復讐のために生贄になった筈が、獣人王に狂愛された

彩月野生

文字の大きさ
6 / 35

6最愛の弟の日記

しおりを挟む
 王都から帰ってきた夜、サビーノは当然のように風呂へフリオを連れて行く。
 風呂に入って夕飯を食べて、一緒の寝床につく。
 基本的には、フリオが求めなければサビーノは何もしない。
 まるで夫婦のような状態に怒りと憎しみが募っていく。

 弟の仇が、隣で穏やかに寝息を立てているなんて――っ!!

 ――今夜も眠れない。

 そっと寝台から身を滑らせ、寝室を出て行く。
 深夜の城内は冷え切っており、どこからともなく吹いてくる冷たい風が肌を撫でる。
 寝着は絹で作られている為、どんなに腕をさすってもちっとも温かくならず、風邪を引きそうだと憂鬱な気分に陥る。
 祖国では毎日鍛錬をしていたのだが、この国に来てからは体力の衰えに危機感を感じていた。

 寝室から大分離れたなと周囲を見回す。そういえば、衛兵の姿が見当たらない。先日の夜中に、監視役の衛兵に高圧的な態度を取られて、口論になった所為だろうか。
 サビーノの気遣いだと思うと、複雑な気分になる。

 それにしても広い廊下だ。ランプが天井近くと足下に輝いているが、視界が悪いのは変わらず、上質な絨毯に足を取られて転びかねない。
 慎重に歩を進めていくと、頑強な鉄の扉の部屋を見つけて足を止める。

 無機質な扉には文字が彫られているが、獣人が使う独自の言葉のようで読めない。
 ただ、貴重な物が置かれていると推測はできるので、興味を惹かれた。
 一応両手で押してみるが、やはりびくともせず、頭をかいて扉を眺める。
 
「無理か」

 そう呟いたら、物音がするので、耳を澄ませて辺りを見回した。
 衛兵に見つかったか――不安に駆られて意識を集中するが、見当違いだと知る。
 物音はどうやら、扉の向こうからしているようだ。
 しかし、この鉄の扉を通して、どうしてこんな音が聞こえるのだろうか。
 耳を押し当てていると、軋んだ音がすぐ近くから聞こえて顔を上げた。
 鉄の扉の隣に、小さな木の扉が開いているのが見える。

「にゃ! どちら様かにゃ?」
「は? にゃ?」

 なんだ、猫?
 扉の奥から漏れ出た光が、猫耳を照らしている。ひょこっと顔を出したのは、猫の獣人だった。画家のような格好をしており、耳の間にはちょこんと小さな帽子を乗せていた。
 フリオに気付いて耳をぴくぴくさせて、尻尾をふりふりする。
 仕草は猫そのものだったので、親近感がわいてしまう。

「飼ってた猫を思い出すな」
「ワタクシは猫じゃないですにゃ! 貴方様はサビーノ様の生贄ですにゃ?」
「あ、ああ」
「何かご用ですかにゃ?」
「え~と」

 フリオは頬をかいて、素直に打ち明ける事にした。
 この鉄の扉が気になって、部屋の中を見てみたいと。
 猫の獣人は考え込むと、頷いて中へ入れと促すので、後に続いて足を踏み入れた。
 
「うわ」

 視界一杯に広がる書物に感嘆する。
 巨大な棚が壁際にぴったりとくっつき、部屋の隅々まで設置されており、天井に届いていた。
 何の書物なのかと聞いてみると、目を細めて言いにくそうに囁く。

「歴代の生贄達の日記ですにゃ」
「生贄の、日記だと?」
「ですにゃ」

 猫の獣人は深く頷く。
 部屋の中心に置かれている、卓の前の椅子へ腰掛けるよう、促す。
 素直に従うと、差し出された一冊の本――日記を開く。
 頁を捲って見ると、日付とその日にあった出来事が記されていた。
 まず、その日付を見て驚く。

「百年、前!?」
「どうしましたかにゃ?」
「……なあ、あの獣人王はいったいいつから、生贄を喰らっていたんだ?」
「二百年ほど前ですにゃ。サビーノ様の父上の代からですにゃ」
「……」

 では、ここには二百年分の、生贄達の苦しみを綴った日記が置かれているのか。
 この一冊一冊に理不尽な運命に翻弄され、苦しみ抜いた者達の無念が記録されていると思うと……とても目を通す気にはなれず、そっと本を閉じた。
 
 ――待てよ。

 フリオはある事実に辿り着き、猫の獣人に向き直った。
 
「ここに、俺の弟の、つい先日サビーノに喰われた生贄の日記もあるのか?」
「にゃ?」

 きょとんとする猫の獣人がこくこくと頷き、部屋の奥に吸い込まれていくように姿を消す。
 しばらくの後戻ってくると、柔らかそうな両手に、分厚い書物を抱えていた。
 その2冊を差し出されるとそっと受け取り、卓の上に並べて、その内の一冊を開いてみた。
 日付が書かれているその筆跡を見ればわかる――。

「マリユス……!」

 文字を見るだけで、涙腺が刺激されてしまい、あやうく日記に雫を落とす所だった。
 慌てて手の甲で瞼をこすり、涙を拭う。

「良かったらお使い下さいにゃ」

 すうっと差し出された、ハンカチを受け取り礼を伝えた。
 この獣人は存外優しいようだ。

 再び日記に視線を落とす。
 日付は、一年前だ。マリユスがこの国にやって来て、数日後から日記は始まっているようだ。
 想像していた通り、怯えている様子が詳細に書かれている。
 かわいそうに……お前の代わりに、俺が最初から獣人王の元へやって来ていれば、運命は変わっただろうに……!
 
 フリオの怒りは、サビーノだけに向けられたものではない。
 獣人王の要望を聞いて、従っている大国に対しても、怒りと憎しみを滾らせているのだ。
 フリオの国は、武力も食料も不足しており、大国は戦力外と見なし、ならば滅んでも構わない、その土地だけ頂く――そんな思惑を隠そうともしない。

 そんな大国の意志に背いた状況の為、母と妹だけは、安全な場所に隠れるよう、手はずを整えてはあるが、あとは父がうまく乗り切ってくれればいいのだが……。
 
「マリユス……」

 フリオは猫の獣人に、日記を預かりたいと申し出ると、心底困ったような顔をするが、やがて頷いてくれて何度もお礼を述べた。

「ここには、管理人以外は入ってはいけないのですにゃ。にゃので、頻繁にフリオ様が出入りすると危険ですにゃ」
「? オマエ、俺の名前を?」
「……実は、弟のマリユス様のお話相手によくなってましたにゃ。それに、にていらっしゃるので、すぐにわかりましたにゃ」
「そうか……」 

 書庫を出る際、振り返って猫の獣人の名前を聞くと、照れくさそうに「ミールですにゃ」とはにかんだ。

 フリオは「また来るよ」と告げて、木の扉をくぐり、日記を隠す為、自室へと急いだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

悪役令嬢の兄、閨の講義をする。

猫宮乾
BL
 ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。

処理中です...