勘違い側近は王の愛に気づかない

彩月野生

文字の大きさ
3 / 9

奴隷の呻き

 王専属の奴隷部屋に閉じ込められたルシードは、消して開かぬ鉄の扉を見据えて顔を振る。
 生活には困らぬように全てが備え付けてはあるが、小さな窓が一つだけなので非常に薄暗く妙なニオイが漂う。
 鼻孔を震わせる正体が、わずかな月明かりを注がれて花弁を揺らす。
 一輪の花が寝台に無造作に放られていた。月明かりだけでは色や形も分からず、手探りで掴み、顔に突きつける。
 ふわりと甘やかな香りが鼻を抜けていく。
 ぶるりと四肢が震えた。急に頭痛に襲われ、寝台に倒れ伏す。

 目の前に現れたのは、いつかのまだ若かりし日の光景である。
 父も母もとても厳しく、無慈悲なふるまいでルシードを貶していた。
 ルシードは、代々王家に仕える由緒正しい一族に生まれついたが、二十代になっても、側近になれず、父も母もルシードをすっかり見放し、やがては顔もあわせないようになり、居心地の悪さから屋敷を出て行った。
 運良く側近になれた際には、祝の手紙がとどいたが、無視した。

 ルシードの世界は王だけとなり、それは異世界に彷徨うような幻想を与えてくれた。
 王は好色で数多の娼婦を城に呼びつけては、ルシードを巻き込もうとしていた。
 その場で見ているのも、女を抱くのも御免だ……私は王だけを見ているのに。

 扉が軋み、するりと人影が近寄る。
 闇から月明りに照らされるのは、まごうことなき、王の姿。
 足音もなく寝台に上がり、覆いかぶさり、短剣の先で、剥き出しの胸の突起をつつく。血が出ないギリギリの力加減で敏感な先端をいじめぬく。
 ルシードの息は突起から波打つ快感で弾み、腰まで揺れてしまう。
 もう片方は王の無骨な指先でこねくり回され、ルシードの股間は膨らみ、呼吸が早まる。
 気を抜けば、王の機嫌を損ね、突起から剣を、心の臓に突き立てられるかもしれぬ。
 恐怖と快感のはざまで追い詰められていく。
 甲高い声音と共に腰を震わせて、とうとう股間を濡らした。

「あっ」

 声をあげたが、王の姿はなく、ただ一人花をむさぼり、己の手で男根を慰めているだけである。
 王は、どこに、いる……。
 どうか傍に……!

 王を求めてもいつまでも部屋に閉じ込められ、質素な食事を食べさせられる毎日。
 王を想い、一目あえぬ悲しみに気が狂いそうになり、ある夜に叫んだ。

「私は王専属の奴隷である! 何故、陛下は来られない!? 私の役目を果たさせてくれえ!!」

 声は暗い通路に反響するだけで、返事はない。
 このまま王に会えないまま、死ぬまで、求めるのか……。

 ――陛下……! どうか! どうか、私を忘れないでください……!

 奴隷の務めも果たせぬとは、虫けら同然ではないか!

 ルシードは王に会いたくてたまらず、だんだんと頭がおかしくなっていった。
 王が来る代わりに放り込まれる、甘い香りの花を食べては、王との蜜月の夢に浸る。
 この花を食べると、夢の中で王が現れ、笑いかけてくれるのだ。

「……へ、いかあ……」

 うめいていたら、靴音が響いてくるのを聞いて、目を見開いた。
感想 2

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

潔癖王子の唯一無二

秋月真鳥
BL
 アルファと思われているオメガの王子と、美少女でオメガと思われているアルファの少年は、すれ違う。  整った容姿、鍛え上げられた屈強な身体、見上げるほどの長身。  ササラ王国の王子、アレクサンテリは、アルファと間違われるオメガだった。  潔癖症で、「キスは唾液が耐えられない」「他人の体内に体の一部を突っ込むのは気持ち悪い」「中で放たれたら発狂する」と、あまりにも恋愛に向かないアレクサンテリ王子の結婚相手探しは困難を極めていた。  王子の誕生日パーティーの日に、雨に降られて入った離れの館で、アレクサンテリは濡れた自分を心配してくれる美少女に恋をする。  しかし、その美少女は、実は男性でアルファだった。  王子をアルファと信じて、自分が男性でアルファと打ち明けられない少年と、美少女を運命と思いながらも抱くのは何か違うと違和感を覚える王子のすれ違い、身分違いの恋愛物語。 ※受け(王子、アレクサンテリ)と、攻め(少年、ヨウシア)の視点が一話ごとに切り替わります。 ※受けはオメガで王子のアレクサンテリです。 ※受けが優位で性行為を行います。(騎乗位とか) ムーンライトノベルズでも投稿しています。

愛されるも守らせない文官は自覚がある【完】

おはぎ
BL
可愛い容姿であることを自覚している、王宮で文官として働くレーテル。その容姿を利用しては上手く立ち回っていたのだが、勘違いした男に連れ込まれて襲われそうになり…。 腹黒な美形宰相×可愛い自覚がある腹黒文官

天上の果実

曙なつき
BL
 大きな果実の実が頭に当たったことにより、記憶を失った婚約者のルシス。  目を覚ました彼に、私はこう言った。 「愛しい人。あなたと私は愛し合っていました。来年には式を挙げる予定なのですよ」  それは少しの真実と多くの嘘を織り交ぜた言葉だった。  ルシスは私を嫌い、厭うていた。  記憶を無くした少年と、彼を囲いこむ王子の物語です。  ※なお、ルシスの兄と弟の物語も併せて掲載します。完結まで予約済みです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

【完結】半端なあやかしの探しもの

雫川サラ
BL
人の子として生まれながら人ならざる「力」に目覚めてしまった少年・蘇芳。生きる場所を失い、絶望の淵に一度は立った蘇芳だが、ひとりのあやかしとの鮮烈な出会いによって次第に内側から変わり始める。 出会いも最悪なら態度も最悪なそのあやかしにどうしようもなく惹かれる理由は、果たして本当に血の本能によるものだけなのか? 後ろ向きな考え方しかできなかった少年が突然自分に降りかかった宿命にぶつかり、愛することを知り、生きようとする理由をその手で掴むまでのお話。 本作で第11回BL小説大賞に参加しております。投票やご感想大変嬉しいです。 ※オメガバースの世界観を下敷きとした、前近代(近世)日本に似た異世界のお話です。独自設定はほんの味付け程度ですが1話目に作中に登場する用語の説明があります ※R描写あり回には*をつけます