童顔商人は聖騎士に溺愛される

彩月野生

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ずっとこのままでいられたら

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今日から1ヶ月の間、この国で一番にぎわう市場が城下町で開かれている。

穏やかな日差しのなか、俺は頭にターバンを巻いて、馴染みのある肩を出した、足はやわらかな素材で膨らみのある衣装を着て店を出していた。

目立つ目的もあるが、世界中からめずらしい品を集めていた俺の店は繁盛していた。

「いらっしゃい!!」
「この髪飾り、何でできてるの?」
「一角獣の角です!」
「まあ!」
「虹色で綺麗でしょ?」

品のある身なりをした婦人に、花びらの細かい形が刻まれた髪飾りは、俺が森の中で足を怪我をした一角獣を助けたお礼に「そろそろ生えかわる時期だからやる」と言われ、その場でワイルドに角を大木の幹に突き刺して、バキリと折ったのをもらったのだと説明していたら、どんどん人が集まりおかげさまで装飾品類は完売した。

「ふい~」
「よお、ラハン。随分景気良さそうだなあ」
「い」

売り上げを確認していると、蛇を連想させる目付きの悪い男が話しかけてきた。
こいつはダラスと言って、その鋭い目付きとが特徴で、いつも宝石が縫い付けられた、黒いローブを着ている。
何かと俺を目の敵にしている同業者だ。

何故か俺の回る国々に入り込み、邪魔ばかりする。

あからさまに売り上げ金を見つめて、にやついていた。
俺より十は年上のくせに、本当に大人げない野郎だ。
お金を両腕に抱えこんで睨み付ける。

「なんだよ、お前には関係ないただろ」
「お? あるぞ、なあお前たち」
「へい旦那」
「もちろんす旦那」

俺はダラスに付き従う細マッチョと筋肉男を見て、呆れてため息をついた。
絵にかいたような三人組に肩を竦める。

「なんだ、なんでため息をついている!」
「いや、三人とも見目は悪くないのに小物にしか見えんなって」
「「「なんだと!?」」」

声を揃えて荒ぶる彼らに舌をだしてやった。
何ども商売の妨害をされた過去があるのだ、お互い様だろう。

「どうした」

ギリギリと睨みあっていると誰かの声に我に返る。
ゼルフォン様が、俺の店を見に来てくれたようだ。
鎧とは違い、身軽な私服姿で駆けよって来てくれる。


「ラハン大丈夫か?」
「は、はい」

肩を引き寄せられてぎこちない仕草で返事を返す。
それにしても、蒼い瞳に銀色の髪が傾きかけた日の中でよく映える。
黒髪、緑目、童顔の俺みたいな地味な、ましてや男をどうしてこの人は好いてくれるのだろう。

ふと三人をみやると、ゼルフォン様の登場にすっかり硬直していた。
そりゃそうだ、聖騎士様がなんで俺みたいな商人と知り合いなのか不思議だよな。

「貴方は、この国の聖騎士様ですよね、なぜこの商人と親しいのですか?」
「無論、婚約者だからな」
「「「こん?」」」
「ちょ、ちょっゼルフォン様!?」

唖然とするダラス達に俺は必死に弁明する。

「ち、ちがうよ!?  た、ただ一緒に住んでるだけで!」
「「「一緒に住んでる!?」」」
「そうだ。結婚前提でな」
「ぐふおっ」

混乱しっぱなしの三人に追い討ちをかけるような言葉を投げかけるのは頂けないな!
この聖騎士様は!
こいつらは腐れ縁で付き合いが長いから、なおのこと恥ずかしい。

「な、ならば、おまえ、聖騎士様と?」

ダラスななぜか身体を震わせて尋ねてくる。
視線があってしまい、なんとも気まずい空気が流れた。
なんとなく指を絡めて顔を背ける。

「か、かんけいないだろ、お前には」
「ま、まさか、お前が……」
「もういいか、時間がもったいない。ラハン帰ろう」
「あ、は、はい」

ちゅっ。

さりげなく腰を抱きながら額にキスをしないでくれえ!
恥ずかしすぎる!

もう奴等の顔を一切見ずに俺は、ゼルフォン様に体を隠すようにして歩きだす。
体をすり寄せて歩くので転びそうになって慌てる。

「あっ!」
「大丈夫か」
「は、はい」

すかさず抱き止められ、心臓が跳ねた。
今さらだなあと自分に呆れる。

荷物なくて良かった。

商売道具と商品は、商会が番人つきで守ってくれるので、金目のものだけで移動できるのはありがたかった。

三人の視線が気になったが、この騎士様は俺の忠告を聞いてくれないし。
まだ片づけ中の商人達もたくさんいるのに、こんなにひっつかれては顔をあげられない。

……ゼルフォン様の身体、熱い。

「ラハン、彼らには気をつけろ」
「え?」
「お前を狙ってるようだ」

それは、命をって事?

確かに、あいつ、裏でろくでもない商売してるみたいだし。

不安になって、ゼルフォン様の腕を掴むと思い切り抱きしめられる。

「だ、たから! 人が見てるからあっ」
「遠慮する必要はないぞ」
「せめて、帰ってからああ!」

あたふたしつつ帰路を歩いていたら、いつもの倍かかって屋敷に辿り着いた。

「ラハン」
「は、はあ」

今度は俺が腕を掴まれる番だ。
風呂場に連れていかれたその後を想像して、身体がもう火照り始めてしまった。


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