いいかい、ミラ。もしも四人の真心が光り輝やかなくても、間違いなく彼らは素晴らしい美徳を備えている。
決して、がっかりしないように」
「はい、お父様」
「ミラ、私は心配していませんよ。私にはあなたが生まれ変わってきたのはこのためだという気さえするの」
「お母様、実は、私もそう思っていたんです」
「我が家の真心はミラ、お前自身だよ。お前が心から四人を大切に思うなら、きっとうまくいくよ」
「ありがとうございます、お兄様」
「私から成功を祈って、ウィンクを送らせてね。あれからずいぶん上達したのよ。ほら、どう?」
……か、片方が白目ですわ、お姉様……!
でも、お気持ちがうれしいわ。ありがとうございます、お姉様。
お父様が窓の外を見て、おや、と声を上げた。
「見慣れない馬車だな。今日は他に来客の予定はなかったはずだが」
しばらくすると、執事のミケーレがやってきた。
「旦那様、ルベルティという名の商人がいらしておりますが、いかがいたしましょうか?
見るからに怪しげなのでございますが、王家の紹介状を持参しております」
「王家の? 一体なんの用で?」
「それが、近々銀の装飾品の大きな取引を控えているらしく、当家の幸運のユニコーンのうわさを聞き付けたそうです。
いかほどのものか、ぜひ拝見させてもらえないかと」
「そのためだけにわざわざ王家の紹介状だと……?」
「これがその書状でございます」
「……確かにこれは本物だ。仕方あるまい、案内してやれ」
「もうひとつ商人が申すには、ユニコーン邸の黒バラに、当時の話をぜひとも直接お聞きしたいとのことで……。
旦那様、さすがに怪しいと思うのですが……」
「むう……。しかし、この紹介状が本物である以上、無下にはできんな……」
「お父様、私でしたらかまいませんわ。お兄様についていただければ安心できますし」
「そうだね。本当におかしな奴だったら、私がしっぽを捕まえて窓から放り投げてあげよう」
「くすっ! それは見ものですわ」
念のため複数の従者を率いて私とお兄様は商人を迎えた。
コーディリアの前で待っていると、その商人がひとりの老従者を連れてやってくる。
……あら、商人にしてはずいぶん身なりがいい。
目深にかぶった帽子を外しても、ふたりとも前髪で顔を隠している。
確かに見るからに怪しげだわ……。
お兄様が腕を組んだ。
「……さて、ルベルティなんて聞いたことがないが、どこで商売を?」
そのとき、ルベルティさんがつかつかっとやってきて、お兄様の耳もとで囁いた。
「どこというのがなかなか難儀でして。ちょっとお耳を拝借……」
間もなく、お兄様がぎょっとしたように肩を揺らした。
「……そ、そういうことなら……わ、わかった……」
「それはありがたい」
「……ミラ……」
「はい、お兄様」
「……ええと、つまり、この方は王家に関りのある非常に信頼のおける人物だ。
お前と直接話したいらしいから、お相手して差し上げなさい」
「……えっ?」
「大丈夫だ。何も心配いらない。父上と母上には私が今から直接話をしてくる」
「あ、あの、お兄様……!」
「お前たちも下がっていい」
えっ、お、お兄様、どういうこと?
お兄様の命令で従者が全員引き揚げてしまった。
しっぽを捕まえて窓から放り投げるお話はどうなったのかしら……。
こ、困ったわ……。
でも、お兄様がああおっしゃるのだから、なにか理由があるはずだわ。
「ルベルティさん、初めまして。ミラ・ラ―ラ・プレモロジータですわ」
「お初にお目にかかります。噂にたがわぬ美しき黒バラ。お会いできて光栄でございます」
「コーディリアをご覧にいらしたのですよね? こちらですわ」
「コーディリア?」
「私がつけたこの子の名前ですわ。みなさんは幸運のユニコーンと呼ぶのですけれど」
「へぇ、コーディリア……」
ルベルティさんがコーディリアを見て、瞳をきらっと輝かせた。
あら、商人というだけあって、やはり芸術を見る目を持っているのだわ……。
求められるがままに、私はコーディリアを手に入れた顛末を話した。
ルベルティさんが前髪の隙間から目を輝かせてうなづいている。
商人の方にはきっと銀山のお話はきっと魅力的でしょう。
ご商売に熱心な方なんですわね。
「時に、今巷では皇子妃選びの話題で持ちきりですね」
「そうですわね」
「ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様も候補のおひとりで?」
「いえ、私は辞退させていただきました」
「なんともったいない! あなたのような可憐で美しい方なら、きっと皇子もお気に召すでしょうに!」
「王侯貴族とお付き合いがあるのでしたら、私の出自はすでにお聞きでしょう? 分不相応なお話ですわ」
「そうかな……。いや、そんなことはないと思いますが……」
「他にまだなにかございますか?」
「あっ、そうだった……。ええと、皇子妃の候補にコルテジア家のご令嬢とシンチェリタ家のご令嬢が名を連ねていらっしゃると存じますが、ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様はご存じで?」
「ええ、ふたりともわたくしの大切な親友ですわ」
「おふたりは、どのようなお方でしょう?」
あら……、ひょっとすると、この方の目的は、この話?
アルベルティーナとジュスティーナどちらが皇子妃に選ばれるかを先読みにいらしたのかしら?
それが先にわかれば、コルテジア家とシンチェリタ家、どちらと商売をする方が得か……。
商人ならきっと、それくらいの目端はきくはずですわね……。
「残念ですけれど、ルベルティさん。あなたの求める答えを持ち合わせておりませんわ。
アルベルティーナとジュスティーナ、どちらも本当の真心を持った素晴らしい方です。
私から言わせていただけるのなら、ふたりとも間違いなく、妃に相応しい女性に間違いありません。
殿下が誰をお選びになるかは、私には皆目見当がつきませんわ」
「……い、いや、でも、少しくらいはなにかあるでしょう? その人となりや、ちょっとした欠点なんかが……」
「……そういわれましても。お力になれず申し訳ありませんわ。
私よりも、殿下のお好みをよく知る方にお聞きになったほうがいいのではないでしょうか?」
「そ、それはそうでしょうが……。あなたから見てのおふたりの普段の様子なんかを、ちょっとだけでも」
「私はアルベルティーナとジュスティーナのことを親友としてすっかり愛してしまっているのですわ。
その欠点も、普段の姿も、なにもかもすべて。ですから、私の意見は本当に参考にならないと思います。
御商売をなさるのならどちらの伯爵家とも分け隔てなくお付き合いされるのがよろしいと思いますわ」
「そ……、そうですか……」
聞きたかったのはそれじゃない、と顔に書いてありますわね。
でも、殿下にお会いしたとしても、私は同じことをお話いたしますわ。
ルベルティさんが従者とにわかに視線を交わした。
「大変興味深いお話でした……。ありがとうございます、ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様。
幸運のユニコーン、コーディリアも、噂にたがわぬ銘品でございました。
私も同じものを自分用に作らせたいくらいに……」
「あら……!」
コーディリアのことをそこまで気にいってくださったなんて……!
うれしいわ……!
やっぱり目の肥えた商人は、いい物をすぐ見抜くのね。
「それでは、私はこれで……」
「お待ちになって」
「えっ?」
「コーディリアを作った職人の工房を紹介して差し上げるわ。
とても気難しい方なの。でも、私の紹介状を持って行けば、快く仕事を引き受けてくれると思うわ」
「え……、あ、それはどうも、御親切に……」
「……そうだわ!」
この方にニコロさんのバラを見せて差し上げたい……!
きっと、素晴らしさにまた目を輝かせるはず!
……でも、普通に見せても面白くないわね……!
「今書いてくるから、少しここで待っていてくださる?」
「はい……、ご厚意に感謝いたします……」
部屋に戻って、髪留めを手に取った。
もちろん、ニコロさんに作ってもらったバラの銀細工。
紹介状を書いて、乾かし、リボンでまとめる。
ルベルティさんと顔を合わせないように庭へ出て、そっとバラの垣根の中に銀細工を隠す。
よし、準備万端ですわ!
息を整えて、ルベルティさんのもとへ向かった。
「お待たせしましたわ」
「これは、恐れ入ります」
「ルベルティさん、我が家の庭に珍しいバラが咲きましたの。良かったら見ていかれません?」
「え……。あ、ああ、では、お言葉に甘えまして……」
「どうぞ、こちらよ」
庭に案内すると、私はわざともったいぶったように言った。
「とっても美しいバラなのよ。ルベルティさんに見つけられるかしら……」
「え……」
ルベルティさんが驚いたように私を見、しばらくして、なにかを察したようにバラの垣根を見た。
「この中を探してよろしいんですね?」
「ええ、きっと素敵なものが見つかるわ」
やってやろうとばかりに、ルベルティさんの口元が持ち上がった。
垣根のあちこちを見渡し、株のひとつひとつをめぐっていくうちに、ルベルティさんがだんだん銀細工を隠したあの場所へ……。
「あっ……!」
ふふっ、見つけたのね!
私はそっとルベルティさんの後ろから手元を覗く。
くるっと振り向いたルベルティさんの顔。
きらっと光る瞳。
「驚いた……! 本当に銀のバラが咲いているのかと思った!」
「ふふふっ!」
成功ですわね!
私は銀細工を取ると、掌に載せてルベルティさんに見せた。
「コーディリアと同じニコロさんの作品ですわ。
はい、こちらは紹介状。間違いなく素晴らしい作品を作ってくださる方よ」
「……」
……あら……?
どうしたのかしら、ルベルティさん、受け取りもしないで固まってしまったわ……。
あら、ひょっとして、私の顔になにかついている?
そのとき、白髪の従者が主に声掛けする。
「旦那様……! 旦那様っ!」
「はっ……! こ、これが、その、そう、ですか……! い、いや、これは本当に、ご親切ご丁寧に……!
な、なにか、お礼をいたしませんと……」
「お礼なんて結構ですわ。コーディリアを気に入ってその名を呼んでいただけただけでうれしかったですから」
「そ、そうですか……」
「これからお客様がいらっしゃるので。私そろそろ戻らなければなりませんの」
「は、はい」
「お帰りはあちらですわ」
「……」
「あら、まだなにか?」
「い、いえ……。お会いできて光栄でございました。ミラ・ラ―ラ・プレモロジータ様……」
まもなく、バルトロメーオ、アルベルティーナ、ジュスティーナ、カロージェロがやってきた。
その後すぐ、執事見習マッテオが、お父様からの伝言を持ってきた。
急な来客のためにそちらにいけそうにない。万事予定通りに。
あら……、お父様たちも『誓い』の伝授に立ち会うとおっしゃっていたのに……。
けれど、はい、もちろん、そう致しますわ。
「ミラ、来たぞ!」
「来たわよ、未来の皇子妃が!」
「あなたってば気が早すぎ! 私にだってまだ可能性が残ってるわ!」
「緊張して昨日は眠れなかったよ……」
「ようこそ、お待ちしてましたわ……!」
それぞれに思い思いの気持ちと表情を携えた四人。
カロージェロったら、目の下にくま。
バルトロメーオもいつもより緊張しているみたい。
ジュスティーナが疑問を口にする。
「そういえば、表に留まっていた見慣れない馬車、どなたなの?」
「あら……、まだ帰っていなかったのかしら。ルベルティという商人ですわ」
「そんなことより、ミラ!」
「そうそう!」
唐突に私の両脇を固めたアルベルティーナとジュスティーナ。
頬はバラ色、瞳はうっとり……。
あらあら、これは……!
「ヴァレンティーノ殿下は、それはそれは麗しいお方だったの!」
「本当にあなたは見てくれだけね! とても聡明な方だったわ!」
「私のことを、大輪の赤いバラみたいだって褒めてくださったの!」
「私のことは、歩く図書館だと褒めてくださったわ!」
「それ誉め言葉?」
「あなたのほうこそ、図々しくて主張が強いって暗に言われただけじゃないの?」
「まあまあ、ふたりとも。ふたりにとって殿下がとっても魅力的な方だということはわかったわ」
「お話もとってもよく弾んだのよ。エルドルとカリエサルの伝記がお好きなんですって!」
「それって、私の貸してあげた本じゃないの!」
「いいでしょ! 本の出どころまで話さなくたって! 私だってあなたに新しい頬紅を譲ってあげたじゃないの!」
「ま、まあ、そうよね……。おかげで噂に聞くよりはるかに愛らしいって褒められたわ……!」
「あら……! じゃあ、ふたりとも出会いは大成功なのね!」
ふたりの様子を見ていると、なんだか幸せな未来が今にも描けそう!
きっとこのままうまくいきますように……!
「ミラが参加してないんじゃあ、しょうがないよな。ヴァレンティーノ皇子殿下もアルベルティーナのジュスティーナのどっちかしか選べないんだから」
「うん、まあ……。ふたりとも表裏がちょっと激しすぎるから、結婚したら殿下は驚くだろうね……」
「そんなことないわよ、王宮に入ったら、いつでもちゃんと淑やかにするんだから」
「私はしゃべりすぎないようにしているだけ。殿下には頭がいいだけでなく、ちゃんと聞く耳を持った女性だということを知って欲しいからよ」
「私はありのままのアルベルティーナとジュスティーナが素敵だと思うわ。
ヴァレンティーノ皇子殿下もきっと好きになってくださると思うの」
「そう!? そうよね!」
「んふっ、ありがとう、ミラ!」
「は~あ……、ミラはなんでもいい方に捉えるからな……。そこがミラのいいところなんだけど」
「鵜呑みにしたまま、ふたりともずっとこの性格だからね……。僕ら以外の男性はふたりの外面の良さに騙されてるって知らないから……」
「「なにかいった!?」」
「いやぁ、別に。裏表もある意味では魅力だなって話」
「そ、そうそう!」
「「ふぅ~ん……」」
皇子妃の話が落ち着いたところで本題へ。
私たちは輪に並べた五つの椅子へぞれぞれ腰かけた。
みなさん少し固くなっていますわ……。
「みなさん、それじゃあ、初めに私がやってみせますわね。
言葉自体は難しくないし、長くもないからすぐに覚えられますわ。
この前もいったけれど、もし光らなかったとしても、真心がないというわけじゃないから、安心してね」
「お、おう」
「わかったわ」
「うん……」
「ええ」
手を組み、そっと目を閉じる。
心が静かな海のように凪いで行くのを待って、息を吸った。
「我ミラ・ラーラ・プレモロジータは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。
我が真心は、人を愛し思いやる心。
この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。
絶対王は永久に人を愛し思いやる心を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」
その瞬間から、私の胸にはぬくもりが広がり、光がふわふわと立ち上る。
「わあっ、す、すごい……!」
「き、きれー……」
「ひ、光が……!」
「こ、これが『誓い』……」
光はゆっくりとおさまっていき、静かに私の胸の中に戻っていった。
「ミ、ミラ……、信じていたけど、五大伯爵家の『誓い』って本当だったんだな……!」
「ええ、そうよ。じゃあ、バルトロメーオから」
「おっ、……おおっ!」
バルトロメーオがこわばりながら手を組んだ。
「……わ、我バルトロメーオ・ジュスティッツィアは……、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う……。
我が真心は、せ、正義のころ……、ころ、こ……っ!
うっ、だめだ、言い間違えてしまった……!」
「大丈夫、心を落ち着けて、バルトロメーオ。
あなたの中にはすでに正義の心が備わっているの。
それをただ、言葉で表すだけなのよ。深呼吸したら、もう一回やってみて」
「わ、わかった……! ――スーッ……。フーッ……。
我バルトロメーオ・ジュスティッツィアは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。
我が真心は、正義の心。
この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。
絶対王は永久に正義の心を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」
バルトロメーオの胸からふわっと光が立ち上る。
「うっ、うわっ……!?」
「ひ、光ったわ!」
「これが、正義の真心の光……!」
「ほ、本物だわ……!」
四人の顔が緊張から一気に歓喜に変わった。
そこから三人はあっという間だった。
やっぱり、私が思っていた通り……! みなさんには本物の真心が備わっていた。
四人と出会うのは、私の運命だったんだわ……!
願いが今、確信に変わった。
この真心は『誓い』によって、もっと大きなものを支える力になる。
そう思うと、胸が震えて……。
「ミラ、あっ、おい、なんで泣いてるんだ……」
「えっ、ミラ……!?」
「ど、どうしたの、ミラ……?」
「ミラ……!」
「……う、うれしくて……! 私、みなさんに会えたことが、本当に、うれしいの……!
前世の私は親友のリサと一緒に国を支えようと心に誓った……。でも、それは叶わなかった……。
あのとき私は本当になにもかもを失ってしまったの。
でも、二度目の命を得て、四人の親友を得ることができて、五つの美徳を備えた仲間として奇跡のように集うことができた……。
もう一度、この『誓い』を大義のために捧げることができる……。
今度こそ、きっと自分の役目を果たせる気がするの。みなさんと一緒なら……!」
みなさん、本当にありがとう……!
涙で前も見えないくらいだけど、四人が優しい顔で見つめ返してくれているのがわかった。
突然ぎゅっと抱きしめられた。
「ミラ……! 私たち、ずっと一緒よ!」
「私も、あなたと出会えて本当に良かったと思ってる……!」
三人と折り重なるように、バルトロメーオとカロージェロが包んでくれた。
「ミラ、奇跡を見せてくれてありがとう……!」
「僕らは、本当の五つの美徳の仲間なんだね……!」
「みなさん、ありがとう……! ありがとう……!」
気が付いたら、みなさんも泣き顔。
「バルトロメーオったら、酷い顔よ! 顔を拭きなさいよ!」
「アルベルティーナこそ、化粧が剥がれてるぞ……!」
「そっ、そういうことに気づいたら、さっとハンカチを差し出すのが男で……、……あらっ、ありがとう……」
「カロージェロったら、鼻水まで出ているわ!」
「あっ、ご、ごめん……!」
「もう、あなたってば、ほらこれで拭きなさいな」
「ありがとう、ジュスティーナ……」
私もハンカチで涙を押さえて、顔を上げた。
「ねぇ、みなさん! お父様たちに早速このことを報告して差し上げたいわ! きっと大喜びなさるわ!」
「ああ、行こう!」
「ああん、せめてお化粧直しの時間をちょうだいよ!」
「プレモロジータ伯爵の前で恥をかくわけにいきませんわ!」
「化粧なんかしなくても、アルベルティーナもジュスティーナも、それ以上に美しかったよ」
「ああ、ふたりとも『誓い』のときはすごく輝いていた」
「ま、まあ……! あなたたちに褒められるなんて、なんだかくすぐったいわね!」
「うれしいけれど、それとこれとは別なのよ……! ミラ、お化粧台借りていい?」
「どうぞこちらを使って」
みなさんの身支度が整ったところで部屋を出た。
手近なところでメイドに話を聞くと、お父様たちは丁度今客人を見送っているところらしい。
私たちも玄関ホールへと向かった。
扉の前にはお父様とお母様、お兄様とお姉様が並び、その向こうには……。
あら、ルベルティさん……。
お客様ってルベルティさんのことだったの?
いつの間にか髪を上げて、顔を出している。
まあ、あんな顔立ちをしていたのね。
こちらに気づいたルベルティさんから、今までになく張りのある立派な声。
「五つの美徳を持つ者たちが勢ぞろいか」
そのとたん、バルトロメーオ、アルベルティーナ、ジュスティーナ、カロージェロが慌てたように頭を垂れた。
……え……?
なに、どういうこと?
きょときょとと見渡す間に、お父様とお母様が私の元へやってきた。
「ミラ、お前も改めてご挨拶なさい。ヴァレンティーノ皇子殿下だ」
えっ、殿下……!?
この、ルベルティさんが――……!?
* お知らせ * こちらも公開中! ぜひお楽しみください!
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